男を破滅させるタイプの小悪魔系ギャルが八十稲羽に転がっていますがソイツ男です   作:rikka

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008:プロローグのはじまり、それから――

『初めまして、こうして女性の服装をさせていただいている『如月(きさらぎ)』と申します』

 

 巌戸台分寮ラウンジのテレビの向こう側では、あるメ(・)イ(・)ド(・)の姿が映し出されていた。

 背景にあるのは古ぼけた『惣菜大学』と書かれた看板の店の前だ。

 

『い、いやぁ……出回っていた写真は知っているんですが……お美しいですね』

『理解のある先輩がメイクを基本から教えてくれたんです。手先の器用な友達も衣装の作成を手伝ってくれたんです。本当に、親もそうですけど教職員から友人・知人まで私は周囲に恵まれていて――』

 

 メイクでそうしている、というのは分かる。

 というより、知ってはいるつもりだった。

 テレビの前にいる面々は、その少年の素の顔を写真で見ているから猶更。

 

「……天使じゃん。チドリには負けるけど……何回見ても天使じゃん」

「二週間も前の録画何回見てんのよ、順平。それに今日会えるんでしょ? なんかトラブルで遅くなっちゃうって連絡来たみたいだけど」

 

 メディアを真正面から黙らせる。

 電話越しの理事長に言ったというその言葉の意味を、特別課外活動部の面々はようやく理解した。

 小出しに引っ張るのではなく、大きく出ることで一気に話題性を上げるつもりだったのだと。

 そして、

 

『つい先日東京の進学校に特別編入することが決まりましたので、しばらくこちらは離れるんですけどぉ』

 

 地元を離れる事を伝えて、実家のある八十稲羽からメディアの目を逸らせるのが目的なのだと。

 

「しかし、よりによって満月の日とは。せめて後日にズラした方がいいと理事長には進言したのだが……」

「それに今日の戦いを無事に乗り越えたら、今度は一週間後が中間テストですよね。高等部も中等部も。如月君、大丈夫かな。資料には学業に問題なしとは書かれてたし、正規の編入考査試験も余裕でパスしたって理事長は言ってたけど……」

 

 10月4日。日曜日。

 

 学校がない、普通の人間からしたら休日であるこの日、巌戸台分寮に揃う人間たちにはほのかな緊張が走っていた。

 

 倒さなければならない大型シャドウが出現する満月の日だからである。

 

 そのためリーダーである有里湊を始めとするメンバーは出歩かず、寮内で夜の戦いに備えて体を休めていた。

 

「氏名、如月千影。使用ペルソナ名、ランマル。主に物理攻撃系スキルや防御補助スキルを使用する。と、残った戦闘記録から分析・記録されているであります」

「……ペルソナは俺みてぇなタイプってことか。アキ、お前らは一緒に戦ったことがあるんだろう。どうなんだ?」

 

 シャドウ制圧用兵装のラストナンバー『アイギス』の分析に、古参の一人でありながら復帰したばかりの男は納得する。

 

「逆立ちを交えて位置や姿勢を絶えず変化させて相手の攻撃を受け流す中で、リーチのある蹴撃を軸として手数で畳みかけるスタイルといった所か。間合いの測り方やいなし方も、フットワークを意識した俺と同じくミドルレンジに当てはまる」

 

 ボクシング部の主将であり、16戦無敗の記録を打ち立てる明彦の分析を疑う者はいない。

 実際一緒に戦った時、即席のコンビを組んだ有里も頷いている。

 

「なにより、召喚器を用いずペルソナを召喚できるために連撃の最中でもペルソナによる畳みかけや牽制を可能とするのが大きな利点だ」

「……そこは俺も話を聞いて気になっている。ニュースの映像見る限り、異常が起きているわけではなさそうだが……」

「? 異常? どういうことだ、シンジ」

「…………いや。なんとなく気になっただけだ」

 

 考察を余所に、伊織順平が録画していたニュース番組の一コーナーは続いている。

 

 代わる代わる、八十稲羽という小さな町で「如月千影」を知る人間――文字通り老若男女の様々な人物から彼の――時には一緒に映っている。

 

 八十稲羽の商店街だという場所の様々な店を背景に、そこで売られている物を飲み食いして、さりげなく八十稲羽の街並みを紹介しながら自分を上手く魅せている。

 

 6月の戦いぶりを知っている面々からすれば少々信じがたい笑みを浮かべて、優しい声を発している。

 

「……正直、わざわざ女の恰好するのって今でも意味が分からないんですけど……」

 

 初めて動いている姿を見る天田は、それを見てわずかながらに納得する。

 

「ここまで綺麗だと、そういうのもアリなのかなって思っちゃいますね。女の子って言われても納得しちゃいますし……なんか、自然ですし……」

「いやぁ、6月のアレ見てる私らからすると、この時点で不自然極まりないっていうか……」

「セーラー服を置いてもヤンキー娘だったもんなぁ……。こう、一昔前のスケ番(バン)風っていうか」 

 

 6月に救われ、共闘した岳羽や伊織からすれば、とても『この三下がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』と罵声を吐き散らしながら蹴りと拳、そして頭突きで大型シャドウを何度も何度も地面に叩きつけて追い打ちを掛けていたセーラー服の少女とは重ならない。

 

 いや少女じゃないのでそもそも重なりようがないのだが。

 

「なんにせよ、彼女――いや、違う、彼が来るのは夜ギリギリだ。ゆえに今夜の作戦への参加は考えていない。逃走が許されるタルタロスの探索ではなく、大型シャドウとの決戦だからな」

「それに、まだ奴のテウルギアがない。それがなくとも大きな戦力になるだろうが、大型相手ともなれば念には念をだ」

 

 ともあれ、大事な一戦を控える一日は淡々と流れていく。

 新顔になる女装少年の受け入れ用意と合わせて、それぞれは休んだりリラックスしたり、あるいはストレッチなどで深夜0時を――『影時間』を待つ。

 

 そして――

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「……なんか雰囲気、ますますおかしいことになってねぇか?」

 

 港区、巌戸台駅前。

 途中人身事故の影響で電車が止まって随分と遅くなってしまったが、どうにか到着。

 

 四か月ぶりになる都会は、明らかにヤバい空気が濃くなっている。

 

 なにがあったのさ。

 

(なんかゾンビみたいになってる連中めっちゃいるし……無気力症だっけ? 前来た時はこれ程じゃなかったぞ。沖奈市で目にした事だって一回もないし)

 

 四か月前にもいた、ベンチや電柱なんかにもたれかかったり、あるいはおぼつかない足で立ちすくんでいる人間が多くいる。

 

 真面目な駅員が客の移動の妨げになっている無気力症らしき人間を誘導しようとして一苦労している。

 

(……手伝ってやりたいけど、荷物引き摺ってる今じゃなぁ……)

 

 今着ているのはショートパンツにニーハイソックスを合わせたパンクファッション。

 紫のリップの上からグロス塗って、メイクも白めにして目周りはキツめに仕上げている。

 髪はウィッグをつけていないためショートになっているが、紫のエクステを数束垂らしてメッシュ『風』に。

 

 清楚系全開だった完全版メイド服から一気にコレにすれば、誰も俺をテレビに映った『如月千影』だとは気づかないだろう。

 

(実家を張ってるっぽい変な奴もいたしなぁ。出発まで数日間の家事と引き換えに海老パイセンの所に泊めさせてもらったのは正解だったな)

 

「なぁに、そこの彼女、荷物多い感じ? 旅行とか? 自分探し?」

「俺らが運んでやるよ。ホテルどこ?」

 

 そして今の俺は、多くの衣類が入ったひときわ大きなスーツケースを転がしているせいで一人旅の観光客と思われているのだろうか。

 別にいいんだが、これ系の恰好してナンパされんのスカウト以外だと初めてだな。

 

 やーね都会ってば。

 

 口にくわえていたキャンディを取り出して言葉を選ぶ。

 ナンパをいなすのはもう得意だ。

 

 二人組、多分大学生、筋肉は見せ筋レベル、アルコール臭なし。タバコ臭のみ。

 ファッションは頑張ってるけどブランドなんかのこだわりなし。

 

 空気からしてもただの数撃ちナンパだな。

 普通に今日の遊び相手探しか。あわよくばってのもあるだろうけど……。

 

「悪いけど予定詰まってんの。ここで時間潰すくらいなら他の女ひっかけに行きなよ」

「ありゃー、やっぱそっかー。彼氏いる感じ?」

「バーカお前、このレベルは狙いすぎだっての」

「あっははは。でも声掛けてくれてありがとね、おにーさん達」

 

 ……マジでただの数撃ち系だな。

 沖奈のしつこい奴らは見習え。

 

「他にも女はいるっしょ。おにーさん達お洒落結構頑張ってるのに時間を無駄にするのはもったいないよ。ほら、急いで次のにトライトライ」

 

 適当に手を振ってやる。

 彼氏云々はともかく脈なしだと判断してくれたのだろう。

 

「うーす。おい、次に声掛ける相手は俺が選ぶからな?」

「え~、でもお前が選ぶの面倒なヤツ多いじゃん大丈夫かぁ?」

「お前に任せてたら今日は寂しく野郎二人で安酒飲んで終わりになるだろ!」

 

 向こうも雑に手を振りながらも次に声掛ける相手を探して人混みの中に消えていく。

 

 ホントマジ、センス無くて見極めも声かけも下手でしつこいだけの沖奈のナンパ野郎どもは見習え。

 

 適当なベンチに腰を掛けて、辺りを見回す。

 思った以上に遅れてもう数時間すれば深夜零時。裏の時間だ。

 

「電話するか。とりあえず着いたって――」

 

 ケータイはスーツケースの中だ。

 使い古しの物だからバッテリーの持ちが悪いので、一通り知り合いにメール打ってからは放り込んでいた。

 

 おめぇの勝負服だろと完二に言われたメイド服とかお気に入りの中から厳選した服数着。

 いつものパジャマや部屋着だと寮の人に迷惑だろと無理やり詰め込まれた完二手縫いの甚兵衛。

 なんかあった時にと絆創膏から傷薬に裁縫セットになぜか編みぐるみ。

 

 何が迷惑なんだよ。

 全然露出してないだろ健全だろ。

 おふざけでパイセンがくれたマスコットキャラの着ぐるみパジャマなんだから。

 

 部屋着だって普通のTシャツ短パンじゃん。本当に普通の格好だわ。ちょいとヨレてるけど。

 なんだよ「そこに普通にいる感がヤバい」って。意味が分からねぇわ。

 隙だらけってなんだよ。

 尚紀や一条先輩もスゲエ同意しやがるし。

 松永さんまで。

 

 海老パイセン家で三日間ソレで過ごしたけど何にも言われなかったぞチクショウ。

 

 そもそもいつの間に作ってたんだお前とマジで思う。

 サイズピッタリなんだけどどういう――取材のための完全型メイド服Ver3作成のために各部の採寸やったな、そういえば。

 それがなくてもちょいちょい服作ってるからサイズ知られてても全然おかしくないのか。

 

「――あ、もしもし。夜分遅くに失礼いたします。こちらは月光館学院巌戸台分寮のお電話で間違いないでしょうか? ……あ、はい、そうです如月です。えぇ、ちょうど今巌戸台駅に着いたので連絡を。……いえ、お気になさらず。このままそちらに向かいますので――」

 

 電話を掛けると、キリッとした感じの女性が応対した。

 多分、あの時共闘した桐条さんだ。

 

 出迎えを出せない事を謝罪されたが別に構わない。

 右も左も分からないガキじゃないし、そもそも巌戸台は初めてではないのだ。

 

(……時間的にもすぐさま行くべきなんだけど、さすがにちょっと腹減ったな。飴で誤魔化すのも限界だ。飯屋に入るのはのんびりしすぎだけど、コンビニで適当なパンかサンドイッチ買って腹に詰めるくらいならOKだろう)

 

 とはいえ細かい店の配置なんかはさすがにサッパリだ。

 ベンチに座ったままそれらしい店明かりを探してキョロキョロしていると、八十稲羽でも見かける大手コンビニチェーンの姿が目に入った。すぐ近く、自分の座っているベンチの真後ろだ。

 

(? …………この時間に子供?)

 

 その時、偶然店から出てくる子供の姿が目に入った。

 

 中学生の自分も出歩いてていい時間じゃないんだが、小学生くらいの少年が俺同様デカい荷物を持って出て来た。

 俺がそうしようとしたように腹ごしらえだろうか。コンビニのビニール袋ごし、サンドイッチの姿が透けて見える。

 

 そのままこっちへと歩いてきて、

 

「あの、すみません。ここ、いいですか?」

「ああ、いーよいーよ。むしろ変な野郎やオヤジに座られたくないし、歓迎するよ少年」

 

 俺の隣のベンチに腰を下ろした。

 大きな――なんかヤケに長い鞄……というか、ケース? のような物を脇に置いて、ガサガサと袋の中身を取り出す。

 

「アタシもなにかコンビニで食べる物買おうと思ってるんだけど、まだモノは残ってた?」

「お弁当やサンドイッチの棚はかなり空いてましたけど、パンのコーナーはまだ少し残ってた気がします。何が残ってるのかは見てませんけど」

「あー、ダイジョブダイジョブ。適当に摘まめれば大丈夫だから。何なら食パンでもあればいーよ」

 

 実家なら丸久さんから貰った豆腐が冷蔵庫にあること多いから罪悪感のない夜食がいくらでも食べられるんだけど、こっちじゃなぁ。

 寮の冷蔵庫とキッチン、後は買い物の環境次第か。

 

 敵が出やすいこっちで裏の時間を本格的に調べるんなら、派手に戦闘する分食べなきゃならんし……。

 

 裏の時間が関わるなら海老パイセンに相談する時言葉選ばなきゃならねぇし面倒くさいな。

 

「にしてもこんな時間までどうしたのさ、少年。お巡りさんが見たら真っ先に声掛けに来る時間だよ」

「すいません。普通はこんなことしないんですけど……」

 

 子供は右手でサンドイッチを口に運びながら、左手で大きな荷物をギュッと掴んでいる。

 

「……家出的な?」

「いえ、そういうのでは……あぁ、いや……そう、なります……かね。大事な日に抜け出して……」

 

 ベッタベタだなぁ、思春期ボーイめ。

 さて、どうしたものか。

 

「少年。前アタシがここに来た時は昼間でも面倒な連中がいた。夜なら猶更。怖い目に遭いたくなければ、家に帰るべきジャン? ……その、家が少年にとって怖い場所じゃなければだけど、さ」

「いいんです。…………家は……もう」

「おっふ」

 

 アカン。

 後半の声のトーンで一発で分かった。

 地雷踏んだ。

 結構アカン系の地雷のど真ん中。

 

「…………ちょっと待っててくれるかな、少年? ちょっと。ちょっとだからさ」

「? ええ」

 

 少し離れた所で、もう一度巌戸台分寮に電話を掛ける。

 

 今度は有里さんという落ち着いた感じの男子が出てくれたので、この時間に迷子を見つけてしまったので対応で遅れますと伝えておく。

 

 もう携帯のバッテリーほぼ死んでるから、失礼だけど手短に伝えて家出少年の所に戻る。

 

「ほら、少年。補導されない内に帰る場所に行くよ」

「え、でも……」

「アタシもこういう恰好だから、早く移動したいんだよね」

「だったら尚更……僕の事は」

「や、こういう町で君みたいな小さい子を放置して行ったら、さすがに寝覚めが悪い」

 

 さっきのナンパもそうだけど、どうも恰好のせいというべきか、あるいはおかげというべきか小柄な女子大生くらいに思われているっぽい。

 とはいえあんま長居するとさっき言った事が現実になってしまう。

 さっさとこの子を送って分寮に向かわないと。

 

 

――……影時間を使えば大丈夫か……

 

 

 …………。

 

 ん?

 

「分かりました。それなら付き添いお願いします。ちょっと、時間かかりますけど」

「ん、それじゃ行こうか。道案内よろしくー。……あ、そうだ少年、なんて呼べばいい?」

「乾(けん)です。天田(あまだ)乾(けん)。呼び方は……まぁ、お好きに、貴女は?」

「ん~? 見ての通り、通りすがりのお姉さんだよ。お姉さんと呼んでくれ、少年」

「……名前を聞いておいて、自分は名乗らないんですか?」

「呼び方は聞いたけど名前を聞いた覚えはないよ」

「え? …………あっ、確かに……そうです……そうですけど……」

 

 

「なんだかお姉さん、ズルいですね」

「あっはははははは」

 




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