使う量を少しだけ増やしてみるという私の試みは、上手くいかなかった。
周囲からの綺麗になったねという褒め言葉を期待していたが、無駄だった。
自分以外誰も私の変化に気づいてくれないというのはつらい。
湊も友人も本当は私のことなんて興味ないのかもしれない。
一回違ったやり方をしてみただけで、メンタルに酷くダメージを受けた私は、最悪な方向へと舵をきってしまった。
化粧品の残り全部を一度に使ったのだ。
湊と上手くいっていないこと、せっかくの望みがなくなってしまったこと、この二つの合わせ技に心をかき乱されて、私は、自暴自棄になっていた。
洗面台の前で、ボトルの蓋を外し、中身を手のひらにぶちまける。
内心やってしまったと後悔していたが、ここまで来たら引き下がれない。
出した分全部使わないと勿体無いしと、強引に理由をつける。
冷静になって考えれば、戻せばいいだけなのだが、その時の私に、後退の選択肢はなかった。
普段慎重で、色々なことに躊躇いがちな私は、こういう時に加減できないのだ。
ブレーキを一度外してしまったら、後は勢いよく突っ込んでいってしまうだけ。
片方の手のひらにたっぷりと溜まったジェルをもう片方にも移す。
そして、顔を両手に突っ込んだ。
馴染ませるように、顔一面にむらなく広げているうちに違和感に気づいた。
引っかかりがない。
鼻とか唇に手が当たらないのだ。
ふと我にかえった私は、急いで顔にまとわりついたジェルを洗い落とそうとした。
蛇口を思い切りひねって、出てきた水をお椀の形にした両手で掬い取って、顔にかける。
顔を擦るようにして洗っていると、凸凹がない真っ平なものを洗っているような感じがした。
おまけにキュッキュという食器用洗剤のCMで聞くような小気味のいい音まで聞こえてきた。
私の顔は、一体どうしてしまったんだろう。
ジェルをあらかた取り除くことができた私は、顔をあげて鏡を見てみた。
すると、鏡が映っていた。
首から上が鏡の化け物が映っていたのだ。
信じられない光景に気を失ってしまいそうになったが、ここで倒れたら、硬い洗面台にぶつかって、顔が粉々になってしまうのではないかという考えが頭をよぎったおかげで持ち堪えられた。
自分の身に起こったことをいまいち飲み込めないまま、ふらふらとした足取りで、ソファのほうへと向かう。
ソファに座って、一息つけた私は、見間違えだったと結論付けた。
第一、顔が鏡になっているのだったら、何も見えないはずなのだ。
目だって鏡になっているはずだし。
疲れが溜まっているのかもしれない。
ソファの正面の小さなテーブルから、スマホをとる。
真っ暗な画面には、鏡が映っていた。