スマホがパタンと机に倒れる。
目の前の光景のありえなさに思わず、スマホから手を放してしまった。
一瞬しか見えなかったが、確かにスマホの画面には、鏡が映っていた。
目の前がぐらついていく。
洗面台の鏡、そしてスマホの画面、両方に映っているということは、見間違えではなさそうだ。
ちらりと見ただけでも、気づけるほどの異変だ。
見慣れているものだけあって、がらりと変わってしまうと、とてつもなく不安を感じる。
悪夢を見ているのかもしれない。
今度は、そう考えるようになった。
目の前の信じられない光景も、夢の中で起きているというのならば、説明がつく。
頬っぺたをつねってみようとふと思ったが、洗面台で顔に触れた時のあの無機質な感じを思い出してしまって、出来なかった。
そもそも、今は顔を洗って、しゃっきりとした状態のはずだ。
痛みで意識をはっきりさせる必要はない。
でも、それだったら、本当に顔が鏡になっているということになる。
数分間自己問答しているうちに、現状に対する納得のいく答えが見つかった。
人の顔の認識がおかしくなってしまったのかもしれない。
人の顔を判別できなくなったり、別のものに見えるようになってしまう病気があることを私は、知っていた。
今私の身に起きていることは、それが視覚だけでなく、触覚にまで及んでしまうものなのだ。
つまり、脳の異常。
原因は、私の顔ではなくて、脳にあるのだ。
良かった、これで一件落着、となるわけはなかった。
どちらにしてもダメじゃん。
いきなり脳の病気になってしまった。ありえない。いや、ありえなくはないのか?こういうのは突発的に来るものだっていうし、にしてもタイミングが悪い。私の人生に次々と災難が降りかかってくる。
こんなことを考えているうちにも、私の脳の異常は、ますます悪化してしまっているのかもしれない。
早く救急車呼ばないと、幸い意識はまだある。
倒してしまったスマホを机の上から手早くとり、119番につなげようとする。
あれ、とスマホのロック画面に目を奪われた。
湊とテーマパークに遊びに行った時の写真が画面に映し出される。
顔がおかしくなってない。
湊の顔だったら、まだわかる。
自分の顔だけうまく認識できていないのかもしれないからだ。
けれども、私の顔もそのままだ。
何も変わっていない。
満面の笑みを浮かべている見慣れた私の顔がそこにはあった。
やっぱり脳の病気とかではないのか。
良か、いや良くない。
あぁーもうどうすればいいんだ。
わかんないよー。
とりあえず救急車呼ぶのはなしで。
ごちゃごちゃになった私の頭は、助けを必要としていた。
誰か頼りになる人、湊はどうだろう?
無理だ。こんな姿見せられるわけない。
誰か、誰か。
そうだ。
美咲に相談してみよう。
彼女だったら、どうにかしてくれるかもしれない。