無職転生 異世界行ったら妄想を本気で再現する! 作:ぐちロイド
冒険者登録を済ませ、虎の魔物の討伐という規格外の初陣を飾った翌日から、俺——アレン・グレイラットは、いよいよ我が術式『星焔の創世宮(せいえんのそうせいきゅう)』の最終壁にして最大の難所である『龍座(ドラコ)』の素体構築へと取りかかることにした。
狼座(ルプス)、鷹座(アクラ)、そして直近で実戦データを収得して完成度を上げた虎座(ティグリス)。これら三体の基礎構築をやり遂げ、それぞれの骨格や筋肉の荷重バランス、魔力の流れを身体で覚えてきた。
その手始めとして、まずはその集大成をぶつける形で、東洋龍型の素体をゼロから組んでみる。
前世の世界で映像や資料、伝承のなかの「龍」をいくら調べ上げ、その姿を脳内に焼き付けてきたか分からない。しかし、それを今、自らの土魔術と高密度な錬成技術を用いて「実際に物質としてどこまで再現できるか」——。
他の三体の素体をモノにした自信と、どこまで通用するのかという知的好奇心が入り交じり、俺の胸の中は言いようのない高揚感で満たされていた。
(さあ、見せてくれ……俺の妄想の結晶の、真のスケールを!)
広めの庭の一角で、俺は深く息を吸い込み、両手を地面へと突き入れた。
——『星焔の創世宮:第四段階・龍座(ドラコ)の劫火、素体構築』!
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
凄まじい地響きが庭全体を揺らし、地表が激しく盛り上がる。
これまでの三体とは規模が違う。全長50メートルに及ぶ圧倒的な巨体のスケールを、一朝一夕で形にするなど到底無理な話だ。そのため、まずはその全体像のプロトタイプとなる、縮小版(それでも全長数メートルはあるが)の巨体素体から構築していく。
にしても、やはりスケールがでかい。
土の魔力を極限まで圧縮し、ねじり、長く蛇行する胴体、四肢の関節、そして長大な尾と角の構造まで緻密にデータを流し込むため、形状を安定させるだけで最初の段階から膨大な時間がかかった。
「ふう……っ、はぁ……!」
額から汗が滝のように流れ落ちる。
わずか一つの素体を大枠で形作るだけでも、優に5分程度は集中を途切れさせることができなかった。
泥だらけになりながらも手を離し、完成した最初の「龍のプロトタイプ素体」を見上げる。
その横には、いつの間にか腕を組んで観察していたニルシィが立っていた。彼女はシアン色のポニーテールを揺らし、感心したような、しかしどこか呆れたような複雑な笑みを浮かべていた。
「へぇ……。流石に狼や鷹、虎の三体を作ってきただけあって、最初にしては上々の出来栄えじゃないか。この短時間で、これだけ複雑な長胴の骨格バランスを崩さずに組み上げたのは大したもんだよ」
ニルシィの太鼓判をもらい、俺は内心で胸を撫で下ろした。
だが、彼女の言葉はそこで終わらなかった。
「……だがな、アレン。ここからが本当の地獄だね。改善点は山のようにあるよ」
「……わかってるさ。指摘してくれ」
「まず、この胴体の中心部。龍ってのは爬虫類や獣とは違って、空中で体をうねらせて飛翔(浮遊)する軌道を描く。だから、ただの四足歩行の延長で背骨を作ると、旋回した瞬間に自重で胴体中央から真っ二つにへし折れるね。それと、この爪と頭部の角の密度がアンバランスだ。もっと魔力の導電率を高めないと、いざ火の膜(熱魔術)を纏わせた時に一瞬で溶け落ちる」
「……っ、なるほど……!」
さすがは元・上級冒険者であり、魔術理論に通じた師匠だ。一瞬見ただけで、素人の俺が気づかない致命的な構造の欠陥を次々と鋭く突いてくる。
俺はニルシィの指摘を一つ残らず頭に叩き込み、その不完全な龍の素体を一度魔力へと還元して土に戻した。
そして、再び修正を加えた新しい素体を一から組み上げる。
——この日から、果てしない試行錯誤の日々が始まった。
失敗しては崩し、指摘を受けては直し、さらに新しい構造を試す。
その地道な改善と修正のループを狂ったようにひたすら繰り返すうちに、季節が巡り、月日が流れていった。
気づけば、俺の年齢は7歳から「8歳」になっていた。
◇
——8歳となったある日の午後。
グレイラット家の庭は、相変わらず賑やかだった。
ハイハイから歩き始め、あちこちをヨチヨチと動き回るようになった二人の妹——ノルンとアイシャは、お互いにオモチャを奪い合っては大声で泣き叫び、家の中を文字通りひっくり返すような騒ぎを引き起こしていた。
ゼニスとパウロは相変わらずの育児奮闘中で目を回し気味であり、メイドのリーリャが的確にそれをサポートしている。
そんな忙しない日常の中でも、俺は自分の役割を忘れていなかった。
午前中は庭の片隅で、日々日課となっている家の雑事の手伝い(薪割りや水汲み、庭の整備など、身体強化魔術と錬成術を応用した効率的な作業)をテキパキとこなし、家族の負担を減らす。
そして午後の空いた時間や、ニルシィとの修行の時間になると、全神経を『龍座(ドラコ)』の素体構築へと注ぎ込んでいた。
「ふう……よし、今日の分の基礎構築はここまでだな」
庭の端に設置された作業スペース。
そこに鎮座しているのは、1年前の最初期のものとは比較にならないほど洗練され、威厳をまとった東洋龍型の土素体だった。
滑らかな鱗のモールド、空を駆けるための強靭なしなやかさを秘めた長い胴体、そして天を睨むような鋭い角と牙の構造。
ニルシィがそばに歩み寄り、その龍の素体をじっと見下ろして腕を組んだ。
「……だいぶ形になってきたねぇ、アレン。1年前に比べたら見違えるほど精度が上がってる。狼座や鷹座、虎座の連中に並ぶどころか、構造の複雑さで言えば一番の傑作になりそうじゃないか」
ニルシィのその評価に、俺は小さく息を吐き、苦笑いを浮かべた。
「だが……全体の完成度で言えば、まだ『40%』ってところだな」
「まあね。素体の形ができても、これにあの全長50メートル分の膨大な魔力を通し、さらに最高火力の『劫火』を纏わせるための核(コア)……すなわち超高密度の人工魔石を組み込んで自律制御するってなると、ここからが本当の壁だからねぇ」
ニルシィの言う通りだ。
形(側)を作るのはあくまで第二段階のスタートラインに過ぎない。その中に命を吹き込み、自分の意志の延長として完全にコントロール下に入るようにするための調整は、これからのさらに長い道のり待っている。
「焦ることはないさ。まだ俺たちは8歳だ。時間はある」
俺は素体に手を添え、優しく撫でながら静かに呟いた。
「あぁ、そうだな! 焦ったってしょうがない。ゆっくり、確実に、あたしたちの最強のオタク妄想を現実にしてやろうぜ!」
ニルシィは豪快に笑い、俺の頭をグシャグシャと乱雑に撫で回した。
家族の温かい日常を守り、妹たちの泣き声を聞きながら、俺は今日もまた、前世の夢と今生の技術を融合させた最強の相棒——『龍座』の完成を目指して、泥だらけになりながら静かに手を動かし続けるのだった。
転移事件編で出すオリキャラについて、
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