◯◯トレーナーの弟です 今回の件について全てをお話します 作:タンゴンゴン
事の発端は何気ないスマホ越しの会話だった
「兄貴の担当してるラヴズオンリーユーって娘、配信活動もしてるんじゃん?」
『そうだけど、それがどうしたんだ?』
1人暮らしを始めたアパートの自室で俺はレポートをスマホの画面越しには兄がおそらくはトレーニングの資料を纏めている姿が見える
「いやさ、俺の大学の友人……同期……顔見知りが配信活動をやりたいって言い出してさ」
『何でドンドン関係値が下がったのかは気になるんけど……』
あの変態と友達と思われるのはちょっと恥ずかしくて……
俺はレポートを書く手を止めず兄も資料を纏める手は止めずにダラダラと会話が続いていく
「まーあの馬鹿については関係なしに俺も配信活動について気になって」
『うーん……気になるって事はやりたいって事か?』
「いやいや、そうじゃなくて純粋な疑問だよ。ほら配信サイトで偶に配信者がこんな機材で配信してますって紹介してる動画があったりするだろ?」
『確かに見かけるな』
レポートもそろそろ区切りを向かえようとし兄の資料纏めも区切りがつきそうなのだろうか、自然と手の動きが緩やかになっていた
「でさー、兄貴の担当のラヴズオンリーユーさんはどんな機材使ってるんだって気になってさ」
『あー』
「やっぱり、いい機材使ってんの?」
『お前、カメラとか好きだもんな……そこまで高いのは使ってなかった様な気がするけど……』
昔から何故かカメラ周りの機械に憧れがあり
小さな頃はトイカメラを両親に強請って兄に笑われていたっけ
だからよくカメラの紹介動画も見ていたしこの時、好奇心で兄にそんな話題を出す
レポートは完全に区切りを終え兄も資料の纏めを終えてお互いに画面越しに相手を見ていた
「でもラヴズオンリーユーさんの配信って結構映りいいじゃん。何か設定で綺麗にしてんの?」
『どうだったかな~、ラヴズの配信の機材周りはあんまり触らない様にしてるし』
「え?そうなのか?てっきり兄貴がしっかり整えてると思った、何か危なくねぇのソレ」
『違う違う、俺が担当になる前からラヴズは配信してるんだぞ?俺が勝手に触ったら逆に危ないだろ』
笑いながら兄の画面が動く多分、仕事終わりのコーヒーを入れるつもりでキッチンに行こうとしてるのだろう
画面越しに映る兄の部屋
新人ながらも中央トレセンで努力する兄の部屋は数多くの本や紙が整頓されてはいるものの所狭しと置いてある
きっとこの本や紙に書かれている全てが兄の担当ラヴズオンリーユーの為に消化し彼女をG1優勝へ導いたのだろう
そんな兄の努力の結晶の数々の中にふと違和感を覚えた
「あれ、兄貴そのぬいぐるみ」
ベットの上に大事そうに飾られたぬいぐるみ
俺が違和感を覚えた物、兄の担当ウマ娘ラヴズオンリーユーの姿を模して作られたであろうぬいぐるみ
『ああ、このぬいか。可愛いだろ?』
キッチンに向かっていた足を止めて兄は自慢気にぬいぐるみの頭を撫でている
普段隠しているだろう担当ウマ娘への愛情を身内という事もあり俺には見せていた
そんな兄の姿に呆れつつも違和感が拭えなかった
『まるでラヴズ本人が側にいるみたいで良いだろ?最近、中央トレセンから発売されたぬい何だけど』
「へー……」
確かに兄の担当の可愛いさを上手くぬいぐるみに落とし込んではいる
『コレが人気が凄くて中々手に入らなかったんだけど、この間ついに買えてさ』
自慢気に語る兄の横に映るぬいぐるみへの違和感は次第に大きくなる
可愛いさもぬいぐるみ特有の癒しオーラみたいのも感じられる
けど一点何かがオカシイ
その一点が分からない
いや……分からない方が良かったのかもしれない
「そんだけ人気なのによく買えたな兄貴」
『大変だったけど頑張って販売抽選に応募したからな!買えた時は思わずラヴズに買えたって報告しちゃたよ』
「そうなんだ」
嬉しくて堪らない様子の兄を見た時
俺は違和感に気づいてしまった
気づいてはいけなかったと今でも後悔している
兄が嬉しくそうに頭を撫でるラヴズオンリーユーの姿をしたぬいぐるみの目の部分がカメラのレンズだと俺は気づいてしまったのだ
「あ」
思わず声が出た
『ん?どうしたんだ?』
「兄貴……そのぬ」ピンポーン
震える声を出そうとした瞬間とチャイムが画面越しから聞こえる
『あれ?こんな時間に誰だ?』
息が止まったと錯覚する俺を他所に兄は呑気にスマホを置いてチャイムのなった先へ
『はーい……あれラヴズ?何で此処に?』
固定されたスマホの画面はラヴズオンリーユーのぬいぐるみだけを映し遠くで兄の声を拾っていた
『その後の事はとても皆様にお伝えする事は出来ません。ただあの日、私の兄はいつもと変わらない時間を過ごしていました。あんな事になった原因があったとしたらそれは……』
PCのカメラを通して全世界へと頭を下げる俺はあの日を事を思い返す
俺がカメラに憧れを持ち詳しくなければ
あの作業通話で配信機材の話を出さなければ
あのラヴズオンリーユーぬいぐるみに気がつかなければ
そんなどうしようもない後悔が頭を巡り続けていた
ラヴズオンリーユーさんは幸せそうだった