無職転生 異世界行ったら妄想を本気で再現する! 作:ぐちロイド
それとロキシーがパウロやゼニスの呼び方って様でしたっけ?曖昧なので教えてください!。
ニルシィの口からあっけらかんと飛び出した「あたし前世は日本のオタク女子高生だったんだわ」という言葉の衝撃を喉の奥へ押し込み、俺は大きく深呼吸をした。
夕暮れ時の街道を歩きながら、俺はニルシィを見上げて真剣な面持ちで口を開いた。
「……ニルシィ。ひとつ重要な提案がある」
「ん? なんだよアレン。また前世の黒歴史ノートの話か?」
ニルシィが八重歯を覗かせてからかうように笑う。俺は眉間にしわを寄せ、声を一段低く落とした。
「冗談じゃない。お互いが『転生者』であるということは、絶対に他人に言わないでおこう。パウロやゼニスはもちろん、ルーデウスやロキシーにもだ」
「あー……まあ、そうだな」
ニルシィはシアン色のポニーテールを揺らし、軽く肩をすくめてあっさりと頷いた。
「この世界じゃ『異世界からの転生者』なんて存在、下手に知られたら教会やら研究者やらに目をつけられかねないしな。あたしも今まで誰にも言ってなかったし、わざわざ言い触らす気もないよ。パウロたちに変に心配されるのも面倒だしな」
「助かる。前世の知識や術式の応用は二人だけの秘密ってことで……いいね?」
「おうよ! 弟子と師匠の『秘密の共有』ってわけだ。悪くないねぇ」
ニルシィはニッと笑うと、俺の頭を乱雑に撫で回した。こうしてお互いの正体と秘密を共有したことで、俺たちの間には不思議な連帯感が生まれていた。
◇
森で狩り取ったアサルト・ボアを二体、ニルシィが魔法の袋から取り出してグレイラット家の庭にドンと置くと、家の中からゼニスが出てきた。
「あらあら……! すごい大きなボアね! アレン、怪我はなかった?」
心配そうに駆け寄ってくるゼニスに、俺は首を振ってみせた。
「大丈夫だ、母さん。俺とニルシィで一傷も負わずに狩ってきたからな」
するとゼニスは、どこか感慨深そうに、しかし少し寂しそうな表情を浮かべて俺たちの顔を見つめた。
「実はね……ロキシーさんが、今日でルーデウスの家庭教師を卒業することになったのよ。ルーデウスがもう聖級水魔術の『豪雷積層雲(キュムロニンバス)』を扱えるようになったからって……」
「ロキシーが卒業……?」
俺は少し目を見張った。ルーデウスの魔術の才能が規格外であることは知っていたが、もう聖級魔術をマスターしてロキシーの教えることがなくなったというわけか。
俺は少し考え、ゼニスに向かって提案した。
「母さん。なら、今日持って帰ってきたこのボアを使って、料理を豪華にしよう。ロキシーの卒業と門出を祝うパーティーにするんだ」
ゼニスの瞳がぱっと輝いた。
「まあ……! それはとっても良いわね、アレン! ロキシーさんもきっと喜ぶわ!」
感極まったゼニスは、そのまま俺の幼い身体をぎゅっと胸の中に抱きしめた。豊満な胸に顔が埋まり、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
(くっ……苦しいが、母さんが喜んでいるならまあいいか……)
ゼニスの抱擁を受け止めていると、後ろで見ていたニルシィが呆れたように笑いながらパンと手を叩いた。
「よし! ならパウロたちが帰ってくる前に、このボアをサクサク解体しちまうか! アレン、お前も手伝うか?」
「ああ、やる。手伝わせてくれ」
俺はゼニスの腕からするりと抜け出し、腰の刃物を取り出した。
将来、この家を出て冒険者として世界を旅するようになった時、魔物の解体技術は必須スキルになる。元・上級冒険者であるニルシィの手際を間近で見ながら学べる機会を逃す手はない。
「よし、まずは血抜きからだ。ここをこう切って……」
ニルシィの指示に従い、俺は小さな手で器用にナイフを動かした。血抜き、皮剥ぎ、内臓の処理、部位ごとの切り分け。ニルシィの手際の良さは圧巻で、流れるような無駄のない動きだった。俺も前世の知識と集中力を活かし、必死に食らいついて解体を手伝った。
「へぇ……初めてにしちゃ、筋が良いじゃねぇかアレン」
「ニルシィの教え方が良いからな」
「ハハッ、言うようになったねぇ!」
その日の夜、我が家の食卓には最高級のジビエ料理がずらりと並んだ。
ロキシーは驚きつつも心から喜び、パウロは「アレンが狩ってきた肉か!」と大酒を飲み、ルーデウスもまた美味そうに肉を頬張っていた。温かく、少し切ない、最高の送別会となった。
◇
次の日——。
ブエナ村の青空の下、グレイラット家の全員とニルシィが揃って、屋敷の前でロキシーの見送りを行った。
ロキシーは愛用のとんがり帽子をかぶり、大きな杖を手に携えている。
「パウロ様、ゼニス様。短い間でしたが、本当にお世話になりました」
「おう! ロキシー、いつでも遊びに来いよ!」
「ロキシーさん、体に気をつけてね」
ゼニスが寂しそうに微笑み、パウロが豪快に背中を叩く。ルーデウスはロキシーから貰った大切な宝物(帽子や教典)を抱え、寂しさを必死に堪えている様子だった。
俺は少し離れた場所から、静かにロキシーを見つめていた。
彼女はこの5年間、ルーデウスの師として真摯に向き合ってくれた。俺とは直接的な師弟関係ではなかったが、我が家にとってかけがえのない存在だったことは確かだ。
ロキシーがこちらに視線を向け、俺とニルシィに向かって丁寧に一礼した。
「ニルシィさん、アレン様も。……アレン様、あなたもルーデウスに負けない素晴らしい才能をお持ちです。どうか、お元気で」
「ああ。ロキシーもな。旅の無事を祈ってる」
俺が短く答えると、ロキシーは少し目を見張り、それから嬉しそうに口元を緩めた。
「はい。ありがとうございます」
彼女は一頭の馬に跨がり、ゆっくりと歩みを進めた。何度も振り返りながら、ブエナ村の街道を遠ざかっていくロキシーの背中を、俺たちはいつまでも見送っていた。
◇
さらに次の日——。
朝、俺が庭に出てみると、ルーデウスが一人で屋敷の門をくぐり、村の外へと向かって歩いていく姿が見えた。
(……ほう。ルーデウスが出かけていくか)
珍しいこともあるものだ、と俺は内心で感心した。
一昨日までは、村の外へ出ることすら怯えて渋っていた男だ。ロキシーとの卒業試験を経て、長年彼を縛り付けていた前世のトラウマ——「外に出ることへの恐怖」を克服したのだろう。
(成長したな、兄貴……)
必要最低限の会話しか交わさない間柄ではあるが、同じ転生者として、そして双子の兄弟として、彼が一歩前へ進んだことは素直に悪くないと感じた。
さて、と俺は腕を組んだ。
「今日は稽古休みだもんなぁ……」
そう、今日はニルシィとの週に一度の「完全休日」である。
連日の激しい剣術と魔術錬成の訓練で、俺の5歳児の身体は疲労がピークに達していた。ニルシィの提案で、今日はしっかり休養を取ることになっていたのだ。
すると、後ろからあくびをしながらニルシィが歩いてきた。シアン色のポニーテールは少し寝癖がついており、だぼついたラフな服を着ている。
「ふぁ〜あ……おはよ、アレン。ルーデウスのヤツ、出かけて行ったな」
「ああ。外の恐怖を克服したみたいだな」
「へぇ、いいことじゃねぇか。……で、アレン。今日の予定だが」
ニルシィはシアン色の瞳をギラリと光らせ、八重歯を覗かせてニヤリと笑った。
「せっかくの休みだ! あたしと二人で、近くの街まで遊びに行かないか?」
「街へ……? ブエナ村の隣の、あの商業街か?」
「そうだ! ずっと屋敷に引きこもって鍛錬ばっかりじゃ息が詰まるだろ? 美味いもんでも食って、買い物して、休暇を満喫しに行こうぜ!」
「……いいな。行こう」
俺の即答に、ニルシィは「決まりだな!」と嬉しそうに俺の肩を叩いた。
◇
パウロとゼニスに「街へ買い物に行ってくる」と告げると、ゼニスは「気をつけてね! お小遣い持っていきなさい!」とお金を持たせてくれた。パウロも「ニルシィ、アレンを頼んだぞ!」と快く送り出してくれた。
移動手段はもちろん、ニルシィの『玉犬』だ。
「『玉犬・黒』!」
影から現れた漆黒の巨大狼の背に、俺とニルシィが二人乗りで跨がる。俺が前に乗り、後ろから長身のニルシィが俺の身体を軽く抱きかかえるような体制だ。
「よし、黒! 街まで飛ばせ!」
バッ……!!
風を切り、大地を蹴って走る玉犬黒。
流れる景色、頬を撫でる爽やかな風、そして相変わらず極上の柔らかさを誇る玉犬の毛並み。俺は密かに「ぬぅ……やはり最高の乗り心地だ……」と感動に浸っていた。
「くすっ……アレン、お前本当狼の毛並み好きだな」
後ろからニルシィのクスクスという笑い声と、彼女の豊満な胸の柔らかさが背中に当たっているのが伝わってきたが、今の俺は玉犬のモフモフに夢中でそれどころではなかった。
十数分ほどで、俺たちは大きな木造の防壁に囲まれた商業街へと到着した。
玉犬を街の手前で影に還し、俺たちは徒歩で街の大きな門を潜った。
「うわぁ……」
門を抜けると、そこにはブエナ村とは比べ物にならないほど賑やかな世界が広がっていた。
石畳の道路、両脇に立ち並ぶレンガ造りの店舗、行き交う多種多様な人々——人間だけでなく、耳の長いエルフや小柄なドワーフ、獣の耳や尾を持つ獣族まで歩いている。
「すごい活気だな……」
「だろ? この街はアスラ王国の地方都市の中でも、そこそこ流通が盛んなんだよ」
ニルシィは慣れた足取りで人ごみを進んでいく。174cmの長身と綺麗なシアン色の髪、そしてスタイル抜群の彼女は街中でもかなり目立っており、通行人からの視線を集めていた。だが、当の本人は全く気にした風もなく、俺の手を引いてズンズン進む。
「まずは小腹が空いたな! アレン、あそこの屋台の肉串食おうぜ!」
「おう!」
俺たちは香ばしい肉の焦げる匂いに惹かれ、屋台へと向かった。
炭火でジューシーに焼き上げられた「串焼き肉」を購入し、二人でパクつく。
「む……美味いな! 噛むと肉汁が溢れてくる」
「だろ〜? ここのタレが絶品なんだよ!」
ニルシィは自分の串を豪快にかぶりつき、口元にタレをつけながら満足そうに笑った。前世で女子高生だったとは思えないほど豪快な食べっぷりだ。
「ほらアレン、口元にタレついてぞ」
「ん……」
ニルシィが指先で俺の口元を拭い、それを自分の口でペロッと舐めた。
「っ……! ニルシィ、お前なぁ……」
「なんだよ、減るもんじゃなし! さあ、次は道具屋と服屋巡りだ!」
その後、俺たちは街を散策しまくった。
魔法具を扱う道具屋では、珍しい魔石や素材を二人で真剣に吟味した。
「おいニルシィ、この赤熱魔石……俺の『星屑の錬成』の触媒に使えそうじゃないか?」
「どれどれ?……んー、純度が少し足りねぇな。こっちの紫魔石の方が魔力効率が良いぞ。前世の知識で言うなら『伝導率』が高いやつだ」
「なるほど……流石だな」
店主が「5歳のガキと綺麗なお姉ちゃんが凄く高度な会話をしてるんだが……」とドン引きしていたが、俺たちは気にせずオタク知識と魔術知識を全開にして議論を楽しんだ。
次に訪れた服屋では、ニルシィがノリノリで俺を「着せ替え人形」にし始めた。
「よしアレン! この黒い革コート着てみろ!」
「……大きすぎるだろ。それに子供がコートを着ても似合わん」
「いいから着るんだよ! ほら、フード被って……くぅ〜〜っ!! 中二病感が溢れて最高にかっこいいぞ!!」
「やめろ恥ずかしい!!」
結局、ニルシィに押し切られる形で、少し大人びた黒い上着と頑丈な旅用の服を買わされる羽目になった。(代金はニルシィが奢ってくれた)。
◇
昼過ぎ——。
歩き回ってお腹が空いた俺たちは、街で一番評判の良い大きな大衆食堂へと入った。
店内は昼食を楽しむ冒険者や商人たちで賑わっている。俺たちは奥のテーブル席に腰掛け、名物の「特製スープと焼きたてパン、香草焼きの肉セット」を注文した。
運ばれてきた料理はボリューム満点で、味も絶品だった。
「ん〜〜っ! 美味い! やっぱり肉は最高だな!」
ニルシィは木樽の果実酒(※元上級冒険者なので酒豪)を豪快に煽り、ぷはぁっと息を吐いた。
俺も温かいスープを口に運び、ホッと溜息をつく。
「……たまには、こういう日も悪くないな」
「だろ?」
ニルシィは肘をテーブルにつき、シアン色の瞳を細めて俺を見つめた。
「お前さ、いつも眉間にシワ寄せて、強くなることばっかり考えてただろ? もちろん鍛錬は大事だし、強くなるのは最高のエンタメだが……たまにはこうやって息抜きしないと、心が擦り減っちまうぞ」
「……ニルシィ」
「前世でどんな人生を送ってきたかは知らんが……今生はお互い、楽しんだもん勝ちだ。お前にはあたしっていう最高の師匠がつ役なんだから、焦らずじっくり強くなればいいのさ」
ニルシィは八重歯を覗かせて、優しく、そして頼もしく笑ってみせた。
その笑顔を見ていると、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。前世では孤独に過ごし、この世界に転生してからもどこか肩に力が入っていた俺にとって、彼女の存在はあまりにも大きかった。
「……そうだな。ありがとよ、ニルシィ」
俺が素直にお礼を言うと、ニルシィは一瞬驚いたように瞬きをし、それからニシシと笑った。
「にししっ! 素直で可愛い弟子だねぇ! よーし、お兄さん(?)がもう一杯奢っちゃうぞ〜!」
「お兄さんじゃなくてお姉さんだろ。あと俺は酒は飲めん」
「あハハハっ! そうだった!」
食堂に二人の楽しげな笑い声が響く。
美味しい料理を食べ、賑やかな街の雰囲気を感じ、前世と今生の話を遠慮なく語り合う。
日頃の過酷な訓練の疲労も、未来への焦燥感も、ニルシィと過ごすこの最高の休日の中で、綺麗さっぱりと吹き飛んでいくようだった。
「さーて! 腹も膨らんだし、次はあっちの露店街に行ってみるか、アレン!」
「ああ、行こう!」
5歳の小さな手と、元上級冒険者のしなやかな手を繋ぎ、俺たちは再び賑やかな街の雑踏へと繰り出していった。
異世界での過酷な鍛錬の合間に訪れた、最高に温かく、かけがえのない休日のひとときだった。