THE END OF DISAPPEARANCE 作:土地_0000
第五話【ネオ】
突如としてエデン女王のプライベートルームに、瀕死の重傷を負って転がり込んできたメッシュ、カリパー、キドゥ、ゲンジの四機。
彼らはすぐさまカヲスによる応急処置を受け、現在は部屋の片隅に並べられた、特殊な修復培養液で満たされたガラス円筒ケースの中で静かに浮遊していた。
ケースを見上げ、どうにか一命を取り留めたかつての戦友たちの姿に、コスモスは安堵の息を漏らした。
だが、それと同時に小さなため息も出てしまう。カヲスが同居するようになって以来、自分の寝室はずいぶんと物々しい研究所のような景色に変わってしまったものだ。
コスモス:(私が仕事をしてる間はこういう物をたくさん作っていたのですね……)
カヲスの説明によると、大破していたティンペットはエデン本部の備蓄から急遽新しいものを用意したという。
しかし、メッシュのファーストエースをはじめ、四機が使うトランプメダ向けの特殊なパーツは極めて希少であるため、今回は戦闘に耐えられるほどの修復はできず、一時的な処置に留めたとのことだった。
それでも、時間をかけて彼ら自身の自己修復機能――「スラフシステム」を稼働させておけば、いずれは元通りになるはずだ。
カヲス:「それから………もう2つ…報告だ」
カヲスが端末のキーボードを静かに叩くと、正面の大きなメインモニターに、上空から俯瞰したこの世界の詳細な特殊エネルギー観測マップが表示された。
コスモス:「これは?」
カヲス:「人工衛星から………とった画像で…」
コスモス:「人工衛星? そんなものいつ打ち上げたんですか?」
カヲス:「……ッ!」
カヲスはしまったという表情を浮かべ、ばつが悪そうに視線を泳がせた。そして、やや声を引きつらせながら白状し始める。
カヲス:「……3年くらい前に…………こっそり……小型のを…」
コスモス:「この部屋から出たのですか?」
カヲス:「いや……心無い天使を改造して…………遠隔操縦して打ち上げた…」
「心無い天使」――それは、カヲスがかつての戦争のために作り出した量産型の戦闘用メダロットである。
その名の通り、メダルがはめ込まれていないため感情を持たず、七年前の第五次世界大戦では、カヲスが特殊な旋律を響かせることで、大量の軍勢を同時に遠隔操縦して戦場を蹂躙させていた。
まさか、その兵器を改造して宇宙に衛星まで打ち上げていたとは、コスモスも夢にも思わなかった。
コスモス:「そういうことはきちんと報告してください」
カヲス:「…………スマン」
コスモスは再び深いため息を吐いた。だが、怒られて分かりやすくしょんぼりとするカヲスを見ていると、自然と笑みがこぼれてしまう。
結局のところ、自分はこの方のことを心の底から怒り続けることなどできないのだ。
コスモスはそう思いながら、苦笑した。
コスモス:「まぁいいです。カヲス様、話の続きを」
カヲス:「ん?……あぁ……」
気を取り直したカヲスは、自身の操る黒いゴーストを画面上のポインターに変形させ、地図を指し示しながら説明を再開した。
衛星が捉えた特殊エネルギー観測マップには、赤く不気味に発光する点が二箇所表示されていた。
一箇所は、この部屋があるエデン本部。そしてもう一箇所は、国境を遥かに越えた先の、どの国にも属さない名も無き僻地だった。
カヲスはまず、エデン本部にある赤い点を示した。
カヲス:「この…エデン本部に……不自然なエネルギーの歪みがあった……調べてみるとちょうど……メッシュ達の出現時刻と……重なる」
コスモス:「ということは……」
カヲス:「この反応は……次元の狭間の………出現を表す…と見ていいだろう」
コスモスもカヲスも、メッシュが次元の狭間を切り裂いて行き来する現場を、これまで直接目撃したことはなかった。
しかし五年前、次元の狭間から現れたメッシュが、かつての十二使徒たちと共にF・G・シャインの起動した「三頭神像」を討ち倒したという話は聞いていた。そのため、次元の狭間という「ゲート」の実在については、二人とも認識していたのだ。
次に、カヲスは僻地にあるもう一つの赤い点を示した。
カヲス:「この場所にも……次元の狭間の反応があった………時刻は…ビーストマスターの暴走時刻と……一致する……」
コスモス:「え…!?」
カヲス:「調べる価値は……あるはずだ………それから…些細な事かもしれないが……もう1つ…」
カヲスはモニターの主電源を落とすと、メッシュの浮かぶ培養ケースを見つめながら静かに言った。
カヲス:「メッシュの体を……直している時に………微量だが…ビーストマスターのパーツに含まれていた……未知物質が検出された」
その報告を聞き、コスモスの胸に小さな不安がよぎった。
もしやメッシュもまた、ビーストマスターと同じように、突然暴走してしまう危険があるのではないか。
カヲス:「といっても……微量だ………例えばメッシュが…ビーストマスターとの交戦中……何かの事故で…未知物質が体内に入った……と言っても納得できるくらいだ」
だが、コスモスはすぐに首を傾げた。
エデン軍時代、十二使徒だったメッシュがビーストマスターと刃を交えたという戦闘記録は存在しない。
だとすれば、彼が多次元の世界を旅する過程で、偶然にも同じ未知物質を持つ別世界のメダロットと交戦したのだろうか。
あるいは、この世界に、ビーストマスター以外にも未知物質をその身に宿したメダロットが存在しているのだろうか。
メッシュの体を巡る謎は残されたままだったが、今はとにかく、衛星が捉えた「僻地における次元の狭間の出現ポイント」を調査することが先決だった。
コスモスはすぐにトゥルースの主任デュオカイザーへ通信を繋ぎ、衛星データを転送して、実行部隊にその座標の極秘調査を命じた。
―
エデン国領土から遥かに離れた、名も無き僻地。
乾いた風が吹き抜ける荒野のただ中に巨大な要塞が佇んでいた。
その内部では二つの影が静かに、仲間たちの活動報告を待っている。
ネクロデス:「ジェノムス……」
ジェノムス:「どうしたネクロデス?」
ネクロデス:「私には大人しくしろと言った割にはDSの2人が散々エルドラージの名を出すことに関してだが?」
ネクロデスの低く重苦しい不満の声に、ジェノムスは呆れたように小さく肩を揺らした。
ジェノムス:「まぁ……しかたあるまい、あの2人だぞ」
ネクロデス:「…………」
サンジューロとガンノウズの、あの目立ちたがりで大仰な性格を思い浮かべたのか、ネクロデスはそれ以上何も言わず、黙り込んだ。
ジェノムス:「それに元々貴様はこの世界の住人だろう? 外を歩いて誰かに見られては不味いだろう?」
ネクロデス:「まぁ……君が言うのなら従おう……エルドラージの長は君だ。唯一神ジェノムスよ」
ジェノムス:「スマンな……同胞よ」
ネクロデス:「そういえば〝マティグアド〟はどうした?」
ジェノムス:「ヤツには宝条屋敷に行って貰った。宝条レツィアの残した遺産が見つかるかも知れぬ」
ネクロデス:「宝条レツィアの遺産……君の天敵か?」
ジェノムス:「そんなモノが存在すればだがな……」
不気味な意思を秘めたまま、ジェノムスは不敵に目を光らせた。
―
ビーストマスターは、ついに山頂に建つ「宝条屋敷」へと到着していた。
屋敷というからには、それなりに大きな邸宅なのだろうと予想していた。しかし、眼前にそびえ立つそれは、彼の予想を遥かに凌ぐ規模だった。
もはや屋敷というよりも、『城』と呼ぶにふさわしい巨大な洋館。
その外壁は青々とした蔦に覆い尽くされており、元々どのような色だったのかも分からない。
だが、朽ちかけた屋根や窓枠の端々には、本物の貴金属を用いた豪奢な装飾が施されていた。
それを見るだけで、かつての「宝条一族」がどれほどの富を築いていたかが窺える。メダロットに関わるあらゆる分野で天賦の才能を発揮した一族であれば、それだけの財を成していても不思議ではなかった。
まるで、おぞましい魔女でも奥から這い出てきそうな、不気味で重苦しい雰囲気を放つ洋館だった。
中へ入るべく、ビーストマスターが巨大な玄関扉にそっと手をかけた、まさにその瞬間。
重厚な扉が、何の音もなく内側から勝手に開いた。
センサーによる自動ドアなどではない。すでにこの廃屋には先客がおり、その先客が内側から扉を押し開けたのだ。
薄暗い洋館の奥から、静かに滑り出るようにして一人のメダロットが姿を現した。
ビーストマスターは、その異様な風貌に息を呑む。
黄金に輝く鋭い王冠のようなツノを額に戴き、赤い双眸をギラつかせ、鼻下には立派なカイゼル髭を蓄えた、魔王のような風貌。右手には紫色の刃を備えた禍々しい鉾槍を握りしめている。
何より異質なのは、赤黒いトゲに覆われ、底面にはおぞましい悪魔の顔が施された巨大な玉座に、ゆったりと座ったまま宙に浮いていることだった。
ただ椅子に座っているのではない。その玉座自体が彼の『脚部パーツ』であり、体と完全に一体化した浮遊型メダロットだった。
ビーストマスター:(しまった!)
ビーストマスターは内心で強く後悔した。
自分は現在、ラヴドとエデンの両国で「脱獄犯」として最高レベルの指名手配を受けている身だ。だからこそ、誰の目にも留まらないよう細心の注意を払ってここまで来たというのに、よりによってこのような不気味な相手と遭遇してしまった。
ビーストマスターが瞬時に戦闘態勢へ移行しかけた、その時――目の前の禍々しい男は、突然、浮遊する玉座の上で深く頭を下げた。
『あーすいません!ホントすいません!いきなりドア開けてすいません!ホント私不注意なものでしてねー、はい』
威圧的な外見からは想像もつかないほど腰が低く、恐縮しきった調子で謝り倒してくる。
その凄まじいギャップに、ビーストマスターはかえって激しく狼狽してしまった。
『あ、自己紹介してませんでしたねすいません。私、大王型メダロットの〝マティグアド〟と申します、はい。大王型なんだからもうちょっと偉そうにしろって話なんですが、偉そうにするのが苦手でしてねーすいません』
ビーストマスター:「いや、そこまで謝らなくても……あの、マティグアドさん?」
マティ:「はい、すいませんなんでしょう?」
ビーストマスター:「よろしければ私をここで見たことは忘れていただきたいのですが……」
ビーストマスターが慎重に、探るようにそう切り出すと、マティグアドはさらに恐縮したように、ツノのついた頭を何度もペコペコと下げた。
マティ:「あ、いえいえ、それは私からもおねがいしたいんですよね、私の事は忘れてもらえますか?すいません」
ビーストマスター:「はい、お互い事情がありそうですね……かまいませんよ」
マティ:「あー良かった!ホントすいませんねー、色々事情があるんですよ」
どこまでもペコペコと謝りながら、マティグアドは浮遊するトゲだらけの玉座を滑らせ、ビーストマスターの横をすり抜けて山を降りようとした。
だが、すれ違いざまのことだった。
マティグアドの懐から、ピピピッ、と甲高い電子音が突然鳴り響いた。
彼は「おや?」と首を傾げ、音の発生源となっている小さな端末を取り出した。
それは円形の時計のような形をしたレーダーで、画面が赤く規則的に点滅している。
マティ:「おや?ネオレーダーが反応している……まさか……」
マティグアドは静かに浮遊を止め、ゆっくりと振り返ってビーストマスターを見つめた。
ビーストマスターもまた、そのただならぬ電子音に不穏な気配を感じ、振り返って彼を見つめ返す。
二人の視線が、蔦の這う巨大な扉の前で交錯した。
マティ:「宝条レツィアさんの遺産は見つかりませんでしたが……もう片方の探し物は見つかったようですね……」
マティグアドは右手に持った鉾槍をゆっくりと動かし、その鋭い先端をビーストマスターへ真っ直ぐに向けた。
丁寧すぎる口調は変わらない。
だが、彼の赤い眼には、先ほどまでのペコペコとした滑稽さなど微塵もなく、底知れない不気味な意思が宿っていた。
マティ:「すいませんが、あなたはジェノムスさんと同じ……いや同じではないですが、〝ネオ〟ですよね?すいません」
第五話【ネオ】終わり
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[今回新登場したメダロット]
【マティグアド】
威圧的な見た目の割には、非常に腰が低いエルドラージ所属メダロット。
※本作オリメダ
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