THE END OF DISAPPEARANCE 作:土地_0000
第一話【魔の事件】
この世界では、近年において、世界の存亡をかけた大きな戦争が立て続けに三回も起こっている。
すべての引き金となった最初の戦いが、かの「第三次世界大戦」だ。
N・G・ライトが組織した『エデン』が全人類に対して宣戦布告。その結果、人類は文字通り滅亡し、世界の支配権は人間からメダロットへと移り変わった。この戦いは「人類滅亡戦争」あるいは「人神戦争」などとも呼ばれ、歴史の教科書に重く刻まれている。
そして、エデンによって愛する
ラヴドがエデンへ宣戦布告したことで「第四次世界大戦」が勃発。激戦の末にラヴドが勝利し、エデンのリーダーN・G・ライトは、ラヴドの英雄ジョーカードによって撃破された。この戦いは「ラエ戦争」や「神々戦争」の名で語り継がれている。
だが、戦火はそれで終わらなかった。
ラヴドによって解体されたはずのエデンが、カヲスを新たなリーダーとして復活。再びラヴドへ宣戦布告したことで、「第五次世界大戦」が始まった。別名「二次ラエ戦争」もしくは「二次神々戦争」だ。
ラヴドは偉大な指導者ティレルビートルを失うという甚大な被害を受けながらも、様々な勢力を味方に引き入れ、最終的にはエデンに勝利する。
そして、英雄ジョーカードとカヲスは直接対決の末に相打ちとなり、共に戦死した――ということになっていた。
少なくとも、表向きの歴史では。
こうして凄惨な戦いを経たラヴドとエデンは和解し、それぞれ『ラヴド国』『エデン国』を建国した。
二大国は今度こそ平和な世界を築くという共通の目標を掲げ、戦争で荒れ果てた世界の復興へと動き始める。
その後、エデン国での女王誘拐事件をはじめ、いくつかの混乱は起こったものの、表舞台の平和は保たれていた。
歴史の影では、誰にも知られない事件や、「黒歴史」として闇に葬られた暗闘もあったのだろう。
それでも、世界は復興した。
かつてN・G・ライトが夢見た、メダロットたちの楽園。
その理想へ向け、誰もが手を取り合っていた。
しかし、そんな時代も長くは続かなかった。
復興が終わりを迎え、生活が物質的に豊かになるにつれ、民たちの心には少しずつ「荒廃」が忍び込み始めた。
かつて手を取り合っていた者たちが、自分自身の利益を優先するようになり、そのエゴが社会の歪みとなって両国へ新たな問題を生み出していく。
ラヴドとエデン、両国の王は次々と法整備を進め、息をつく暇もない日々に追われていた。
そんな中、突如として世界を揺るがす大事件が起こる。
――『ラヴド国王暴走事件』。
ラヴド国の最高権力者――「国王であった」ビーストマスターが、何の前触れもなく突然の大暴走を起こしたのだ。
凄まじい火力によって王宮の大部分は半壊。
その場にいた者たちからも、多数の重傷者を出す大惨事となった。
現在、元国王となったビーストマスターはすべての武装を封じられ、メダルを抜かれた状態で、分厚い鉄格子の嵌まった牢獄の奥に収監されている。
そして、主を失ったラヴドの王座には、国王代理として一機のメダロットが就くこととなった。
かつてビーストマスターと共に国を支えてきた、漆黒の悪魔――ブラックメイルである。
―
――ラヴド国・王宮。
先日の事件によって王宮の大部分は吹き飛んだものの、急ピッチで進められた修復作業により、国王の間だけはなんとか元の威厳を取り戻していた。
だが、その部屋で大量の書類に囲まれているブラックメイルの姿は、威厳とは程遠かった。
ブラックメイル:「だぁ~~!!! 忙しいんだぁ~…ぞッ!!!」
元々、ブラックメイルは「第二国王」とも呼ばれ、実質的にはビーストマスターと同等の権力を持っていた。
ただし、その仕事内容は二機の間で明確に分担されている。
荒事や軍事、現場の指揮を得意としていたブラックメイルにとって、これまでビーストマスターが淡々とこなしていた政務の量は想像を絶するものだった。
いざ国王代理となり、そのすべてを背負ってみれば、うんざりして溜息をこぼす暇さえない。
ブラックメイル:「ビーストマスターの解析はまだおわんねーのぉ~…かッ!!」
現在、ラヴド科学部では研究者たちが総力を挙げ、ビーストマスターの異常な暴走について調査を続けている。
しかし、たとえ原因が解明されたとしても、ビーストマスターが再び王座へ戻れる保証などない。
国を代表する存在があれだけの大事件を起こし、多数の重傷者まで出してしまったのだ。
国民からの信頼を取り戻すことは容易ではない。
仮に牢獄から出られたとしても、その先に待っているのは王座ではなく、罪を裁くための裁判所だろう。
その時、国王の間の重厚な扉を小さくノックする音が響いた。
現れたのは、慌ただしく息を切らせたラヴド科学部の職員だった。
どうやら、待ちに待った解析結果が出たらしい。
相手が科学部の者だと気づいた瞬間、ブラックメイルはそれまで渋々進めていた仕事を放り出し、差し出された報告書へ飛びついた。
ブラックメイル:「パーツに未知の物質ぅ~…ッ?」
ビーストマスターのパーツとメダルを隅々まで調査した結果、パーツ内部に、これまでラヴドのデータベースには存在しなかった「未知の物質」が紛れ込んでいることが判明したという。
断定はできない。
だが、この奇妙な物質が今回の事件に関係している可能性は極めて高かった。
ブラックメイル:「違う。俺が知りたかったのは、それだけじゃないんだぁ~…ぞッ」
ブラックメイルは報告書を机へ置いた。
ビーストマスターという男が、頭部への強烈な衝撃や機体への極端な負荷をきっかけとして制御不能に陥ることなど、彼にとっては百も承知の事実だった。
未知の物質が関係しているというのなら、それ自体は重要な手掛かりだ。
だが、ブラックメイルが本当に知りたいのは、その物質が一体何なのか。
そして何より――なぜ今回は、何のきっかけもなく突然反応したのかということだった。
これまでビーストマスターが我を忘れる時には、頭部パーツへの強烈な衝撃など、何らかの「外的な要因」があった。
しかし、今回の事件ではそれが一切確認されていない。
誰も彼を攻撃していない。
ただ専用機へ乗り込もうとした、その瞬間、ビーストマスターは突然、暴れ始めたのだ。
ブラックメイルが恐れているのは、その違いだった。
ブラックメイル:「まぁいい……カヲスに報告だぁ~…ぞッ」
説明を終えた科学部の職員が部屋を辞去すると、ブラックメイルは独りごとのように呟いた。
すぐに端末を起動し、エデン国側の最重要人物へ繋がる守秘回線を使って、解析レポートを送信する。
―
ところ変わって、エデン国の王宮。
その奥深くにある、女王コスモスのプライベートエリア。
外の喧騒から隔絶された静かな一室で、彼女の想い人であり、かつてエデンのリーダー兼科学部長を務めていたカヲスは、隠遁生活を送りながらデータと向き合っていた。
カヲスは、ビーストマスターの事件に関する様々なデータと向き合っていた。
コスモス:「カヲス様、ビーストマスターさんに関する解析結果が出ました」
コスモスが端末を手に、カヲスのもとへ歩み寄る。
ビーストマスターの事件について調査していたのは、ラヴドだけではない。
カヲスもまた、独自のネットワークを使って真相を追っていた。
かつて女王襲撃事件の際、ビーストマスターはその政治力によって、処刑されかねない立場にあったカヲスを救おうとしてくれたことがある。
カヲスにとって、忘れることのできない恩だった。
だからこそカヲスとコスモスは、その恩を返すためにも暴走の真因を突き止め、もし彼自身に責任がないのであれば、名誉を回復する道を探そうとしていた。
カヲスはコスモスから端末を受け取り、送られてきたログをくまなく精査していく。
カヲス:「未知の物質……何か…特殊な……パーツ………か」
コスモス:「なにか分かりましたか、カヲス様?」
コスモスが心配そうに顔を覗き込む。
しかし、優れた頭脳を持つ元エデン科学部長をもってしても、並んでいるデータはあまりにも異質だった。
カヲス:「いや……この物質は…私も初めてみる………さっぱり分からん……」
カヲスは重苦しく首を横に振った。
その言葉を聞き、コスモスも「そうですか……」と力なく呟く。
カヲスですら初めて目にする物質となれば、科学的なアプローチだけで原因を突き止めるのは難しい。
だが、カヲスは完全に行き詰まったわけではなかった。
何かが、記憶の奥に引っかかっている。
カヲス:「しかし」
コスモスが顔を上げる。
カヲス:「特殊なパーツ……の…ビーストマスター……ときいて思いつくものが………1つある」
コスモス:「……それは?」
コスモスが言葉の続きを待つ。
カヲス:「100年以上も前……まだ…人類の生きていた頃の…事件だ……」
百年以上前。
まだ人類がこの星を歩き、メダロットを最高の相棒、あるいはホビーとして愛していた時代。
コスモスは記憶を辿るように考えを巡らせる。
そして、カヲスが何を指しているのかに気づいた。
彼女が生まれるより、はるか昔。
それでも、メダロットの歴史を学ぶ者なら誰もが知っている大事件。
かつて世界征服を企む悪の組織「ロボロボ団」が怪電波を放ち、セレクトメダルと呼ばれる人工メダルを装着した街中のメダロットたちを、一斉に暴走させた未曾有の災厄。
そして、その事件の最終局面でロボロボ団が投入した超兵器の名もまた――『ビーストマスター』だった。
カヲス:「魔の十日間事件……」
第一話【魔の事件】終わり