「あれ?」
意識が深い闇から引き上げられるような感覚がして、目が覚めた。
「……え?」
目が覚めた?
それがおかしい……俺はとある企業の本社ロビーで体に巻きつけた爆弾を起爆させて死んだはず。
それなのに目が覚めるなんてことは有り得ない。
「どういうことだ? 生きているのか?」
目を開けて周りを見ようとしてみるが、真っ暗で何も見えない。
感覚的にベッドのような場所で寝ていることはわかるのだが、何も見えないのは不安である。
「体は……動くな」
真っ暗であることから病院などでは無いと判断できる。
病院であれば生命維持装置の光が見えるはずだからだ。
それならここはどこだろう?
とりあえず体は動くようなので手を動かして全身をぺたぺた触ってみる。
体に欠けた部位は無し、五体満足で生きているようだ。
しかしなにか違和感があるような……
なんだか体が小さい気がする。
気はするのだが、まだこの目で見た訳では無いので確証はない。
「なんだか眠いな……夜中っぽいし、とりあえず寝よう。後のことは起きてから考えよう」
自身を落ち着かせるために声に出してみたが、なんとなく声も高いような……
とにかく、今考えても仕方がない。
俺は再びベッドに体を預け、なんだか少し臭う毛布にくるまって眠ることにした。
◇◆
――夢を見た。
若い男女が赤ん坊を抱いている。
「あなた、この子の名前はどうします?」
「そうだなぁ……」
赤ん坊の父親であろう男性は顎に手を当てて考え込んでいる。
子供が産まれるなら名前くらい決めておけよと思わなくもないが、父親になったことの無い俺がそれを言っても説得力は無さそうだ。
「……よし決めた! アレスにしよう。このこの名前はアレス・エモットだ!」
「アレスって……十三英雄の戦士の名前よね?」
「そうだけど……ダメかな?」
「ふふ……あなたは本当に十三英雄の物語が好きなのね。いいと思うわよ」
「そうか!」
ふむ、物語の登場人物から名前を取るというのは有りかもしれない。
しかし名前の響きもそうだが、十三英雄というのは聞いたことがない。
となるとここは日本ではないのだろう。
なんとなしに眺めていると、夢の映像はどんどんと進んでいき、アレスくんの両親の名前も判明した。
父親が『ハンス・エモット』母親が『メアリ・エモット』と言うらしく、二人は『リ・エスティーゼ王国』という国の辺境の農村『カルネ村』もいう村で生活しているらしい。
現代日本では有り得ない、文明の利器の一切登場しない村の生活、スローライフというのはこういうものの事かと思いながら見ていると、アレスくんが2歳になった年に、エモット家二人目の子供が誕生した。
名前は『エンリ・エモット』
アレスくんと同じ明るい茶髪の元気な女の子だ。
それからアレスくんとエンリちゃんはすくすくと育っていき、明日アレスくんが5歳の誕生日を迎えるシーンで唐突に夢は終わりを迎えた。
見ていて楽しかったのに終わるのは残念。
そう思いながら何かに引っ張られる感覚に逆らわず、眠りから覚めることとなる。
「おはようアレス。夜中に起きていたみたいだけど、怖い夢でも見ていたのかい?」
目が覚めて体を起こすと、それに気付いた男性に朝の挨拶をしてきたのでそちらを見ると……
そこには先程夢で見たハンス・エモットが爽やかな笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
「えぇ……」
「どうしたんだい? 調子でも悪いのかい?」
ハンス・エモットは心配そうにこちらに歩み寄り、俺の頭に大きな手を乗せた。
「んー……熱は無いみたいだけど……」
「だ、大丈夫!」
「そうか? それならいいんだが……アレス、朝の挨拶は大事だぞ?」
「あ……えっと、お父さんおはよう!」
「はいおはよう。大丈夫ならエンリも起こしてきてくれるかい?」
「わかった!」
なんとか夢の中でのアレスくんの口調を思い出し、慌てて挨拶を返す。
これは……アレスくんとは俺の事で、あの夢は第三者視点でアレスくんのこれまでの生涯を見せられたということか。
とにかく、アレスくんの中に入ってしまった手前、中の人が入れ替わったことに気付かれないようにしなければならない。
まずは言われた通り、妹であるエンリを起こすためにベッドから立ち上がった。