無職転生 異世界行ったら妄想を本気で再現する!   作:ぐちロイド

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第25話 夢の中で

さらに半年が過ぎた。

アレン・グレイラットが8歳半を迎えたある日の夜、庭の作業スペースで構築を続けていた我が術式『星焔の創世宮(せいえんのそうせいきゅう)』の最終壁——『龍座(ドラコ)』の素体は、ついに全体の「80%」の完成度にまで到達していた。

 

細部の鱗のモールドや関節の可動域、魔力の導電率に至るまで調整が重ねられ、もはや「完成間近」と言い切れるほどの圧倒的な威容と完成度を誇るようになっていた。

 

(よし……あと少しだ。核(コア)となる人工魔石の調整と自律制御の術式さえ噛み合わせれば、あの全長50メートルの東洋龍型守護獣のプロトタイプが完全に形になる……!)

 

確かな手応えを感じながら作業を終えたアレンは、明日の予定に思いを馳せていた。

明日は、二週に一度の冒険者活動としてギルドの依頼を受けに行く予定の日だった。そして、せっかくロアの街へ行くのだから、そのついでに——フィットア領のボレアス家に住み込みで家庭教師として働いているはずの、兄・ルーデウスの近況や様子でも少し覗きに行ってみようかと考えていたのだ。

 

◇

 

その日の夜遅く。

夕食を終えて家族団らんの時間を過ごしていたところ、いつものように予想外のトラブルが発生した。

 

「うぇーん! おもちゃ取ったぁ!」「あーっ! アイシャが悪い!」

 

2歳半を過ぎて言葉もはっきりと喋り始め、絶賛わんぱく盛りに突入した双子の妹——ノルンとアイシャが、リビングの真ん中で大きなおもちゃの取り合いを始めてしまい、一瞬にして火がついたように大泣きしながら激しい喧嘩を勃発させたのだ。

 

ゼニスとリーリャが「こら、二人とも喧嘩はおしまいよ!」となだめるが、幼い子供のヒートアップした癇癪はそう簡単には収まらない。

 

(……やれやれ、相変わらず賑やかな家だ)

 

アレンは深い溜息をつきながら、椅子から立ち上がった。

そして、周囲の注意をそらすために、指先でそっと小さな魔力を練り上げる。

 

——『幻影創生・小規模光彩(イリュージョン・スパーク)』!

 

ピカピカッと部屋の隅の空中に、七色にきらめく可愛い小動物の形をした光の幻影をフワフワと出現させた。

 

「あ……っ、おほしさま……!」

「きれい……!」

 

一瞬にして泣き止み、キラキラと目を輝かせて光の小動物を指差すノルンとアイシャ。子供の気など実に単純なものだ。

「ほら、泣き止んだからお休み時間だぞ」とリーリャが二人を回収し、寝かしつけの準備へと連れていったことで、リビングはようやく静けさを取り戻したのだった。

 

◇

 

すべての喧騒が去った後、自分の部屋に戻ったアレンは、心地よい疲労感に包まれながらベッドにもぐり込んだ。

連日の龍座の素体構築と、日々の鍛錬で疲弊していた脳と身体は、ベッドに入った瞬間に深い眠気へと引きずり込まれていった。

 

意識がスーッと暗闇に落ちていく——そのはずだった。

 

(……ん?)

 

目を開けると、そこはいつもの自分の部屋の天井ではなく、見渡す限りの満天の星々と神秘的な光が渦巻く、まるで果てしない「宇宙空間」のような不思議な場所だった。

 

「……ここは、どこだ? 夢の中か……?」

 

アレンが状況を飲み込もうとあたりを見回していると、ふと、前方の光の向こうから、一人の「人物」がゆっくりとこちらへ歩いてくる影が目に入った。

 

見覚えのある姿。知っている顔。

信じられないことに、それはアレンの前世——日本で事故に遭う直前まで一緒に暮らしていたはずの、実の母親・暁零月(あかつきれいか)その人だった。

 

「え……?」

 

アレンがフリーズしている間に、零月は満面の笑みを浮かべ、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。

そして、アレンの目の前、わずか「後一歩」という至近距離まで迫った瞬間——。

 

「連ちゃーーーーん!!!♥♥♥♥♥♥♥♥」

 

「うわっ……!?」

 

絶叫に近い、愛嬌と狂愛が入り混じった歓声と共に、零月は勢いよくアレンの体に飛び込んできた。

そのあまりの突進の勢いに耐え切れず、アレンはバランスを崩し、そのまま背中から宇宙の床(空間)へと盛大に後ろ向きに転倒した。

 

「いってぇ……! ちょっと、母さん!? なんであんたがこんなところに……っ!」

 

アレンの胸の上に馬乗りになるような形でしがみつき、零月はアレンの頬を両手でスリスリとグリグリと擦り付けながら、うっとりとした声を上げた。

 

「あぁ〜! 連ちゃん、久しぶり! もう会いたかったよぉ〜! 母さん、寂しくて寂しくて死にそうだったんだからねっ!」

 

「死んでるのは俺の方だろ……! ていうか、なんで俺の前世の母親が、この転生後の世界の精神世界みたいなところにいるんだよ!」

 

アレンが頭に疑問符を浮かべながら必死に身をよじると、零月はふっと満足そうに微笑み、アレンの胸の上からスルスルと降りて隣に座った。そして、少しだけ真面目な、しかしどこか悪戯っぽい顔を作ってこう告げた。

 

「ふふっ。実はね、連ちゃんにずっと隠していたことがあったの……」

 

「隠してたこと……?」

 

「うん。実はね、母さんの正体は——この世界の人間じゃなくて、この宇宙を統べる『月の女神』なの!」

 

「……は?」

 

アレンの脳内の思考回路が、一瞬にして完全にショートした。

月の女神? 前世の母親が? 荒唐無稽すぎて、どこからツッコミを入れたらいいのかすら分からない。

 

「でね?」と零月は笑顔で続けた。

「連ちゃんが前世で事故に遭って死んじゃった時、悲しみに暮れた母さんはね、『どうしても連ちゃんを失いたくない!』って思って、自分の神としての権能を使って、このアスラ王国のグレイラット家に転生させてあげたのよ! どう? 母さんの愛ってすごいでしょ?」

 

「………………」

 

あまりのスケールの大きすぎる真実に、アレンは口をポカンと開けたまま、数分間完全に硬直してフリーズした。

転生した理由が、まさか「女神である実の母親の私欲と溺愛」だったとは夢にも思わない。

 

だが、持ち前の冷徹な思考力と持ち前の精神力で、アレンはどうにか現実を受け止め、顔を引きつらせながら質問を絞り出した。

 

「……ってことはだ。母さんが月の女神で、俺を産んだってことは……もしかして、俺も『神』なのか?」

 

その問いに、零月は「ううん、違うよ」と首を横に振った。

そして、優しくアレンの頭を撫でながら説明を続けた。

 

「連ちゃんは、確かに母さんの神気から直接生み出した子供だけどね、『神そのもの』ではないの。どちらかと言えば、神の血を色濃く引いた『眷属(けんぞく)』や『半神』に近い存在かな。だから、この世界でどれだけ強力な魔術や特殊な術式を使っても、存在そのものが神域に弾かれたりすることはないから安心していいわよ」

 

「……なるほどな。俺がこうしてチートじみた『星焔の創世宮』とかいうオタク妄想を具現化できてるのも、元を辿れば親父……じゃなくて、母さんの神気のバックアップがあったからってわけか……」

 

納得半分、呆れ半分といった表情を浮かべるアレンに、零月はポンと手を叩いた。

 

「おっ、話が早くて助かるわ! さて、そろそろ本題に入ろっか」

 

零月の表情が、先ほどまでのふざけた様子から、ほんの少しだけ引き締まった。

 

「本題?」

 

「うん。明日、連ちゃんは冒険者の依頼ついでにボレアス家にいくでしょ?」

 

「……あぁ、ルーデウスの様子を見にロアの街へ行くついでに、ボレアス家の屋敷のあたりにも顔を出そうかとは考えてたけど……それがどうかしたのか?」

 

アレンが聞き返すと、零月は真剣な瞳でアレンをまっすぐに見据え、こう言い放った。

 

「その時にね、『ヒルダ』には絶対に接触してね!」

 

「ヒルダ……? ボレアス家の……フィリップの妻であり、ルーデウスの叔母にあたる、あのヒルダ・ボレアスか? なんでだ?」

 

アレンが理由を問いただそうとしたが、零月は首を横に振ってそれ以上を語ろうとはしなかった。

 

「ううん、理由は今はまだ教えられないの! とにかく、『絶対に接触して、彼女の近くに行きなさい』。それだけ守ってくれればいいから!」

 

「いや、待てよ! 理由も言わずにそんな重要な指示を出されても——」

 

「あっ、そろそろタイムリミットみたい!」

 

零月の身体が、ふわりと淡い月の光のように透け始めた。夢の終わりが近づいている。

 

「まっ、待てって母さん! その後の事はどうなるんだよ!? ヒルダに近づいて一体——」

 

「その後のことは、また時が来たら教えるからね! じゃあね、連ちゃん! 母さんはいつでもあなたを見守ってるからね〜! 愛してるわよっ♡♡♡」

 

「おい、ちょっと——!」

 

アレンが手を伸ばした瞬間、零月は満面の笑みを浮かべたまま、その全身でアレンの体にふわりと飛び込んできた。

 

ドプンッ——!!

 

まるで底なしの温かい泥や、分厚い羽毛のクッションに全身を包み込まれるような感覚。零月の豊かな胸の感触と甘い香りに完全に押し潰されるようにして、アレンの視界は真っ白な光へと変わっていった。

 

「んっ……ぐっ……!」

 

◇

 

「はっ……!?」

 

ガバッ!! と、アレンは自分のベッドの上で跳ね起きるように目を覚ました。

 

額からは冷や汗が流れ、荒い息が喉をつく。

部屋の中は静寂に包まれており、窓の外からは朝を告げる鳥のさえずりが聞こえ始めていた。

 

(……いまのは……夢、か……?)

 

だが、夢にしてはあまりにも生々しい感触が、胸元や肌にしっかりと残っていた。

前世の母親——そしてこの世界の「月の女神」であるという暁零月。彼女が告げた最後の警告。

 

——『明日ボレアス家にいくでしょ? その時にヒルダには絶対に接触してね!』

 

(ヒルダ・ボレアスに、絶対に接触しろ……か)

 

アレンはベッドの縁に腰掛け、まだぼんやりとする頭を押さえながら、低く呟いた。

今日、ロアの街へ行き、ルーデウスの様子を見に行く予定だったその足で、ボレアス家の屋敷へと向かうこと。そして、そこでルーデウスの伯母であるヒルダに接触すること。

 

(……母さんのことだ。ふざけているようで、こういう時の直感や予言じみたものは絶対に外れない。……一体、ボレアス家で何が起きてる、あるいは起きようとしているんだ……?)

 

謎と不穏な胸騒ぎを抱えながらも、アレンはベッドから素早く立ち上がり、今日の冒険者活動とロアの街への出発に向けた準備を整え始めるのだった。




少しネタバレをします。零月は外の世界の神なので人神より強いしアレンは人神の干渉を受けることはないです。

転移事件編で出すオリキャラについて、

  • 味方「女2」敵「女男1」能力呪術廻戦
  • 味方「女2」敵「女男1」能力魔術と武術」
  • 味方「女1」敵「女男1」能力呪術廻戦
  • 味方「女1」敵「女男1能力魔術と武術
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