8歳になった。
毎日父のお手伝いで農作業をしているお陰か体はしっかりとしてきつつある。
妹のエンリも6歳になり、何が楽しいのか毎日満面の笑みを浮かべながら家事や農作業を手伝っている。
とても可愛い自慢の妹だ。
そんな暮らしを続けていたのだが、本日我がエモット家に新たな家族が仲間入りを果たした。
エモット家3人目の子供、次女『ネム・エモット』が誕生したのだ。
「あかちゃん、かわいいね!」
「そうだね。ちっちゃくて可愛い」
俺とエンリが眠っているネムの前で小声で話していると、後ろから父がやってきて俺とエンリの頭に手を乗せてた。
「はは、これでエンリもお姉ちゃんだな、妹と仲良くするんだぞ?」
「あい!」
「あ、こらエンリ、しーだよ」
父の言葉にいつも通り大きな声で元気よく返事をするエンリに、慌てて大きな声を出さないように注意する。
唇に人差し指を当てて「しー」とすると、エンリも俺の真似をして楽しそうに「しー」とする。
うん、いい子。
「はは、アレスも立派なお兄ちゃんだな。妹たちを守ってやるんだぞ」
「はい」
妹を守ると言う言葉が胸に刺さる。
俺は前世では一人っ子だったため、兄妹を守るというのはイマイチよく分からない。
妹を大切な人と置き換えると……
スーちゃん……澄香のことが思い出されて胸が苦しくなってしまう。
「アレス、難しい顔をしているな」
「おにいちゃんだいじょうぶ?」
俺が考え込んでいると、父は苦笑を浮かべ、エンリは心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「心配するな。お父さんやお母さんだって居るんだ。お前が成長するまでは俺たちがアレスのことを守ってやるからな」
「お父さん……うん」
前世のことはこの家族には関係ない。
気を取り直し、笑顔を浮かべて父の言葉に返事をした。
◇◆
「こんにちはアレスくん、エンリちゃん。今日はンフィーレアを連れてきたよ」
ネムが生まれて数週間、いつもと変わらぬ毎日を過ごしていると、いつもの冒険者を引き連れてバレアレさんが村へとやってきた。
バレアレさんの後ろには俺やエンリと同じ年頃の子供が一人、あの子がンフィーレアくんで間違いないだろう。
「こんにちは! 僕はアレス・エモットだよ! こっちは妹のエンリ。よろしくね!」
「う……ンフィーレア・バレアレです……」
「ンフィーレアくん! じゃあンフィーくんだ!」
バレアレさんはいつもの様に父や村の大人たちと会話を始めたので、俺たちは子供同士で自己紹介を始めた。
「え!? ンフィーくんってもう魔法が使えるの!?」
「う、うん。お父さんが魔法を使えるようになったらカルネ村に連れて行ってくれるって言うから……」
「そうなんだ、僕より小さいのにンフィーはすごいね!」
三人でお喋りをしているうちに、まさかの事実が判明してしまった。
なんとンフィーレアくんは魔法が使えるらしい。
「まだ第一位階魔法の《
第一位階? 《
父はもちろんのこと、この村に魔法が使える人は存在しない。
なので魔法の存在は聞いていたのだが、詳しい話は聞けていなかった。
それが今、第一位階魔法《
これ……ユグドラシルと同じじゃね?
プロゲーマー、配信者としてありとあらゆるゲームに手を出してきたが、この呼び方と名称はユグドラシルにしか存在していなかったはず……
俺の知らない過去のゲームには存在したのかもしれないが、俺が生きている間に配信されていたゲームには無かった。
ならばここはユグドラシルの中なのだろうか?
しかし『リ・エスティーゼ王国』や『エ・ランテル』、『カルネ村』などは聞いたことがない。
なら俺の死後にユグドラシルIIが開始されてその中に取り込まれた?
「すごいすごい! ンフィーくんの魔法見てみたい!」
思考の海に沈みそうになっていたが、エンリの元気な声にハッとする。
今は考えている場合では無い、ンフィーレアくんをもてなさなければ!
「でも……魔法は危ないから……」
「僕も見てみたいな。お父さんたちに聞いてみよう!」
せっかく魔法が見れるこの機会、逃してなるものか。
「えっと、お父さんがいいって言ったら……ね?」
「「わかった!」」
ンフィーレアくんも納得したので、父とバレアレさんにお伺いを立てる。
すると「村の外れで周りに人が居ない場所なら」と許可を貰えたので、エンリと一緒にンフィーレアくんの腕を掴み走り出す。
「えっと、じゃああの木に向かって使うね」
「はーい!」
目標となる木を確認して、俺とエンリはンフィーレアくんの後ろに移動する。
俺たちが後ろに移動したのを見届けたンフィーレアくんが腰に指していた短い杖を手に取り木に向ける。
「いくよ! 《
ンフィーレアくんが魔法を唱えると、杖の先に小さな光の玉がひとつ出現、木に向かってまっすぐ飛んで行った。
木に当たった光球はドンと小さな音を立て、大人が思い切り殴ったかのような窪みを生み出した。
「すごいすごい! ンフィーくんすごい!」
エンリは諸手を挙げてンフィーレアくんの魔法を賞賛しているが、俺は全く別のことを考えていた。
これ……やっぱりユグドラシルと全く同じだ……