THE END OF DISAPPEARANCE   作:土地_0000

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第九話【プロト】

第九話【プロト】

 

 

セルヴォ:「さて、拍子抜けだな」

 

ビート:「逆に気味が悪いな」

 

 セルヴォとビートは、僻地に突如出現した謎の巨大要塞の内部へ慎重に侵入していた。

 外から監視していた時には、警備兵らしきメダロットの姿もなく、出入りする気配すら掴めなかった。罠を警戒し、半分は生きて帰れない覚悟で踏み込んだのだが――驚くべきことに、建物の中には敵の気配が一切なく、今のところ二人へ危害を加えるような仕掛けも動いていなかった。

 そこにはただ、冷たいコンクリートに囲まれた広大な空間が静まり返っているだけだった。

 

 セルヴォの索敵を頼りに慎重に探索を進めるが、監視カメラの一台すら設置されていない。あまりにも不自然な静けさに、かえって二人は何か大きな罠が仕掛けられているのではないかと警戒を強めていた。

 

 その時だった。

 

セルヴォ:「……!? 何か来た」

 

 セルヴォの索敵が、背後から近づいてくる反応を捉えた。

 どうやら、自分たちが要塞へ侵入した入り口から、何者かが同じように入ってきたらしい。

 

ビート:「取り敢えず出るか」

 

 二人は今いる部屋をすぐに後にし、元来た入り口の方向へ走り出した。

 接近してくる相手の正体を確かめると同時に、もし不測の事態が起きたとしても、すぐ外へ逃げられる位置を確保しておくためだった。

 

 入り口付近の広いエントランスホールへ戻ったその時、二人の前に二機のメダロットが現れた。

 セルヴォとビートはすぐさま物陰へ身を潜め、相手の様子を窺った。

 

サンジューロ:「おいィ? 何者かが侵入しているんだが?」

 

ガンノウズ:「そうですか、コマンダーすごいですね」

 

サンジューロ:「それほどでもない」

 

 現れたのは、あの「DS(ディメンショナル・スクリューズ)」を自称するサンジューロとガンノウズだった。

 ということは、半年前まで更地だったこの荒野に突如出現した巨大要塞は、やはり噂の『エルドラージ』という謎の新興組織に関係しているのだろう。

 

セルヴォ:(さて、コマンダー? 侵入者が分かったってことは索敵の一種か?)

 

 セルヴォが物陰で、敵の索敵能力について考えを巡らせていた、まさにその瞬間だった。

 

サンジューロ:「あそこだ!」

 

ガンノウズ:「取り敢えずナパームでも撃っておきますか!」

 

 ほんの一瞬の油断を、サンジューロは見逃さなかった。

 セルヴォたちが隠れている場所をビシッと指差し、その指示と同時に、ガンノウズが頭部からナパーム弾を撃ち放った。

 激しい爆音と共にナパーム弾が炸裂し、黒い爆煙と炎が二人の隠れていた場所を一瞬にして呑み込む。

 

 サンジューロは敵を仕留めたと確信し、不敵なドヤ顔を決めた。

 

サンジューロ:「ふん、一瞬の油断が命取りだったな」

 

 やがて、爆発の煙が晴れていく。

 

セルヴォ:「さて、まったくだ……考える前にさっさと逃げるべきだったぜ」

 

 そこには傷一つないセルヴォがドヤ顔で立っており、その隣ではビートが冷ややかなジト目を向けていた。

 

サンジューロ:「おいィ? ガンノウズ?」

 

ガンノウズ:「相手のミサイルで完全にシャットアウトされましたね」

 

 ガンノウズはビートの頭部に備わったミサイル発射口を指差し、不快そうに顔をしかめた。

 着弾する寸前、ビートが迎撃ミサイルを放ち、ナパーム弾を空中で正確に撃ち落としていたのだ。

 

ビート:「取り敢えずミサイル撃っといた」

 

 今度はビートが静かにドヤ顔を決め、その隣でセルヴォがジト目を向けた。

 

サンジューロ:「ん? お前らまさかエデン所属のトゥルースか?」

 

セルヴォ:「さて、俺達を知ってたか……エルドラージ所属のDSさんよ」

 

ガンノウズ:「……!? ど、どこに私達がDSだという証拠があるんですか!?」

 

ビート:「強いて言うならそのキョドり方かな……」

 

 どうにも会話がシリアスな方向へ転がらない二人組を前に、セルヴォとビートは少々頭痛を覚えた。

 だが、DSの二人が下した極めて単純明快な結論によって、そんな悩みはすぐに吹き飛ばされる。

 

サンジューロ:「何はともあれお前らをここから帰すわけにはいかないな。裏世界でひっそりと幕を閉じてもらおうか」

 

ガンノウズ:「あなた達はどこにも逃げられないプレッシャーを背負う事になりましたね」

 

 二人は物々しい戦闘態勢へ移った。

 

セルヴォ:「さて、随分血の気の多い諜報員だな」

 

ビート:「……お前が言うか?」

 

 呆れながらも、セルヴォとビートも武器を構え、深く腰を落とした。

 

サンジューロ:「お い ィ ィ ィ ィ ィ ! ! ! ! ! 」

 

 サンジューロが怒号を上げながら、真っ直ぐセルヴォへ突っ込んできた。

 非常に直線的で、これっぽっちの裏も衒いもない、分かりやすすぎる突撃だった。

 

セルヴォ:「さて、単純野郎は得意分野だぜ?」

 

 セルヴォは単調な軌道を難なくかわし、がら空きになったサンジューロの脇腹へ、カウンターのハンマーを叩き込んだ。

 突進の勢いで大きく体勢を崩していたサンジューロは、まともに避けることができない。

 かろうじて左腕を盾にして一撃を受け止めたものの、衝撃を殺しきれず、そのまま後方へ激しく吹き飛ばされた。

 

 この戦闘は、思ったよりも簡単に片が付きそうだ。

 吹き飛ぶ敵の姿を見送り、セルヴォはそう考えた。

 

 しかし――。

 

セルヴォ:「……!? 体がうごかねぇ?」

 

 次の一歩を踏み出そうとしたセルヴォの脚が、突如として硬直した。

 

サンジューロ:「俺の雷属性の左が効いたようだな」

 

 吹き飛ばされながらも、サンジューロはニヤリと笑った。

 彼の左腕はサンダー攻撃。

 先ほどハンマーを受け止めた瞬間に迸った激しい放電が、セルヴォの全身を走り、一時的に体の自由を奪っていたのだ。

 

ガンノウズ:「私達に簡単に勝てると思った浅はかさは愚かしいですね」

 

 絶好の機会を逃さず、ガンノウズが動けないセルヴォへ右腕のライフルを構えた。

 

ビート:「ちっ!」

 

 ビートは素早くガンノウズを照準に捉え、ライフルを撃ち放った。

 ガンノウズは射撃直後の隙を晒している。今からこの攻撃を避けることなどできないはずだった。

 そのはずだったが――。

 

ガンノウズ:「ほう?」

 

 ガンノウズは重力に逆らうかのような軌道を描き、ビートの狙撃を何事もなかったようにふわりと回避した。

 そのまま流れるような動きで、セルヴォへ左腕のガトリングを連射する。

 

 ビートは咄嗟にセルヴォを庇おうとした。

 しかし、ガンノウズの放った無数の弾丸はその防御を巧みに避けるような軌道を描き、すべてセルヴォへ吸い込まれるように命中した。

 

セルヴォ:「痛っ……さて、前言撤回。随分な強敵だな」

 

 ガトリングの直撃を受け、セルヴォは苦悶の声を漏らしながら膝をついた。

 

ガンノウズ:「危ない危ない、コマンダーが無ければ見事なカウンターで返す事は出来ませんでした」

 

セルヴォ:「コマンダー?」

 

サンジューロ:「索敵と隠蔽が両方そなわり最強に見える、更に相手の援護も掻い潜る名実ともに唯一ぬにの超パワー、それがコマンダー」

 

セルヴォ:(おいおい……なんだそりゃチートじゃねえか)

 

ビート:(この戦い……このまま続けるのは危険だな)

 

 DSが秘めていた戦闘能力に、トゥルースの二人は予想以上の苦戦を強いられていた。

 自称「諜報員」に過ぎない二人でこれほどの強さなのだとすれば、エルドラージの実戦部隊、ひいては彼らを束ねる者は、一体どれほどの力を持つというのか。

 窮地に陥りながらも、セルヴォとビートはその不気味な背景に寒気を覚えずにはいられなかった。

 

 だが、今考えるべきは、この状況を切り抜ける方法だ。

 起死回生の策が浮かばない。

 まさに絶体絶命と呼ぶにふさわしい危機が迫った、その時だった。

 

サンジューロ:「ん? ……おいィ!? なんだこれは足が凍ってるぞ!」

 

 突然、サンジューロの足元が白く凍りつき、その脚をがっちりと捕らえた。

 何が起きたのかとガンノウズが振り向いた瞬間、今度は彼の全身を激しい紅蓮の炎が包み込んだ。

 

ガンノウズ:「な、何事ですか!? 炎と氷が両方そなわるのはずるいですよ!」

 

 猛火によって、周囲の視界が一瞬にして赤く染まる。

 ガンノウズは慌てながら、炎が放たれた方向へ左腕のガトリングを連射した。

 

 しかし、無数の弾丸はその先に現れた強固な盾の障壁によってすべて防がれ、火花を散らしながら床へ弾き飛ばされていく。

 しばらくすると、凄まじい火炎放射はぴたりと止まり、周囲を覆っていた炎も急速に消えていった。

 

 そして同時に、さっきまでそこにいたはずのトゥルースの二人の姿も消えていた。

 

ガンノウズ:「逃げられましたか……」

 

サンジューロ:「汚いなさすがトゥルースきたない」

 

 

 ―

 

 

セルヴォ:「来てるか?」

 

ビート:「いや、追うのを諦めたらしい」

 

セルヴォ:「さて、このまましばらく走るぞ」

 

ビート:「あぁ……それにしても踏んだり蹴ったりだったな」

 

 セルヴォとビートは巨大要塞を脱出し、追っ手を撒くために荒野を全速力で走り続けていた。

 

セルヴォ:「さて、あのタイミングで〝通りすがりの助っ人〟が来るなんざ超ラッキーじゃねえか! ……しかもその助っ人がこんな美人なんだからなおさらだ」

 

 セルヴォは、自分たちの少し前を走る、美しい雪女のような姿をした女の背中を見つめ、いつもの調子を取り戻してニヤリと笑った。

 そして、あろうことか彼女の尻へ不躾に手を伸ばした。

 

セルヴォ:「さて、久しぶりだな。積もる話もあるだろ? ちょっとステキなお店にでもいかねえか?」

 

 だが、前を走る女は一切振り返らず、冷たい眼差しを前方へ向けたまま、平坦な声で返した。

 

『積もる話もあるが、まずは妾の尻から手をどけろ。さもなくば凍らせてここに置いていくぞセルヴォ』

 

 

 ――そこには、五年前と何一つ変わらない、元ラヴド軍L班のローラがいた。

 

 

 ―

 

 

 先ほど、トゥルースとDSが激しい戦闘を繰り広げた巨大要塞。

 そのさらに地下深くに隠された極秘室は、地上の騒ぎなど嘘のように静まり返っていた。

 暗がりには、二つの影が待っている。

 

ガンノウズ:「……DS、ただいま戻りました」

 

ネクロデス:「早かったな」

 

サンジューロ:「普通ならまだつかない時間だが、俺達は一級諜報員だからな。コレくらいチョロイ事」

 

 二人の帰還を迎えたネクロデスは、重々しい声で尋ねた。

 

ネクロデス:「上で戦闘があったようだが?」

 

ガンノウズ:「逃げられましたが問題ありません。地下の存在には気付いていないようなので」

 

ネクロデス:「悪を見逃したのに問題が無いのか?」

 

 ネクロデスが不満を露わにする。

 すると、その隣に立つもう一つの影が、からかうように言葉を挟んだ。

 

ジェノムス:「まぁいいではないかネクロデス。……最近、お前も見逃したところだろう?」

 

ネクロデス:「……ぬぬ」

 

 次元の狭間を開いて逃げていったメッシュのことを言われ、ネクロデスは言葉を詰まらせた。

 ジェノムスは不敵な目を光らせ、DSの二機へ穏やかに問いかける。

 

ジェノムス:「それで? 調査は終わったのか?」

 

ガンノウズ:「勿論。この調査は早くも終了ですね」

 

サンジューロ:「この次元の歴史を知ることで、さらに充実した革命生活が認可されるからな……まずは人類滅亡から詳しく―――――――――――」

 

 ジェノムスの意思に従い、彼らはこの世界の血塗られた歴史を調べ上げ、着々と計画の準備を進めていくのだった。

 

 

 ―

 

 

ビーストマスター:「……宝条レツィア?」

 

レツィア:「はい、あなたの調べていた人物です」

 

 ホログラムとして現れた女性、レツィアは、深く静かな瞳をビーストマスターへ向け、優しく微笑んだ。

 

ビーストマスター:「どうして私が貴方の事を調べていたと?」

 

レツィア:「山の麓の小屋に立ち寄ったでしょう? あなたが頭に被ったあの装置は、被ったものの記憶をここに転送するものなのです」

 

 その言葉を聞き、ビーストマスターは山の麓の小屋で感じた、自分の記憶を一方的に覗き見られるような、あの奇妙な感覚を思い出した。

 あの装置は単に思考を読み取っていたのではない。

 自分の中にある記憶そのものを、この地下室へ転送していたのだ。

 

レツィア:「結論から言いましょう。私は貴方の暴走の原因に心当たりがあります」

 

 すでに記憶を読み取られている以上、自分がどのような経緯でここへやってきたのかを、一から説明する必要はなかった。

 現在のビーストマスターがどこまで真実に辿り着いているのかも、レツィアは把握しているらしい。

 

 便利だ。

 麓にあった装置の利便性に少しだけ感心しながらも、ビーストマスターはレツィアの次の言葉を待った。

 

レツィア:「ただし、私はそれだけを教えるつもりはありません。私は〝ネオ〟の事を伝えるためにこの装置を残したのですから」

 

ビーストマスター:「好都合です。私も暴走の原因だけを知るつもりはありません……私に纏わる事全てを知りにきました」

 

レツィア:「……ありがとう」

 

 ビーストマスターの答えを聞き、レツィアは美しく、しかしどこか悲しげに微笑んだ。

 

レツィア:「ええっと……何から話しましょう? 話す事が多すぎて……」

 

ビーストマスター:「最初から」

 

 ビーストマスターはホログラムの女性を真っ直ぐに見据え、毅然とした態度で言った。

 

ビーストマスター:「事の発端から順番にお話ください。そのほうが話しやすいでしょう?」

 

レツィア:「あ、はい……では」

 

 レツィアは彼の気迫に少しだけ狼狽した様子を見せたが、やがて大きく深呼吸をし、ゆっくりと話し始めた。

 ホログラムの人格データに深呼吸など必要なのだろうか。

 一瞬そんな疑問が浮かんだものの、今ここで追及しても意味はない気がして、ビーストマスターは黙って耳を傾けた。

 

レツィア:「事の発端は、今から100年以上も前……地中から新たなエネルギー物質が発見されたところから始まります。メダル以上に強力なエネルギーを秘めていたその物質……メダルの性質を白とするなら、それと完全に正反対の『黒』の性質を持つそれを、政府は〝ネオ〟と名づけました」

 

ビーストマスター:「ネオ……それが私の体に」

 

レツィア:「その通り。ネオが発見されてから、政府は私をはじめとする科学者達を無理やり集め、秘密裏にネオを研究する〝Nプロジェクト〟を立ち上げたのです」

 

ビーストマスター:「そのプロジェクトで生み出されたのは私……そして、ジェノムスとプロトという事ですね?」

 

レツィア:「……はい」

 

 レツィアは少し俯き、声を絞り出すように答えた。

 目の前のビーストマスターに対し、科学者として消えることのない負い目を抱いているかのようだった。

 

レツィア:「ネオの強力すぎるエネルギーを人間が直接扱えるよう加工するにあたり、プロジェクトはまず、メダロットとネオの融合を試みました。人間の代わりに、過酷なエネルギー制御をメダロットに担ってもらおうとしたのです。そうして、最初の被験者にして……最初の『被害者』となったメダロットが、〝プロト〟です」

 

ビーストマスター:「プロト……ネオを持つ者の一人ですね。どのような方だったのですか?」

 

レツィア:「彼はNプロジェクトのプロトタイプであった為に、そのまま〝プロト〟と呼ばれるようになりました。彼に対して行った実験は、〝メダルとネオの融合〟です」

 

 レツィアは静かに言葉を続けた。

 

レツィア:「ネオをメダリアほどの大きさにまで加工し、政府から支給された、数あるレアメダルの中でも最上位とされるメダル……〝?メダル〟に直接埋め込みました。そして起動実験には、当時のプロジェクト長の心遣いで、私のデザインしたメダロットが使用される事になったのです。ネオを搭載した初めての記念すべきメダロットとして、歴史に名を馳せるだろう、と」

 

ビーストマスター:「貴方のデザインしたメダロットですか」

 

レツィア:「はい……」

 

 その時、レツィアの瞳に涙がじわりと浮かんだ。

 彼女は耐えかねたようにビーストマスターへ背を向け、表情を隠しながら、その機体の名を絞り出すように呟いた。

 

 

レツィア:「トランプのジョーカー型メダロット……機体名ジョーカードです」

 

 

第九話【プロト】終わり

 

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[今回登場した人間]

【宝条レツィア】

 100年以上前に実在した人間の科学者。メダロットに関して異常な才能を発揮する宝条一族の一人。

 

【挿絵表示】

 

 

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