THE END OF DISAPPEARANCE 作:土地_0000
第四話【エルドラージ覚醒】
トゥルースの総力を結集した、元ラヴド国王ビーストマスターの強奪・救出作戦。
当然、それはセルヴォが単身で成し遂げたものではなかった。
ラヴド国王代理であるブラックメイルが、ビーストマスターの収監されていた牢獄の警備状況をトゥルースへ極秘裏に伝え、主任デュオカイザーが執務室からすべての指示を下す。そしてセルヴォとビートの二人が実行部隊として、ラヴド王宮の暗闇へと潜入したのだ。
作戦では、セルヴォがビーストマスターのパーツとメダルを国境外まで運び、そこで再び組み立てて目覚めさせる役目を担った。その間、デュオカイザーとブラックメイルはハッキングと情報工作によって、ラヴド国内のログを改ざんし続けていた。
相棒のビートも、自身が王宮の現場にいた事実をラヴドの兵士たちに掴まれないよう、細心の注意を払いながら脱出ルートを辿り、どうにか無事に国内を抜けることに成功する。
この後は、ラヴド国境を越えた先にある小さな村でセルヴォと合流し、さらに情報隠蔽工作へ加わる予定となっていた。
合流場所となった村の酒場で、ビートは一杯のオイル酒をちびちびと口にしながら、相棒の到着を静かに待っていた。
二人が落ち合う場所は、なぜだかいつも決まって酒場になる。
国境沿いの小さな集落にしては、ずいぶんと活気のある賑やかな店だった。昼間から村の男たちが何人も集まり、グラスを傾けている。
だが、多くの者が一箇所に集まる場所というのは、活気と同時に、不必要な諍いも生み出しやすい。気心の知れた間柄だからこそ、酒が入るにつれてつい無礼な言葉をぶつけ合い、それが喧嘩の引き金になることもある。
ビートがグラスを傾けてしばらくすると、案の定、フロアの奥から男たちの怒号が響いてきた。
酔った勢いで興奮した一人の男が相手の胸ぐらを掴み、口にするのも憚られるような罵声を浴びせている。胸ぐらを掴まれた男も酷く酔っ払っており、売り言葉に買い言葉で、二人はすぐさま激しい殴り合いを始めてしまった。
周囲の野次馬たちは喧嘩を止めるどころか、むしろ面白がって囃し立てている。
そんな騒がしい人混みの中から、「さて、おっさんやっちまえー!」という極めて聞き馴染みのある軽薄な野次が聞こえた瞬間、ビートはグラスを持ったまま深く頭を抱えた。
ビート:「あいつ……何してるんだか」
他人の喧嘩を大声で煽っている暢気な相棒を引きずり出そうと、ビートは席を立った。
だが、彼が歩き出そうとしたまさにその瞬間、喧嘩は誰も予想しなかった奇妙な介入によって、唐突に幕を下ろす。
???1:「おいやめろ馬鹿!」
???2:「喧嘩両成敗という名概念をしらないのですか?」
野次馬たちの壁を割るようにして、突如として二人のメダロットが喧嘩の当事者たちの間へ割り込んだ。
一人はクワガタムシ型。もう一人はカブトムシ型。二人組のメダロットだった。
???1:「口で語る暇があったら牙をむくという男らしさは買うが、そんな不毛な争いはやめるべきそうすべき」
???2:「同じ仲間同士傷つけあってどうするのです? 強さと優しさが備わってこそ最強にみえるのです」
呆気に取られてポカンと口を開けている酔っ払いたちを尻目に、割り込んできた二人は、誰も尋ねていないにもかかわらず、突如として大仰なポーズで名乗りを上げ始めた。
???1:「俺はサンジューロ!」
???2:「そして、私はガンノウズ!」
サンジューロ:「二人合わせて〝ディメンショナル・スクリューズ〟!」
ガンノウズ:「ちなみに略してDS!」
サンジューロ&ガンノウズ:「正義の集団〝エルドラージ〟の正義の諜報員!」
――こんな、これ見よがしに目立つ諜報員など、生まれて初めて見た。
周囲の野次馬たちと同様、ビートも呆れ果てて口を開けていたが、ふと最近耳にしていた不穏な噂を思い出した。
自分たちこそが絶対の正義であると主張し、困っている者を無償で助けて回る、ここ数週間の間に突如として世界各地に現れた謎の少数集団。
彼らはエデンとラヴド、両国が敷いている現在の政治体制に強い不満を抱き、現体制を完全に解体したうえで、自分たちによる「第三の大国」を築くことを公言している。
本来ならば、すでにトゥルースが調査・摘発へ動いているはずの案件だった。
しかし、彼らが現れた時期は、不幸にもあの『ラヴド国王暴走事件』と完全に重なっている。トゥルースも両国の上層部も、自国の混乱を収拾することで手一杯となり、国外の不穏分子にまで十分な手が回っていなかったのだ。
何より厄介なのは、この急進的な集団が、意外にも一般民衆から強い支持を得つつあることだった。
ここ数年で世界は驚異的な復興と発展を遂げたが、その陰で様々な社会問題が生じているのも事実。「これではラヴドもエデンも駄目ではないか」という、両国の統治に不信を募らせる民衆へ、彼らの耳触りのいい思想が深く突き刺さっていた。
セルヴォ:「さて、いきなり現われた期待の新人がなんでもかんでもパパっと解決してくれるっつー考え方は嫌いだな」
思考を巡らせていて気づかなかったが、いつの間にかセルヴォがすぐ隣の席に座り、ビートのグラスから酒を盗み飲んでいた。
野次馬を煽っていた喧嘩が「正義の味方」によって退屈な決着を迎えてしまい、ずいぶんと興ざめしているようだった。
ビート:「同感だな。しかし、民衆の耳にはあいつらの言葉が届きやすい事実もある……〝エルドラージ〟の〝DS〟、覚えておいて損はなさそうだ」
セルヴォ:「さて、今まで頑張って世界を支えてきたのは〝黒歴史〟だっつーのに〝期待の新人〟はあのチヤホヤ具合か……せいぜい期待外れにならねえ事を祈るね」
正義の味方に群がる民衆の喧騒に紛れ、セルヴォとビートは静かに酒場をあとにした。
「第三の勢力」という言葉を聞いて、ビートはふと、今から十年前の忌まわしき出来事を思い出していた。
――かつての後輩、リネル。
彼女もまた、エデンとラヴドの戦争を止めるため、第三の勢力を築こうと荒野を歩んでいた。
しかし、リネルの目的は「戦争の惨禍から人々を保護し、これ以上の不毛な戦いを阻止すること」だった。
耳触りのいい正義を振りかざし、力づくで「旧体制を破壊する」と息巻くエルドラージとは、その目的の根底が全く異なっていたはずだ。
同じような行動を起こす者であっても、その胸に秘めた目的によって、組織というものはこれほどまでに違う。
ビートの胸の奥に、冷たい痛みが静かに去来した。
―
その頃、ビーストマスターはセルヴォから渡された地図を頼りに、厳重に身を隠しながら宝条屋敷へと歩みを進めていた。
地図によると、かつて研究所としても使われていたその屋敷は、鬱蒼と木々が生い茂る高い山の山頂にひっそりと佇んでいるらしい。セルヴォと別れた森からはさほど離れていないため、比較的早く辿り着けるはずだった。
山の麓まで辿り着いた時、ビーストマスターの視界に古びた小さな小屋が入り込んだ。
人通りが全くない険しい山の麓に、なぜ小屋などがあるのだろう。不思議に思いながら近づいてみたが、ずいぶんと長い間誰も訪れていないらしく、木製の壁は腐り果て、今にも崩れ落ちそうになっていた。
本来ならば先を急ぐべき状況だった。
だが、ビーストマスターは、なぜかそのボロ小屋から不思議な「引力」のようなものを感じ取っていた。
抗いがたい衝動に駆られ、彼は引き寄せられるように扉を開け、中へと入った。
小屋の内部には、かつて誰かが生活していた形跡を示す簡素なベッドや、錆びついた家具が散らばっていた。
だが、そんなありふれた残骸よりも目を引いたのは、この劣悪な環境にはおよそ似つかわしくない、極めて精密そうな電子機械と、その隣に鎮座する謎の装置だった。
装置の上部には、まるで自転車のペダルのようなものが取り付けられている。
もしやこれは自家発電装置なのだろうか。
そう首を傾げながら、ビーストマスターは機械へ近づき、頑丈なペダルをゆっくりと回し始めた。
金属の摩擦音が軋む中、ほんの十数回ほど力強く回した、その時――。
ボロ小屋の天井に設置されていた古い蛍光灯が明滅し、パッと明るい電気が灯った。
ビーストマスター:(たったこれだけで、この量の電気を生み出す……ひょっとして物凄い科学力なのでは?)
自分が体を動かすために消費したエネルギー量を考えても、この発電効率は異常なほど高い。
ビーストマスターは不気味なほどの技術力に驚きながら、隣に設置されたもう一つの精密機械へ視線を移した。
先ほど電力を復旧させたことで、こちらも連動して起動したらしい。
液晶モニターに緑色の走査線が浮かび上がっている。
その装置は、ちょうど人間の頭に被せるヘルメットのような形状をしていた。
大昔、まだ人類が健在だった頃に製作された『Back to the Future』という有名なSF映画の中で、変わり者の科学者がこれに酷似した怪しげなヘルメットを頭に被っていたことを、ビーストマスターは記憶の片隅から思い出した。
ビーストマスター:「…………」
好奇心、あるいは抗いがたい何かに導かれるように、ビーストマスターは頭部の砲塔を避けながら、そのヘルメット型の機械を被ってみた。
見た目ほどの重量はなく、むしろ驚くほど軽い。
一体どんな未知の素材で作られているのだろうと疑問に思った、その瞬間――。
ビーストマスター:「…………っ!?」
全身に、不気味な悪寒が一斉に走った。
体が勝手に痙攣し、自分の頭の中をどこからか一方的に覗き見られているような感覚に襲われる。
見知らぬ何かが体の奥深くへ入り込み、記憶の隅々まで強引に探り回っているような、極めて悍ましく気味の悪い感覚。
耐え難い拒絶感に襲われ、ビーストマスターは力任せに機械を頭からむしり取り、床へ投げ捨てた。
しばらくその場で身を震わせる。しかし、周囲の光景には何の変化も起きていない。
ビーストマスター:「……宝条屋敷を目指しますか」
嫌な感覚を振り払うように、彼は自らの本来の目的を思い出し、不気味なボロ小屋をあとにした。
一体、あの場所は何だったのだろうか。
宝条屋敷のある山の麓――あれもまた、「宝条一族」が残した何らかの実験設備の跡地だったのだろうか。
―
ケフクージャ:「時に君はボランティアは好きかね!?」
ケフクージャは、今日も相変わらずの異常なハイテンションで街を練り歩いていた。
道行く困っている者を見つけては親切を押し売りしてボランティアの素晴らしさを説き、全く困っていない者を見つけては強引にボランティアの素晴らしさを説いて、逆に困惑させる。
彼が声高に叫ぶ「この世界のボランティア指数を測る」という目的が、一体どのような数値を指しているのか。ケフクージャ本人以外に知る者はどこにもいなかった。
しかし、そんな彼の独りよがりな善行が、常に相手から好意的に受け入れられるわけではない。
「あぁ? ……大嫌いだね」
ケフクージャ:「……っ!?」
たった今声をかけたメダロットから返ってきたのは、身も蓋もない冷たい返答だった。
声をかけられた大抵の者は、苦笑いを浮かべながら適当に「好きですよ」と答えてやり過ごす。
それをケフクージャは都合よく「笑顔での賛同」と受け取っていたのだが、時折、目の前の男のようにあからさまな嫌悪感を示す者も現れる。
そのたびに、ケフクージャは仮面のバイザーの奥に浮かぶ十字架の光を大きく瞬かせて驚愕するのだった。
「なんていうか、偽善っぽいし」
ケフクージャ:「愚かしい!」
ケフクージャは両手の十字架型武器、その先端に備わったスパイクをピシッと目の前の相手へ向けた。
ケフクージャ:「無償で働き、皆が手を取り合う素晴らしき愛……ボランティア!! それを嫌うものは非常に愚かしく、同様に君も愚かしい!!」
叫ぶと同時に、ケフクージャの右腕がブレた。
目にも留まらぬ速さで振り抜かれた手刀は相手の装甲をやすやすと切り裂き、その胸の中央を深く貫いていた。
「が、は……っ!?」
相手が悲鳴を上げる間すらなかった。
ケフクージャは容赦なく指先を抉り込ませ、その胸から命の結晶であるメダルを力任せに引き抜いた。
メダルを奪われた男の体から一瞬にして光が消え、そのまま前のめりに地面へ崩れ落ちる。
完全に停止したことは、誰の目にも明らかだった。
ケフクージャは冷酷な笑みを湛えながら、手に入れたメダルをじっと見つめた。
ケフクージャ:「その精神を叩きなおすために君は〝ぼらんてぃあばっち〟にして差し上げよう」
彼は奪い取ったばかりのメダルを両手で挟み込み、凄まじい力を込めて一気に押し潰した。
ピシ、ミシミシと不気味な悲鳴が上がり、かつて一つの意思を宿していたメダルは、無残にも平らな板へと潰されていく。
ケフクージャは楽しそうに鼻歌を交えながら、まるで粘土細工でもこねるかのように、それを丸め、引きちぎり、不格好なバッジの形へ成形していった。
やがて納得のいく「ばっち」の形に仕上がると、彼は満足そうにそれを紫色の法衣の懐へ収めた。
ケフクージャ:「ボランティアの出来る素晴らしいメダロットを見守る……それが君に出来る唯一無二のボランティア」
リーブたちが受け取った、あの歪なバッジ。
その正体が何であるかを語る者など、この地にはもう誰もいなかった。
―
コスモス:「……というワケで無事ビーストマスターさんは国外に逃がすことが出来ました。今は宝条屋敷に向かっています」
エデン国の王宮、コスモスのプライベートルーム。
そこで行われていたのは、もはや恒例となりつつあるラヴド国王代理ブラックメイルとの極秘通信だった。
ブラックメイル:「そうか、本当なら俺が頑張るところだったんだが、ありがとぅ~…なッ」
コスモス:「礼には及びません」
カヲス:「………5年前の…借りを返す……だけだ」
今から五年前。
あの女王コスモス襲撃事件の戦後処理において、処刑されかねない立場にあったカヲスを、その立場と権限を使って救おうと動いてくれたのが、当時のラヴド国王ビーストマスターだった。
一見、無愛想で冷淡に見えるカヲスだが、この件に関しては、ビーストマスターへ並々ならぬ感謝の念を抱き続けていた。
コスモス:「私たち、本当にビーストマスターさんには感謝してるんです。是非とも元の生活に戻れるよう援助を続けさせてください」
カヲスと同様、コスモスもまた彼への恩義を感じていた。
カヲスを救おうとする一方で、コスモスを彼の「監視役」に指名し、実質的にこのプライベートルームで共に暮らせる状況を作ってくれたのも、ビーストマスターの計らいだった。
カヲス:「引き続き……私はビーストマスターについて…調べる………」
ブラックメイル:「分かった。本当にありがとぅ~…なッ」
そう言い残し、ブラックメイルは通信を切った。
お互い一国の政務に関わる身であり、その合間を縫っての極秘連絡は、いつもほんの数分で静かに終了する。
シュゴゴゴゴ……
通信が切れた直後、室内に奇妙な音が鳴り響いた。
この世界のものとは思えない、不気味な空間の歪み。
音のする方を見上げると、虚空がまるで生き物のようにうねり、マンホールの蓋ほどの大きさを持った「空間の裂け目」がぽっかりと口を開けていた。
そして、その裂け目から一人のメダロットが叩きつけられるように床へ転がり落ちてきた。
全身の装甲は無残に大破し、その体はボロボロに傷ついている。受け身を取ることもできず、そのまま床へ倒れ込んだ。
左腕には大きな赤い風呂敷包みを、右腕には髑髏を模した禍々しい「斬鉄剣」を握りしめている。
その凄惨な姿を見て、コスモスは驚愕の声を上げた。
コスモス:「メッシュさん!?」
そこに倒れていたのは、かつて十二使徒としてコスモスと共に戦い抜いた、次元の旅人メッシュだった。
メッシュ:「次元剣技:〝
旅の過程で次元の狭間に落ち、そこから様々な世界を渡り歩いていたメッシュ。
彼が呟いた「
ただし、開いた裂け目がどの世界のどの座標に繋がるかは完全にランダムであり、霧の中を進むような不安定さを伴う。
満身創痍のメッシュは、自慢の赤いマントを風呂敷代わりにして何かを包んでいた。
だが、とうとう手から力が抜け、その包みを床へ落としてしまう。
結び目が解け、部屋の床へ散らばった中身を目にした瞬間、コスモスは息を呑んだ。
コスモス:「そ、そんな……」
あまりに凄惨な光景に、コスモスはショックのあまり言葉を失い、その場にへたり込んでしまう。
カヲスが素早く彼女の体を支え、代わりに床へ散らばった「それ」を冷静に調べ始めた。
転がっていたのは、見るも無残に頭部や手足を引き裂かれ、バラバラに解体されたジャッカル、メイクイーン、ガンキングのパーツだった。
かつて十二使徒としてメッシュと共に旅立っていった、カリパー、キドゥ、ゲンジの三人。
それほどの実力を持つ彼らが、原型を留めないほどに破壊されていた。
カヲス:「……メダルは…無事………だ…」
三人分の損傷したパーツを精査したカヲスが告げた。
幸いなことにメダルへの致命的な損傷はなく、大破して機能を停止してはいるものの、命に別状はなかった。
メッシュは右手の斬鉄剣を杖代わりに、かろうじて体を支えていた。
だが、とうとう限界を迎え、床へ崩れ落ちる。
意識を完全に失うその刹那、彼は絞り出すような微かな声で、コスモスたちへ警告を遺した。
メッシュ:「気を、つけ、ろ……エル、ド、ラージの、ネ、クロ、デス……」
第四話【エルドラージ覚醒】終わり
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[今回登場したメダロット]
【サンジューロ】
エルドラージ所属の自称《正義の諜報員》ディメンショナル・スクリューズの1人。
【ガンノウズ】
エルドラージ所属の自称《正義の諜報員》ディメンショナル・スクリューズの1人。
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