通常歩けば三、四日かかる道のりをハムスケの足で一日で駆け抜けた俺たちはリ・エスティーゼ王国北部にあるリ・アインドルへと到着した。
ここはアインドラ伯爵という貴族派とは敵対している国王派に属する貴族が治める領地らしい。
ここに来るまでいくつかの村や小さな町を見てきたが、ニニャの生まれた村の一帯を治める貴族派貴族の治めていた領地より発展しているし、治安がいい。
どうやら国王派の貴族はそこまでダメな貴族というわけでは無さそうだ。
「今日一日情報収集をして、明日の早朝出発でいい?」
「わかった。私は冒険者組合で色々聞いてくるよ。アレスは?」
「領主屋敷に忍び込もうかと」
「だろうね……」
だってそこが一番情報が集まってるんだもの。行くしかないよね。
「小耳に挟んだ情報だとここの領主の娘が家を飛び出して冒険者になったらしいから、その辺の情報を詳しく聞いておいて欲しいかな」
「うん、私も聞いてるよ。わかった」
この行動、まさにスーちゃんがやりそうな事なんだよね。
前世のスーちゃんもそれなりの企業の偉いさんの娘だったのに親の決めた結婚が嫌で家を飛び出してるし。
そういった意味で今現在の第一スーちゃん候補はアインドラ伯爵の娘かなと思っている。
領主屋敷に忍び込むのもその為だ。
「そういう状況だから警備は厳重だと思うけど」
「まぁそれは大丈夫でしょ」
《
俺から攻撃を仕掛ける事が無い限りバレることは無いだろう。
「まぁアレスの能力は信頼してるよ」
「能力『は』って……」
「人格は微妙」
「酷すぎワロタ」
「悪いやつじゃないことはわかってる」とフォローになっているようななっていないような微妙なフォローを受け、ニニャと別れて領主屋敷のある街の中心へと歩を進める。
「あれか、でっかいなぁ……」
この前忍び込んだ領主屋敷と比べて遥かに大きい建物。
たしかニニャの村があった領は子爵領だったはず。
子爵と伯爵では階位はひとつしか変わらないが、持っている力は全く違うようだ。
「それじゃ早速……《
これで世界一影の薄い男の完成だ。
「お邪魔します」
屋敷の門を守る領兵に挨拶をしながら門を通過、空いている窓を探すために屋敷の周りを一周する。
別に玄関から堂々と入っても魔法と
「お、空いてる窓見っけ」
屋敷の裏手に回った所で侵入しやすそうな窓を発見、ありがたくそこから屋敷内へと侵入する。
そこは調理場だったようで、中に入ると数名の料理人が昼食を作っている様子が確認できた。
「毒味は大事だよね」
配膳のためワゴンの上に並べられている皿から一口二口つまみ食いをしてから調理場を後にする。
貴族飯はとても美味しかった。常宿にしていた宿で食べていた塩野菜スープとは違うね。
思わず美食に目覚めてしまうところだった。
それから屋敷内を徘徊して情報を集める。
八本指との繋がりについては発見出来なかったが、いくつかの面白い情報を手に入れることができた。
どうやら現アインドラ伯爵の弟であるアズス・アインドラという人物が率いる冒険者チーム朱の雫は現在王国唯一のアダマンタイト級の冒険者チームで、それに憧れた当主の娘が家を飛び出して冒険者になったらしい。
名前は『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』。
現在14歳で、既に信仰系第三位階に到達した天才らしい。
ラキュースは現在、女戦士と女性
同じ街に居るのにエンゲージリングの効果が発動しないことを不思議に思っていたのだが、遺跡に潜っているのであれば有効範囲から外れていてもおかしくない。
やはりラキュース・アルベイン・デイル・アインドラこそスーちゃん候補筆頭と考えて間違いないだろう。
まぁ何故魔力系ではなく信仰系なのか、何故第三位階までしか使えないのかなど気になることはあるのだが、その辺は魔力系は『ユグドラシル』でやり尽くしたから別のビルドを楽しんでいて第三位階までしか習得していないのは俺と同じでロールプレイを楽しんでいると考えれば納得はできる。
これはニニャの同意を得てラキュースたちが潜っているという遺跡に行ってみるべきかもしれない。
ちなみに当主はかなりの親バカで、日夜冒険に繰り出す娘を心配して夜も眠れないらしいが、これはどうでもいいね。
他にも王国の情勢や国王派の貴族の情報なども手に入れたが、この辺もあまり興味は無いのでとりあえず頭の片隅に置いておく。
スーちゃんに敵対するならアサシネイトするだけだし。
「よし、こんなもんかな?」
最後に娘が心配で寝不足な伯爵本人の顔を拝んでから屋敷を後にする。
まぁまぁなイケメンだった。父親がこれなら娘のラキュースも可愛いに違いあるまい。
屋敷での情報収集を終えた俺は、ニニャの待つ冒険者組合へと移動。
組合で情報を集めていたニニャと合流した後、食事と情報の擦り合わせをするために宿へと戻った。