亀有ゲームクリエイター日誌   作:ひよこ大福

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4話

ここ数日、俺はNPCの会話システムを弄っていた。

 

正確に言えば、ずっと弄っている。

 

昨日も派出所で勘吉にゲームを見せた後、そのまま家へ帰ってから続きをやった。

 

もちろん纏には「今日はちゃんと寝な」って言われた。

 

俺も「分かった」って答えた。

 

……答えはした。

 

でも、家に帰ってモニターを見たら、どうしても気になるところがあったんだよな。

 

NPCがプレイヤーのことを覚える。

 

昨日助けてもらった。

 

前に騙された。

 

何度も店を利用している。

 

同じ町で悪さばかりしている。

 

そういう積み重ねが、ちゃんと会話や態度に出るようにしたい。

 

今の状態でもある程度はできる。

 

ただ、どうしても「記録した情報を呼び出して喋ってる」感じが残るんだよな。

 

もっと、本当にその世界で暮らしてる人間みたいにしたい。

 

「……難しいなぁ」

 

椅子の背もたれに寄りかかりながら、画面に表示された会話ログを見る。

 

村人A。

 

『こんにちは。今日はいい天気ですね』

 

その翌日。

 

『こんにちは。今日はいい天気ですね』

 

さらに翌日。

 

『こんにちは。今日はいい天気ですね』

 

「毎日天気の話しかしない人になってるじゃん」

 

いや、別に現実にもそういう人はいるかもしれないけど。

 

俺が作りたいのはそういう意味じゃない。

 

昨日、近所で事件があったならその話をする。

 

雨が降っていれば嫌そうにする奴もいれば喜ぶ奴もいる。

 

好きな人を見かけたら機嫌が良くなる。

 

嫌いな奴が来れば露骨に態度が変わる。

 

プレイヤーが何かしたら、それを覚えていてほしい。

 

そこまでできたら、たぶんゲームの中の町を歩くだけでも面白くなる。

 

でも、その「自然」が難しい。

 

パターンを増やせば増やすほど管理が大変になるし、AIに任せすぎると今度は変なことを喋り始める。

 

「一回頭切り替えるか」

 

こういう時は、ずっと画面を見ててもあまり進まない。

 

それより一回外に出た方がいい。

 

ということで、昼過ぎに家を出た。

 

向かう場所はいつもの超神田寿司。

 

飯も食えるし、ちょうどいい。

 

最近ここへ来る理由が「飯」なのか「気分転換」なのか分からなくなってきたけど、どっちでもいいか。

 

暖簾をくぐる。

 

「こんにちはー。腹減ったから何か食わせて」

 

「アンタは本当に毎回同じ入り方だねぇ」

 

すぐ纏の声が飛んできた。

 

今日も元気そうだ。

 

「だって寿司屋に来る理由なんて腹減った以外にある?」

 

「常連ならもう少し気の利いたこと言えないのかい。あと、昨日はちゃんと寝たんだろうね?」

 

来た。

 

最近、挨拶とセットになってる気がする。

 

「寝たよ。ちゃんと布団にも入ったし」

 

「何時に?」

 

「……朝」

 

「アンタねぇ!」

 

「でも寝たっていう事実は変わらないだろ!」

 

「そういう屁理屈を言ってるんじゃないよ!」

 

頭を叩かれそうになったので少し距離を取る。

 

「まあまあ、今日はちゃんと昼飯食いに来たんだから偉いだろ」

 

「それは普通なんだよ。自分の基準を下げるんじゃない!」

 

厳しい。

 

でも、最近このやり取りがちょっと面白くなってきてる自分もいる。

 

「それで今日は何にするんだい。どうせまたマグロって言うんだろ」

 

「もちろんマグロ。でも今日は他のも食うよ。俺だって成長してるからな」

 

「それで威張るなら最初から偏るんじゃないよ」

 

そう言いながらも、纏は慣れた手つきで注文を通していく。

 

俺が席につくと、少し離れたところに小さな女の子が座っていた。

 

何度か見たことはある。

 

超神田寿司へ来るようになってから、店の中にいる姿はちょくちょく見ていた。

 

ただ、ちゃんと話したことはほとんどない。

 

時間帯が合わなかったり、俺がすぐ食べて帰ったりしてたからだ。

 

たしか、纏の妹。

 

擬宝珠檸檬。

 

年齢を聞いた時はちょっと驚いた。

 

いや、纏との年齢差もそうだけど、本人が幼稚園児とは思えないくらい落ち着いてる。

 

今もテレビの方をかなり真剣な顔で見ている。

 

画面に映っているのは時代劇だった。

 

刀を差した侍が町中を歩いている。

 

「檸檬、それ好きなの?」

 

俺が横から声をかけると、檸檬がこちらを向いた。

 

「遊真か。おぬしも時代劇を見るのか?」

 

いきなり落ち着いた口調で返される。

 

やっぱりすごいな、この子。

 

「見ることはあるけど、詳しくはないかな。でも昔の町並みとか刀とか、ゲーム作る時に参考にすることはあるよ」

 

「ほう。ならば、もう少し見た方がよいぞ。時代劇は勉強になる」

 

「そんなに?」

 

「当然じゃ。侍の振る舞いも、町人の暮らしも、言葉遣いも学べる。もっとも、作品によって誇張はあるがの」

 

幼稚園児から時代考証の話が出てくるとは思わなかった。

 

面白い。

 

こういうの、かなり好きだ。

 

「じゃあ檸檬、時代劇めちゃくちゃ詳しいんだ」

 

「めちゃくちゃとは何じゃ。もう少し品のある言葉を使えぬのか」

 

「そこも注意されるのかよ」

 

俺が笑うと、檸檬は少しだけ得意そうに胸を張った。

 

「わらわは時代劇が好きだからの。まだ知らぬことも多いが、おぬしよりは詳しいと思うぞ」

 

「それならちょうどいいかも」

 

「何がじゃ?」

 

「時代劇のゲーム作ってみる?」

 

檸檬が少し目を見開いた。

 

纏も聞こえていたらしく、こっちを振り向く。

 

「遊真、アンタまた急に何言い出してんだい」

 

「いや、今ちょうどNPCの会話で詰まっててさ。全然違うもの作った方が頭切り替わるかなって」

 

「だからってその場でゲーム作ろうってなるかい、普通」

 

「なるだろ。面白そうだし」

 

「アンタの普通は信用できないよ」

 

でも、一度思いついたら作りたくなってきた。

 

時代劇。

 

江戸風の町。

 

侍。

 

町人。

 

店。

 

橋。

 

屋台。

 

そういうのを小さくまとめて、自由に歩ける程度のものならすぐ作れそうだ。

 

「檸檬、どう? 監修やってよ」

 

「監修?」

 

「俺が作るから、間違ってるところ教えて。建物とか服とか喋り方とか」

 

「わらわが教えてよいのか?」

 

「むしろ教えてほしい。俺、時代劇好きだけど詳しいわけじゃないし」

 

檸檬は少し考えてから、テレビの画面をちらりと見た。

 

そのあと俺を見る。

 

「よかろう。おぬしが真面目に聞くのであれば、わらわが見てやってもよい」

 

「本当? じゃあちょっと待ってて。家からPC取ってくる!」

 

「今からやるのかい!?」

 

纏の声を背中で聞きながら、俺は店を出た。

 

家までは近い。

 

こういう時、近所に住んでて本当に良かったと思う。

 

必要なノートPCと小型の入力機器だけ持って、すぐ店へ戻った。

 

「ただいま!」

 

「アンタ、自分の家みたいに言うんじゃないよ」

 

「近所だし半分くらいそんな感じ」

 

「勝手に店を家にするな!」

 

戻ってみると、檸檬はちゃんと待っていた。

 

俺は邪魔にならない端の席を借りて、ノートPCを開く。

 

「まず町作るか」

 

「適当に作るでないぞ」

 

「分かってるって。だから檸檬がいるんだろ」

 

簡単な地形を作る。

 

道を引く。

 

木造の建物を並べる。

 

橋を置く。

 

人を歩かせる。

 

とりあえず試作品だから細かいところは後。

 

そう思っていた。

 

「遊真」

 

「どうした?」

 

「その家はおかしいぞ」

 

開始5分で止められた。

 

「どこが変?」

 

「屋根じゃ。町家として見るなら、その形は不自然であろう。それに道幅も広すぎる」

 

「なるほど。じゃあこれくらい?」

 

「もう少し狭くせよ。それでは大名行列でも通すつもりか」

 

「いや、プレイヤーが歩きやすい方がいいかなと思って」

 

「時代劇の町を作ると言ったのはおぬしであろう」

 

正論だ。

 

俺はすぐ修正する。

 

「じゃあ、店の前に商品置くのは?」

 

「物による。何でもかんでも外へ並べればよいというものではない」

 

「刀屋は?」

 

「まずその呼び方から直した方がよいのではないか?」

 

「厳しいなぁ」

 

「監修を頼んだのはおぬしじゃ」

 

そうなんだけどさ。

 

でも、面白い。

 

自分の知らないことをその場で教えてもらって、それをすぐゲームに反映できる。

 

こういうのは楽しい。

 

「檸檬、ここの侍どう?」

 

キャラクターを一人置く。

 

腰に刀を差して、町中を歩かせる。

 

檸檬は画面をじっと見た。

 

「歩き方が軽すぎるのう。それと、刀をその位置で差すのは気になる」

 

「ここ?」

 

「もう少しこうじゃ。時代劇でもよく見ておるであろう」

 

檸檬が自分の腰の辺りを使って説明してくれる。

 

俺はそれを見ながら位置を調整する。

 

「こんな感じ?」

 

「先ほどよりはよい」

 

「じゃあ刀抜かせてみる」

 

操作すると、侍がかなり派手に刀を抜いた。

 

檸檬の眉が僅かに動く。

 

「遊真」

 

「今度は何がダメ?」

 

「おぬし、侍が常にこのような勢いで刀を抜くと思っておるのか?」

 

「ゲームなら派手な方が分かりやすいかなって」

 

「何でも派手にすればよいわけではない」

 

「はい、先生」

 

「先生ではない。監修じゃ」

 

こだわるな。

 

でも、その方が面白い。

 

俺は細かく直していく。

 

店の人間を配置する。

 

町人を歩かせる。

 

簡単な会話も入れる。

 

『おう、旅の者かい?』

 

そう表示させると、檸檬がすぐ反応した。

 

「誰が誰に言っておる台詞じゃ?」

 

「店の主人がプレイヤーに」

 

「ならば立場によって言葉は変えた方がよかろう。相手が武士か町人かでも違う」

 

「なるほど。じゃあプレイヤーの身分で台詞変えるか」

 

「そうせよ。誰にでも同じ口を利くのは不自然じゃ」

 

……あ。

 

それ、今作ってる本編のNPCにも使えるな。

 

身分。

 

職業。

 

地域。

 

相手との関係。

 

同じ人物でも、それらによって言葉遣いが変わる。

 

「檸檬、今のいいな」

 

「何の話じゃ?」

 

「いや、俺が今作ってるゲームの方にも使えそう。NPCの会話でちょうど悩んでたんだよ」

 

「わらわはこのゲームの話をしておるのじゃが」

 

「そこから別のアイデア出ることもあるって」

 

「ならば忘れぬよう書いておけ」

 

「はいはい」

 

「返事は一度でよい」

 

纏と違う方向で厳しい。

 

でも、不思議と話しやすい。

 

相手が幼稚園児だからって感じがあまりしないんだよな。

 

普通に詳しい人へ聞いている感覚だ。

 

だから俺も、変に子供扱いする必要がない。

 

しばらく作業を続けていると、気づけば画面の中には小さな江戸風の町ができていた。

 

規模としては本当に小さい。

 

橋が一本。

 

店が数軒。

 

町人が十数人。

 

侍が数人。

 

まだ遊べることもほとんどない。

 

でも、最初よりはかなりそれっぽくなっている。

 

「よし、とりあえず歩けるぞ」

 

コントローラーを檸檬へ渡す。

 

「わらわがやってよいのか?」

 

「監修なんだから実際に見た方がいいだろ。違うところあったら言って」

 

檸檬が操作を始める。

 

小さなキャラクターが町の中を歩く。

 

店へ入る。

 

町人へ話しかける。

 

橋を渡る。

 

それを何度か繰り返してから、檸檬は橋の先で止まった。

 

「遊真」

 

「今度は何か見つけた?」

 

「この先へ行けぬのか?」

 

画面の先。

 

橋を渡った先は、まだ何も作っていない。

 

見えない壁で止まるようになっている。

 

「そこから先はまだ作ってないよ。今日は試しだし」

 

「ならば作ればよかろう」

 

「簡単に言うなぁ」

 

「町がこれだけでは小さすぎる。せめて城下町らしく、もう少し広くした方がよい」

 

「城も?」

 

「当然じゃ。時代劇のゲームなのに城がないとは何事じゃ」

 

「最初は小さい町だけのつもりだったんだけど」

 

「おぬしなら作れるのであろう?」

 

そう言われると弱い。

 

できるかできないかで言えば、できる。

 

時間をかければ。

 

「……分かった。じゃあ次は城下町まで広げる」

 

「うむ。それならばわらわも続きを見てやろう」

 

「檸檬、結構楽しんでるだろ」

 

「監修として責任を持っておるだけじゃ」

 

そう言う割に、さっきから画面を見る目がずっと楽しそうだ。

 

まあ、俺も楽しいからいいけど。

 

「何だ何だ、面白そうなものをやってるじゃないか!」

 

突然後ろから大きな声がした。

 

振り返る。

 

勘吉だった。

 

いつの間に来たんだ。

 

「勘吉、仕事終わったの?」

 

「今終わったところだ。それより遊真、何を作ってるんだ?」

 

「檸檬監修の時代劇ゲーム」

 

「何だと!?」

 

すぐ画面へ食いつく。

 

「おい遊真、わしにもやらせろ!」

 

「今は檸檬がテスト中だって」

 

「少しくらいいいだろう!」

 

「勘吉、これはわらわが監修しておるのじゃ。勝手に触るでない」

 

「檸檬、お前まで遊真のゲーム作りに参加してるのか!」

 

「参加ではない。監修じゃ」

 

ここも譲らないらしい。

 

少しして檸檬のテストが終わると、勘吉にもコントローラーを渡した。

 

「壊すなよ」

 

「何を言う! ゲームは自由に遊ぶものだ!」

 

「嫌な予感しかしない」

 

勘吉は町を歩き始める。

 

数分後。

 

「遊真、この町に米問屋はないのか?」

 

やっぱりそこか。

 

「今はないよ。試作だから」

 

「作れ! 米相場を入れるんだ!」

 

「時代劇ゲーム見て最初に経済考えるの勘吉くらいだろ」

 

「江戸といえば米だろう! 安い時に買って高い時に売れば儲かる!」

 

「ゲームの中でも金の話しかせぬのか、おぬしは」

 

檸檬が呆れた顔をする。

 

「何を言う檸檬! 金はいつの時代も大事だぞ!」

 

「勘吉に任せたら、城下町が数日で滅びそうじゃな」

 

「わしを災害みたいに言うな!」

 

俺は笑いながらメモを取る。

 

でも米相場はちょっと面白い。

 

時代劇として生活感を出すなら、物価の変動もあっていい。

 

「遊真、また勘吉の話を真面目に取り入れようとしてるだろ」

 

いつの間にか近くへ来ていた纏に言われた。

 

「全部じゃないよ。面白そうなところだけ」

 

「勘吉に変な知恵つけられて、昨日みたいに市場めちゃくちゃにされても知らないからね」

 

「その時はまた直せばいいじゃん」

 

「アンタも懲りないねぇ」

 

褒められた。

 

たぶん違う。

 

それから少し経って、勘吉が仕事に戻ると言って帰り、俺もPCを片付けることにした。

 

その時、檸檬が俺を見る。

 

「遊真、先ほど城下町まで広げると言ったことを忘れておらぬな?」

 

「覚えてるって。今度来る時までには何とかする」

 

「町人の会話も増やすのじゃぞ。同じ台詞ばかりではつまらぬ」

 

「そこはちょうど俺もやりたかったところ。檸檬の話聞いて結構思いついたし」

 

「ならばよい」

 

俺は鞄を背負う。

 

そこで檸檬が、少し迷うように俺を見た。

 

「遊真」

 

「どうした? まだ直すところ思いついた?」

 

「おぬしは、昨日勘吉と話しておった『完全没入型VRMMO』というものを本当に作るつもりなのか?」

 

派出所で話したこと、聞いていたのか。

 

「本当に作るつもりだよ。いつ完成するか分かんないけど」

 

「ゲームの中へ、本当に入れるのじゃな?」

 

「それが目標。ちゃんと自分で歩いて、触って、匂いも温度も感じられるようにしたい」

 

檸檬は少し考え込む。

 

「ならば、時代劇の世界も作れるのか?」

 

「できるよ。完成したら何でも作れると思う。江戸の町だって、戦国時代だって」

 

「……そうか」

 

少しだけ嬉しそうな顔をした。

 

「じゃあ檸檬用に時代劇の世界作るよ」

 

「わらわのためにか?」

 

「だって好きなんだろ。だったら本当に江戸の町歩けたら楽しいじゃん」

 

「簡単に約束してよいのか?」

 

「完成したらね。そこまでは頑張る」

 

檸檬が俺を見る。

 

それから、小さな手を差し出してきた。

 

「ならば約束じゃ」

 

「指切り?」

 

「子供扱いするでない。これは約束を確かにするためじゃ」

 

「いや、指切りする時点で――」

 

「遊真」

 

「分かったって。約束な」

 

俺も小指を出す。

 

小さな指と絡める。

 

「完成したら、檸檬が本当に歩ける時代劇の世界作る」

 

「うむ。忘れるでないぞ」

 

「忘れないよ」

 

「もし忘れたら承知せぬからの」

 

「纏みたいなこと言うなぁ」

 

「姉上は正しい」

 

そこは姉妹らしい。

 

翌日。

 

俺は朝一番――ではなく、昼過ぎに超神田寿司へ向かった。

 

PCも持っている。

 

昨日の続きを見せるためだ。

 

「檸檬、できたぞ!」

 

店へ入るなり声をかけると、奥から檸檬が出てきた。

 

「本当に作ってきたのか?」

 

「約束しただろ。城下町まで広げてきた」

 

PCを開いてゲームを起動する。

 

昨日は橋の先で終わっていた町。

 

そこから先に建物が増えている。

 

道が続き、店が並び、町人が歩き、その奥にはまだ簡単な形ではあるけど城も見える。

 

檸檬の目が少し大きくなった。

 

「一晩でここまで作ったのか?」

 

「一晩じゃないって」

 

ちょうど通りかかった纏が、その言葉に反応した。

 

「そうなのかい? それなら少しは寝たんだろうね」

 

「朝までやったから、一晩って言い方が違うだけ」

 

一瞬、店内が静かになった。

 

あ。

 

言い方間違えた。

 

纏の眉がゆっくり上がる。

 

「……遊真」

 

「いや、でも約束したからさ。途中で止めるのも――」

 

「この馬鹿!」

 

頭に一発飛んできた。

 

「痛っ! 何するんだよ!」

 

「何するんだじゃないよ! アンタ、また朝までやってたのかい!」

 

「でも1時間半くらいは寝た!」

 

「それを寝たって言うんじゃない!」

 

「ちゃんと布団入ったぞ!」

 

「時間の問題だよ!」

 

助けを求めて檸檬を見る。

 

「檸檬、俺お前との約束守ったのに」

 

「わらわは朝まで作れとは一言も言っておらぬぞ」

 

「檸檬まで!?」

 

「身体を壊せば続きが作れなくなるではないか。姉上の言う通りじゃ」

 

味方がいない。

 

完全に包囲された。

 

「分かったよ。今日はちゃんと寝るって」

 

「本当に寝るんだろうね?」

 

「今日はさすがに眠いから大丈夫」

 

「眠くなるまで起きてる時点でダメなんだよ!」

 

また怒られた。

 

納得いかない。

 

でも檸檬は俺と纏のやり取りを見ながら、少し笑っていた。

 

その後、改めて檸檬に城下町を見せる。

 

もちろん、また大量に修正点を出された。

 

建物。

 

言葉。

 

配置。

 

侍の動き。

 

町人の生活。

 

でも、それが面白い。

 

一人で作っていたら気づかなかったことが次々出てくる。

 

「遊真、この辺りは昨日よりずいぶん良くなったぞ」

 

「本当? じゃあ監修としては合格?」

 

「まだまだじゃ。城も中へ入れぬし、町人の種類も少ない」

 

「厳しいなぁ」

 

「おぬしが本気で作ると言ったのであろう」

 

「まあ、そうだけど」

 

俺は笑いながら次の修正をメモする。

 

檸檬も楽しそうに画面を見ている。

 

年齢なんて全然違う。

 

好きなものも、たぶん全部同じじゃない。

 

でも、ゲームを一緒に作って面白いと思えるなら、それで十分だ。

 

「じゃあ次、城の中作るか」

 

「うむ。それから奉行所も欲しいのう」

 

「奉行所か。だったら犯罪システムも入れようかな」

 

「勘吉には試させぬ方がよいぞ」

 

「なんで?」

 

「町が滅びる」

 

「そこまで!?」

 

でも、たぶん否定できない。

 

こうして俺には、亀有へ来てからまた一人、変わった友達が増えた。

 

しかも今度は、幼稚園児の時代劇監修。

 

普通なら絶対に思いつかない組み合わせだと思う。

 

でも俺は、こういう予想外が結構好きだ。

 

ゲームもそうだし、人付き合いもたぶん同じなんだろうな。

 

次はどんな町にしよう。

 

城の中も作りたい。

 

町人の会話も増やしたい。

 

檸檬が好きな時代劇も、もっと見た方がよさそうだ。

 

考え始めたら、また作りたくなってきた。

 

……でも今夜は寝ろって言われてる。

 

「檸檬、明日までに城の中まで作ったら怒られるかな」

 

「間違いなく姉上に怒られるであろうな」

 

「じゃあ明後日までにしよう」

 

「そういう問題ではないぞ、遊真」

 

やっぱり厳しい。

 

でも、たぶんこのくらいの方がちょうどいいのかもしれない。

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