ラキュースたちと別れ、彼女たちが宿泊する宿を確認してから俺たちも自分たちが泊まっている宿へと戻ってきた。
俺たちが泊まっているのは所謂中堅の宿だが、ラキュースたちは迷うことなくこの王都で最高級の宿へと足を踏み入れていた。
さすがアダマンタイト級冒険者兼貴族令嬢、肝が据わっていらっしゃる。
「アレス、ちゃんと八本指が経営する違法娼館の場所は覚えているよね?」
「もちろん。この中にニニャのお姉さんが居ればいいけど……」
最悪、責任者の部屋を漁れば他の娼館や奴隷部門の長の居場所に繋がるヒントは得られるだろう。
例え今夜は無理としても、数日中にはお姉さんを発見、保護することは出来るはずだ。
「アレス……」
「ん?」
「姉さんを助けてください。お願いします」
腰をほぼ直角に折り曲げ、俺に向けて深々と頭を下げる。
何を今更……
ニニャはもう俺の大切な人の中の一人だ。
その姉が酷い目にあっているのなら助けるのは当たり前だ。
「任せとけ」
下手に言葉を飾る必要も無い。
それだけ言って、俺はニニャの頭を上げさせた。
◇◆
ニニャとの会話を終え、早速違法娼館に忍び込むために宿を出た俺の前に、白銀の鎧が立ちはだかった。
「やぁ、君がアレス・エモットかな? 少し話を――」
「今忙しいんでまたにしてもらえます?」
びっくりした。
まだ魔法も
「え、ちょ……」
「じゃ、そういうことで」
軽く手を挙げて挨拶をしてから鎧の脇を通り抜け、目的の娼館へと向けて駆け出した。
多分アレがリグリットの言っていた俺に会って欲しい人物なのだろうけど、優先はしないと言ってあるので気にしなくてもいいだろう。
そうして人混みを避け、裏路地や屋根、壁などを走って目的の娼館へと辿り着いた。
「営業中かな? ……《
魔法を使い、不可知化してからドアノブに触れるとなんの抵抗もなく扉は開いた。
中に入ると、すぐ右手にカウンターのようなものがあり、カウンターを挟んで厳つい顔をした男が椅子に座っていた。
この店の従業員なのだろうが、こちらに気付いてはいないようだ。
その更に奥に何人かの気配を感じるが、おそらくレベル10前後が数名、用心棒だろうがこちらは気にする必要もない。
「女性たちは……こっちか」
この娼館は古い三階建ての宿屋のような建物で、それぞれの部屋で待機や行為が行われているのかと思ったが、多くの気配は地下から感じられる。
おそらく上はダミーで本命は地下なのだろう。
「入口は……そこか」
部屋の隅、不自然にならないよう置かれた荷物やテーブルの影に隠されるように地下へと続く扉が設置されている。
「っと……罠か」
床に取り付けられた扉には、何もせずに開くと毒矢が飛び出す罠が仕掛けられていたが、
「生臭い……」
地下の通路に降りたって最初に思ったのがそれである。
ここの空調どうなってるの? ちゃんと換気してる?
まぁこの世界って衛生概念が希薄だし、仕方ないのかな……
カルネ村でも食事の前にある程度汚れを払うだけで手洗いうがいなんて一切してなかったからね。
俺がやり始めて、皆が真似をし始めると体調を崩す人が減って感謝されたものだ。
「吐きそう……《
あまりの臭いに耐えきれず、魔法を使って先に進む。
本来この魔法はダンジョンなどで毒霧トラップを回避するための魔法なのだが、名前的に臭いにも対応してくれると思い使ってみたが正解だった。臭くない。
「さてと……」
通路の先へと視線をやると、通路の左右にいくつもの扉があるのが見える。
おそらくこの部屋の中に女性が閉じ込められていて客の相手をさせられているのだろう。
とりあえず一番近くにあった扉を開いて中を覗き込んでみると、中では女性が一人ベッドに横たわっている姿が見えたので侵入して確認を行おうとした。
女性は一糸まとわぬ姿で掛け布団も無くただベッドに寝そべっていた。
「うわ……」
その女性を見て、俺は言葉を失った。
全裸なのはまぁいいとして、顔から足の先まで怪我をしていない場所を探す方が難しい。
全身痣だらけ、所々に刃物で切りつけられたような跡があり、半開きの口の中には歯は一本も残っていない。
両手足の爪は剥がされ、逃げられないようにか足の健も切られている。
正直、生きているのが不思議なくらいだ。
「これ……人間がやったの?」
悪魔が人間の苦痛の感情を味わうためにやったと言われた方がしっくりくる。
それくらい、同じ人間がやったことだと思えないし、思いたくもない。
こんなの、
「とりあえず名前……」
目の前の女性に向けて【ステータスチェック】を発動してステータスを確認してみるが、どうやらニニャの姉であるツアレニーニャさんではないようだ。
安心していいのか悪いのかも分からない。
「ごめんね。助けてあげたいのはやまやまなんだけど」
ツアレニーニャ以外の娼婦を助けて騒ぎになってしまうと不味い。
「必ず助けに来るから、それまで生き延びて《
これだけ怪我を差せられているということは、怪我をさせることに興奮を覚えるクソ野郎がいるということだろう。
一気に《
なので目立たないように《
改めて助けに来るまでなんとか生き延びて欲しい、そう祈りながら部屋を出て、他の部屋にも同じように侵入して女性たちに《
中には男に組み敷かれていたり、暴力を受けている女性もいたのだが、手を出したいのを必死で堪え魔法を掛けるにとどめた。
男ども、顔は覚えた。楽に死ねると思うなよ。
いくつもの部屋を周り、この娼館にはツアレニーニャは居ないのかもしれないと思い始めた頃、ようやくツアレニーニャ・ベイロンを発見した。
アレスのカルマ値
属性……秩序、中立
値、-100
基本的にルールは守るが時と場合により感情とマイルール優先。
自分と自分の大切な存在以外にはあまり興味は無いが、目の前で非道な行いが行われているのを目撃するとイライラする程度には善悪の区別はついている。
今回のアレスは『任務をちゃんと遂行する』というルールを守りつつ、感情で回復魔法を使用。
本当は全員みじん切りにしてやりたい。
けどそれをやるとニニャに怒られるので我慢した。