翌朝、遊んでと愚図るネムをどうにか窘めて薬草採取のために森に向かうバレアレさんと合流、村を出て森の入口へと移動した。
「じゃあアレスくん、ニニャさん、護衛よろしく頼むよ」
「わかりました。でももう少しだけ待って貰えませんか? すぐに護衛が……」
もう一匹来る。そういい切る前に大きな足音が響き、一匹の魔獣が森の中から姿を現した。
「殿! お久しぶりでこざる!」
「久しぶり。元気だった?」
ハムの助である。
森の中での薬草採取と聞いて、コイツ以上の適任は居ないと思い昨日寝る前に《
「もしかして……森の賢王?」
いきなりの登場に警戒したのか、バレアレさんとンフィーレアを背中に庇うように立ちながら、ニニャが聞いてくる。
「そうだよ。ハム、この子は俺の仲間のニニャ、それから後ろのふたりは今回の護衛対象ね」
「承知したでござる! しかし殿、某はハムの助であってハムではござらんのですが……しかしなんだか美味しそうな響きでござるな」
「なんかハムの助って呼びづらいんだよね。噛みそう」
「とのぉ……」
うるうると濡れた瞳で見つめられるとものすごく罪悪感か刺激される。
目を逸らしてニニャたちの方をみると、初めはハムの助に驚いて固まっていたのだが、俺とハムの助の会話を聞いて全員俺を冷たい目で見つめている。
これは何か間違えたかもしれん。
「あー……ハムの助」
「はいでこざるぅ……」
「お前の名前はハムの助、愛称ハムスケ、これでいい?」
ハムの助の『の』が言い難いんだよ『の』が。
「わかったでござるよ!」
わかってもらえたようで何よりだ。
これならあんな冷めた目で見られなくて済むと思い確認してみたのだが……
今度は全員が可哀想なものを見る目で見ていた。ハムスケを。
「ハムの助くん、飼い主があんなのでごめんね? 私からもちゃんと言って聞かるから」
「姫……それは大変に有難いでござるが、某メスでござる。だからくんじゃなくてちゃんがいいでござるよ」
「そうなの? わかった。よろしくね」
え、こいつメスだったの?
それなら言ってくれればメスっぽい名前にしてやったのに……公子とか。
「お父さん、すごいね」
「ああ……あんな立派な魔獣は初めて見た」
「触ってもいいかな?」
「やめておきなさい」
別に触ってもいいけど、気持ちよくないぞ。
配下にしてから一度「あのモフモフの上で昼寝したら気持ちいいんじゃね?」と思い実行してみたのだが、見た目に反してあの毛は硬いのだ。
チクチクゴワゴワで全く気持ちよくなかった。
「はいはい、いつまでも話してても仕方ないんで早く行きましょう」
バレアレ親子は未だにハムスケを見た感想を話し合っているし、ニニャとハムスケはどうやったら俺がハムスケに対して優しくなるのかを話し合っている。
このままではいつまで経っても出発出来ないと思い声を掛けると、皆気を取り直したの頷いてくれた。
あとハムスケ、あの状況で生かしてやっただけ俺は優しいと思うよ。
その後、バレアレさん指示の下薬草採取が始まったのだが……
「ギザギザの葉っぱでござるか? こっちにたくさん生えているでござるよ!」
「次は丸っこい葉っぱでござるな、こっちでござる!」
「その細長い葉っぱは見覚えがあるでござる。確か……」
ハムスケ大活躍であった。
バレアレさんやンフィーレアが欲しい薬草の特徴を伝えると、ハムスケのナワバリ内に生えているものであれば全て案内してくれたのだ。
中にはかなり希少な薬草もあったそうで、バレアレさんとンフィーレアは終始ご機嫌のようだった。
「いやぁ、薬草採取に三日は予定してたんだけど、今日一日で全部集まるとは驚きだよ」
夕刻、そろそろ日が落ち始める時間となった頃、バレアレさんはホクホク顔でそんなことを言い出した。
「これだけでいいんですか? 余分に採るならまだまだ頑張りますよ?」
ハムスケが。
「あまり採りすぎるのも良くないからね。薬に加工する分と研究用にはこれで十分だよ」
自然の恵みとは、必要な時に必要な分だけ恵んでもらうものであって、間違っても人間が好き勝手に採取していいものでは無いというのが薬師界隈では一般的な考え方らしい。
この考え方が
「そういうわけだから、明日の朝には出発しようかと思うんだけど大丈夫かな? もちろん護衛の依頼料は満額支払うよ」
「そうですね……わかりました」
せっかく帰ってきたんだから少しばかりのんびりしたかったけど、依頼人がそう言うなら是非もなし。
むしろちょっとやりたいこと思いついたから都合がいいまであるかな。
「じゃあ今日は村でもう一泊、明日の朝出発でいいかな?」
「了解です」
予定が決まったのでニニャとンフィーレアに伝達すると、ニニャは何の問題もなく了承したが、ンフィーレアはまだ帰りたく無さそうだった。
「もっとエンリと……エンリとネムと遊びたい」
これが彼の可愛らしい子供の言い分であったのだが――
「ンフィーレア、仕事で来ているんだ。わがままを言ってはいけないよ」
「……はい」
父親の厳しくも優しい言葉であっさりと却下されたンフィーレアは、半泣きになりながらも今まで会えなかった分を取り戻すため、これからしばらく会えなくなる分を先取りするためにエンリに構い倒していた。
「お兄ちゃん、ンフィーくんって……」
「ネム、それ以上は言ってはいけない」
「うん。でもお姉ちゃん、気付いてないよ?」
「まじ? いい気味」
こうしてあっという間にカルネ村の滞在が終わってしまった。
そう遠くないうちに連休を取って数日は滞在出来るようにしようと思う。