THE END OF DISAPPEARANCE 作:土地_0000
第十一話【次元の狭間】
ローラ:「……というわけだ。残念だが、この地は安全とは言い難い……」
巨大な要塞でDSとの戦闘を終えた後、ローラは要塞から少し離れた丘の上にある、寂れた小さな集落へと足を運んでいた。
この集落は、かつて建国前の泥沼の戦争から逃げ出した「元・ラヴドの脱走兵たち」によって密かに作られた隠れ里だった。今日までラヴド政府の目に留まらぬよう、人々は息を潜めてひっそりと暮らしてきた。
しかしある日突然、目の前の荒野に、あの不気味な巨大要塞が出現したのだ。
二大国による支配体制が敷かれた今になって、自分たちを反逆者として捕縛しに来たのではないかと、集落の民たちは最初こそパニックに陥った。
だが、要塞からは何の気配もなく、兵が攻めてくる様子もない。
何の動きも見せないまま沈黙を続ける巨大要塞を前に、彼らは得体の知れない不安に苛まれていたのだった。
そこへ偶然通りかかったのが、戦後、各地を巡って「困っている者を助ける旅」を続けていた流浪人、ローラだった。
困った者を助けるのに、大げさな理由など必要ない。
彼女はただ、怯える集落の民たちの話を聞き、単身であの不気味な巨大要塞の調査を買って出た。
ローラは集落の民たちへ、要塞内部の様子を丁寧に説明した。
ただし、エデン諜報部『トゥルース』のセルヴォとビートが関わっていたことは伏せ、あくまで自分一人で要塞内を調査し、敵と交戦した末に撤退したと伝えた。
このまま集落に残るか、それとも急いでこの地を離れるか。
その判断は彼ら自身に委ね、ローラは静かに集落を後にした。
丘を下りた先では、合流のためにセルヴォとビートが待っていた。
セルヴォ:「さて、噂通りだな〝流浪人ローラ〟」
ローラ:「噂?」
ビート:「結構な有名人だぞ? 困った人を助けて各地を渡り歩く二次ラエ戦争の英傑〝流浪人ローラ〟」
ローラ:「ふむ、そうなのか?」
セルヴォ:「さて、サインもらったら結構な値が付くかもな……もらっていいか?」
ローラ:「断る」
セルヴォ:「クックック……だろうな」
セルヴォはいつものからかい半分の冗談で言ったつもりだった。
だが、ローラが想像以上に生真面目な顔で即答したのがおかしくて、思わず喉を鳴らして笑ってしまった。
ビート:「しかし、実際のところ相当な人気者だ。……セルヴォではないが、顔もいいしな」
セルヴォ:「さて、その気になりゃ〝ローラ帝国〟とか第三勢力作れんじゃねーのか?」
ローラ:「作れはしないだろうし、作る気も無い。妾は名声や名誉を得るために旅をしているわけではないからな」
ビート:(せっかくオーロラ〝クイーン〟って名前なのにな……)
彼女の高いカリスマ性を考えれば、なんだか少し惜しいような気もしたが、ビートは余計なことを言わずにそっと口を閉ざした。
その後、セルヴォとビートは衛星が捉えた歪みについて報告するため、エデン国への帰路につくことになった。
ここでローラとは別れる。
セルヴォがこれからどうするのかと尋ねると、ローラは穏やかに答えた。
ローラ:「久々にラヴドに行こうと思っている……が、その前にワンダの所へ寄ってもいいかもな」
彼女はそう言い残し、懐かしい仲間の待つ場所へと、ゆっくり歩みを進めていった。
―
宝条屋敷の薄暗い地下室では、依然として宝条レツィアのホログラムとビーストマスターの静かな会話が続いていた。
レツィア:「カヲスという方は素晴らしい方ですね。ビーストマスターという貴方の機体から魔の十日間事件を連想し、最終的に宝条レツィアへ行き着いたのですから」
レツィアは転送されたビーストマスターの記憶から、彼に宝条レツィアの存在を示した元エデン科学部長カヲスの知性に深く感心していた。
ビーストマスター:「では、やはり私は……」
レツィア:「はい。魔の十日間事件の際に作り出され、セレクト本社ビルを完全に破壊して消えた、あのビーストマスターです」
驚愕するビーストマスターを見据えながら、レツィアはさらに開発の歴史を語り続ける。
レツィア:「かつて行ったプロトの実験失敗、その最大の原因は〝メダルを直接ネオと融合させたこと〟にありました。ネオがメダルを物理的に侵食した結果、メダルの自我が限界を迎え、保てなくなって大暴走に至ったのではないか――という説が有力視されました」
レツィアは少し間を置き、続けた。
レツィア:「そこで次にプロジェクトが試みたのが、〝パーツとネオの融合〟でした。これならばメダルの自我は健全な状態に保ったまま、強固なパーツ側でネオの持つ絶大なエネルギーを引き出せるのではないか、と仮説を立てたのです」
ビーストマスター:「それが……私のパーツ」
レツィア:「はい。そして私は、不慮の事故で死亡した前責任者の後を継ぎ、プロジェクトの責任者としてネオとパーツの融合計画に没頭しました。……私たちがロボロボ団によって誘拐されたのは、まさにその最中のことでした」
セレクト隊という立場を隠れ蓑にして、極秘研究『Nプロジェクト』の存在を嗅ぎつけたロボロボ団。
彼らは、政府が裏で生み出そうとしていた最強の兵器型メダロット――ビーストマスターという機体を我が物にしようと企んだ。
そしてレツィアたち科学者を丸ごと拉致・監禁し、未完成だったビーストマスターを半ば強引に完成させ、自分たちの所有物としたのだ。
レツィア:「その後のことは、貴方の記憶にある歴史の通りです。完成させられた貴方のパーツは、かつてアガタヒカルと呼ばれる少年との決戦に投入されました」
レツィアの表情が僅かに曇る。
レツィア:「ですが、やはりその絶大なエネルギーに制御システムが耐えきれず、大暴走を引き起こした。セレクト本社ビルを内部から完全に崩壊させ、その後、貴方のパーツは行方不明となったのです」
ビーストマスター:「なるほど……。しかし、どうして100年以上も前に行方不明となった私のパーツが、第三次世界大戦のあの日、私の元へ突然降ってきたのでしょうか……」
ビーストマスターは、自らの根幹に横たわる最大の時空的な謎を口にした。
するとレツィアは、ゆっくりと目を細めた。
レツィア:「……先ほど貴方の記憶を読み取った時、一つ、確信に近い仮説に辿り着きました」
ビーストマスター:「……?」
レツィア:「今から五年前……一度この世界から消え去った者が、再び時空を越えてこの次元へ現れたという事象が、実際に起こっているはずです」
ビーストマスター:「五年前?」
ビーストマスターは、五年前の事件の記憶を辿った。
五年前といえば、エデン女王コスモス誘拐事件が発生し、その後、かつて消滅したはずの英雄ジョーカードとN・G・ライトが一時的に復活し、再びこの世界から姿を消したという驚くべき出来事があった。
レツィア:「メッシュという、ファーストエース……」
ビーストマスター:「あ、そっちですか」
彼はハッと思い出した。
次元の狭間と呼ばれる異空間を渡り歩く、メッシュという名の十二使徒の戦士が、五年前に再びこの世界へ現れたという噂を。
レツィア:「そのメッシュですが……過去、英雄ジョーカード――すなわち私の最初の実験体であったプロトと、直接刃を交えていますね」
ビーストマスター:「はい……たしか彼が姿を消したのは、ジョーカード……プロトとの死闘の最中だったと記録に残っています」
レツィア:「もし、その激しい交戦の最中に、プロトへ埋め込まれていたネオの微粒子がメッシュの機体に付着し、体内へ入り込んでいたのだとしたら……」
ビーストマスター:「……?」
レツィア:「そして、彼が時を越え、空間を越えて次元の狭間を渡り歩けるようになった原因そのものが、その付着した『ネオの力』にあるとするならば……」
ビーストマスター:「……まさか」
ビーストマスターは驚愕に目を見開いた。
レツィアのホログラムは静かに頷き、自らが導き出した仮説を口にした。
レツィア:「ネオというエネルギーそのものには、次元の狭間を発生させる性質がある……のかもしれません」
第十一話【次元の狭間】終わり