無事王城へと侵入を果たした俺とラキュースは第三王女の待つ私室へと足を進めていた。
入城の際に警備の兵に怪訝な顔で見られたが、ラキュースと一緒であることと、俺の首元に掛けられたオリハルコン級を示すプレートを見て何も言わずに通してくれた。
ちなみにニニャは置いてきた。声もかけていない。
今は姉との時間をゆっくり過ごして欲しい。
「こちらです」
メイドに案内されて第三王女の部屋に到着、ラキュースが扉をノックすると、中から俺と同い年くらいの少年が扉を開けて顔を出した。
金髪を短く刈り上げたとても男らしい眉毛の少年だ。
「これはラキュース様、そちらが……」
「ええ。昨日話したアレスさんよ」
「アレス・エモットと申します」
少年の目がこちらに向けられ、ラキュースに軽く紹介されたので少し丁寧に自己紹介をする。
こんな所にいるという事はどこかの貴族令息だろうからね。
君の親は八本指と関わってなければいいね。
「私はクライムと申します。主が中でお待ちですので、どうぞ中へ」
少年も名乗り、扉を開いて俺たちを中へと招く。
姓を名乗らなかったのは名乗る価値もないと思われたのか、はたまたま姓が無いのか……
王女様の私室に居るくらいだから姓が無いということは無いと思うのだが、彼は一体何者なのだろう?
「ようこそラキュース。そしてはじめましてアレス様。私は『ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ』と申します」
中で待っていたのは金髪を背中まで伸ばした美しい少女だった。
ラナーと名乗った王女様はスカートの裾を軽く摘み、軽く膝を曲げる。
確かカーテシーって言うんだっけ?
そういうのが好きなギルメンが熱く語っていたような記憶がある。
こういう時はどうするんだっけ?
確か……右手を軽く握って胸の前、左手を背中に回して軽く頭を下げるんだったかな?
口上は……やばい、あんま覚えてない……
もうちょっとちゃんと聞いておけばよかったかもしれない。
「お初にお目にかかります。アレス・エモットと申します。この度はリ・エスティーゼ王国を照らす太陽、ラナー殿下にお会い出来ましたこと、誠に光栄に存じます」
「まぁ!」
合ってる? 間違ってても俺平民だから許してね?
「王国式とは少々違いますが……アレス様は他国の貴族の出なのですか?」
「いえ、エ・ランテル近郊の農村の出ですが……」
ちょっと違ったか……まぁ機嫌を損ねている感じは無いし、成功と言ってもいいだろう。
「そうでしたか。ではその礼儀はどちらで?」
ギルメンからです。
「何の本かは失念してしまいましたが、本で読んでなんとなく頭に残っておりました。不慣れゆえ多少の無作法はご容赦頂けますと幸いです」
こんな感じでいいの? ねぇ、誰か教えて?
それからも少しの間礼儀作法や言葉遣いに対してお褒めの言葉を頂いたのだが、雰囲気で喋るのもそろそろ限界だから早く本題に入って欲しい。
ラキュースの友人ということなので頑張っているが、本来ならこんな喋り方が出来るタイプでは無いのだ。
「姫、そろそろ……」
「そうですわね。ではアレス様、ラキュース、本題なのですが……」
ラナーが本題に入ろうとしたので、ここしかないと思い挙手をして発言の許可を求める。
「アレス様、なにかありましたか?」
「恐れながら……実は本題に入る前にラナー殿下にお伝えせねばならぬことがごじゃります」
やべ、めっちゃ噛んだ……
これだからなれない言葉遣いはダメなんだ……
「ふふ……どうぞ。あと、普通に喋っていただいて構いませんよ?」
いいの?
「ではお言葉に甘えて……実は――」
一応目上の人に使う用の敬語を使いながら、ラキュースにも説明したこの国の王族を支配しちゃった話をラナーに語る。
気分は罪を自白する犯罪者、ここで「捕らえよ!」とか言われた瞬間に転移出来るように魔力を練る。
即座に転移して宿に戻り、ニニャとツアレニーニャを連れて王都から逃げ出そう。
「……という事でして、お許し頂けるならその王子に自らの罪と知っている事を書かせた紙を持ってこちらに来させたいのですが……」
全てを話し終えてラナーの顔を見ると、今まで浮かべていたほほ笑みを崩し、ポカンと口を開けて惚けていた。
背後に立つクライムも同じような顔をしている。
「殿下?」
「あ……いえ、失礼致しました。バルブロお兄様が……」
そっか……ラナーからしたらお兄ちゃんなわけだし、信じたくないのかな?
ラナーは一瞬だけ考える素振りを見せ、頷いた。
「わかりました。しかし【
「受け取ったあと人気の無い所に案内させて、ボコボコにして記憶を消そうと思っています」
「記憶を……」
ボコボコにしておけば殴られたショックで記憶が混濁したと思われるだろ。
サンドバッグにするつもりだったから一石二鳥だ。
「アレス様はそのような事が出来るのですね……」
「人が想像出来ることは大抵出来ると思いますよ」
大抵の事は魔法を使えば出来てしまう。
究極の話『
「わかりました。その力が王国に向かないことを願います」
「今まさに向いてますけどね……」
バルブロって第一王子なんでしょ?
それから《
この部屋に来るまでにやはり多くの人に目撃されたそうだ。
「じゃあ逆に色んな人に目撃されながら人気の無い場所まで移動して」
「かしこまりました」
バルブロはそう返事をして、ラナーの部屋を後にする。
「では記憶を消してきます。作業が終わりましたら転移魔法にてこの部屋に戻ってきますので、驚かないように」
「わかりました。お気を付けて……」
ラナーはその様子を見てドン引きしたような顔をしていたが、なんとか絞り出すように返事をした。
そんなラナーの反応を見つつ《
バルブロはすれ違う人に「うむ」と頷いたり、手を挙げたりしながら王宮内を進み、中庭へと続く渡り廊下に出る直前で立ち止まった。
ふむ、確かにここなら人気は無いし、人目にも付かないだろう。
「さて、じゃあやりますか……」
周囲に人の気配が無いことを確認し、盗聴防止用のアイテムを使って音が漏れないようにする。
それから《
「む……!?」
「ハロー王子サマ、とりあえず歯ァ食いしばれや」
バルブロは一瞬状況が分からずキョトンとしたが、何も可愛くない。
俺が声をかけると、俺を見てなにやら顔を赤くし始めた。
「き、貴様! 俺を誰だと――」
「クズ王子。はいドーン!」
死なないように加減してバルブロの顔面へ拳を叩き込む。
バルブロは鼻血を吹き出しながら吹き飛び、口からは白い物が飛んだ。
「まだまだ終わらんよ!」
途中から泣きながら何かを言っていたが、多分コイツはツアレニーニャが「やめて」と言ってもやめなかっただろうから気にせず殴る。
顔は腫れ上がり、ほぼ全ての歯が折れ、全身の至る所の骨を折るまで殴り続けたが、意識とHPはまだ残っている。
我ながら完璧な手加減だ。
「よし! じゃあ記憶消すね? 《
倒れ伏し、涙を零すバルブロの頭を掴んで魔法を発動すると、俺の目の前にバルブロの記憶が記された本が出現した。
「さて……」
本を手に取り、パラパラ捲る。
昨日の夜の記憶を発見したので、そこから今までの記憶を全て消去するようイメージしながら指でなぞる。
「うお……めっちゃMP減った!」
深夜から今までの記憶を消しただけで俺のMPの6割ほどが消費された。
消すだけでこれなら書き換えならどうなることやら……一度実験してMPの消費量を確認しておいた方がいいかもしれない。
「まぁ……うん、とりあえず今回はこれでよし」
バルブロはかなり悲惨な状態だが、まぁ数時間以内に誰かに発見されて治療されるだろ。死にはしない。
魔法の影響で意識を失ったバルブロをその場に放置して、転移魔法を使ってラナーの私室へと転移した。