美咲が来る前に、部屋の片づけを済ませてしまおうと、スマホを机に戻して、ソファから立ち上がる。
床を見ると、ポツポツと水滴が垂れていた。
顔を拭かないで、ここまで来てしまったからだろう。
洗面台に向かい、積み重なっているタオルを一枚取る。
鏡に映る自分の奇妙な顔を横目に、まずは、シンク周りを拭き取っていく。
次に、かがみ込んで、床も拭いていく。
来た人の靴下を濡らしてしまうのは、避けたい。
水滴を辿っていくうちにソファに着いた。
リビングは、普段から整理整頓されていたため、ほとんど手をつけなくて良いだろう。
一通り掃除を終えた私は、またソファに座り込んだ。
朝ごはんを食べる気にもならないし、このままだらけていよう。
鏡になった顔でもちゃんと話せるのかどうか、声を出して確認したりしながら、ぼんやりと待っていると、ピンポーンと、チャイムが鳴った。
美咲が来てくれたのだろう。
すぐに出るから待っててと、インターホン越しに伝えてから、玄関に行って、ドアを開けに行く。
万が一他人に見られても良いように、壁にかかっているフード付きのコートで、顔を隠してから、鍵を開ける。
ガチャりという開錠の音が、ドアの向こう側からも聞こえたのだろうか。
ドアが開く。
軽装の美咲が、家に入ってくる。
開口一番、深くフードをかぶった私に「そういう設定なの?」と一言告げ、洗面台の方へ向かっていった。
私は、先にリビングに向かって、彼女が手を洗い終えるのを待っていることにした。
「ふわぁ、こんな朝早くから訳わかんないこと送ってこないでよ」
眠たそうにあくびをしながら、ソファからクッションをとり、地べたに座る。
美咲は、私だけソファに座っていても、気にすることなんてないので、そのまま話話することにした。
「驚かないでね」
彼女に念押しする。
「驚かない驚かない」
適当にあしらわれる。
直接見せるとなると、やはり怖気付いてしまうものだが、意を決して、顔を見せることにした。
フードをあげる。
顔が鏡の化け物が目の前にいるはずなのに、美咲は、悲鳴も上げることなく、平然としていた。
「おー、よく出来てるね」
ドッキリだと思われているのか?
「まだ早いけど、今年のハロウィンこれで良いんじゃない」
いや、ハロウィンの仮装の相談だと思われているようだ。
流石に早い。
「そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
「本当に顔が鏡になっちゃったの」
強めの口調で言う。
何言ってるんだコイツと言いたげな美咲に、顔を隅々まで見渡させる。
「ほら、被り物とかしてるわけじゃないでしょ」
「うーん?」
彼女に理解してもらうには、時間がかかりそうだ。