異世界トラック~トラックごと転移したので配送無双します~   作:延暦寺

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異世界はトラックと共に

 ――目の前にどこまでも広がる荒野。

 舗装はされておらず、申し訳程度に踏み固められた土の道。

 雲一つない青空と、現代特有の排気ガスすら存在しない澄んだ空気。

 

 そして――空高くを悠々と飛ぶ、一頭の()()()()()()

 

「いやー……都会と違って、田舎は自然が豊かだなー」

 

 俺は軽トラのハンドルを握ったまま、空飛ぶ巨大トカゲを眺めて現実逃避を決めていた。

 おかしい……どうしてこうなった?

 

 俺の名前は鴨津《かもつ》。

 個人事業主として軽貨物の配送業をしており、今日も運送会社から荷物を受け取って配達をしていたはずなのだが……。

 

「やっぱ、あの長いトンネルが原因か……?」

 

 今日の配達先は人里離れた山奥。薄暗いトンネルを通り抜けた先は、ご覧通りの大自然(とドラゴン)だった。

 バックミラーを確認し、さらに後ろを振り返ってみるが、俺が通ってきたはずのトンネルは跡形もなく消えている。

 

「……まぁ、どう考えても異世界転移だよな、これ」

 

  壮大なドッキリ番組でもない限り、十中八九、異世界で間違いない。

 あんなモンスターが現代日本で飛んでいたら大ニュースどころの騒ぎではないからな。

 

  WEB小説の異世界物は好きでよく読んでいたが、まさか自分が体験するハメになるとは思わなかった。

 そんな不可思議な状況でも意外と取り乱さず平然としている自分に、我ながら驚きである。

 本当はもっと狼狽えるべきなのだろうが、あまりに現実離れしすぎて脳が処理を拒否しているのかもしれない。

 

「……ともかく、ここにこのまま居ても仕方ないな。とりあえず人が居そうな場所に移動しないと」

 

 俺の相棒はごく普通の軽トラックだ。

 ただの平ボディ(荷台が剥き出しのタイプ)ではなく、荷台部分に角ばったボックスを載せたバンタイプである。

 軽トラならではの小回りの良さはそのままに、雨風を防いで背の高い荷物も積める頼もしい存在。

 色々な場所を走り回るのが好きで始めたこの仕事を、ずっと支えてくれた自慢の相棒だった。

 

「燃料は……まだあるな。とはいえ、この世界にトラックに使える燃料があるかは知らんけど」

 

 幸いにも今日の朝に燃料は満タンにしてあったが、このまま燃料が見つからなければいずれただの鉄の塊と化してしまう。

 長年愛用しているのでできれば手放したくないのだが、まぁ今悩んでも仕方あるまい。

 

「――そうだ、一応ナビも起動してみるか」

 

 行く当てもなく途方に暮れるのも嫌なので、ダメ元でカーナビの電源を入れる。

 好きな声優さんのボイスで案内してくれるカスタム仕様のナビだ。仕事中も耳が幸せになる優れものである。

 

「頼むから動いてくれよぉ……こうなると、いかに現代の技術に助けられまくっていたかがよく分かるな」

 

 現代の文明の利器に心から感謝しながら、祈る思いでナビ画面を見つめる。

 

『イセカイナビを起動します。ようこそ、マスター』

 

 スピーカーから流れてきたのは、いつも聞いていたあの声だった……が。

 

「イ、イセカイナビ……?」

『肯定します。私はマスターをナビゲーションするために搭載されたAIです。ご用件は何でしょうか』

 

 おいおい、俺のカーナビはいつからAI搭載型になったんだ?

 言っておくが、俺の持っているナビにそんな高機能は備わっていないぞ。

 

「俺をナビゲーションするってどういうことだ? お前はここがどこか知っているのか? なんで俺がここに来たのかは?」

『1つ目の質問に回答します。ここはマスターの世界で言うところの異世界。魔法やモンスターが存在する世界『グリムワルド』となります』

 

 マジで異世界なのかよ……。

 

『2つ目の質問ですが、マスターが召喚された理由につきましては()()()()となります』

「……なるほど? お前も知らないってことか。なら、何ができるんだ?」

『私は通常のナビゲーション同様、各都市や村などへのルートを提案いたします。また、ポイント消費による様々なオプション機能を使用可能です』

「……オプション?」

 

 尋ねると同時に、カーナビの画面に半透明のウィンドウのようなものが浮き上がり、『2,500pt』と表示された。

 

『100ガルドにつき1ptに変換できます。なお、1ガルドは日本円で約1円相当です』

 

 となると、今は2,500ptだから……25万円分がチャージされているということか。

 ……ん? 25万?

 

「って、俺の給料の手取り額じゃねえか!!」

 

 俺の給料を勝手にポイント化してんの!?  しかも額面じゃなくて、いろいろ差っ引いた後の額なのがいやらしい。

 いや、異世界に来た以上は日本円なんて使えないんだが、それにしても複雑な気分だ……。

 

「……はぁ、まあいいや。そのポイントは何に使使えるんだ?」

『メインはトラックの燃料補充となります。1リットルにつき1ptを自動で消費いたします』

 

 となると、1リットル100円計算か……。

 全ポイントを燃料に変えたとして2,500リットル。

 荷物の重さにもよるが、リッター10km走れるとして2万5千km。

 日本を何往復も縦断できる量だな。

 

 この世界がどれだけ広いかは不明だが、次の街まで何万kmも離れているとは思えない。当面の燃料切れは気にしなくて大丈夫そうだ。

 

『続いて、トラックに新たな追加機能を付与できます。こちらは機能に応じて消費ポイントが異なります』

「追加機能?」

『はい。基本的なもので言えば、現在の小型バンを大型車両等に変形・拡張することが可能です。一度開放したオプションは何度でも切替可能となります』

 

 あら便利。

 今の相棒は小回りの利く小型バンだが、将来的に大きな荷物を大量に運ぶことになったら重宝するかもしれない。

 

『変更可能なオプション一覧を表示しますか?』

「いや、今は大丈夫だ。まずは落ち着ける場所に行って一息つきたい」

 

 機能は気になるが、ここでいつまでも停車しているわけにはいかない。

 まずは拠点の確保だ。

 

「それじゃ、とりあえず一番近い街へのルート案内をお願い。えーと……そういえば、名前とかはあるのか?」

『私に固有の名称はありません。システム上の名称はイセカイナビとなります』

 

 うーん、それじゃ味気ないな。

 AIとはいえここまで会話ができるなら、ちゃんとした名前を付けてやりたい。

 

 名前……名前ねぇ。

 これから俺のサポートをしてくれる右腕的な存在。

 異世界ナビ……腕は『かいな』とも読むし……。

 

「――そうだな。イセカイナビで、俺の右腕だからカイナなんてどうだ?」

『……『カイナ』。承知いたしました。これより私はカイナと名乗ります』

 

 無機質なAIボイスのはずなのに、どこか嬉しそうな響きに聞こえた。

 

「よろしく頼むぞ、カイナ。それじゃあ、さっそく最寄りの街まで連れて行ってくれ」

『承知いたしました。目的地までのルート案内を開始します』

 

 こうして俺は、新たな相棒であるナビゲーター・カイナと共に、この異世界『グリムワルド』での第一歩を踏み出したのだった。




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