「んゅ……」
目が覚めた。
目を瞬かせながら周りを見てみると、すぐ目の前に女の子の顔があった。
「おはようケラルト。よく眠れたか?」
「うん……おはようねえしゃま」
姉様は微笑みながら頭を撫でてくれる。くすぐったいがとても気持ちがいい。
「ふふ……それで、起きたのならそろそろ離して欲しいのだが……」
「え?」
撫でられるのが気持ちよすぎて、ついつい姉様の手に頭を擦り付けるのに夢中になっていると、そんなことを言われてしまった。
改めて自分の体勢を確認してみる。
私は両手と両足を使って姉様を離さないようにガッチリとホールドしていた。
寝ている間に姉様が自分の部屋に戻らないよう無意識のうちに捕まえていたのだろう。
しかしこの体勢、彼と彼の友達の変態バードマンが話していてその日の夜に彼が「して欲しい」と言ってきた『だいしゅきホールド』ではなかろうか?
それに気付いた私は慌てて姉様の拘束を解いた。
その時に「ああ、姉様は行動阻害に対しての耐性は持っていないのだな」という思考が頭を過ったが、見た感じ10歳前後に見える幼女が耐性を持っているわけが無いと思い直す。
……って待て、なんで私はゲームみたいなことを考えているんだ?
「ありがとう。抱き着いてくれるのは嬉しかったのだが、その……漏れそうで……」
姉様は少しだけ頬を赤く染め、俯き下半身を抑えながらモジモジし始めた。
うちの姉はとても可愛いらしい。
私は無言で心の中のカメラを起動して魂の16連写。永久保存しようと心に決めた。
◇◆
姉様をトイレへ送り出し、使用人のお姉さんに着替えを手伝ってもらって食堂へ移動。
先に席に着いていた父様と母様に挨拶をして自分の席に座った。
この辺の記憶は夢で見た。姉様がずっと抱き締めていてくれたおかげでしっかり眠れたのがよかったのかもしれない。
「おはよう!」
席に座って大人しく待っていると、姉様が勢いよく扉を開いて食堂へと入ってきた。
「レメディオス、はしたないわよ?」
「ご、ごめんなさい……」
母様が威圧感のある微笑みで姉様に注意すると、姉様はしゅんと肩を落として謝りながら私の隣の席に座った。
か……可愛い!
姉様が席に着くと同時に厨房からメイドさんが出てきて配膳を始めた。
生きていくのに必要な栄養を摂る為だけの液体食料やカロリーバーとは違う、本物の食材を使った本物の料理……正直ヨダレが垂れそうだ。
「では……」
父が食事に手を付けたのを見て、私たちも食べ始める。
まずはサラダ。実家にいた頃でさえ見たこともない瑞々しい野菜にフォークを刺し口へと運ぶ。
「~~~!?!?」
声にならない声が出た。
その食感、味。今まで体験したことの無いモノが口の中で暴れ回る。
少し酸味の強いドレッシングがその暴力的な旨味をさらに加速させ、サラダを食べる手が止まらなくなる。
「あらケラルト、いつもは嫌がって残そうとするのに、今日はちゃんと食べるのね?」
「おいしいよ!」
これを残すなんてとんでもない!
一応ギリギリ富裕層であった実家でもこんな新鮮な野菜は食べたことがない。
こんな贅沢な味を嫌がって残すだなんて……この体の元の持ち主、ケラルトちゃんはどれだけわがままだったのかしら?
「私」が目覚めたからにはそんなわがままはもう許しません!
「ケラルト、そんなに野菜が好きなら姉様のも食べるか?」
「いいの?」
「レメディオス!」
「ヒィッ! ごめんなさい!」
こっそりと私にサラダの皿を渡そうとした姉様だったが、母様にそれを見咎められ叱責の声が飛ぶ。
そんな私たちのやり取りを父様は楽しそうにくつくつと笑いながら眺めていた。
◇◆
美味しく楽しい朝食を終えたら次はお勉強の時間である。
カストディオ家はローブル聖王国の智を司る家系らしく、我が父も大臣として国に貢献しているらしい。何大臣かは知らない。
今日の授業は魔法の授業らしく、カストディオ家の方針で神殿から神官を招いて主に信仰系魔法を学ぶ予定だ。
魔法……そんなものは当然
ということはここは剣と魔法のファンタジーな世界なのだろうか?
もしかして私はなんらかのチート能力を得てこのに転生してきたのだろうか?
正直、胸が高鳴らないと言うと嘘になりそうだ。
「それでは授業を始めさせて頂きます」
やってきた優しそうな女性神官さんから信仰系魔法についてのことが語られる。
その話を聞けば聞くほど魔法のシステムがユグドラシルに似ていると感じられた。
「では実際にお見せしますね」
神官さんはナイフを取り出し、左手の人差し指の先に小さな切り傷を付ける。
「《
神官さんが魔法を唱えると、指先の傷はあっという間に塞がってしまった。
「おお!」
「これが信仰系
位階が上がると第二位階で《
知ってる。
私は魔力系だったから使えなかったけど、仲間には信仰系
神官さんの説明には無かったけど、同じ『神官』でも魔法に特化した『プリースト』と戦う信仰系『クレリック』に別れることも知っている。
見た感じ目の前の神官さんは『プリースト』だと思う。
それに信仰を捧げる神がとの話もあったが、ユグドラシルにはそんな設定は存在しなかった。
一応ゲーム内には『神祖カインアベル』という神が存在すると示唆されていたが、それだけだ。
口の悪い人は信仰系の人の事を『絶対神ウンエイを信仰しているドM』とか言ってたけどね。
それは脇に置いておいて、神の存在を一ミリたりとも信じていない私に信仰系魔法を覚えることは出来るのだろうか? ちょっと興味がある。
だが、神官さんの言っていた『四大神』を信仰するつもりは無い。
どうせなら私の中の神様を作ってそれを信仰してみようと思う。
プリーストとクレリックなら私はクレリックがいい。
クレリックは戦う信仰系
私の中で最も強い戦士はただ一人。なら、私の信仰はこの人に捧げよう。
――剣神ペニー。
私の信仰する神は決まった。
これで信仰系魔法を習得できたなら……姉様にも布教して信仰させよう。
多分今私すっごい変なことを考えているけど、現状すらちゃんと理解出来ていないのだからそこは許して欲しい。