「到着っとー……お? お? お?」
先程娼館で女性たちの回復のために四割弱魔力を消費していたのだが、それすら気にならなくなるほどの圧倒的な上昇率。
慌ててエンゲージリングへと目をやると、その宝石は効果の発揮を示すように赤く輝いている。
間違いない。スーちゃんはこの近くに居る。
「どうしたんだい? ローブル聖王国はあっちだよ?」
「いや……」
エンゲージリングの効果が発動すると同時、虫の報せというかなんというか……とにかくなにか良くないものを感じるようになってきた。
これは……もしかしてスーちゃんピンチ?
「ツアー、この周辺で戦闘行為が行われてたりする?」
「この周辺? ちょっと待ってね」
「俺の方でも探ってみるよ」
ツアーに気配や感覚での捜索を任せ、俺は急いで
――見つけた。
ここから北東に少し行った場所で人間の女性が二人、大量の亜人に囲まれている。
二人とも茶髪で、一人は立派な全身鎧を着込んだ髪の短いボブカットの女性。もう一人は神官が着用する法衣の上に胸当てを装備したストレートの髪を腰の辺りまで伸ばした女性。
二人は剣を構えており、まだ無事のようだ。
そして……その髪の長い女性の左手の薬指には、赤い輝きを放つ宝石の付いた指輪が嵌められていた。
「アレス、ここから北東3キロ地点で……」
「俺も見えた、急ごう! 《
ツアーも発見したようだが、説明を聞いている暇は無い。
急いで《
◇◆
~スーちゃん視点~
私と姉様はここ数年、冒険者として亜人との戦いの最前線であるカリンシャへと滞在し、聖王国へと攻め込んでくる亜人の集団を全滅させ続けました。
そのおかげでここ半年ほどは亜人の襲撃も無くなり、ようやく安心して暮らせるようになって来たところで国から組合を通しての依頼がありました。
「亜人たちの襲撃が無くなって半年、現在アベリオン丘陵がどうなっているのか調査して欲しい」
昨年王位を継承した『カスポンド・べサーレス』陛下と新たに神官団団長となった『カルカ・べサーレス』様御二方からの連名での依頼でしたので、畏れながら御二方の幼馴染であり、聖王国唯一のアダマンタイト級冒険者チームである私たち『白翼の剣』がその依頼を受けることとなりました。
「これは……」
「不味いですわね……」
依頼を受け、準備を整えてアベリオン丘陵へと向かった私たちが目にしたのは、多くの亜人たちが集まり、部族の族長クラスが勢揃いして何かを話し合っている姿でした。
「アイツは……魔爪か? アイツの父親は以前襲ってきた時に返り討ちにしてやったが……」
「姉様、アチラには豪王も居ますわ。七色鱗に氷炎雷まで……」
「噂は本当だったようだな」
「はい。これは私たちだけではどうにもなりません。一度持ち帰って――」
報告を……と続けようとした瞬間、背筋に冷たいものが走りました。
「ケラルト、伏せろ!」
私が悪寒を感じると同時、姉様は動き出していました。
流れるような動きで腰の剣を抜き、私に向けて振り下ろされていた短剣を受け止めます。
「チッ……防がれたか」
「背後から襲うなんて卑怯な……貴様何者だ!?」
「ちょ……姉様声が大きいです!」
姉様が襲ってきた何者かに誰何しますが、声が大きいです。
そんな大声を出してしまうと――
「囲まれましたか……」
周りに気付かれて当然です。周囲に散らばっていた亜人たちがこちらに気付き、私たちを囲うように集まり始めました。
「人間の冒険者……貴様ら、白翼の剣か?」
「そうだ!」
「姉様……」
いや、今更声を抑えたところで意味はない。
どうにかしてこの包囲を抜け出さなければ……
「《
少しでも数の不利に対抗するため、急いで第五位階の召喚魔法を使い、天使を召喚。
第四位階までの攻撃魔法を使える
「
私が命令すると、
「剣の神ペニーよ、我に力を! 武技《能力向上》! 《聖撃》!」
姉様は天使からのバフと武技で戦闘能力を上昇させ、さらに修めている
……でもいいなぁ姉様、その
「剣の神ペニーの名のもとに、正義を執行する!」
姉様、残念ながら彼のカルマ値はマイナスだったので悪寄りです。どちらかと言えば破壊神に近いです。決して正義の人ではありません。
まぁ……私にとっては
私たちの装備は
ですので、全力で逃げます。
まずは広域化した《
「姉様!」
「前は任せろ!」
姉様を先頭にして、聖王国へと向けて駆け出します。
「邪魔だ! 退け!」
「《
立ちはだかる亜人を、姉様の剣と私の魔法で吹き飛ばしながら脱兎のごとく逃げ出します。
天使ですか? 天使は置いてきました。召喚はしましたがハッキリいってこの逃走にはついてこられません。
天使は基本的に動きが遅いのです。
ですので、その場に残って囮兼固定砲台として活躍してもらいましょう。
消滅するその時まで第四位階魔法で攻撃をしてもらえればかなりの打撃になると思います。
と言っている内に天使との繋がりが絶たれました。
「ケラルト! 回り込まれてるぞ!」
「わかりました! 《
回り込まれて囲まれると危険ですので、私はその場で
全てとは言えませんが、それでも多くの亜人たちが天使へと群がります。
「《
そこへ《
の上位魔法を叩き込み、一気に数を減らしました。
それを繰り返すこと数時間、城壁まであと数キロという地点までたどり着きましたが、そこでついに私の魔力が底を突きました。
既に私たちは包囲されており、絶体絶命という言葉がピッタリなほど追い詰められてしまいました。
「姉様すみません、もう魔力が……」
「そうか、ここまでよく頑張ってくれた。あとは私がなんとか道を切り開く!」
全身傷だらけで、それでも曇りの無い瞳で前を見据えて剣を構える姉様の姿は、正に英雄そのものでした。
「まだ逃げられると思っているのか?」
「貴様は……魔爪か」
前に出てきたのは、一人の鎧を身につけた
「そうだ! レメディオス・カストディオ! 今こそ父の仇を討たせてもらうぞ! 《決闘宣言》!」
「む……!」
マズイですね……一応どこから襲われても対応出来るように全体に気を配っていた姉様ですが、今ではあの
さっきのはヘイトを自分だけに向けさせる技なのでしょうか?
「では、俺はこちらを貰おうか」
先程の
銀色の体毛を生やし、他の
「豪王バザー……」
「ほう、俺のことを知っているのか? なら……逃げられないことも分かってるよな?」
「そう……ですね」
悪名高きアベリオン丘陵十傑が一人、豪王バザー。
魔力が十分に残っていれば勝てない相手ではないと思うのですが、今の私には魔力が無い。
勝ち目はほぼゼロでしょうね。
それでも無抵抗に殺される訳にはいかない。私は剣を構え、切っ先をバザーへと向けました。
……なんだかやけに力が漲りますが、これが火事場の馬鹿力と言うやつでしょうか?
魔力も回復しているような……
「その意気やよし。気に入ったぞ小娘! 貴様は俺が直々に殺してその血肉を食らってやろう!」
バザーが腰を落とし、一気に踏み込みこちらへと飛びかかってくる。
その一撃をなんとか防ごうと手に持った剣の柄を強く握りしめた瞬間――