娼館の最奥の部屋、そこに侵入した俺が目にしたのは、金髪を短く綺麗に切りそろえた体格のいい男が女性を組み伏せ、女性に拳を振り下ろし続けている姿であった。
今すぐ引きずり下ろして「殺してください」と懇願するまで殴り続けてやりたいところだが、今騒ぎを起こすとツアレニーニャの捜索に支障をきたす可能性が高いのでぐっと堪える。
顔は覚えたので全てが終わった後サンドバッグにしてやろう。
そんなことを考えながら女性に《
ツアレニーニャ・ベイロン。間違いなく、そう表示されていた。
一瞬固まりそうになるが、見つけたならやることはただひとつ。
この状況をどうにかして、ツアレニーニャを助け出す。
「オラ! もっと鳴け!」
男が拳を振り上げたのを見て、即死魔法を叩き込もうかと思ったが、辞めておく。
「《
コイツはサンドバッグだ。殺さずに拐わなければならない。
ついでに情報を抜き取ってしまえば一石二鳥だ。
「これは酷い……」
男を支配したので、ツアレニーニャの方を見てみると、顔は真っ赤に腫れ上がり、枕元には白い欠片が転がっていた。
意識は……無さそうだな。
本当に同じ人間の所業とは思えない。
「すぐに治すから……《
傷もそうだが、ステータスに『病気』という表示が出ていたので、バッドステータスも一緒に直せる信仰系第六位階魔法《
魔法を使用すると、ツアレニーニャの体が淡く緑に輝き、光が消えると傷一つ無い状態へと回復していた。
「お前は服を着ろ」
「かしこまりました」
さっきまでは「俺様偉いんだぞ」オーラを出していた男も今は俺の言いなりとなり、汚いモノをぶら下げたままボーッとしていたので命令を出す。早くしまえ。
その後にツアレニーニャの服を探すが、この部屋に女性用の衣服は存在していない。
アイテムボックスから適当なローブを取り出して着せておこう。
「さて……」
この後どうしよう?
このままツアレニーニャとほか一匹を転移で連れ出してもいいのだが、そうすると客が消えたと騒ぎになる可能性がある。
ツアレニーニャの救出は済んだので騒ぎになったらなったで構わないのだが、もし何かを察して潜られると壊滅されるのが面倒になってしまう。
それなら……
「あと一時間くらいこのまま待機、その後何事も無かったように店を出ろ」
「わかりました」
このゴリラが普通に退店すればとりあえず騒ぎにはならないだろう。
ツアレニーニャが部屋から消えたのもこいつが何かしたせいだと誤解してくれればなお良しだ。
「よし、ミッションコンプリート……《
ツアレニーニャを抱き上げ、転移魔法を使用して宿へと戻る。
しかしこんな恐ろしい目に遭う可能性があるのか……
もしかしてスーちゃんも?
そう考えると居てもたってもいられない。
これはカウンターを怖がっている場合では無いかもしれない。
奥の手を使って捜索してみよう。
◇◆
「ただいま」
「おかえり……姉さん!!」
転移で宿に戻ると、起きて待っていたニニャは慌てて立ち上がり、こちらへ駆け寄ってきた。
「怪我と病気は全部治してるから大丈夫。体力までは回復してないと思うから、起きたらいっぱい食べさせてあげて」
「アレス……わかった、ありがとう」
ニニャは俺からツアレニーニャを受け取り、抱き締める。
その目には涙が浮かんでいる。
「じゃあ後は予定通り情報を更に集めてから一気に壊滅させるよ。ニニャはお姉さんとゆっくりしてて」
「うん……アレスはどうするの?」
「ちょっとやることがあるから」
それだけ告げて転移を使って王都から離れる。
場所はカッツェ平野、この時間のここなら周囲に人がいる可能性はまず無いだろう。
「さて……上手く行けばいいけど……」
ここまで来たのはもしスーちゃんが情報系魔法に対する攻性防壁を貼っていた場合のカウンターによる被害を減らすためだ。
『ユグドラシル』時代にはカウンターとしてランダムに第九位階以上の魔法が炸裂するというえげつない防壁を貼っていたからね……
対象が俺単体ならどうにでもなるけど、もし《
「《
アイテムボックスの中に手を突っ込んで探していた指輪を発見したので、取り出す。
『
超位魔法《
とはいえプロゲーマーズの皆が課金ガチャわっしょいで大量に入手していたりするので、アイテムボックスの中にはかなりの数の在庫があったりする。
中には一度使って残り回数二回のものや、二回使って残り一回のものも多くあるが、多分百回近くは願いを叶えられると思う。
今回取りだしたのは残り使用回数一回のものである。
「どんな選択肢が出てくるかな……出来れば5回以内くらいにスーちゃんの情報が手に入ればいいんだけど」
超位魔法《
一度や二度で成功する確証が無かったので今まで試さなかったのだが、ニニャのお姉さんのあんな姿を見てしまえばもう迷っている時間は無い。
「――
指輪を嵌め、発動句を唱える。これで選択肢が表示されるはずなのだが……
「あれ?」
選択肢が表示されない。指輪は輝いているので発動はしていると思うのだが……バグった?
「もしかしたら選択肢じゃなくて願いを言え的な? だとしたら……『スーちゃんがどこにいるのか教えて欲しい』!」
物は試しと願いを叫ぶと、頭の中に情報が書き込まれる。
『聖王国』『カリンシャ』『アダマンタイト』
以上三つが書き込まれた内容である。
「繋げると……聖王国のカリンシャって街でアダマンタイト級冒険者やってるってこと?」
聖王国はアベリオン丘陵に住む亜人たちの侵攻にずっと悩まされていたが、最近その亜人たちからの侵攻を打ち破ったと噂で聞いている。
とある冒険者チームが活躍したとは聞いているが、チーム名やその人数、個人の名前や二つ名まではまだ流れてきていない。
「聖王国のアダマンタイトか、それなら探すのは楽そうだ」
しかし
他にも魔法やアイテムの仕様で変わっているものがあるかもしれないけど、それはまた今度時間のある時に気が向いたら調べてみよう。