祠修繕記:外伝録   作:ジャック・アヴェンダドール

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新しいシリーズです。
狐っ娘と真面目系刀少女が色んな事件に巻き込まれるようなそんなおはなしです。



ストーカーに狙われた女性!嫉妬に狂った者と闇に潜む者 前編

 深夜、とある神社にて、女性が男性に追いかけられていた。暗い夜道で周囲から2人が誰かを知る事は無いだろう。

 息を切らしながら走る女性は顔を見ずとも、息使いだけで恐怖に飲まれている事が分かる。

 追いかける男性も必死の様相で、唯ならぬ状況であるのは明らかだった。

 しばらく境内を走り回っていると女性が転んでしまう。

 男性は走るのをやめて歩いて近づいてくる。その様子は非常に興奮しており、見る者に恐怖感を与えるには十分すぎる程だった。

 ゆっくり近づいて女性を手に掛けようとしたその瞬間、強い光が男性を襲う。

「そこ!何をやっている!」

 現れたのは神社の警備員で巡回をしている所で出くわしたようだ。

 それに慌てた男性は急いでその場を立ち去った。

 残ったのは恐怖に呑まれたままの女性と警備員の2人だけだった。

 

 

 所変わって翌日。緑溢れる綺麗に整えられた神社の境内に目立つ2人組の女性が訪れていた。

 その内の1人がもう1人に声をかける。

「八重狐、私をどうしてここに連れて来た?」

 八重狐と呼ばれた人物は白い長髪の上に狐を思わせる大きな獣耳と、同じく白い九つの大きな尻尾が特に目立つ、褐色肌のジトっとした薄青色の目をした大きめな女性だ。

 少々不機嫌そうにしながら聞かれた八重狐は答えた。

「一つ休息の仕方をと思っての、花子」

 花子と言われた人物は黒い髪を片方だけ三つ編みにした、少々見開いた翡翠色の目をした女性。

 ここまで聞くとまだ普通なのだが、腰には鞘に収まった刀を下げているのが非常に目立つ女性だった。

 余裕綽々といった様子の八重狐に少しばかり苛立ちを覚えながら愚痴をこぼす。

「今日は鍛錬に費やそうと思っていたんだけど」

「そう言って余暇を全て鍛錬に費やしておるそうじゃないか。日課にするのは良いが、それだけに費やすのは良くは無かろう。気を張り詰めすぎた糸は何処かで千切れる物、時には緩めぬと花子、お主もそうなるぞ」

 八重狐にとって花子はどこか危うい余暇の過ごし方をしており、少々説教がましく反論した。

 花子は嫌な顔を隠さず不満な態度を示していた。

 説教じみた事を言われた事と、予定を潰された上に悪びれもしていない様子に苛つきが隠せなかった。

「別に常に張り詰めている訳では無いが……所でこのような場所で何をしようと?」

 花子はもう巻き込まれてしまったので仕方ないと割り切って、この神社に訪れた目的を八重狐に問う。

 八重狐は目を細めて本殿の方へと視線を向けて答えた。

「例の祠との関連を調べにの。月野稲荷神社は大昔からあって、ここら一帯の総本山のような立ち位置の稲荷神社になっておる。もしかしたら、あの祠の総本山もここであるかもしれぬからのう」

「例の祠って?」

 花子は八重狐の言った例の祠とは何なのか分からなかった。

 本殿に向けていた視線を目を開いて意外そうな表情で花子に移した。

「そういえば花子には言って無かったか。我が今調べている祠は今や朽ち果て切って、残ったのがほんの僅かな物しか無くての。せっかく見つけたからには修繕してみようと思ってやってはいるが、いかんせん資料が無くて探さねばならなくてのう」

 八重狐は花子に説明した。彼女は偶然見つけた小さな祠の残骸から気まぐれがきっかけで、修繕しようとしている。

 その過程で色々な出会いがある事から今も続けて資料を探している所だ。今回の神社探訪もその一環で訪れていた。

 そこで花子はふと疑問に思った。

「本当にあるんだろうか?」

「無いと決めつけて来ぬよりも、無かったという事実でも見つけた方が良かろう?」

 その疑問に答える八重狐。彼女は少しでも祠と関連がありそうならば、調べておきたい性質だった。

 というのも八重狐が今修繕しようとしている祠は道端にかつてあった物が朽ち果てた物で、明確な資料が存在しない物であるが故に、僅かな可能性でも拾わなければならなかった。

 そんな様相を隠してはいないが、見せない八重狐は花子に催促した。

「兎にも角にも、まずは見て回ろうぞ?」

「ちょっと待って……!」

 境内を進んでいく彼女に慌ててついていく花子だった。

 

 

「まぁ分かってはおったが、分社の場所までは分からぬか」

「そもそも分かるように出来ているの?」

 あの後、境内を見て回ったが記述に周辺地域に分社自体はあるものの、何処にどれだけあるのかが分からなかった。

 ある程度調べがついたので、神社を出て適当に散策する事にした八重狐と花子。

 今は何となくで迷い込んだ住宅街を歩いている。普通の家屋と喫茶店、そして一部区域にはマンションが並ぶごく一般的な住宅街だ。

「ふむ、そろそろ一休みとするかの。何処かに茶屋は……ん?」

 八重狐は飲食店を探そうと周りを見渡した。そうしたら何か違和感のある光景が目に入った。

 女性が早足で歩いている後ろを男性がこっそりと、というにはかなり近い状態だが追いかけており、女性の方は尾行に気付いているのか非常に焦りや恐怖を感じる様相で逃げていた。

 女性は確かにスタイルも程々に良い美人ではあったが、特別目を惹くような感じはしなかった。

 八重狐はその光景を見て独り言を落とす。

「ふむ、これも縁と言えるか。悪縁の類やもしれぬがの」

「……どうするつもり?」

 発言の意図が読めない花子。八重狐の視線の先を見て状況は把握できたものの、それでも意図が読めずにいた。

「花子、紙人形(かみにんぎょう)を一枚くれぬか」

「何に使うつもり?」

 八重狐の要求に従って簡易的な人の形をした白い紙、彼女達が紙人形と呼んでいるそれを渡す花子。

 何に使うのだろうか?と思い率直に聞いてみる。

「ちょいとの。それよりも花子はあの女子(おなご)を引き連れて出来る限り遠く逃げよ。我は後ろの男を引き止めようぞ」

「……分かった」

 花子は用途をはぐらかされたばかりか、指示をしてくる八重狐に不満を感じつつも従う事にした。

 

 相変わらず後ろから男に追いかけられている女性。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

 ペースを上げて歩いていた事と追いかけられる恐怖のせいで息が上がっており、とても正気とは思えない状態だった。

 あの男は何処まで追いかけて来るのか?どうしてここまで追いかけて来るのか?それが分からずただただ逃げるだけだった。

 そんな最中、突然腕を掴まれた!

「っ……!」

 誰が掴んだのか分からないまま引っ張られて交差点を左に曲がって、走らされる。

 ふと後ろを見ると男が追いかけて来ないのに気づく。

 では今、手を引っ張ってるのは誰なのだろうかと見上げると、そこには肩までかかる黒髪と鞘に収まった刀を持った少女が居た。

 どういう事なのか全く分からないまま、2人はどんどんと急いで、少し離れた公園に入った所でようやく手を離した。

 その時にはすっかり息が上がり切っており深呼吸しながら、少女の方にじっと視線を移した。

「上手くいったみたい」

 後方を確認する少女はその視線に気付いて女性の方へ向く。

「貴方は一体……」

「花子。ある人の命で連れ出した」

 花子は表情を変えずに告げた。余計困惑する女性を横目に周辺を警戒する花子は、ある脇の方の一点に視線を向けた途端に険しい表情をする。

 そして刀を構えていつでも抜刀出来るように待ち構える。何かが影から出てきた瞬間に居合の要領で切り掛かった!

 だがその切先は影に届く事なく直前で止められた。

 目を見開く花子の視線の先には、褐色肌に白い狐の耳と九尾を生やした女性が手に持っていた閉じた扇子で事もなげに止めていた。

「我じゃよ花子」

 その言葉が狐耳の女性から聞こえた時、花子は少し後ずさってから刀を収め、ため息を吐いた。

 花子はジト目となって問い詰める。

「……八重狐(やえこ)か……尾けられてない?」

「狐は化かす者ぞ、アレなら見当違いの方へ行ったわ」

 その視線をものともせずに余裕綽々といった表情で返す八重狐。その光景に女性は未だ追いついていなかった。

「あの……今何が起きているんですか?」

「ふむ、立ち話もなんだし茶屋に案内しておくれ。そこで色々とな」

「あ、はい。じゃあこっちに」

 女性は何もかも分からないので八重狐に従って、喫茶店に2人を連れて行く事にした。

 そんな最中、花子は八重狐に質問をする。

「でもどうやって撒いてここに来れた?」

「あぁそれはじゃのう」

 八重狐は先程の事を思い出しながら語り出した。

 

 

 -女性と花子が接触する前-

 八重狐は男性に強引に話しかける前に懐中時計を開けて念を込める、するとたちまち姿が変わり狐の尾と耳が無くなり、髪の色も黒く染められる。

 僅かな時間ではあったが、そこには白い髪の狐の女性の姿が無く。普通の黒髪の人間がそこに居た。

 人間に化けた八重狐はそのまま男に話しかけた。

「あのぉすみませんちょっといいですかぁ?」

「忙しいからどっか行けよ」

 男はひどく興奮しながら声を荒げながら八重狐を無視しようとした。

 がしかし、困った顔をした八重狐は引き下がらずに問いを続ける。

「この辺に山羊桜(やぎざくら)とか言う店があると聞いていたんですが、道に迷ってしまってぇ」

「知らねぇよそんな店!どっか行けよ!」

 激昂してきた男性。元からではあるが、更なる怒気を八重狐にぶつける。

 しかしそれでも気にせずに困った顔を作りながら話しかけ続ける八重狐。

「でも話しかけられる人が貴方しかいないんですよぉ」

「はぁ⁉︎あっちにもい……ぁあ⁉︎」

 男が大声で指差した先には誰も居らず、虚空に指を向けていた。

 ターゲットを見失った男はブチギレて八重狐に掴み掛かろうと振り返った。

 だがそこには八重狐の姿は無く、男はその場に1人となった。

 

 

 -現在-

「という事じゃ」

「この状況を楽しんでいる?」

 八重狐の説明に思わずツッコむ花子。

 追っていた男は恐らく怒り心頭で女性の事を探しているだろうと思いながら、花子達は女性の後をついていく。

 その間にも花子の疑問は尽きない。

「それでどうやって私達の居場所を当てたの?」

「あぁそれはコイツじゃ」

 八重狐が取り出したのは一枚の紙人形(かみにんぎょう)だった。

「これにお主の気配を追わせておいたら一発じゃったよ」

 そのまま花子に紙人形を返す。彼女は受け取ったまま見つめる。これにそういう使い方もあるのかと思いながら、懐にしまった。

 そうこうしていると女性は立ち止まる。

「ここです」

 どうやら喫茶店に辿り着いたようで、2人は外観を見てみる。ぱっと見は普通の家屋で入り口の小さな看板が無ければ誰もここが喫茶店だとは気付かないだろう。

「友人の家とかではなかろうな?」

 思わず八重狐がそう聞いてしまう程に、隠れていた店で知名度が一切ないと言い切れそうだった。

 それに対して女性は反論をする。

「もちろんちゃんとした喫茶店ですよ」

 そう言って手慣れた様子で中に入る女性に続いて八重狐と花子も中に入った。

 

 

 中は木目調があしらわれたテーブルや柔らかそうなソファが並べられている、非常に落ち着いた雰囲気となっており、コーヒーの匂いと共に喫茶店である事は疑いの無い場所だった。

 八重狐は表の様相との違いに少しばかり驚いていた。

「外からは想像もつかぬのう」

「隠れた店……隠れすぎているとは思うけど」

 花子も顔には出さないが驚いてはいた。

 店員の案内を待つ前に女性は奥のテーブルに向かった。

 常連なんだろうか?と思いながら2人もそれに追従する。

 席に座った頃、店主と思わしき初老の男性がおしぼりと水を持ってきた。

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりで?」

 女性はアイスコーヒーを頼む。それに八重狐が乗っかり花子はコーヒーが飲めないので紅茶を頼んだ。

「承知しました。しばらくお待ちください」

 そう言うと店主は早速飲み物を淹れに行った。

 離れたのを見計らって女性は口を開いた。

「先程はありがとうございました。でもどうして私を助けようとしたんですか?」

 礼と疑問を同時に出す女性。関わりが皆無な彼女達が何故自分を助けたのかがどうしても気になった。

 八重狐は扇子を広げて仰ぎながら答えた。

「偶然見かけたからの。気紛れに助けたにすぎぬ。所でお主、名はなんと?」

「私は宇部 柳子(ウベ ヤナコ)と言います。お二人は確か花子さん?と……」

「あぁまだじゃったの。我は八重狐じゃ」

 宇部の問いに肯定する花子と名前を言うタイミングが無かった八重狐が自己紹介をした、そのタイミングで店主が飲み物を持ってきた。

 

「お待たせしました、アイスコーヒー2つとアイスティーです。ごゆっくりどうぞ」

 コーヒーとアイスティーを一口飲む。味は確かでスッキリとした物を八重狐(ヤエコ)は感じた。花子(ハナコ)のアイスティーは少々甘めにされているようで、少し多めに飲んでいた。

 そんな所で八重狐は話を再開する事にした。

「さて、ウベよ。お主は何故追われておったんじゃ?」

「何故なのかは分かりません。……実は数日前から追われていて……この前は神社で襲われそうになったんです。その時は警備員が駆けつけたので助かりましたが……」

 ウベはその時の様子を思い出して顔を顰めた。

 八重狐はその様子を見て本当にのっぴきならない事があった事を察した。そして神社というワードから何処の神社なのかが分かった。

「もしかして月野稲荷神社かの?」

「あ、はい。そこです。どうしてそれを?」

 ウベは疑問に思った。何故八重狐は場所を言い当てられたのか?神社以外の事なんて言っていないというのに、だ。

 八重狐はすぐにその答えを出した。

「この辺りで夜に警備員がおるのはそれなり以上の大きさの神社しかあらぬ。そしてそれに当たるのが月野稲荷しか無いからのう。これぐらいの推察なぞ朝飯前ぞ」

 そう豪語する彼女はコーヒーを一口飲む。無意識に花子と宇部も同じように飲んだ。

 そして今度は中指を曲げて顎に当ててから、少し前に乗り出して目を鋭くさせた八重狐から質問が飛び出した。

「それで何故夜の月野稲荷なぞに行ったんじゃ?あまり行く物でも無いじゃろうに」

 彼女のその質問に宇部は静かになる。答えられない事情でもあるのだろうか?と思う八重狐と花子。ただ自身に被害が出掛かっているのに黙っているとなると、妙な気がした。

 そこで八重狐はどうやって聞き出そうかと思っていると、今まで沈黙を保っていた花子がそれを破った。

「何か知られたく無い事でもある?」

 その質問は最初、八重狐もしようとしたが、あまりに直球なのでもう少し遠回しにしようと頭の中を巡らせていた物だった。

 そんな直球な質問をした所でウベの反応も彼女には読めていた。

「……」

 無言を貫くウベの様子に内心頭を抱える八重狐。小声で花子に注意をする。

「花子よ、もう少し遠回しな聞き方をせぬか。無理やり暴こうなぞ無理筋の道理である事を覚えよ」

「これ以上の聞き方はある?」

 花子の言葉に八重狐はウベの様子をみる。

 彼女は無言を通すのみで否定も肯定もしない。話したく無いと言った様子で、そこから何かを隠しているようには見えた。

 だがその何かを聞き出せなくなってしまったのが、八重狐にとって痛手だった。聞き出せれば今後の動きようもあったのだが。

 彼女は一旦目を閉じてコーヒーを飲み干す。

「まぁ、無理に話すことも無いのも事実。じゃが1人で抱えるにはちと重過ぎる事もあろうが……そうじゃの、話題を変えるとするかのう。お主、我らについて何か聞きたいことはあるかの?」

 これ以上は埒が開かないと見た八重狐は、話題を変える事にした。

 

 非常に遅いアイスブレイクという所で場を一旦緩ませようと言う目的があった。

 早速、ウベは食いついてある事を聞いてきた。

「あの、八重狐さんは“シュガードール”……ですよね?」

「うむ、その通りじゃ。ついでに言うと花子もそうじゃ」

 八重狐の発言に納得と驚きの両方の様子を見せるウベ。

 八重狐はもとより花子は実は人間では無い。“シュガードール”と呼ばれる()()()()()である。

 人と同じように感情を持ち、動く彼女たちは主に今八重狐達が居る街の隣町を中心に周辺地域にて人と共に暮らしている。この辺りでは極ありふれた存在である。

 だからこそ、ウベはさらなる疑問を持った。

「え?じゃあオーナーさんは一緒じゃ無いんですか?」

「あやつなら今頃デスクと格闘しておる所じゃろうよ。すまぬ!アイスコーヒーもう一つ頂けるかの」

 八重狐はオーナーの現状をサラッと言い放った後に追加で注文した。

 奥にいた店主は了承するとコーヒーを淹れ始めた音がした。

 ウベは困惑した。というのもシュガードールは外に出る時はオーナーにべったりな事が殆どだ。

 だからこそ聞きたかった

「じゃあなんでここに?」

「調べ物をしておっての。個人的な趣味で色々と1人で行っておるんじゃよ。してウベはこの時間にこうしておるという事は学生……大学生かや?」

 八重狐は事も無げに答える。それでもやはり納得は行かない様子でウベは彼女達を見つめ、ついでに質問にも答える。

「はい、近い所にある大学に通っています。……でも人形(ドール)ってオーナーに強く影響される物だと思ってたけど、そうじゃないんですね」

「うむ。まぁこれは我らが居る所が色々特殊なせいじゃの」

 背もたれへの圧力を強める八重狐はいつの間にか扇子をしまって腕を組んでいた。

 ウベは兎に角、質問を続けて深掘りしようとしていた。

「特殊……ですか?」

「なにせ我らの所におる人形(ドール)の中には図書館をやっておってのう。花子もそっちが本業じゃよ」

 八重狐が花子に視線を向けるのに合わせて、ウベも視線を彼女に向けた。

 2人の視線に困惑した花子はとりあえず会釈をした。

 ウベは視線を八重狐に戻して質問を続ける。

「もしかしてオーナーさんがそこに深く関わっているんですか?」

「いや、今は殆ど介入せず人形(ドール)だけでやっておる。そこの館長殿も我や花子と同じオーナーを主とした人形じゃ」

「……もしかして“夢見る図書館”……という場所ですか?」

「その通りじゃ」

 話しているうちに噂を思い出したウベの答えにあっさりと肯定する八重狐。実は夢見る図書館は人形だけで運営されているという話が広まっている。

 そこの人形は個性的で生き生きとしているとも噂されていた。

 そんな存在の一端が目の前にいるとは思わなく、ウベは目を白黒させ続けていた。

「本当だったんですね、あの話」

「そも隠しておらなんだ。機会があったら行ってみると良い」

「え、あぁ、はい」

 

 話に区切りがついたタイミングで店主がコーヒーを持ってきた。

「お待たせしました。アイスコーヒーです……そちらの方の人形(ドール)では無かったのですね。てっきり迎えられたのかと思いましたが」

「……盗み聞きとは感心せんのう」

 頭を下げる店主に言葉とは裏腹に八重狐(やえこ)はニヤついた表情で返す。

 聞かれて困る話では無いので余裕のある対応だ。

「失礼致しました。どうにも静かなのでつい聞いてしまって……」

「まぁ良い。側から見ればそうも見えよう。して、ウベはここの常連かえ?」

「えぇ、よくご来店されますよ」

 少し恥ずかしくなったウベは僅かに残ったコーヒーを一口で飲み切った。

 八重狐もコーヒーを一口飲み、彼女の様子をみる。店主の発言への反応から目立ちたくは無いように見えた。

 ウベは大学生だと言っていたが()()()()()のトラブルなのだろうかと邪推してしまう八重狐は、それならば本人の口からは絶対に開かないと思い後で別のアプローチを仕掛けようと思った。

 数刻の沈黙の後、店主はごゆっくりと言って去る。

「まぁそろそろ行くがの」

 八重狐は小声でそう言うと、残りのコーヒーを数回に分けて飲み切る。花子のアイスティーはとうの昔に飲み切って、彼女は練習がてらに紙人形(かみにんぎょう)を掌の上で回して遊んでいた。

「花子、そろそろ行くかの」

 八重狐の問いに頷くと懐に紙人形をしまう。

 ウベも慌てて立ち上がり2人の前に出る。

「ここは私が支払いますよ。お二人に助けていただいた礼もしたいのもありますし」

「いや、我の分は自分で払う。2杯も飲んでしまったのでな。……そうじゃのう花子の分だけ願おうかの」

 ウベの提案を断る八重狐。流石に2杯分も奢ってもらう訳には行かないので、花子の分だけに奢ってもらう事にした。

 当の花子は財布を取り出そうとしたが、八重狐に手首を掴まれてしまわされた。

 花子が八重狐の方へ顔を向けると彼女は首を横に振った。

 そんなやりとりを見ていないウベは納得はしていないが理解はした様子だった。

「分かりました。じゃあ花子さんのだけ支払いますね」

「ご馳走様……」

 花子は礼を言うとウベは笑顔で会釈してから会計を済ませる。

 その後に八重狐も会計を済ませて外に出た。

 

「本当にありがとうございました」

 頭を下げるウベ。顔を上げさせる八重狐は一つ心配な事があった。

「全然構わぬが、しかしあの様子じゃまたお主を狙うのではないのかの?」

「……多分そうだとは思います。けどここからは私の問題なので……」

 ウベは八重狐の心配を受け取った上で拒否した。

 あくまで自分の問題だと言う彼女は、少し無理のある微笑みを見せた。その様子にため息をつく八重狐。

「まぁそう言うのであれば仕方はあるまい。……気をつけるのじゃぞ」

「はい、では失礼します」

 ウベを見送った八重狐は花子に声を掛けられる。

「……あれじゃまた襲われる」

「重々承知しておる。我らが勝手にやれば問題はあるまい。さて、月野稲荷に向かうぞ?」

「分かった」

 ニヤつきながら行動方針を決めて行く八重狐に花子はついて行く事にした。

 最初は関わる事に否定的だった花子の中で、このまま何もせずにウベが襲われると目覚めが悪くなるという想いが強くなっていた。




キャラ紹介
八重狐
白い髪と九尾と青いジト目と褐色肌。めっちゃ濃い。
年齢不詳の狐で色々推理出来る人物。
見た目古風でもスマホなんかは普通に使えるどころか色々とやれるらしい。
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