結局ナワバリの外のことは何も知らないという賢王という名に偽りありという結論に達してしまったが、とりあえずそれはまた後ほど協議するということにして、まずは『東の巨人』とやらを探すことにした。
もちろんハムスケに乗っての移動である。
俺が完全に大人になっていたらハムスターに乗る大人として周囲の笑いものになっていただろうが、まだ未成年なので周囲は微笑ましい気持ちで見てくれることだろう。
しかし視点が高くて新鮮だな……
今度エ・ランテルの街中をハムスケの背に乗って歩いてみよう。
きっと新しい発見があると思う。
「もうすぐ某のナワバリの端でござるよ」
「カチコミじゃぁぁあああ!」
「なんなのそのテンション……」
ニニャは呆れているが気にしない。
未知の冒険が始まるのだからテンションを上げるのはもはや義務なのだ。
「ギ!?」
「南ノ大魔獣!?」
ハムスケのナワバリを出た途端に第一ゴブリンを発見……と同時にハムスケの尾に貫かれて絶命した。
「今まで居なかったのに急に出てきたな」
「某のナワバリに侵入した者は全て倒しているでござるからなぁ」
どうやら俺の命令を守るためにナワバリに侵入してきたモンスターは逃すことなく全て倒してくれていたらしい。
「やるじゃん。ありがとう」
「殿の村を守るためだから当然でござるよ!」
今までは通るだけなら見逃していた場合もあるそうなのだが、俺の配下となってからはそれも許さなくなったらしい。
「殿の父君もたまに来てくれるでござるよ」
「父さんが?」
再び現れたゴブリンを蛇のような尾で処理しながらハムスケは俺の質問に回答する。
「数日に一度様子を見に来てくれるでござる。この前は父君と一緒に村に行ったでごさるよ」
「お前らなにやってんの?」
ハムスケ村に行ったの?
大騒ぎになってない?
「最初は少し騒ぎになったでござるが、すぐに仲良くなったでござるよ」
「そうなんだ」
父もだけど、うちの村の人の肝太すぎない?
「ちなみに最初に某の背に乗ったのはネム殿でござる」
「ネムーーー!!」
まさかのうちの子でした。
まぁ……好奇心旺盛なお年頃だし仕方ないのかな? しかしネムが乗ったのなら見たかった。
そんなほのぼのする会話をしつつ出会うモンスターを始末しながら進むことしばらく、オーガやトロールのようなゴブリンよりも強いモンスターとのエンカウントが増えてきた。
「そろそろかな?」
「かもね。斥候出そうか」
そう言ってから【ステータスチェック】を発動して探索系ビルドへと組み直す。
「
高レベルの『忍者』が使える
戦闘能力はレベル40相当とあまり高くはないので戦闘ではあまり使えないが、数を生み出せるのでこういう場面では使い勝手のいい
「よし、分身体の俺たち、東の巨人ぽいモンスターを探してきてくれ」
「おっけ」
「りょ」
「任せろり」
「めんどくさっ!」
「時給いくら?」「本体が行けよ。俺が代わりに残るから」
「うるせぇ、消されたくなかったらさっさと行動しろ!」
「「「パワハラ本体め!」」」
口々に好き放題言っていた分身体たちだったが、俺の一言で心がひとつになったのか仕事をするためにサッと駆け出した。
うむ、さすがの統率力……てかなんで分身喋ってんの!?
ジト目で見ているニニャを視界に入れないようにしてしばらく待っていると、分身体Fから分身ネットワークを通じて連絡が入ってきた。
『こちらF、それっぽいのを発見した。多分トロールの上位種。推定レベル32。どーぞ』
『こちら本体。場所は? どーぞ』
『こちらF。本体の位置から北東に2キロ地点の洞窟の中。どーぞ』
ふむ、そんなに離れてないな……
『こちら本体。把握した。これから向かう。分身F、周りにモンスターは? どーぞ』
『こちらF。洞窟の入り口に見張りのゴブリンが2匹、中にオーガ3匹トロール5匹。全て雑魚。どーぞ』
ふむふむ、数も少ないし、おそらく東の巨人の配下だろうね。
それなら交渉の結果が出るまでは生かしておいた方がいいだろう。
『じゃあこれから向かう。F以外はお疲れ様消えてどーぞ』
分身F以外の分身を消去し、分身Fが隠れている洞窟へと向かう。
後ろに乗っているニニャからものすごい圧を感じるけど気にしたら負けだから気にしない。
ハムスケに指示を出しながら進んでいくと、木々の間に洞窟が見えてきた。おそらくここだろう。
「ハムスケ、ゴブリンを」
「かしこまったでござるよ!」
俺の指示を受け、ハムスケは尻尾を操り見張りに立っていた2匹のゴブリンを声も上げさせずに撃破して、そのままの勢いで洞窟へと突っ込んでいく。
『そのまままっすぐ! そのまままっすぐ!』
『一本道じゃん』
洞窟の中は真っ暗だったので、ニニャに《
途中、分身Fから道案内の通信が入るが、一本道なのでうるさいだけであった。
「ニンゲン?」
「喰ウ」
奥へと進んでいくと、道の脇に座り込んでなにかを齧っている2匹のトロールがいた。
東の巨人について聞こうと思ったのだが、どうも俺たちの事を餌としか認識していないようだったので有難くニニャの経験値に変えておいた。
そのまま進むと、天井に張り付く分身Fを発見。
分身Fは「そこ! そこ!」と仕切りに指を指しており、そちらを見ると一際大きな体をしたトロールが大剣を背負いながら何かを齧っている姿が確認できた。
「本体、アイツゴブリン食ってる。生で」
「マジかよキモい」
分身Fによると、なにやら見回りの報告に来たゴブリンを殺して食っているそうだ。
酷いやつだな。
「よし、じゃあ分身Fも消えていいよ」
「ご利用ありがとうございます。時給二万円で一時間半働きましたので三万円になります」
「うるせぇばーか」
使用していた《影分身》を解除して問答無用で分身Fを消しにかかる。
「お前俺にバカって言うのは自分に言ってるってことわかってる?」
それだけ言い残して分身Fは消えていった。
なかなか優秀だったよ。なんで喋るのか分かんないけど。
「さて、交渉してみましょうかね」
「その前にちょっと聞きたいんだけど」
「なに?」
「その《影分身》って制限時間あるの?」
「あるよ。でも無くす方法もあるよ」
「その方法って大変なの?」
「いや、別に?」
課金アイテム使うだけだからね。
まぁもちろんデメリットもあって、このアイテムを使って永続化した場合、出現させた分身を消さない限り新たな分身は出来なくなる。
それを説明すると、ニニャは納得したように頷いた。
「なるほど……アレス、分身使えなくなって困ることは?」
「特に無いかな」
なんせ今初めて使ったからね。
分身もせいぜいレベル40前後の強さしか無いし、倒したとしても召喚モンスター扱いだから経験値も入らないからニニャの餌にも出来ない。
「そうなんだ……そういえば離れていても会話出来るんだよね?」
「出来るけど……それがどうかしたの?」
ニニャは考えながら話しているようだが、何を考えているのだろうか?
ここ臭いから早くして欲しいんだけど。
「それならさ……東の巨人を使役するより永続化した分身を村に置いておけばいいんじゃないの?」
「あっ……」
そっか、その手があったか。
分身Fの報告ではあのトロールはレベル30ちょいと言っていたからトロールより俺の分身の方が強い。
支配なんてめんどくさい事せずに初めからそうすれば良かったんだ。
「よしニニャ、それ採用」
「うん。それで……あのトロールはどうするの?」
せっかくここまで来たのに放置して帰るのはもったいないよなぁ……よし。
「ニニャの経験値にして帰ろう。ここから魔法打ち込んで全部倒しちゃって!」
「なんだか可哀想だけど……これも仕方ないことだよね。《
ニニャの構えた杖の先から二本の酸で出来た槍が放たれ、油断しきっていたトロールたちに突き刺さりその酸で溶かし尽くした。
「終わったよ」
「お疲れ様……27に上がってるね」
俺の【ステータスチェック】で確認するとニニャのレベルが27に上がっていた。
あと2レベルアップすれば第五位階を覚えることが出来る。それならここで上げてしまうのもいいかもしれない。
「ニニャ、生き返らせるから復活したら即殺でよろ」
「アレスってたまに悪魔みたいなこと言うよね」
そんなこと言われてもレベル30代の敵ってあんまりいないからね。
あげれる時に上げておかないと。
という訳で敵のレベルダウンを最小限に抑えるため《
その時点で強制復活レベリングは停止、グとかいう名前のトロールを復活させて『人間を襲ったらダメ』と『部下には優しくする』ということをしっかりと教えこんでから俺たちは帰ることにした。
トロールの割に素直で聞き分けが良いい。
なかなか見所のあるやつだった、配下にしても良かったのかもしれない。