THE END OF DISAPPEARANCE   作:土地_0000

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第十二話【J-E-N-O-M-U-S】

第十二話【J-E-N-O-M-U-S】

 

 

 

ビーストマスター:「次元の狭間を……?」

 

 ホログラムのレツィアの知識と、自分自身の古い記憶データを照らし合わせた結果、導き出された驚愕の仮説。ビーストマスターは困惑し、その巨大な機体を小さく震わせた。

 しかし、彼の記憶の中に、彼女の結論を論理的に否定できるような材料はどこにも存在しなかった。

 事実、彼が今この身にまとっているWEA型の強大なパーツもまた、あの日、人類滅亡の最中に「突然、何もない空間の裂け目から降ってきた」のだ。

 

レツィア:「今思えば……三番目のネオ、ジェノムスはまさしく、自らの力で次元の狭間を開いていたように見えました」

 

 ジェノムス。

 その不吉な名前を聞いた瞬間、ビーストマスターはハッと顔を上げ、正面のレツィアの姿を凝視した。

 屋敷の玄関先で遭遇したあのマティグアドが口にしていた男、ジェノムス。

 プロト亡き今、この世界の歴史において、Nプロジェクトによって正式に生み出されたネオ実験体のうち、現存する二体のうちの一体。

 

ビーストマスター:「レツィアさん……」

 

レツィア:「……はい?」

 

ビーストマスター:「話してください……ジェノムスについて」

 

 同じように人間の実験によって運命を歪められた男、ジェノムス。

 彼に対する抗いがたい興味と、その体に刻まれた本能ゆえに、ビーストマスターの問いかける声音は、いつになく強い気迫に満ちていた。

 レツィアはそのあまりの迫力に少しだけ身を縮め、怯えるような様子を見せたが、すぐに元の落ち着きを取り戻して、静かに口を開いた。

 

レツィア:「プロトの凄惨な暴走、そして貴方の強奪と、立て続けにネオの制御に失敗していた『Nプロジェクト』は、ロボロボ団の手から解放された後、二つの派閥に分かれました。片方は、これまでと同様に新たなる『ネオ』そのものの開発を進めようとする『チームJ』。もう片方は、暴走事故を起こして封印されていたプロトを、なんとか制御可能なように改善・修復させようとする『チームP』。私はチームPの責任者として、その後も施設内で別の研究に没頭していましたが……チームJが進めていた実験についても、当時それなりに情報を耳にしていましたので、お話ししますね」

 

 レツィアを映し出していたメインコンピューターのホログラム照射レンズから、彼女の姿とは別に、新たな立体映像が空中に結像した。

 現れたのは、標準的なメダロットとほぼ同等の背格好をした、不気味極まるメダロットの姿だった。

 

 頭頂部から前方へ鋭く伸びる漆黒のツノ。顔面は割れた仮面のようになっており、そこから赤い大きな眼が不気味に覗いている。その額には、プレートが貼られ、そこには『JENOMUS』と太く不穏な文字が刻まれていた。

 さらに、背中からは紅蓮の結晶質でできた巨大な翼が二対広がり、肩や腕にはグレーの岩石の装甲。そこから手指の代わりに何本もの鋭い黒い触手が這うようにして伸びている。

 そして最も異質なのは、二本の脚の代わりに、一本の鋭い結晶質の錐のような形状をした下半身と、その腰の周りを水平に囲むようにして、ぼんやりと宙に浮かんでいる「黄金の光輪」だった。

 

レツィア:「チームJは、それまでの実験の過程から『メダルとネオの相性の悪さ』に気づき、いっそのこと『メダルもパーツも、すべてネオという物質そのものを素材にして作り出す』という、極端な方針を打ち出したのです。つまり、見かけこそメダロットに酷似してはいるものの、それに使用されるすべての構造体をネオそのものから削り出すという研究を始めました。そうして生み出されたのが、第三のネオ……『メダロットあらざる者、ジェノムス』です」

 

ビーストマスター:「メダロットあらざる者……」

 

レツィア:「そうです。これまでの二体との決定的な違いは、前者は既存のメダロットにネオの融合を試みたのに対し、ジェノムスは完全にメダロットとは異なる、新たなる生命体としてゼロから創り出されたことです。メダロットのような見かけでありながら、本質は全く異なる。そこから、畏怖を込めて『メダロットあらざる者』という二つ名が付けられました。生み出されたジェノムスは、当時推定される限り、あらゆるメダロットを遥かに凌駕する、まさしく規格外の破壊的なエネルギーを宿していました。……ここまでは、彼らにとって順調だったのです」

 

 レツィアが語ると同時に、ジェノムスの禍々しいホログラム映像がスッと空中に掻き消えた。

 

ビーストマスター:「まさか、また暴走を?」

 

レツィア:「いいえ……暴走はしませんでした。しかし、ジェノムスを自らの手で創り出してしまったチームJの科学者たちは、その圧倒的な力を前にして、ふと思ってしまったのです。『もしも、このネオの純粋な塊が、かつての実験体のように暴走してしまったら、一体どうなるのだろう』と。そして彼らは、自ら創り出した被造物に、底知れない恐怖を抱き始めました。最初のネオであるプロトは、多くの科学者をその場で虐殺した。第二のネオであるビーストマスターは、巨大なセレクトビルを粉々に崩壊させた。ならば、その力を遥かに上回るはずのジェノムスが暴走した時――今度は、世界そのものが崩壊するのではないか、と」

 

ビーストマスター:「それほどまでの……ネオだったのですか、ジェノムスとは」

 

 メダロット、と言いかけて、ビーストマスターは自ら「ネオ」と言い直した。もはやそれは、メダロットという枠に収まる存在ではなかった。

 

レツィア:「さあ……。実際に、ジェノムスが正式に起動されることは、一度もなかったので……」

 

ビーストマスター:「起動されなかった?」

 

レツィア:「ええ。結局、強すぎる力を持って生まれてしまったジェノムスは、科学者たちの怯えと恐怖の対象となり、一度も起動実験を行われないまま、秘密裏に『廃棄』されることが決定しました」

 

 そう語り、レツィアは再び、プロトの暴走劇を見せたあのヘルメット型の過去視装置を指差した。

 

レツィア:「私は、別チームの責任者として、ジェノムスの廃棄処分が執行されるその瞬間に、立ち会うことになりました。その時の様子を、お見せしましょう」

 

 ビーストマスターは、静かに頷き、再びその不気味なヘルメット型装置を自身の頭部へと被った。

 ふたたび、システム全体が別世界へと引きずり込まれるような浮遊感に包まれ、意識が現実世界の地下室から、急速に遠のいていく。

 

 

 ―

 

 

 ビーストマスターが再び目を覚ますと、そこはまた、あの惨劇の舞台となった場所だった。

 プロジェクトの中心である、極厚の強化防護ガラスで囲まれた、冷たい円形実験室。

 

 実験室の中央には、床の上にぐったりと力なく座り込むジェノムスの姿があった。

 その傍らの床には、真っ黒な、鈍い輝きを放つ六角形の欠片――彼の「メダル」に相当する役割を果たすと思われる、不気味なネオのコアが転がされていた。

 メダロットでいうところの、メダルを抜かれて機能停止した状態なのだろう。ジェノムスの赤い双眸には、一筋の光も灯っていなかった。

 

 しばらくすると、彼の機体を囲むようにして、上空から巨大な強化ガラスのシリンダーが降りてきた。

 プロトの時と同じ、三重に及ぶ隔離。だが、今回はそれだけではなかった。

 その後も、高出力の衝撃に備えるため、さらに二重、三重と、厳重に強化ガラスがジェノムスを何重にも囲い続けていく。

 

 そして、冷徹な科学者の声がアナウンスとしてスピーカーから流れた。

 

???:「準備完了、第一爆弾点火に入ります」

 

ビーストマスター:(爆弾?)

 

レツィア:(ジェノムスは、爆弾による強力な熱量で、完全に融解・破壊することで破棄される予定だったのです)

 

 (それは、まるでどこかのエデン国女王直轄諜報部がやりそうな、冷酷なもみ消し工作だな……)と、ビーストマスターは内心で皮肉を思いながら、ぐったりと座り込むジェノムスを見つめた。

 もしも、自分自身がロボロボ団に強奪されず、あのままプロジェクトの手に残されていたら、同じようにこうして跡形もなく処分されていたのかもしれない。そう思うと、彼はこの異形の機体を、決して他人事とは思えなかった。

 

???:「3、2、1……点火!」

 

 耳を劈く凄まじい爆鳴と共に、隔離室の内部で爆弾が炸裂した。

 すさまじい熱波と衝撃波により、一番内側に設置されていた強化ガラスが一瞬にして粉々に割れ散り、二枚目のガラスの表面に蜘蛛の巣のような無数のひびが入る。

 しかし、破壊される対象であるジェノムスの強固な機体は、まだその原型を留めていた。ただ、頭部に貼られていた『JENOMUS』のプレートが、爆風によって外れかけ、痛々しくプラーンとぶら下がっていた。

 

???:「第二爆弾点火準備に入ります」

 

 破壊が不十分であると判断した科学者たちは、すぐにさらに二枚の防護ガラスを追加で投入し、間髪入れずに次の爆破準備に入った。

 

???:「準備完了、点火に入ります」

 

 カウントダウンが開始される。その時だった。

 

???:「3、2、1……」

 

 ジェノムスの横の床に転がされていた、あの漆黒の六角形のプレートが、一瞬、ピクンと生き物のように動いたのを、ビーストマスターの目は見逃さなかった。

 

???:「……点火!」

 

 第二の爆弾が爆破される。

 より凄まじい大爆発。今度は、ジェノムスの機体の至る所に亀裂が入り、次の爆破で完全に粉砕されるであろうレベルにまで、大きく損壊した。

 

 しかし――。

 

 床に転がる漆黒の六角形が、再びピクン、ピクン、と動いた。

 まるで、陸に吊り上げられた魚のように狂おしくはねると、そのコアはジェノムスの破損した胸部に向かって、ビュンと驚異的な速さで自ら飛び跳ねたのだ。

 科学者達は戦慄する。

 取り外したコアには自律運動能力など存在しないと考えられていた

 六角形のコアがジェノムスの機体に衝突し、一瞬にして、吸い込まれるようにして融合する。

 その意思を持ったかのような不気味な挙動は、かつて『女王襲撃事件』において、黒いメダリアがワンダの体に向かって一直線に飛来し、彼女を包み込んだあの瞬間と、恐ろしいほどに酷似していた。

 

???:「……ジェ、ジェノムスに、異常なエネルギー反応!」

 

 アナウンスをしていた科学者の声が、恐怖で上ずり、金切り声に変わる。

 ぐったりとしていたジェノムスの全身が、プルプルと激しく震え始め、ゆっくりと、その体を起こして立ち上がった。

 その仮面の奥にある眼に、血を思わせるような、深紅の真っ赤な光が点灯する。

 

???:「次の爆弾の点火準備を急げ!」

 

 チームJの責任者が、半狂乱になってマイク越しに怒鳴り散らした。

 

ジェノムス:「この……仕打ち…貴様ら………許さん……このジェノムスに……向かってェ…!」

 

 ジェノムスは、ひどく苦しそうな、しかし憎悪に満ちた声で叫び、重い足取りを響かせてこちらへと一歩を踏み出した。だが、目の前の強固な防護ガラスの障壁に阻まれる。

 

ジェノムス:「お、おお、オオオオオォォォォォォォ!!!!!」

 

 凄まじい咆哮。その時、それを作戦室のガラス越しに見ていた過去のレツィアの携帯端末に、着信音が鳴り響いた。だが、もちろんレツィアには、そんな電話を取る心の余裕など一秒も残されていなかった。

 

ジェノムス:「人間…………下等な…その辺を這い蹲る……芋虫と…害虫と……なんら変わらぬ種族に……完全なるネオ……新たな支配者…ジェノムスがアァァァ!!!」

 

???:「点火アアァァァ!!! 撃て!!」

 

 バリーン!!!

 

 廃棄用の最大出力爆薬が、爆発した。

 一番外側の最後の一枚を除いて、すべての極厚ガラスが粉々に砕け散り、内部に硝煙と炎が渦巻く。

 しかし――その爆煙が晴れた時、その内側にいたはずのジェノムスの姿は……。

 

 塵一つ残さず、完全にその場から『消滅』していた。

 

 

 ―

 

 

 ビーストマスターは、再び激しい排熱音と共に、現実世界の宝条屋敷の地下室へと戻ってきた。

 彼がヘルメット型装置を外すと、レツィアのホログラムは静かに語り始めた。

 

レツィア:「これが第三のネオ、純粋なネオのエネルギーから創り出された、メダロットあらざる者、ジェノムスです。当時は原因不明の実験事故として処理されていましたが……今なら分かります。あの消え方は、爆発による物理的な融解や破壊などではありません。ネオが『次元の狭間』を開いて別の世界へと消え去った……そう解釈するのが、最も自然だと思いませんか?」

 

ビーストマスター:「……なるほど」

 

 すべての謎のピースが、一つの恐るべき陰謀の形をとって、静かに繋がり始めていた。

 

 

 ―

 

 

カヲス:「〝メダロットあらざる者……ジェノムス〟……なんだ…それは?」

 

 エデン国の王宮、コスモスのプライベートルーム。

 修復培養ケースの中で浮遊するメッシュの告げたその名に、カヲスとコスモスは不審そうに顔を見合わせた。何よりも、いつもは陽気なメッシュがこれほどの恐怖を宿し、「この次元が狙われている」と必死に訴えかける様子に、ただならぬ危機が迫っていることを悟った。

 

メッシュ:「俺は次元の狭間を旅するうちに、『エルドラージ』という革命集団に出会った。ヤツらは色んな次元を勝手に渡り歩いては、力を蓄え、ターゲットにした次元を支配しようと企んでいるらしい」

 

コスモス:「エルドラージ……? たしか、さっき」

 

 コスモスは、先ほどビーストマスターから送られてきたあのラヴド国の事件レポートの中に存在した、「エルドラージ」の名を思い出し、ハッとする。

 

メッシュ:「そうだ、俺を襲った『ネクロデス』という化け物も、エルドラージの一員だ。ヤツは俺の実力を気に入ったらしく、エルドラージの仲間に引き入れようと勧誘してきた……しかし、ヤツらが次の標的に定め、支配しようとしている故郷こそが、他ならぬ俺たちの、この次元だったんだ!」

 

 メッシュは悔しそうに顔の装甲を歪め、言葉を絞り出す。

 

メッシュ:「当然、俺はそんなふざけた誘いを断った……その結果、全力でヤツらと戦う羽目になり、カリパーたちはバラバラにされ、俺もこのザマだ。ジェノムスという男は、なんというかメダロットの規格を完全にハズれた、ヤバイなんてもんじゃない化け物で……そして、何よりもヤバいのが……」

 

 メッシュは、ケースの中で一度深く呼吸を置き、目の前に佇むカヲスとコスモスに、今この世界に迫っている危機がどれほど絶望的なものかを正確に伝えるため、全力で叫んだ。

 

メッシュ:「俺の次元移動と違って……ヤツは〝自分の行きたい次元の狭間を、ピンポイントで自由自在に開く〟力を持っていたんだ!!」

 

 

第十二話【J-E-N-O-M-U-S】終わり

 

 

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