城壁を抜け、俺の《
「亜人たちは連合を組んで攻め込んで来ようとしていましたが、全滅させておきましたので何の心配も必要ありません。城壁から北東に数キロ進んだ地点に亜人たちの死体が転がっていますので、ご確認お願いします。それでは本日は疲れましたので、詳細は後日でもよろしいですね?」
「……え?」
「では」
それだけ言って、スーちゃんは受付に背を向けてこちらへと戻ってきた。
「行きましょう」
「いいの?」
受付さん、ポカンとしているよ?
「うむ、帰ろう。アレスも着いてこい」
「いいんだ……」
依頼を受けた二人がいいと言うのならいい……のだろうか?
まぁこの件に関しては俺は無関係だし、気にしないでおこう。
それからスーちゃんとレメディオスが生活しているという一軒家へと案内された。
「ここだ。茶くらいは出すからゆっくりして行くといい」
レメディオスは上機嫌にそう言い、鍵を開けて中へと入っていった。
しかしいきなり家か……再会して数時間で親に挨拶とか緊張するな……
いや、でもこれは必要なことだ。頑張れ、俺。
なんなら《
「なんとなく何考えてるか分かるけど、ここに住んでいるのは私と姉様だけよ」
「そうなの?」
「ええ。私たちの実家は首都ホバンスにあるからね。あと、スーちゃんって呼ばないで」
「……善処します」
無意識に呼んでしまいそうだ。気を付けなければ。
「ふ、二人の時はいいから……」
「分かった!」
スーちゃんは少しだけ恥ずかしそうにそう言ってから、俺の小指を掴んできた。
多分、手を繋ぐのは恥ずかしいけど、それでも触れていたいとかそんな感じなのだろう。俺には分かる。
けど……これ小指がベキッ! ってなりそうで怖いから普通に手を繋いで頂けませんかね? ダメですか?
結局そのまま小指を握られた状態で家の中へと入り、勧められた席に座ると対面にレメディオスが腰掛けた。
スーちゃ……ケラルトはお茶の準備をしてくるそうだ。
「さて……聞きたいことは色々あるのだが、まずは改めて……貴殿のおかげで私たちの命は助かった。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
レメディオスに関してはついでみたいなものだから。
俺が助けたかったのはスー……ケラルトだから。
「アレスは強いな。私では足元にも及ばん」
「レメディオスも結構強いと思うけど」
俺はまぁチート以外何物でもないから置いておいて、レメディオスは見た感じレベル30を超えていそうだし、この世界では相当強い部類に入ると思う。
俺、戦士職でレベル30超えてる人見るの初めてだしね。
「そう思っていたが、まだまだだったようだ。強くなると我が神に誓ったというのに恥ずかしい限りだ」
神に誓ったって……なんだか重たいな。
しかしこの世界の神様ってスルしゃんたちのことだよな?
レメディオスは誰のことを信仰しているのだろう?
もしスルしゃんを信仰しているというのならスルしゃんの面白い話でも聞かせてあげようかな。
「レメディオスはどの神を信仰しているの?」
「私は『剣の神』を信仰しているぞ!」
「剣?」
聞いたことがないな。
確か六大神はそれぞれが闇、光、土、水、火、風を司っていると聞いていたのだけれど……剣?
「なんだ、知らないのか? アレスは神が住まう国ゆぐどらしるは知っているか?」
「それはまぁ……チラッとは」
「剣の神はそのゆぐどらしるの中でも最強の神だ。その剣は世界をも斬り裂いたとも言われている」
「世界を」
おっと……なんか今ゾワっとした。
なんとなくこれ以上ここに居てはいけないような気がしなくもない。
「『剣神ペニー』私が信仰している神の名だ」
「……え?」
は? え? ちょっと待って?
剣神ペニー? なんで俺神様になってるの!?
世界を斬り裂くってもしかして《
いや確かにユグドラシルで最強っていうのは公式ランキング一位だったから認めるとして、誰が広めたんだよ!?
スルしゃんか? スルしゃんなのか!?
しかし王国では聞いたこと無いぞ? もしかして王国では下火でも他国ではメジャーな宗教なのか?
ダメだ、考えても何も分からない……
「アレスが現れた時の一撃、まさに世界を斬り裂くに相応しい一撃だと思った。だからお前も剣神の信者だと思ったのだが……」
「残念ながら王国では聞いたことないです」
「そうか。まぁ私もケラルト以外から聞いたことは無いのだがな」
「ナルホド……」
視線をレメディオスから外し、ス……ケラルトが出ていったキッチンに繋がる扉へと向ける。
そこにはドアをほんの少しだけ開いてアワアワした顔で俺たちを覗き込んでいるケラルトの顔があった。
スーちゃん……やってくれたね?
「そうなんだ、俺は『剣神』じゃなくて『魔神』の方を信仰しているかな」
「ほう、魔神か……十三英雄が倒したというあの魔神か?」
「いや、その名の通り魔法を司る神様だよ。レメディオスの言う剣の神と対になる存在だね」
俺が『白銀の閃光』と呼ばれていたのと同じように、スーちゃんは『
俺が剣の神なら魔の神はスーちゃん以外有り得ないだろう。
「ほう……」
「剣神ペニーが戦士として最強であるなら魔神スーは最強の……」
「お茶! お茶持ってきました!」
「おおケラルト、遅かったな」
やり返すために適当なことを喋っていると、勢いよく扉を開いてケラルトが部屋に飛び込んできた。
「アレス! 姉様は単純なんですから、そんなことを言ったら簡単に信じてしまうんですよ!?」
「だって……」
「だっても何もありません!」
これはいけない。これ以上は本気で怒られるからここまでにしておこう。
さすがに再会初日に正座はしたくない。
「ごめんレメディオス、冗談」
「嘘か、嘘はいけないんだぞ!」
「いや、嘘ってほどのことでは……」
冗談を嘘と捉えられ、ぷりぷり怒っているレメディオスを何とか宥め、ケラルトを加えて場を仕切り直す。
「それで……なんの話だっけ?」
「私が剣神を信仰しているという話だな! ケラルトもそうだぞ!」
「す……ケラルトも?」
「……ええ」
俺の隣に座ったケラルトに顔を向けると、ケラルトは気まずそうに目を逸らした。
「ケラルトが教えてくれたんだ! 剣神ペニーはその名の通り剣を握れば向かうところ敵なし。立ちはだかる全てを斬り裂く絶対の神なんだ!」
「お……おぅ……」
「だからアレスも剣を握るのなら信仰するといいぞ! 今別の神を信仰しているとしてもケラルトが言うには剣神ペニーは全ての神の頂点に立つ唯一で絶対の神、文句など言われはしないさ!」
「いや……」
「信者か? ほかの信者が問題なのか? それこそ私とお前が力を合わせれば誰も文句は言えなくなるぞ! その信者たちを丸ごと剣神の信者にしてしまえばいい!」
いや……俺、無宗教ですし……
そもそも剣神ペニーって俺のことだから、俺が俺を信仰するってどんなプレイなんですか……?
「姉様、その辺りで……」
「む? ケラルトも剣神の教えをもっと広めたいと言っていたではないか」
「それは……」
ケラルトはかなり困った様子で俺の方をチラチラと見てくる。
とりあえず……どうしましょう?