無職転生 異世界行ったら妄想を本気で再現する! 作:ぐちロイド
第21話 冒険者登録
あれから数週間が経過し、俺——アレン・グレイラットの魔術修行は着実に実を結んでいた。
試行錯誤を重ねた結果、我が術式『星焔の創世宮(せいえんのそうせいきゅう)』の第二段階である『虎座(ティグリス)』の素体は、ようやく「中型犬」ほどのサイズまで安定して構築できるようになっていたのだ。実寸大への道のりはまだ半ばだが、実戦で運用するための基礎データとしては十分な形になりつつある。
(よし、これならそろそろ、本格的に冒険者登録を済ませてギルドの依頼を受けに行ってもいい頃合いだな……)
そう判断した俺は、翌日の午前中、家庭教師であり相棒でもあるニルシィと共に、ルーデウスが旅立った先でもあるフィットア領の「ロアの街」へ向けて出発することにした。
出発の朝。
グレイラット家の前には、母・ゼニスが優しく微笑みながら見送りに来てくれていた。パウロはあいにく朝から仕事で外出中であり、メイドのリーリャは赤ん坊であるノルンとアイシャの側につきっきりで世話をしているため、見送りはゼニスとニルシィ、そして俺の三人のみだった。
「アレン、ニルシィさん、道中気をつけて行くのよ。無理な依頼は絶対に受けちゃダメですからね」
「分かってるよ、母さん。すぐに戻るさ」
ゼニスに頭を優しく撫でられ、俺は軽く頷いた。
実戦を伴う冒険者活動とはいえ、最初のうちは二週に一度、ニルシィの同伴という厳格な縛りがある。ゼニスもそれを信頼して送り出してくれているのだ。
屋敷を後にした俺たちは、村の離れた場所でニルシィが『玉犬・黒』を影から呼び出し、その背に二人乗りしてロアの街へと向かった。
人間の足や通常の馬車であれば半日以上かかる距離だが、玉犬の圧倒的な俊足と駆動力のおかげで、その「普通の半分の時間」で瞬く間にロアの街の巨大な防壁が見えてきた。
街の門をくぐり、石畳が敷き詰められた賑やかな大通りに出ると、ニルシィがキュッと伸びをして提案してきた。
「ふぁ〜、着いた着いた! ……っと、そういえばアレン、朝から何も食ってないだろ? 登録手続きに行く前に、ちょっと腹ごしらえでもしていかないか? ほら、あそこの出店で美味そうな串焼きが売ってるぞ!」
ニルシィの指差す先では、香ばしい煙を上げる肉の出店が並んでいた。俺も少し小腹が空いていたため、その提案に頷き、しばらく二人で街の出店を散策しながら軽食を済ませた。
◇
腹ごしらえを終えた俺たちは、街の中心部にそびえ立つ、頑丈な石造りの「冒険者ギルド」の建物へと足を運んだ。
重い木製の扉を押し開き、ギルドの広々としたホールへと足を踏み入れる。
中には、依頼書(クエストボード)の前で群がる冒険者たちや、酒場で朝から杯を交わしている荒くれ者たちがごった返し、独特の獣臭さと酒とタバコの入り混じった空気が立ち込めていた。
俺が小さな身体でキョロキョロと周囲を見回していると、ホールの一角に溜まっていたガラの悪そうな男たちのグループが、こちらにチラと視線を向けた。
「おいおい……あそこの女、すっげぇスタイル抜群の美人だぜ……?」
「で、隣にいるのは……ガキ? なんだ、こんなガキ連れて冒険者ごっこかよ。ゲヘヘヘヘ!」
男たちは、174cmの長身と豊満なFカップのスタイルを惜しげもなく誇るニルシィに露骨にいやらしい視線を送り、同時に、その隣にちょこんと立っている俺の姿を見て「お子ちゃまが遊び場を間違えたぞ」と下品な笑い声を上げた。
(……耳障りな雑魚どもだな)
俺は冷めたツリ目を細め、心の中で吐き捨てた。
前世の記憶を持つ俺にとって、この手の軽薄で底の浅い連中の野次ほど不快なものはない。
俺たちは彼らを無視し、カウンターの奥にいる受付の女性のところへと歩み寄った。
「こんにちは。冒険者登録をしに来ました」
俺がそう告げると、受付の女性は驚いたように目を丸くし、それから優しく微笑んだ。
「まあ、可愛い男の子ね……。でも、冒険者登録は満12歳以上が原則なのよ? あなた、いくつかしら?」
「年齢は7歳ですが、裏書と保護者の許可、そして実力は十分にあります。この人が同伴の保証人です」
俺がニルシィを指さすと、ニルシィはニッと八重歯を覗かせてギルドカード(元上級冒険者の証)をヒュッと見せた。
「あたしが保証人だ。魔術の腕は折り紙付きだから、特例での仮登録を頼むよ、お姉さん」
受付の女性はニルシィのカードを確認し、少し困惑しつつも、彼女の纏う只者ではない気配を感じ取って手続きを進めてくれた。
こうして、年齢の特例措置として、俺の「冒険者登録」が無事に完了した——その時だった。
「おい、待てよ姉ちゃん!」
ガシャ、と椅子の音を響かせ、先ほどからこちらを品定めするように見ていたガラの悪い男たち5人組が、ニチニチと下品な笑みを浮かべながら近寄ってきた。
そのリーダー格の男が、ニルシィの肩に馴れ馴れしく手を伸ばそうとしながら声をかける。
「なぁ姉ちゃん、そんなガキのお守りしてねぇでさぁ、俺らとこれからもっと『良いこと』しねぇか? Aランクのクエストの報酬より、たっぷりと可愛がってやるよ、ゲヘヘヘヘッ!」
残りの取り巻き4人も「いいぜ、おすそ分けしてくれよ!」などと下劣な笑い声をあげる。
ニルシィは溜息をつくように頭をポリポリと掻き、それから面白そうに口角を釣り上げると、真横に立っている俺の肩をポンと軽く叩いた。
コソッと、しかしホール中に聞こえるくらいの声で彼女は言った。
「ねえアレン。ちょうどいいや、記念すべき初陣だ。手始めにさ、この五人の迷惑なゴミクズどもを相手に、『星屑の錬成』で適当な武器を作って——もちろん、殺さないように手加減してやってみな?」
「……ああ、ちょうどいい動く的が欲しかったところだ」
俺のツリ目に、冷たい闘志の炎が灯った。
「あぁ? なんだこのガキ、生意気な口を……っ!」
リーダー格の男が顔を真っ赤にして怒声を上げ、腰のサーベルに手をかけようとしたその瞬間——。
俺は微塵の躊躇も見せず、体内の魔力回路を全開で接続した。
(——『星屑の錬成(スターダスト・フォージ)』!)
シュンッ!!
俺の右手の中に、高密度の土魔術と均一な熱皮膜によって構成された、美しくも禍々しい「刀身のない、刃をあえて落とした鈍色の刀」が瞬時に顕現した。刃はないが、全体に纏う魔力圧と重量バランスは完璧に近接戦闘用に調律されている。
「なっ……なんだ今のマジックアイテムは……っ!?」
男たちが驚愕の声を上げた時には、すでに遅かった。
「そこだ」
タンッ!!
俺は硬い石の床を左足で鋭く踏み込み、爆発的な初動加速(ダッシュ)でリーダー格の男の懐へと一足飛びに肉薄した。幼い体格の低さを利用した、完全な死角からの突撃。
「がっ……!?」
反応すらできなかったリーダーの鳩尾(みぞおち)へ、俺は刃の無い刀の腹を、全体重と魔力の衝撃を乗せて強烈に叩き込んだ。
ゴスッ!!
「ぐえあっ……!!」
人間が空気をすべて肺から吐き出された時に上げる間抜けな悲鳴を上げながら、リーダーの巨体はくの字に折れ曲がり、その場にぶっ倒れて意識を失った。
だが、俺の動きはそこから止まらない。
リーダーをすり抜けるのと同時に、俺の身体は独楽(こま)のように鮮やかに一回転した。
その回転によって生み出された遠心力を限界まで乗せ、背後から驚愕の表情で迫ってきた取り巻きの男2人の胴体へと、右から左へと斜めに薙ぎ払う一撃を浴びせる!
ズバァンッ!!
「ぐあぁっ……!」
「いてぇっ……!」
刃こそ落としてあるものの、高密度の魔力塊で殴打された二人は、肋骨がひしゃげるような激痛と共に、そのまま横方向へと吹き飛んで地面に転がった。
さらに、その回転の勢いはまだ衰えていない。回転の余力を完全に利用し、残りの二人に向けて——。
「逃がさない」
しなやかな体幹の捻りと手首のスナップを利かせ、残りの2人に強烈な回転を加えた袈裟斬り(打撃の連撃)を叩き込む!
ガキィンッ!! どすっ!!
「あがっ……!」「ば、化け物……っ!」
残りの2人も頭部と肩に強烈な衝撃を受け、眼がぐるぐると回った状態でその場に崩れ落ち、ものの数秒で5人全員が床の上でピクピクと気絶して沈黙した。
ホール全体が、水を打ったように静まり返った。
「……ふぅ」
俺は刀の魔力を解除し、すっと消滅させると、乱れた息を整えながら静かに立ち立った。
返り血は一滴もない。ただ、5人のガラの悪い冒険者が、7歳の子供一人に綺麗にのされたという動かぬ事実だけがそこに転がっていた。
受付の女性は目を見開き、口をあんぐりと開けて固まっている。
酒場にいた他の冒険者たちも、「おいおい、あのガキ……一瞬で……」「マジかよ……」と冷や汗を流しながら俺たちを直視できずにいた。
ニルシィはそんな周囲の反応などどこ吹く風とばかりに、満足そうに両手を叩いて笑った。
「はははっ! すっごいすっごい! 見事な無慈悲な手加減コンボだったねぇアレン! 最初の挨拶としては100点満点合格だ!」
俺は冷めた目で床に転がる男たちを一瞥し、すまし顔でニルシィに言った。
多様な戦術と実戦的体術の感触、そして『星焔の創世宮』第一段階から第二段階への接続テストとしても、上々の滑り出しだった。
こうして、俺の冒険者としての第一歩は、周囲に圧倒的なインパクトを残す形で、華々しく(そして少しだけ騒がしく)幕を開けたのだった。