正直、今すぐにでも聖王国へ向かいたいのはやまやまなのだが、今はまだやることが残っている。
やるべきことをほっぽり出して会いに来たとバレてしまうと折檻されてしまうので、一日も早く八本指を壊滅させることを考えよう。
「あ……そういえば……」
ツアレニーニャの部屋にいたゴリラのことを思い出した。
そういえば一時間部屋の隅で待機してから何事も無かったかのように店を出ろと命令していたな。
「そろそろ頃合かな? 《
夜なのであまり気にせず娼館の近くに転移すると、ちょうどゴリラが店から出てくるタイミングだった。
さて、こいつどうしようか。
拐うのは簡単なのだが、問題は場所である。
最初は何も考えずに宿でいいかと思っていたが、こいつに酷い目に遭わされたツアレニーニャがいる以上連れていかない方がいいだろう。
「それなら……」
ゴリラに《
「このまま帰宅して自分の行ってきた悪事、八本指について知っていることを全て紙に書いてこの袋に入れろ。受け渡し場所は明日《
「かしこまりました」
アイテムボックスから『
これで尋問する手間も省けるし、場所も心配しなくていい。
我ながらナイスアイデアだ。
「さて……今日はMP使いすぎたし戻って寝ようかな」
純粋な魔法職なら問題無かったのだろうが、今のビルドは魔法職以外にも斥候職や戦士職などよく言えば万能、悪く言えば器用貧乏ビルドなのでMP量はそこまで多くない。
疲れたから早く寝ようと宿へと戻ったのだが……
「やぁ。待ってたよ」
宿の入口の前で、白銀の鎧が待ち構えていた。
「どちら様で?」
「つい数時間前に会ったばかりじゃないか……」
言われてみれば見覚えがある。
確か俺が宿から出た時に話しかけてきた人だ。
「僕の名前は『ツァインドルクス=ヴァイシオン』、リグリットから聞いてると思うんだけど……」
「あー、名前は聞いてないですね。俺と話したい人物がいるとは聞いてます」
そういえば白銀の鎧の戦士風の男だって言ってたな。つまりこの人か。
「それで少し話がしたいんだけど……」
「疲れてるからまた後日でいいですか?」
一応『
「そうかい……こちらの都合を優先しないとは聞いていたし、それで構わない。でもひとつだけ質問してもいいだろうか?」
「ひとつならいいですよ」
そういうことなら下手に断るより質問に答えた方が早く解放してくれそうだ。
俺が促すと、鎧の人は口を開く。見えないけど。
「君はどのように『世界』に関わっていくつもりなのか教えて欲しい」
「は? 世界?」
質問の意味がわかんない。
「どゆこと?」
「ふむ……六大神や八欲王、十三英雄の存在は知っているかい?」
「まぁ一応」
「彼らはぷれいやーだよ」
「へ?」
そうなの?
六大神はなんか人を助けて、八欲王はしっちゃかめっちゃかして、十三英雄は旅しながらなんかしたって聞いたことはあったけど、プレイヤーだったの?
「その中でも八欲王は世界を穢した。君にもそのつもりはあるのかい?」
「穢すって?」
「彼らは世界の理を捻じ曲げた。この世界に存在しなかった『位階魔法』なんてものを無理やりこの世界に刷り込んだんだ」
「へぇ……」
この世界に存在しなかったということは魔法でこの世界に刷り込んだのでは無さそうだ。
となると
「
「やはり知ってるんだね」
まぁ当然知ってるよね。持ってるし。
しかし位階魔法を刷り込んだってことは魔法系の
いや、世界に位階魔法の概念が無ければそもそも発動しないのかな?
なら、運営おねがい系のアイテムを使った可能性が高いのかもしれない。
魔法のおねがい系と言えば一番有名なのは『五行相克』なのだが、あれは確か「ぼくのかんがえたさいきょうのまほう!」を実装して欲しいとおねがいしたり、既に決まっている魔法名の変更をおねがいするためのアイテムだったはず。
確か《
アイテムの効果を考えると違うような気もするが《
もしくは世界のシステム自体の変更をおねがいできる『ウロボロス』かな。
効果の変質だとしたら『エンゲージリング』の効果も変質しているのだろうか?
以前《
「それで、そういうことをするつもりは?」
何を使ったのかを考察していると、答えを急かすように鎧の人が声をかけてくる。
ふむ、さっさと答えてさっさと寝よう。
「無いよ」
「本当にかい?」
これ疑うなら聞いた意味無いんじゃないのかな?
「本当なんだね? 世界に敵対する意思は無いんだね?」
「無いよ。世界とか興味無いし……って普通に答えちゃったけど、質問はひとつじゃなかったの?」
「あ……」
「まぁお互い無意識だったからノーカンでいいよ」
どうでもいいから早く寝たい。もう帰ってもいいかな?
「ああ、ありがとう」
「じゃあもういいっすか?」
鎧の人は一瞬何かを考えるような仕草をしたが、特に何も言わずに頷いた。
「じゃあおやすみなさい」
「ああ、おやすみ。また近いうちに会おう」
「今度は暇な時に来てください」
暇な時なら相手しますから。
「わかったよ。それじゃあ」
鎧の人と別れた俺は部屋へと戻り、寝る前にニニャに戻ったことだけを伝えてベッドに潜り込んだ。