父の説得に応じて命は助けてやることに決めた。
決して巨大ジャンガリアンハムスターのつぶらな瞳を見ているとなんだかコイツを殺すことに対してものすごい罪悪感が湧き上がってきたわけではない。可愛くない。決して可愛くはないんだ。
「お前、名前は?」
「森の賢王でござるが……」
「それ称号。個体名は?」
「無いでござる」
森の賢王とか大変呼びづらいので他に名前が無いか確認してみたところ、無いとのことなので俺が名前を付けてやることにした。
ペットに名前をつけるのは飼い主の義務だよね。
「そうだな、じゃあ……『ハムの助』で」
「いい名前でござる! 某、今日このときを持って『森の賢王』改め『ハムの助』でござる!」
ハムの助とはリアルでスーちゃんが飼っていたゴールデンハムスターの名前である。
咄嗟にこれしか出てこなかった。
「ハムの助、お前縄張り管理しながらカルネ村も守れよ」
「委細承知でござるよ!」
よし、これで夜な夜なモンスター狩りをする必要も無くなったな!
村の防衛はハムの助に任せてしまおう。
「話は終わったか?」
「う、うん……終わったよ」
ハムの助に命令を与えたところで父がこちらにやってきた。
話は後でと言ったのは俺だ。さて何を聞かれるか……
全てを明らかにする覚悟を決めて、父の顔を正面から見据えた。
「よし、終わったなら帰ろう。父さん、さすがに疲れたよ」
「え?」
「ほら、行くぞ?」
父はそれだけ言うと、俺とハムの助に背を向けて村の方向に向かって歩き出した。
話をするんじゃ……もしかして歩きながらするつもりなのかな?
覚悟は決めながらも、やはり何を言われるのか不安で、黙って父の後について歩く。
父はひたすら無言であり、俺もどうしていいのか分からず黙って歩く。
「あの……父さん?」
「ん? どうした?」
もうすぐ森を抜けて村に到着しそうになってきたので意を決してこちらから話しかけてみると、いつも通り緊張感のない声で父は返事をした。
「何も……聞かないの?」
「なんだ? 聞いて欲しいのか?」
「それは……」
聞いて欲しいか欲しくないかと言われると、答えは出来れば聞いて欲しくない。
聞いて欲しくないのだが、さすがに聞かない選択肢は無いだろうと覚悟を決めていたのだが……
「アレスが聞いて欲しいのなら聞いてやるし、言いたくないなら言わなくていい」
「どうして?」
「どうしてもこうしても……どんな力を持っていてもお前は俺の息子だからな。そんな小さなこと気にしても仕方ないだろ?」
いや、気にするでしょ……あと絶対小さなことじゃないよ。
「お前が何か不思議な力を持っていることくらい、前からわかってたしな」
「え?」
「『え?』じゃないだろ……もしかしてお前、隠せてると思ってたのか?」
隠せてなかったの!?
「その顔、隠せてると思ってたみたいだな……」
「えっと……なんで?」
「なんでって……ちょっと教えたらすぐに出来るようになってあっという間に俺より上手くこなすようになるだろ? それに、教えてないことまで出来たりするし……さっき『弓を教えてもらってないのに』って言ってたけど、なんの冗談かと思ってたぞ?」
「嘘……」
「嘘じゃないさ。むしろイノシシを一撃で仕留めると思って弓を渡したんだが……」
どういう理屈だよ。
いや、実際やろうと思えば出来るわけだから、父は間違っていないのか?
「それになにより……」
父は俺の目をしっかり見据え、ヘラッと笑った。
「お前は、アレス・エモットは俺と母さんの息子だ。息子のことを誰よりも見ている俺や母さんが気付かないなんて、本気で思っていたのか?」
「父さん……」
「おう」
父は照れくさそうにその大きくて、暖かい手で俺の頭を撫でてくれた。
俺はこの父の手が大好きだ。
「さて……ついでにアレスの悩みも解決しておくか!」
若干、微妙に、ほんの少しだけしんみりした空気になったのを変えるためか、父は明るい声でそんなことを言い出した。
俺の悩み――それはスーちゃんを探しに行きたいということなのだが、これって俺の力のこと以上に話しづらいんですよね……
「ずばり当ててやろう。アレス、お前外に出たいんだろう?」
「へぁ?」
思わず変な声が出てしまった。
この父、なんでそこまでわかるのだろうか? エスパーなの?
それとも親ってそこまで子供の考えていることがわかる生き物なの?
「今朝の仕事中、ずっと何かを考えてたみたいだが、たまに遠くを見ていただろ? どこか行きたい場所があるんじゃないのか?」
「……」
「黙ってるってことは正解みたいだな。アレス、どうせなら俺はお前の口から聞きたいんだ。お前はどうしたい?」
「俺……僕は……」
「俺でいいぞ? 何に気を使っているのか知らないが、親に気を使うもんじゃない」
「うん、わかった」
夢で見たアレスの一人称は『僕』だったのでずっと『僕』を使っていたが、巨大ジャンガリアン……ハムの助と向かい合った時に思わず『俺』と言ってしまったことでついつい元の一人称に戻ってしまっていたようだ。
まぁ、父がいいと言うならこの際『俺』に変えてしまおう。
しかしこの状況、なんて言おうか?
バカ正直に「前世の恋人探しに行きたいんです」なんて言ったらさすがの父も受け止めきれないような気がする。
ちょっと言ってみたい気もするが、さすがにそれはボカシた方が良さそうだ。
「俺、色んな街や村に行ってみたい。色んな人に会って、もっと色んなことを知りたい」
ボカシにボカシてそれっぽい理由にするとすればこんなものだろう。
訳すなら「色んな街や村に行って色んな人に会ってスーちゃんの情報を探りたい。スーちゃんに会いたい」となる。
「そうか……お前は何をやってもすぐに覚えるし、戦う力もあるようだしな。カルネ村じゃあアレスには小さすぎるのかもしれない」
「父さん……」
「わかった。いいぞ。気の済むまで『世界』を見てくるといい」
「いいの?」
そんなあっさり……
これでは何のために悩んでいたのかわからなくなりそうだ。
「ただし、条件がある」
「条件?」
スーちゃんを探しに行きたいのは俺のわがままだ。
ならばその条件は甘んじて受け入れなければならない。
「ああ。半年に一度でも一年に一度でもいいから、たまには帰ってこい」
「それは……もちろん」
言われなくても帰ると思う。
むしろもっと頻繁に帰るよ。転移魔法も使えるし。
「それさえ守れるなら俺は認めるよ」
「父さん……ありがとう」
「子供は親元を離れ独り立ちするものさ。それがちょっと早まっただけ……旅を終えたら帰ってくるんだよな?」
「もちろん。カルネ村は俺の故郷だよ」
今の俺の夢はスーちゃんと一緒にカルネ村でのんびり過ごすことだよ。
「わかった。なら何も……すまん、もう一ついいか?」
「いくらでも」
「どうやって路銀を稼ぐつもりなんだ? アテが無いならバレアレさんに頼んでやるが……」
路銀……路銀かぁ……
確かに稼がないと旅費どころかご飯も食べられない。
やろうと思えばどんな仕事だって出来るとは思うけど、短い期間でガッツリ稼げて、場所を変えても似たようなことが出来る仕事……
そんなの、俺が聞いたことのある中ではこれしかない。
「父さん、俺、冒険者になる!」
「だろうな。森の賢王を服従させたお前ならすぐにアダマンタイト級になれそうだ」
実は父さんは英雄になりたかったんだ、と笑う父に釣られて俺も笑う。
それが本当に父の夢だったのならば、スーちゃんを探しながら英雄と呼ばれるまでになってやろうと心に決めて数年ぶりに父と手を繋いで家路を急いだ。
……剣の事はいいのかな?
丸く納まったっぽいし、黙っておこうか。
今見たら平均評価9.75というとんでもない数字を目撃してしまったので17時10分と21時10分にも更新しますね!