THE END OF DISAPPEARANCE   作:土地_0000

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第零話【プロローグ】

第零話【プロローグ】

 

 エデンとラヴド、二大勢力が激突したあの大きな戦争から、早いものでもう七年の月日が流れた。

 かつて荒れ果てていた大地もすっかり復興し、街はまばゆいばかりの活気を取り戻している。

 

 ただ――世界が安定したからこそ、新しく見えてくる問題というのもある。

 みんなで一丸となって復興を目指していた頃は、たとえ土地が荒れていても、肩を寄せ合って前を向いていた。お互いに助け合っていたあの頃の心は、今思えばとても豊かだった。

 なのに、資源が十分に行き渡り、生活が安定した途端、今度は少しずつ人々の心の方が荒み始めてしまうのだから、世の中というのはどうにもうまくいかない。

 そんな「心の荒廃」から生まれるささいな衝突を防ぐため、私は新しい法律を定め、一歩ずつ、根気強く「秩序ある世界」を作ろうと奔走している。

 

 そう、私はとにかく多忙なのだ。

 理由は単純――私がこの「ラヴド国」の国王だからである。

 今日もこのあと、国内向けの重要会議が三つ。さらに明日には、はるばる飛行機でエデン国へと向かい、あちらのコスモス女王と直接会談を行わなければならない。新しい法案について議論を重ね、国同士のすり合わせをするためだ。

 

 かつての戦争の敗戦国であるエデンを、私はあえて解体しなかった。国としての形をそのまま残したのは、決して慈悲だけではない。

 もし将来、ラヴドが――あるいはこの私自身が、とんでもない過ちを犯して暴走してしまったとき、私たちの行く手を全力で阻んでくれる存在を残しておきたかったのだ。

 一種の保険、と言えば聞こえはいいだろうか。

 もっとも、現エデン女王のコスモスは、かつて自国を裏切ってラヴドの一員として戦った身。

 彼女との外交だからこそ、交渉を少しばかりこちらに有利に進めたいという下心がなかったと言えば、嘘になる。

 

 

 ――そして、それはエデンへと旅立つ国王専用機に乗り込もうとした、まさにその瞬間のことだった。

 

 

 

 タラップに足をかけた私の体へ、突如として言葉にできないほどの衝撃が走った。

 全身のフレーム、正確に言えば、私を構成するすべてのパーツが一斉に、まるで生き物のように激しく脈動し始めたのだ。

 

「――っ!?」

 

 関節の駆動ギアが不自然にロックされ、自分の意思では一歩も動かせなくなっていることに気がついた。

 

 私には、意識を失ってしまう「持病」のようなものがある。

 しかし、あの戦争でブラックメイルに強引に暴走させられた時以来、ここ七年はそんな深刻な症状は一度も起こっていなかったはずだ。

 

 それなのに、また、あの暗闇に引きずり込まれるというのか。

 私が意識を失い、ふたたび目を覚ました時――私の周りは、いつも決まって破壊の限りを尽くされた地獄絵図になっている。

 ただの気のせいであってくれ、と祈りたかった。だが、もし今回も同じだとしたら。次に目を覚ました時、この美しい王宮は、そして世界はどうなってしまっているのだろう。

 

 いや、おかしい。今回は、いつもと決定的に何かが違う。

 

 普段、私が意識を失うときは、必ず外部からの強烈な衝撃を契機としていた。特に頭部へ大きな損傷を受けた際、私は意識を失い、その間の記憶を欠落させる。――そして、気づけば周囲は決まって破壊し尽くされていた。

 しかし、今回は誰も私を攻撃していない。周囲には、傷一つない平穏な風が吹いているだけだ。

 

 それなのに、私のメダルは悲鳴のような熱を発し、〝何か〟に共鳴するように、すべてのパーツが内なる獣のように吠え猛っている。メダルが、その暴走をまったく抑え込めていない。

 

 

 

 

 

『ハカイ……ハカイ……ハカイ……』

 

 

 

 

 

「……!? くっ、私は何を、考えているのだ……!」

 

 脳内のシステムが赤く染まり、思考回路が邪悪なノイズに塗り潰されていく。

 私は、まだ私が私であるうちに、この底知れない衝動を無理やりにでも止めてくれるはずの、唯一の戦友を呼ぶべく、近くにいた部下に向けて声を絞り出した。

 

「ブラックメイル……さんを……呼んできて……ください」

 

 だが、もう遅い。私のメダルは限界を超え、主導権を奪われつつあった。

 理性の糸が、ぷつりと音を立てて千切れていく。もう、持ちそうにない。

 

 

 

 

『ハカイハカイハカイハカイ……』

 

 

 

 

 恐ろしい。こんな感覚は、生まれて初めてだ。

 自分の意識が、見る見るうちに深い沼の底へと引きずり込まれ、消えていくのがわかる。

 

 

 

 

『ハカイハカイハカイハカイハカイ……』

 

 

 

 

 これでは、私は――ラヴド国王としての「ビーストマスター」ではなくなってしまう。

 これまでのものとは違う、まったく別の「何か」に生まれ変わっていくような感覚が、不気味なほど克明に伝わってくる。

 私の体の中で、一体何が起こっている。

 私の体の中に、一体何が潜んでいるというのだ。

 

 

 

 

『ハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイ!!!』

 

 

 

 

「ハカイハカイハカイハカイィ!! ハカイスルゥゥーー!!!」

 

 

 

 

 ――獣じみた金切り声を上げ、私は静かに、底知れぬ闇の中へと崩れ落ちた。

 

 このときはまだ、私の機体に隠されていた恐るべき秘密が、そう遠くない未来、ふたたび世界を混沌の渦に巻き込む大戦を引き起こす原因になるなど、思いもしなかったのである。

 

 

 

第零話【プロローグ】終わり

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