果たしてウベは助かるのか?そして薬物に関わった人間との戦いが待ち受けている中で花子と八重狐は戦えるのか?
ウベは神社に向かう途中、ある事を思い出していた。
あの時は大学の中でも
それが麻薬の売買だと気付いたのは後だったが、それでも見られた事に怒り、追いかけられた。
『ヤナコだけでも逃げて!』
そういってタクマが囮となったお陰で自分は逃げ切れた。
しかし、その後から脅迫やストーキング行為を受けたりしだして命の危険がすぐそばにあった。
自分が逃げられなかったせいでタクマも自分も危険に晒されているという現実に、打ちのめされそうになっていた。
そしてそれは他人に言ったらその人に危険が及ぶかもしれないと思い、1人で抱えようとしていた。
誰かに言えばその人も危険に晒される。今日出会った八重狐と花子も例外では無い。だから自分だけで行かなければならなかったのだ。
彼女の脚は確実に神社へと向いていた。
夜の神社、月明かりだけが照らす境内にウベは居た。
その手には携帯電話が握られており、誰かを待つような仕草をしていた。
そして月明かりだけと言う事は、近づく誰かの影も映らない。誰かがゆっくりと後ろからウベに近づく。その右手には金属バットが握られていた。
一歩づつ近づいて、真後ろについた時に右手を振り上た!
だがその瞬間に何処かから飛んできた何かが顔に張り付いた!
「うわっなんだコレ!」
「え?……キャアァ!」
男の声が上がり、慌てて後ろを向いたウベは右手に挙げられたバットを見て怖くなり、尻餅をついてしまう。
引き剥がそうとしている間に影からもう1人が走ってくる。軽快な足音を奏でながら疾走して来たのは花子だった。
ウベと男の間に割って入る。既に抜刀しており、その切先は男の方へ向けられていた。
そして視線はウベの方へ向け一言。
「早く逃げて!」
その声で逃げようとするウベ。だが回り込むように別の男達2人が行手を塞ぐ。その手には鉄パイプを持っていた。
あれを喰らえば人形とて無事では済まない。
それを見た花子は苦々しい顔をして、上段構えを解かないまま周りを警戒する。
そしてウベを最初に襲った男に見覚えがあった。
「お前、昼間のストーカーか!」
「ちっ見られてたか、だが都合がいい。おい!全員こっち来い!」
男の号令でさらに男の増援が現れて合計10人が花子とウベを取り囲んでいた。全員それぞれ武器になるものを持っている。
まさに四面楚歌と言った状況で今にも襲い掛かろうとした時!
「
何処かから嘲笑うかのような声が聞こえてくる。
男達は周りを見渡し声の正体を探ろうとするが、何処にいるのか分からない。
「あまつさえ、この神聖な場で人を殺めようとは罰当たりにも程があろう」
木陰からゆっくりと歩き出て、月明かりに照らされた八重狐に全員が視線を向ける。
緊迫した雰囲気に似つわしくない歩き方に、男達全員が警戒をして動けなくなる。
その中で男の1人が声を荒げた。
「だ、誰だ!お前は!」
「知ってても意味は無かろう?今から討ち倒されるのだから」
「なんだとぉ?」
荒げる男の声とは裏腹に八重狐の声は落ち着き払っていた。
その堂々とした振る舞いに男達は固まる。八重狐は動かない男達を見て歩きながら叱責を続ける。
「汝等は大学で麻薬を売っているのと、買っておる者じゃろ?」
苦々しい顔をする麻薬犯罪者の男達。どうやら図星のようだ。
「売った側は金が貰え、買った者は一時の快楽に溺れ、依存体質になる。そうしておった所に、そこにおるウベと彼氏のタクマに見つかった。引き込めれば良かったのじゃろうが、その前にタクマが警察に連絡をしようとしたのを、無理矢理止めて、殺したか監禁したかと言うところじゃの。その間にウベを逃しての」
たじろいだ麻薬犯罪者の男達の様子を見るに大体合っているようだ。
その間にも八重狐は歩みを止めず、麻薬犯罪者達の方へ向かっていく。
「そして、逃げたウベが通報出来ないようにタクマを通じて脅迫しておった。そこからするとまだタクマは生きておるじゃろ。なれば一度だけ聞く」
八重狐は歩みを止めて1人の男に目を向ける。最初にウベを襲おうとした男だ。
花子は反対側へ移動して、八重狐が今度はウベと男の間に挟まる。
そして目を見開き、鋭く睨みつけて声のトーンを一気に下げた。
「……タクマの居場所を教えよ」
そう命令された男は一瞬首を傾げたが直ぐに元に戻して身体を前に曲げて、笑い出した。
「ククク、アッハッハハ!アァーハッハッハッハ!知らねぇよそんなもんはなぁ!」
「……あくまでもシラを切るつもりか」
大笑いして嘲る男に対して八重狐はため息を吐いた。
やはり下衆は下衆であると再認識した。
「花子よ、警備員が来るまで持たせるぞ」
「あ?来ねえよ」
「なんじゃと?」
花子への指示を聞いていた男がニヤついた顔で言って来た。
睨みをさらに鋭くする八重狐。男はそのまま続けた。
「先に潰したからなぁ!ここには来ねぇよ!アッヒャャヒャヒャヒャヒャ!」
「……だ、そうじゃ花子よ。どうやら我ら2人で此奴ら相手にせねばなるまい」
「……余裕」
「そうであろうなぁ」
表情を変えずに自信を表した花子と当然だろうと微笑んだ八重狐の様子を見て、苛立ちを隠さない男。
「あぁ?女と人形が調子乗ってんじゃねぇぞ!」
嘲た男は苛立った声で高らかに宣言をした。
「おい!コイツら全員始末したら今度の
その一言で殺気が溢れてそれそれバットや鉄パイプを構える。
それを見た八重狐はゆっくりと懐から扇子を取り出して前に突き出す。
花子も刀を持ちながら
八重狐はトーンを落としたまま、こう言い放った。
「天におわす稲荷神に代わり……天誅を下さん」
「おい!やっちまえ!」
男の命令のままに八重狐と花子に麻薬犯罪者達が襲いかかってくる!
花子は素早く反応して紙人形を投げてから前進し、八重狐はゆっくりと扇子を構えながら前に歩きだした。
花子側はまず2人の男の顔に紙人形を貼り付けて動きを封じ、その間に刀を素早く振り抜いて叩き切る!切られた男2人は痛みからそのまま倒れ込んだ。
「っらぁ!」
背後から別の男の1人が上から鉄パイプを振り下ろしてきた、その声を察知して花子は刀で素早く相手の持っている鉄パイプを弾く!
「……っ!」
鬼気迫る表情で切り返して袈裟斬りをお見舞いすると、襲った男が倒れた。
そして切先を次の目標である2人のバットを持った男達に向けると、一瞬竦んだ様子を見せる。
「あっあぁ……うわぁぁぁ!」「ああぁぁ!」
だがすぐにやぶれかぶれになり襲い掛かって来た!
1人がバットを振り上げたまま、もう1人も突撃して全力で花子の方へ走ってくる。
その顔は何処か恐怖を覚えた顔をしていた。
「ふぅ……」
花子は少し息を吐くと、懐から一枚の紙人形を取り出してバットを振り上げている方へ投げる。
その紙人形が男の顔に当たり、突進のスピードが落ちた。
その間にもう1人の全力疾走してくる男もバットを持ち上げて殴りかかろうとしている所に、花子はステップを踏んでバットを避けながら右から左へ横一文字に切り込む!
返す刀で紙人形を貼った男も左上からの袈裟斬りを喰らわせようとしたが、僅かに相手の方が速かった。
「あぁぁ!」
咄嗟に避けた花子だったが、今のを受けたら確実にやられる。そう確信して冷や汗をかく。
少しだけ距離を取り直して今度は花子から動いた!
勢いをつけて刀を突き出し、相手の腹目掛けて飛び込んでいく!
相手はその勢いに反応が遅れてモロに直撃を受けた!
花子の突きの一撃を受けた男は自分の腹に手を添えながら、前に倒れ込もうとしたのを花子が突き放して仰向けに転がした。
最終的に花子の周りに広がるのは5人の男達が倒れ伏した姿だった。
一方八重狐。ゆっくりとした歩き方でそれぞれに睨みを効かせて牽制していたが、痺れを切らした1人が後ろからバットを持ち上げて襲い掛かって来た!
「おらぁぁぁぁぁ!……うわぁっ!」
八重狐は後ろを見ずに半歩ずらすと、ちょうど振り下ろした男がつんのめる!
無防備な背後を晒した男に八重狐は扇子をスナップを効かせて首筋に打ち込むと、倒れ込んだまま動かなくなった。
振り返った八重狐と倒された男を見て、残った3人は怖気ついて後退りするが、意を決して飛び込んでくる!
「死ねオ、がぁ⁉︎」「っな⁉︎……グォ⁉︎」
だがそんな切先は届くはずもなく、鉄パイプで殴りかかった男を扇子で最も容易く捌いた!
直後に別の男がこれまた鉄パイプで殴りかかってくるのをいなし、脳天に一発扇子を打ち込む!
「やろぉ!あぁ⁉︎」
その直後にバットを持った男が八重狐に襲いかかってきたが、軽く避けられた上に進路上には、先程1番最初に捌いた仲間の男がおり……
「ぐあぁ!」
見事に脳天にクリーンヒット!
当然当てられた男は起き上がらなかった。
仲間に脳天直撃を喰らわせた男も背後から八重狐の一撃で倒された。
これで4人倒されて、残りは1人だけになった。
残った1人は昼間にウベをストーキングし、他の男達に号令をかけていた人物だった。
そこにゆっくりと八重狐と花子が歩き迫ってくる。
その姿に男は恐怖を覚え、逃げ出そうとするが……
「……逃がさない」
花子の投げた紙人形が男の脚に張り付き引っ張る。すると男は顔からすっ転んだ。
八重狐はその光景を滑稽に思いながらも、扇子を軽く手に叩いて宣告する。
「もう遅いぞ、逃げられはせぬ」
「あ、あのっ許してくださいっ!もうしません!だから助け」
男が命乞いを言い切る前に花子が紙人形を投げて口に当てて黙らせた。
八重狐は扇子を口元に当てて片目で花子を見つめる。
「此奴には聞かねばならぬ事がある。鬱陶しいのはわかるが口の紙人形を外してたもれ」
少し八重狐に不服な顔をして、口に貼った紙人形を外す。
ただ外すのでは無く引っ付かせたまま無理矢理引っ張るような形で剥がしたので、痛みを伴ったようだ。
心配なぞ僅かにもせずに八重狐は尋問を始めた。
「さて、まずはうぬよ。お主が麻薬売買の元締めよな?」
「は、は、ハイ!」
男は恐怖から吃りが起きていた。顔が引き攣り続けている辺りから相当精神に来ているようだ。
「なれば何故、そんな事を?金か?」
「………………」
バツが悪そうに顔を逸らし、無言になる男に対して八重狐は苛立ちが隠せなくなって来た。
「答えよ!」
「ヒィ⁉︎ハイ!そうです!女遊びをする金欲しさにやりました!」
一言八重狐が大きな声で問いただすと、男は動機を吐いた。
思っていた通りのくだらない理由での犯行に内心呆れ気味な八重狐は、思わずその動機に対して愚痴をこぼした。
「くだらぬ理由で大勢を巻き込みよって、何処までも自分勝手な奴よの。なぁ?花子よ」
「……あまりに身勝手。
反面花子は怒りをそのままぶつける。その切先は男に向けられていた。
それに男は過剰に反応した。
「ヒィ⁉︎」
「……それとタク」「見つけた!」「え?」
花子がタクマの事を聞き出そうとした瞬間、予想外の声が境内に響いた。
目を見開いて驚く八重狐と花子は声がした方へ顔を向けると、そこに居たのは先程話したタクマのストーカーだった。
思わず八重狐は聞いてみてしまう。
「お、お主何故ここに?」
「貴方達がタクマさんの事を知ってそうだから追っただけ。それよりも、おい!タクマさんは何処だ!」
ストーカーは簡潔に理由を述べた後に男に詰め寄って思いっきり揺さぶる。
「な、な、なん、だこ、この、女!」
「何処だ!言え!」
「わ、わか、分かった!アイツは五丁目の廃倉庫に居る!」
「五丁目の廃倉庫ね!」
聞きたいことを聞いたタクマのストーカーは力強く突き放すと急いで神社から出た。その時の衝撃で男は頭部に当たり気絶したようだ。
その光景を目にしたウベも急いで彼女を追いかけて神社を出た。
それを見た八重狐は目を点にしながら、感想が溢れた。
「アグレッシブになったのうあ奴」
「別の問題が起きそうだけど」
「そこからはタクマとか言う奴がやる事よの。我らも退散するかの」
八重狐は扇子を開いて仰いでいつものゆるいジト目に戻り、花子も刀を納め帰路についた。
時は子の刻。神社は天誅を下された者達だけが残されていた。
数日後、八重狐はまたも花子を図書館から引き連れて月野稲荷神社に訪れていた。
目的としては境内内で戦い、勝手に稲荷神の代理を名乗った詫びとして賽銭しに来たという所だ。
緑溢れる境内の中、草木の香りで癒されながら回っている最中、八重狐は雑談として花子に話しかけた。
「しかし花子よ、存外大事になったのうあの事件」
「……図書館の地元紙で見た。流石に心配されると思って当事者だとは言えなかったけど」
「まぁあの図書館の者達ならそうであろうな。それに我にも飛び火しかねんからそうしておくれ」
数日前とは打ってかわって穏やかな様子で周る2人。
事件があったにも関わらず、人は前よりも増えたような気がしていた。
「あんな事あったのに増えてる?」
「天誅が下ったとかで話題なんだそうじゃ。我らのせいでとはならずによかったわ」
「……それはそうかも」
実際にあんなことがあったら参拝客が減りかねなかったが、倒れていた人間が警備員一名除いて全員悪人だった為かそうはならなかった。
それは2人にとって運が良いと言える事ではあった。
そんな雑談を重ねていると、見覚えのある女
その光景を見て八重狐は揶揄ってやろうと接触し声をかけた。
「お主がタクマか。ククク、両手に花よのう?」
「え?貴方は?」「あ、八重狐さn」「何よあんた!」
突然話しかけられて困惑するタクマ。
数日ぶりに出会って挨拶しようとしたウベ。
そしてなんと、タクマのストーカーだった女性がタクマを守るように間に入っていた。
「警戒しないでよ
「何よヤナコ!ってあの時の狐!」
目の前でのやり取りから八重狐は、何か凄まじく仲良くなってないか?と思っていた。
「うむ、八重狐じゃ。隣におるのは花子。しかしトモカよ。お主どうしてここに?」
「あの後、廃倉庫にヤナコと行って、礼を言われて……それで一緒に居ても良いって言われたのがきっかけ……だから八重狐のお陰……かも」
少し顔を赤くしたトモカに八重狐は深く詮索はしなかった。
それに自分のお陰と聞いて内心複雑な思いもあった。
「ふむ……まぁ色々あったんじゃろうが、良かったのか?特に恨まれておったウベよ」
「まぁ悪い人じゃ無いから……」
「お話したら結構良い子だったから許しちゃった」
殺しも視野に入れた恨み言の筈なのに、ウベが存外軽く済ませたのが芯の強さなのか、もっと別なのか八重狐には分からなかった。
「軽いのう。まぁそう言うのであれば良いかの。じゃあ我らはもう少し回っていく故、また縁があれば会おう」
「はい!」「あ、はい」「もう無いかもだけどね」
「じゃあ、お幸せに〜」
それぞれウベ、タクマ、トモカが返事をしたのを聞いて八重狐と花子は3人と別れた。
「しかしああ言う事もあるんですね」
「いや、あれは相当特殊じゃろ」
花子がトモカに関する純粋な疑問を八重狐にぶつけるが、彼女も少し困惑した様子で返した。
実際あまり無いどころか現代においては八重狐は初めての事だった。
「そうなんですか……」
「まぁ、あの2人の肝が存外据わってたのじゃろう。……所でこの神社には小さな摂社や末社がいくつもあるじゃろ?」
「そういえば。それが何か?」
八重狐が少し強引に話題を切り替える。花子はそれに乗って答えたが、質問の意図が読めなかった。
「もしかしたら例の祠に纏わる物か、御神体が移されているとは思わぬか?」
「まぁ……ありえる……かも?」
こう言った事は花子には難しく感じていた。
だがなんとなくあり得そうな事でもあったので曖昧には答えた。
「ついでに色々調べぬか?もう一度」
「……それよりも、神様への謝罪をするのが先だと思う」
「……それもそうじゃの。すまぬ好奇心が抑えられなくての」
仕舞いにはもう一度調べようと言い出したので、そこは止めておこうと思った花子だった。
その後2人は密かなる神様への謝罪行脚を済ませて、八重狐は次なる資料を求め、花子は図書館での日常へ戻っていった。
かくして、偶然の縁が結ばれ、悪縁が切られ、別の縁が生まれたこの事件は大学の闇を暴きながら終わりを迎えた。
殺陣を書ける人ってすごいですよね。どう表現したら良いのやらと思っております。
この話自体の構成は前から決まっていたんですが形にするのがなかなか難しかったなぁという奴です