20匹ほどゴブリンを退治し、初日の戦果としては十分と判断したので冒険者組合へと戻り証拠の耳を提出して報奨金を貰う。
その時受付のお姉さんの頬がピクピクしていたが、気にしたら負けだと思うので気にしない。
ついでに駆け出し冒険者がよく使うという宿を教えてもらい、一度バレアレ薬品店に顔を出した後そちらの宿へと移動する。
自力で稼げるようになった今、これ以上バレアレさんの家に厄介になるわけにはいかないだろう。
「すみませーん、泊まれますか?」
「何泊だ?」
普段から冒険者を相手しているからか、それとも店主自身元冒険者なのか、しっかりした体格のイカついおじさんがしゃがれた声で迎えてくれた。
「一泊いくらですか?」
「相部屋で銅貨五枚、晩飯は野菜スープとパンだ。肉欲しけりゃ追加で銅貨一枚だな」
「へぇ……個室は?」
一泊一食付き銅貨五枚か、今日の稼ぎだけで数泊出来るができれば個室がいい。
ここは駆け出し御用達の宿らしいのであの草原で俺が戦っているのを目撃した人たちの中の何人かはここに泊まっていると思うから。
そんな人たちと相部屋になったら……質問攻めに合いそうで面倒くさい。
「坊主、駆け出しだろ? 悪いことは言わねぇ、相部屋に泊まって顔を売っとけ」
なるほど、そういう考え方もできるのか……
質問攻めに合ったとしてもそれは縁、顔見知りを増やしておくのはありかもしれない。
個人的にはアリよりのナシなのだが、ここは店主さんのアドバイスに従っておくか。
「分かりました。じゃあ三泊お願いします」
「二階上がってすぐの部屋だ。ベッドは六つ、部屋に入ってすぐ左のベッドが空いてるはずだ」
「はい」
相部屋には鍵は無いそうで、夕食を食べることだけ伝えて階段へと向かおうと振り返ると――
「へへ」
「あ、あの……」
ボロいローブを身に纏い、今にも折れてしまいそうな木でできた杖を両手で握りしめている髪の短い子供の通り道を足を出して塞いでいるハゲの姿を目撃してしまった。
誰も俺の事を見ていないので観察してみると、足を出しているのは
仲間だろう数人の男と一緒にニヤニヤしながら子供の方を見ていた。
ちらりと見えた子供の顔は幼く、おそらくエンリと同い年か少し下だろう。
首には真新しい銅のプレートが提げられており、俺と同じ
これは……なるほど。先輩冒険者に絡まれるテンプレイベントか。
どうしようかと思い店主を見ると、見て見ぬふりをしている。
つまり、日常的にある光景なのだろう。
「ふむ……」
こういうテンプレはいつかそのうち体験するかもとは思っていたが、俺ではなく他人が絡まれているのを目撃するのは予想外だな。
絡まれているのが俺ならスマートにあの足を蹴りあげてへし折ってやるのだが、あの子供にそれは不可能だろう。
見た感じあの子は戦士系ではなく
まぁ、悪人面が子供に絡んでいる姿を見ているのもどうかと思うし、そもそもどいて貰わないと俺も二階に上がれないので介入することにした。
「ダッサ……」
「ああん!?」
俺のつぶやきはちゃんと彼らの耳に届いたようで、足を出していたハゲが立ち上がり俺に向けて威嚇の声を発してきた。
よかった、反応してくれた。
これで反応してもらえなければ恥ずかしい思いをするだけになってしまうところだった。
「なんか言ったかクソガキ」
「言ったよ。『ダセェ』って」
聞き返されたので耳くそをほじりながらもう一度丁寧にお伝えする。
反応しといて聞き返すってお耳が悪いのかな? それとも頭?
「テメェ……
「おひとり様金貨二枚となっております! お客様は三名様ですので、団体割引も!」
「オモテ出ろやぁぁあああ!!!」
おっと、めっちゃ怒ってる。
しかしあっさりとご購入頂けたけど、このハゲお金持ってるのかな?
髪も金も無さそうなんだけど、大丈夫なのかな?
座っていた二人も顔を真っ赤にして立ち上がり、俺を囲うように移動してハゲを頂点にした三角形を形成。
俺はその中に閉じ込められてしまった。
やだこわぁい。
「!?!? …………!」
その様子を見ていた先程まで絡まれてた子がアワアワしているが、気にせずさっさと部屋に戻ればいいのに。
一応右手を動かして部屋に戻るよう伝えておこう。着いてこられても迷惑だ。
「おら行くぞ!」
「やだーこわーい。たーすけてー」
「黙ってついてこいや!」
悪人面に囲まれて外へと連れ出されるいたいけな俺。
どう見ても犯罪です。つまり何をしても正当防衛です。
そのまま人気の無い路地裏へと連れ込まれ、壁を背に三人の悪人面に囲まれてしまった。
絶体絶命の大ピンチだ。
「おいクソガキ、あんま先輩舐めてると痛い目見ることになるんだぜ?」
「ほら、今謝ったら許してやるから手ェついて謝れよ」
「おら、さっさとしろ!」
三人はそれぞれ俺を睨みながらドスの効いた声でなにやら言っているが、毛ほどの恐怖も感じない。
ここに来るまでに無詠唱化した《
推定レベル4から6、これで恐怖を感じろという方が無理である。
ちなみに【ステータスチェック】でレベルを確認しないのは敵意を持たれていると確認出来ないからだ。
敵意さえ持たれていなければ名前とレベルはすぐわかる。
何故声をかける前に【ステータスチェック】をつかわなかったのだろうか……
「ところでお買い上げとのことですのでお支払いを……」
「まだ言ってんのか!?」
「お前、あんま舐めてると……」
「もういい。こいつは痛い目に遭わないと分からないバカなんだろ」
子供に絡んでいたハゲが怒りのあまり一周まわって落ち着いたのか、冷静な口調で仲間たちをなだめ始めた。
「死なない程度にしといてやるから、覚悟しろや」
ハゲは腰に手を回し、刃渡り20センチほどのナイフを取り出して見せつけるように構えた。
「お、おい」
「さすがにそりゃまずいって!」
「うるせぇ! 黙ってろ!」
これはちょっと煽りすぎたかもしれない。
にしてもこのハゲ煽り耐性低すぎるのではなかろうか?
「どうするつもり?」
「あ? 決まってんだろ? コイツでお前の体に傷を付けてやるんだよ!」
ハゲはベロっと舌を出し、ナイフを舐める。
もはや賊にしか見えないよ!
「覚悟はいいか?」
「そっちこそ」
もういいだろう。
ここに連れて来られるまでに追加していた
《王者の気迫レベルI》
対象を三人のみに絞った『気迫』を正面から受けた三人は、白目を向いて泡を吹きながらその場に倒れた。
よく見ると、ズボンの股の部分が濡れている。
「やべ、死んだ?」
漏らしている大人になんて近寄りたくないのでその場で《
「生きてるならそれでよし。もうこれだけ怖い思いさせればもう絡んでこないだろ」
やり過ぎたような気しかしないが、なんとか自分を納得させて宿へと戻る。
しかしこの