私には前世の記憶が存在する。
前世『
前世の私はとある世界的大企業の子会社の下級幹部の娘として生まれた。
7歳の頃に父の務める会社の親会社の上級幹部……父より歳上の男の第三夫人として婚約を結ばされた。
嫌で嫌で仕方なかったが、子供であった私にはどうすることも出来ず父に言われるがままとなっていた。
そんな日々が続き13歳の誕生日、私は「婚約者なのだから」と男と一夜を共にすることを命じられ、無理やり部屋へと押し込まれた。
その部屋で待っていたのは……醜く肥太った中年男性……
太っているのはステータスと言われるこの時代ではあるが、私の美的感覚的にも生理的にもこれは無理。
迫ってくる男の『黄金』を全力で蹴りあげ私は逃げ出した。
その後紆余曲折を経て、私は当時流行り始めていたDMMORPGユグドラシルにのめり込み、ペニーと出会った。
ユグドラシル内で出会った私たちであったが、あっという間に意気投合して行動を共にするようになり、オフ会で顔を合わせるとお互いに一目惚れ。
あれよあれよと言う間にお付き合いを開始してすぐに一緒に暮らし始めることになった。
ユグドラシルエンジョイ勢だった私だが、彼の話を聞いて実践しているうちにいつの間にか有名プレーヤーの仲間入りを果たし、気が付けば彼と一緒に『ペニー&スー』というカップルゲーム動画配信者としてデビューしていた。
それから彼や仲間たちと色んな冒険をして、いつしか『ユグドラシルトップカップル』としてモテない男たちから狙われるようになっていた。
嫉妬マスクも全部持ってるのにな……
そんな楽しい日々はあっという間に過ぎ去り、そろそろ結婚をと考え始めた頃、とある大企業からお仕事を貰えると言う話で私は呼び出された。
そこで私の素性を知る人物に出会い、彼の安全とこれからの仕事と引き換えに私はその男の玩具となることを強制されてしまった。
彼に別れを告げ、その日から私はその男からの凌辱に耐える日々が始まった。
辛い、死にたい、彼に会いたい……毎日そう思いながら過ごしていたが、解放される日は思ったよりも早くに訪れた。
私はあの男の子を妊娠してしまったのだ。
解放された私はすぐに彼に会いに行こうとした。
しかし、この汚れた体で……あんなクズ野郎の子供をこの身に宿した状態で、どうして彼に会えようか?
私は再び絶望し、自ら命を絶つことを決意した。
このまま黙って死のうと思ったが、どうにも踏ん切りが付かない。
彼には会いたいが合わせる顔がない。
そんな私の行動は単純で、気が付けば近くにあったネットカフェからユグドラシルへとログインしていた。
最後に彼と二人で見た景色をもう一度見たかったのかもしれない。
そうして二人で並んで見ていた景色を眺めながら、私はメールを打ち始めた。
ユグドラシルのサービスが終了するのは知っている。
斜陽化してしまったこのゲームに彼がログインすることはきっともう無いだろう――そう思ったからこそ、私は全てをメールに書き込み彼へと送った。
これで思い残すことは無い。
私はすぐにログアウトして、男からの最後の温情として今月いっぱいまでは住めるアパートへと帰りひっそりと自らの命を絶った。
はずなのに……
「どうして?」
深い深い闇へと沈んで行ったはずの意識が、覚醒した。
「どうして私……生きてるの?」
広い部屋の中心にある大きなベッドの真ん中で、私は目を覚ました。覚ましてしまった。
「いや……いやぁぁぁああああ!!」
あの男にされた全ての行為が頭の中でフラッシュバックする。
今すぐにでもこの喉を掻っ切って心臓をえぐり出したい衝動に駆られる。
いっそこの頭を地面へと打ち付けて、中身を全部ぶちまけてしまえば楽になれるのかもしれない。
「どうしたんだ!? おい! しっかりしろ!」
いつまでそうしていたのか、気が付けば私は誰かに抱き締められていた。
暖かくて、柔らかくて、いい匂い。
なんだか落ち着く。不思議な気分になってくる。
「落ち着いたか!? もう大丈夫だ! 私が来た!」
「ねえ……さま……?」
知らない女の子……のはずだ。
そのはずなのに、私はこの女の子を知っている。
レメディオス・カストディオ。
私の家族……私の姉だ。
「おね……さま……」
「大丈夫、大丈夫だぞ! 私がいれば怖いものなんて無いんだぞ!」
レメディオス姉様は更に私を強く抱き締めてくれる。
暴れ回っていた心臓は、いつしか落ち着きを取り戻していた。
「ねえさま」
抱き締めてくれる姉様に合わせ、私も体をモゾモゾと動かしてレメディオス姉様の背中に腕を回して強く抱きついた。
「おお……き、今日は甘えんぼさんだな……よし、今日はこのまま姉様と一緒に寝るか……?」
「うん。寝る」
「よし!!」
「ねえさま、うるさい」
「すまない……」
こうして私は姉の胸に抱かれ、およそ半年ぶりに暖かな気持ちで眠りにつくことが出来たのだった。