東の巨人、西の魔蛇を下して森を抜けてから数日、俺たちは王国の北東部にあるとある貴族領の片隅にグリーンシークレットハウスを展開して話し合いを行っていた。
今日までに貴族領内にある村々を周り、エンゲージリングの宝石の色が変わらないか確認して回ったが変化は無し。
という事でニニャの姉を探すためにその領の領都へと入り、隠密系ビルドを組んだ俺が領主屋敷に忍び込んで探してみたのだが、ニニャから聞いた特徴のある女性は一人も居なかった。
「何人か攫われてきたっぽい女性はいたけど、ニニャのお姉さんは見つけられなかったよ」
「そっか……その人たちは?」
「助けようかとも思ったんだけど……」
助けたところでどうにもならないんだよね。
こういうのって元の住処に帰してもいいことないし、かと言って匿うにしても匿う家が無いと言うね。
グリーンシークレットハウスじゃちょっと狭い。
屋敷には領主と思われる偉そうなデブと、その子供と思われる偉そうなデブガキが偉そうにふんぞり返っていたからぶった斬ってやろうかとも思ったのだが、一応我慢しておいた。
斬るにしても相談してからだ。
しかしここの領主、前世でスーちゃんに手を出した大企業の部長にどことなく似ていたから我慢するのに苦労した。
見た瞬間脊椎反射で斬りそうになったよ。
「ニニャのお姉さん……ツアレニーニャさんは見つけられなかったけど、こんなのは見つけてきた」
アイテムボックスを開き、書斎からパクってきた書類を取りだしてニニャに見せる。
「これは……」
「人身売買の証拠だね。八本指って組織に女性を売ってるらしい」
「八本指……」
聞いたことがある。
なんでも多くの貴族と繋がりのある犯罪組織らしく、例え捕まってもコネを利用してすぐに釈放されるヤバい奴ららしい。
ここの領主も繋がりがあるって証拠だね。
「どうする? 斬る?」
「簡単に言ってるけど出来るの……ってアレスなら出来るか」
出来るよ。なんなら証拠品パクって来るより簡単に出来るよ。
王国の貴族が基本クズだってことは俺でも知ってる。
人身売買の証拠もあることだし、ここの領主とその息子を斬ることに抵抗は無い。
それくらい出来ないと自爆テロなんて実行出来ない。
もちろん一般人を傷付ける気は無いよ。
イグヴァルジ? あれは冒険者だから一般人では無い。
「うーん……辞めておこう。捕まってる人たちは可哀想だけど、ここで騒ぎを起こしちゃったら八本指も警戒するかもしれないし……」
「わかった。ニニャがそう言うなら我慢する」
個人的にはものすごく斬りたいけど。
ニニャのお姉さんを助けたら改めて斬りに来ようかな?
「じゃあ次の目的地は……」
「王都『リ・エスティーゼ』だね」
ここまで来たのだからウロヴァーナ辺境伯領にも立ち寄ってスーちゃんの捜索を行いたいところだが、ニニャのお姉さんが犯罪組織に囚われているというのならそちらを優先するべきだろう。
「アレス、ごめんね」
「なにが?」
書類と共に拝借してきた王国の地図を広げて王都までのルートを確認していると、急にニニャが謝ってきた。
「本当ならウロヴァーナ辺境伯領も探したいんだよね?」
あーそれね。さっき考えてたことそのままだ。
「ニニャのお姉さんの方が危険そうだし、気にしなくていいよ」
スーちゃんなら自力でなんとかするだろう。
何せエンゲージリングをアイテムボックスから取り出しているのだ。つまり俺と同じくユグドラシルのアイテムを引き継いでいる可能性が非常に高い。
ならばそれらのアイテムを駆使すればスーちゃんの身に危険が及ぶことは無いだろう。
「でも……」
「いいからいいから。ニニャのお姉さんを助けてから転移で戻ってくればいいだけだからさ」
「うん……ありがとう。姉さんを助けられたら私も全力で協力するから!」
「頼りにしてるよ」
第三位階で大成した
世間的には『英雄の領域に到達した』って言われるレベルらしいよ。かっこいいね。
「それより王都までのルートなんだけど、リ・アインドルを抜けてリ・ボウロロールを経由して行くルートでいいかな?」
リ・アインドルは分からないけど、リ・ボウロロールはボウロロープ侯爵という貴族派のトップが治めている土地らしい。パクって来た資料に書いてあった。
その資料があったということはここの領主も貴族派であり、ボウロロープ侯爵というのはこいつの仲間らしいのでクズで確定だろう。
この侯爵の屋敷にも忍び込んで色々とパクって来ようかな?
「そのルートで大丈夫だよ。王都まで……三日くらいかな?」
「それだけど、ここから王都までの途中にあるし、資料にあったボウロロープ侯爵の屋敷にも忍び込もうかと思うんだけど」
同じ貴族派に属する者同士、何らかの書類が手に入る可能性もあるし。
「忍び込むって……侯爵屋敷だよ?」
「俺より強いやつが居るならアレだけど、多分居ないでしょ」
レベル30ほどのニニャが英雄級ってことはレベル100の俺はどうなるのって話である。
もしも万が一同格の相手が居たとして……なんの問題も無いのだ。
なぜなら裏技を思い付いてしまったから。
まずは
レベル100の索敵特化プレーヤーの目を持ってしても補足することは不可能だろう。
これなら1500人のプレーヤーの大侵攻を跳ね除けたまさに難攻不落のギルドアインズ・ウール・ゴウンの最深部まで侵入してギルマスのモモンガに一撃加えることも出来ると思う。
まぁやったら確実に周りのギルメンにフルボッコされて死ぬだろうけど。
「まぁニニャのお姉さんの情報が無くても、八本指の拠点の情報があるかもしれないしね」
八本指ってデカい組織だって聞いたことあるから拠点もたくさんあるだろうし。
ニニャのお姉さんが何処に連れて行かれたのかが分かれば御の字だ。
「……わかった。任せるよ」
「お任せあれ」
予定も決まったのでその日は休むことにして、翌日早朝ハムスケに跨りリ・アインドルへと向けて出発した。