無職転生 異世界行ったら妄想を本気で再現する!   作:ぐちロイド

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第28話 剣王へ挑戦

中庭の砂利の上に、泥と汗にまみれて尻もちをついたエリス・ボレアス・グレイラットは、悔しさと敗北感のあまり自身の唇を強く噛みしめていた。10歳の誕生日を迎えてからというもの、屋敷の誰をも実力でねじ伏せ、誇り高く生きてきた彼女にとって、今日目の当たりにした「8歳の少年による圧倒的かつ容赦のない蹂躙」は、あまりにもショックが大きすぎたのだ。

 

(……ふむ、流石に少しやり過ぎたか?)

 

アレンは乱れた呼吸一つせず、涼しい顔で自分の掌を見つめた。

第一段階の武器錬成と、第二段階の守護獣素体構築の過程で鍛え上げた身体能力、そして前世の武術的理論と魔術の融合。それらをフル活用したとはいえ、年上の誇り高い少女のプライドを完膚なきまでに叩き折ってしまったのは確かだった。

 

(まあ、いい。折れることでしか見えない景色もある。少しの間だけ放置して、それでもまだ自分の力で立ち上がる気力が湧かないようであれば、何か言葉でもかけてやるとしよう)

 

アレンはエリスのメンタルケアを一時保留し、次に自分の意識が向かった先へと視線を移した。

――彼の視線の先で、黒ずくめの身なりを整え、腕を組んで静かに立っている狼の獣人。

剣王・ギレーヌ。

 

アレンの胸の内で、熱い闘争心と知的好奇心がふつふつと泡立っていた。

(今の自分が、この世界における一端の強者――『剣王』と呼ばれる領域の実力者に対して、どこまで通用するのか。それを試してみたい)

 

一瞬の迷いもなく、アレンは一歩前に踏み出し、凛とした声音で切り出した。

 

「――ギレーヌ様。よければ、俺とも手合わせ願えませんか?」

 

その言葉に、少し離れた場所でようやく立ち上がりかけていたエリスが「は……っ!?」と目を見張り、先ほどまで呆然としていたルーデウスも「アレン、正気か……!? 相手はあの剣王だぞ!?」と信じられないものを見るような声を上げた。

 

だが、当のギレーヌは微動だにせず、その野性的な黄金色の瞳をアレンへと向けた。

彼女の顔に浮かんだのは、恐怖でも困惑でもなく、目の前の少年の中に燃え盛る強者の気配を面白がるような、猛獣特有の不敵な笑みだった。

 

「ほう……私に挑むか。面白い」

 

ギレーヌは低い唸るような声を漏らしながら、腰に差していた仕込み刀……ではなく、近くに転がっていた手頃な木剣をひょいと拾い上げた。

 

「いいだろう。お前がただの生意気なガキではないことは、先ほどのエリスとの戦いで十分に見せてもらった。手加減なしで、私にぶつかってこい」

 

「了解した。ルールはさっきと同じで構いませんね?」

 

「あぁ。木剣を使用し、魔術も許可する。参ったと言うか、私が止めるまでだ」

 

ギレーヌが木剣を構え、その重心をスッと落とした瞬間――。

周囲の空気が、まるで一瞬にして氷点下にまで冷え切ったかのように重く、そして鋭利な殺気へと変貌した。

 

(――っ……これが、剣王の闘気……!)

 

アレンは全身の毛穴が逆立つような強烈なプレッシャーを感じ取りながらも、微塵も怯むことなく、かえってその瞳の輝きを強めた。

体内の魔力回路を全開で接続し、『星焔の創世宮』の基礎理論を肉体全体のエネルギー循環へと昇華させる。

 

「――行くぞっ!!」

 

静寂を切り裂くアレンの叫びと共に、中庭の砂塵が爆発四散した。

 

タンッ!!

 

アレンの身体は、先ほどのエリスに見せた以上の爆発的な初動加速で、地面を抉るようにしてギレーヌの正面へと肉薄した。

幼い体格の利点を最大限に活かした超低空からの突進、そして一足飛びに詰められた間合い。

 

「甘いっ!」

 

ギレーヌは一歩も引かず、動かす素振りすら見せないほどの微動だにしない構えから、重く、そして避けられない一撃の木剣を振り下ろした。

ガキィンッ!!!!

 

凄まじい衝撃波が中庭の空気を揺らし、二人の木剣が激突した衝撃で周囲の小石が弾け飛ぶ。

アレンの小さな両腕には、まるで巨大な鉄塊を受け止めたかのような凄まじい反発力と、骨の髄まで痺れるような重圧が襲いかかった。

 

(くっ……! 流石は剣王……! 腕力の差が文字通り桁違いだ……!)

 

まともに力比べをして勝てる相手ではないことは、一合交わしただけで痛いほどに理解できた。

だが、アレンには数々の実戦と、ニルシィとの過酷な稽古で培った「戦術の引き出し」があった。

 

「なら、力技じゃない……!」

 

アレンはギレーヌの木剣から放たれる圧倒的な重圧をいなすため、瞬時にその場で身体を半身に捻り、剣の軌道を受け流しながら懐へと滑り込んだ。

ギレーヌの視界の死角に潜り込み、アレンの左足が鋭く跳ね上がる。

 

 

 

ドスッ!!

 

高密度の魔力を纏わせたアレンの踵が、ギレーヌの脇腹の急所を正確無比に捉えた。

通常であれば、どんな屈強な戦士であってもバランスを崩し、大きく体勢を崩すほどの強烈な一撃。

 

だが――ギレーヌの身体は、微動だにしなかった。

 

「ふん……その程度の重心崩しでは、私を揺るがすことはできん!」

 

「っ……まじか……!」

 

ギレーヌの筋肉は、まるで鋼鉄の装甲板のように硬質化しており、アレンの放った魔力纏う蹴りすらも、彼女の全身を巡る「闘気」の膜によって完全に相殺されていたのだ。

 

反撃の暇を与えない。

ギレーヌがわずかに木剣の柄を引き絞り、凄まじい威力の横薙ぎのカウンターを放ってきた。

 

(避しきれない……っ! ならば……!)

 

アレンは咄嗟に判断を下し、右手に持っていた木剣を捨て、両手をクロスさせて防御の構えをとると同時に、体内の全魔力を一気に解放した。

 

「――『星焔展開・熱壁防御(フレーム・バリア)』!」

 

ボオッ!!

 

アレンの身体を包み込むように、一瞬で高熱の炎の膜が展開される。

ギレーヌの木剣の横薙ぎがアレンのクロスした腕に直撃し、その衝撃波だけでアレンの小さな身体は砲弾のように真後ろへと吹き飛ばされた。

 

ズサササササッ……!!

 

中庭の地面を削りながら、アレンは数メートル先でようやく体勢を立て直し、両足で踏み止まった。

唇の端から、わずかに一筋の赤い血がツーと流れ落ちる。しかし、アレンの双眸には、恐怖の色は一切なく、かえって燃え盛るような興奮の色が宿っていた。

 

「はぁ……はぁ……、なるほど……。これが、剣王の壁か……!」

 

少し離れた場所でその攻防の一部始終を目撃していたルーデウスは、開いた口が塞がらなかった。

「う、嘘だろ……? あのアレンが、一撃でであんなに吹っ飛ばされた……? 相手はあの剣王ギレーヌだぞ……?」

 

一方のエリスも、自分が先ほどアレンにいとも簡単に叩き伏せられたショックを忘れ、いつの間にか地面に這いつくばったまま、信じられないものを見る目でアレンとギレーヌの戦いを凝視していた。

 

ギレーヌは木剣を肩に担ぎ、感心したような、それでいてどこか嬉しそうな野生の笑みを浮かべてアレンを見据えた。

 

「大したもんだぞアレン! 私の直撃を受けて、骨の一本も折れずにそのまま受け流してみせたか! 8歳のガキの動きじゃない!」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ……だが、まだ終わりじゃない!」

 

アレンは口元の血を拭うと、両手を地面へと叩きつけた。

もはや、ただの体術や通常の剣術の勝負では、この絶対的な実力差を覆すことはできない。

ならば、自分の最大の武器である『星焔の創世宮』の理屈と魔術を、この全霊の勝負にすべて叩き込む。

 

「――『星屑の錬成(スターダスト・フォージ)』!」

 

シュシュシュシュシュッ!!

 

アレンの両手から無数の土魔力が溢れ出し、中庭の地面を侵食していく。

それは小さな刃でも、ただの土塊でもない。これまでに培ってきた『狼座』『鷹座』『虎座』、そして現在構築中の『龍座』の断片的な構造理論をすべて圧縮し、アレンの周囲の空間に無数の「小型の迎撃兵器(牙と爪の模倣体)」として一斉に顕現させたのだ。

 

「ほう……? それは一体、何の術だ?」

 

ギレーヌは初めてわずかに眉をひそめ、アレンの周囲を取り巻く無数の魔力塊に目を細めた。

 

「俺の、すべてを込めた試作品だ――『星焔連撃・牙狼の群れ(ルプス・ファング)』!」

 

アレンが右手を鋭く振り下ろすと同時に、空間に浮遊していた無数の土と熱の塊が、まるで意思を持った猛獣の群れのように、一斉にギレーヌめがけて凄まじい軌道を描いて襲いかかった。

 

上空からの鋭い急降下、死角を突く側面からの突進、そして正面からの強烈な打撃。

あらゆる方向から同時に叩き込まれる、変則的かつ高密度の魔力コンビネーション。

 

「ふんっ……甘いっ!!」

 

だが、剣王・ギレーヌはその巨体からは信じられないほどの神速の身のこなしで、飛来するすべての迎撃兵器を、手にした一本の木剣の圧倒的な剣閃だけで次々と叩き落とし、粉々に粉砕していった。

 

ガキィンッ! ズバァンッ!! 爆風が中庭を包み込む。

 

「――もらったっ!」

 

すべての迎撃兵器が叩き落とされ、ギレーヌの視界と意識がわずかに前方の爆風の向こうへ逸れたそのコンマ数秒の隙。

その死角を縫って、アレンの身体はすでにギレーヌの懐の「足元」へと滑り込んでいた。

 

手に握られているのは、先ほどの戦闘では使わなかった、高密度の熱魔力を極限まで収縮させた一本の「純白の短剣(星屑の極光)」だった。

 

「……私の負け、か」

 

ふと、アレンの耳元で、風の音よりも静かに、しかしはっきりとそう囁く声が聞こえた。

 

いつの間にか、アレンの喉元には――ギレーヌの木剣の先端が、寸分たがわずピタリと突きつけられていた。

それと同時に、アレンの右手に握られた純白の短剣の切っ先もまた、ギレーヌのみぞおちの急所へと正確無比に突きつけられていた。

 

完全な、相打ち。

いや、反応速度とリーチの差を考慮すれば、わずかにギレーヌの剣速がアレンの踏み込みを上回っていたことの証明だった。

 

「……っ……流石だな、ギレーヌ様」

 

アレンは手にしていた短剣をスッと消滅させ、その場で両手を広げて力なく苦笑いを浮かべた。

ギレーヌもまた、自分の喉元に突きつけられていた短剣の気配が消えたのを確認すると、木剣を下ろし、豪快に笑い声を上げた。

 

「ははははっ! 最高だ! 面白かったぞ、アレン!」

 

ギレーヌは大きな手でアレンの頭をガシガシと雑に、しかし温かく撫で回した。

 

「8歳でここまで私を本気にさせ、最後の一撃まで相打ちに持ち込んだ人間など、このフィットア領どころかアスラ王国全体を探してもそうそういない! お前の勝ちだと言ってもいいくらいの出来栄えだったぞ!」

 

中庭の土埃がゆっくりと晴れていく。

圧倒的な実力差を見せつけられながらも、アレンはその表情に悔しさよりも、次のステップへと進むための確かな手応えと満足感を滲ませていた。

 

少し離れた場所で見ていたエリスは、自分が敗北した相手が、あの恐ろしいまでの強さを誇る剣王ギレーヌと互角以上に渡り合うのを目撃し、もはや言葉を失ったまま、ただポカンと口を開けてその光景を見つめることしかできなかったのだった。

転移事件編で出すオリキャラについて、

  • 味方「女2」敵「女男1」能力呪術廻戦
  • 味方「女2」敵「女男1」能力魔術と武術」
  • 味方「女1」敵「女男1」能力呪術廻戦
  • 味方「女1」敵「女男1能力魔術と武術
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