「姉様、お話があります」
「なんだ?」
「剣神ペニーとはアレスのことです」
「……は?」
……は? ちょっと待って、なんで急にネタバレ始めたの?
俺、どんな顔してればいいの? 教えてスーちゃん。
「ユグドラシルというのは私とアレスがかつて生きていた世界……言うなれば私とアレスの前世です」
「……ちょっと待ってくれ。前世とはなんのことだ?」
「私が『ケラルト・カストディオ』として生まれる以前、別の人間として生きていた頃の話です」
「う……む? 輪廻転生とか言うやつか? 本当にそんなことがあるのだな……」
一応この世界にも輪廻転生の概念は存在する。
いい事をすれば次も人間に生まれ変われますよといった考え方で、悪い人は亜人や異形種に生まれ変わると言われている。
だから『悪いことはしてはいけません』と両親からよく言われていた。
「はい。私とアレスは別の世界……ユグドラシルで生きていましたが、とある事情で死んでしまいました。そして、気が付くとケラルト・カストディオとして生まれ変わっていたのです。アレスもそうですよね?」
「まぁそんな感じ」
厳密にはユグドラシルではなく『
「記憶だけではなく、アイテムも引き継いでいます。今まで姉様に『掘り出し物』として渡していたアイテムも全てユグドラシルで私が持っていたアイテムになります」
「私が装備している物だな」
「そうです。この世界の武具の質があまりにも低かったもので……」
それ、すごい分かります!
俺も物は試しにと思ってメイスを購入して使ってみたけど、レベル30弱のステータスでも本気で振れば壊れると確信したもの。
何の魔法効果も無いただの鉄の塊とか投げるくらいしか使い道は無い。
投げたら怒られたけどね……
「そういうわけで、私とアレスはユグドラシル時代からの付き合いなのです」
「な……なるほど。よく分からんがとりあえず理解した」
ホントかな?
「ひとつだけ確認したいのだが、いいか?」
「何でしょうか」
「お前はケラルト・カストディオ。私の妹で間違いないんだよな?」
若干不安そうなレメディオス。
前世がどうのこうの話したから不安になってしまったのだろうか?
「はい。私はケラルト・カストディオ。レメディオス姉様の妹です」
「そうか。それならいい」
レメディオスは安心したように小さく息を吐いてから、目の前に置かれた紅茶を一息で飲み干した。
「よし! 腹が減ったぞ! 飯を食いに行こう!」
話は終わりだと言わんばかりにテーブルを一度強く叩き、レメディオスは立ち上がった。
「ケラルト、アレス、行くぞ!」
「はい」
「俺もいいの?」
「私の奢りだ、安心してついてこい!」
「あざっす。ごちっす」
ご相伴にあずかります!
それから俺たちは二人の行きつけだという店で夕食を食べることになった。
そのお店は少しお高めで、主に下級貴族や沢山稼いでいる商人なんかがよく使うお店のようだ。
そんな所に農村生まれの俺が入っても大丈夫なのかと少しソワソワしてしまったが、アダマンタイト級冒険者二人に挟まれたオリハルコン級冒険者ということで止められることなく中へと案内して貰えた。
「あ、美味しい……」
「だろう? ここの肉料理は絶品なんだ」
レメディオスはワインを飲みながら綺麗な所作で肉を切り、口へと運ぶ。
こう言ってはなんだが、意外である。
もっとこう……骨付き肉を掴んで豪快にかぶりつくタイプだと思っていた。
「アレスは飲まないのか?」
「一応まだ13歳だから」
別に法律があるわけではないのだが、15歳未満の子供が酒を飲むと言うと大人たちがあまりいい顔をしないので飲むつもりはない。
そもそもお酒ってあんまり好きじゃないしね。エタノールとあまり変わらないものを飲んで何が楽しいのか……
「アレス、お肉ばかりでなく野菜も食べなさい」
「食べてるよ」
「揚げ芋は野菜ではありません」
いや、野菜でしょ。芋は芋だよ。
こうやって和やかに食事は進み、ケラルトに皿いっぱいの野菜を押しつけられた辺りで酒に酔ったレメディオスが上機嫌で爆弾をぶん投げてきた。
「アレス、前世とやらでのケラルトの話を聞かせてくれ」
「いいよ。その代わりケラルトの小さい頃の話を聞かせてよ」
「いいだろう」
「良くないです!」
爆弾は爆弾でも、ケラルトにとっての爆弾だったようだ。
「前世のケラルトの話を聞きたかったのに……」
「今世のスーちゃんの小さい頃の話を聞きたかったのに……」
「なんでそんなに息ぴったりなんですか!?」
俺とレメディオスは一度目を合わせて頷き合う。
「「それは俺(私)がケラルトの事が大好きだから!」」
「ハモらないで!」
こうして楽しい食事会を終え、再び姉妹の家へと戻ってきた。
流石にお暇しようとしたのだが、レメディオスから「泊まっていけ」と言われてしまい、帰るに帰れなくなったのだ。
「ちょっと仲間に連絡しておくね」
「分かった。では私は先に休むが……えっちなことは禁止だぞ? そういうのは結婚してからだぞ?」
「しません……よ?」
二人から離れて《
思わず「しねーよ!」と答えそうになったのだが、その前にニニャが応答したので喉元まで出ていた言葉を何とか飲み込んだ。
てかスーちゃん、その答えだとしようとしていたようにしか聞こえないよ?
『はい』
「俺だよ。アレスだよ。報告したいことがあって連絡したんだけど、今大丈夫?」
『大丈夫だよ。どうしたの?』
「とりあえず……まずはスーちゃんと会えました」
『うん。ツアーさんから聞いてるよ。よかったね、おめでとう!』
「ありがとう。それでなんだけど……今夜はスーちゃんのところに泊まることになったから帰れないんだ」
『えっ?』
「えっ?」
一瞬ニニャが黙り込み、沈黙が場を支配した。
『アレス……』
「何? そっちで何かあった? 戻った方がいいなら戻るけど」
『こっちは何も無いよ。そんなアレスに私から言葉を贈りたいと思うんだ』
「言葉? なんて言葉?」
『不潔』
「どうして!?」
まさかの言葉に少し大きな声を上げてしまった。
何事かとケラルトとレメディオスがこちらを見ているので、「ごめん」の動作で謝っておく。
「ニニャ、不潔って……」
『再会したばかりの女性のところに泊まるとか……いくら前世で恋人関係だったとしても、節操は無いの?』
「違うから。二人きりなわけでもないし、スーちゃんの今世のお姉さんの勧めだから」
『まさかお姉さんも? もしかして、私と姉さんのこともそんな目で……』
「見てねぇよ!」
再びこちらを見てくるカストディオ姉妹に向けて両手を合わせて頭を下げる。
これ以上声を上げることはしないように注意しなければ……
『冗談だよ。分かった、ゆっくりしてきてね』
「ありがとう。もし何かあったらすぐ連絡してね」
『了解』
繋がっていた感覚が途切れ、ニニャとの《
「ごめんね」
「いや、構わない。アレス、ひとつだけ聞かせてくれ」
「何?」
「先程の《
「うん」
答えた瞬間、後悔した。
この答えは間違っている……!
「女……」
「い、いや! 確かに女性だけど、そういう関係じゃなくて……」
「ほう? じゃあどういう関係だ? 他に女が居るにも拘わらず、私の妹に手を出そうとしているのか?」
「違う! 俺はスーちゃん一筋だ!!」
真顔で問い詰めてくるレメディオスに対し、ついスーちゃんと呼んでしまったが紛れもない本心なのでここは気にしないでおく。
「さっきのは俺のチームメンバーの
「つまり誤解だと?」
「そういうこと。だからスーちゃん、悲しそうな顔しないで?」
問い詰めてくるレメディオスの後ろで、スーちゃんがしょんぼりしたように肩を落としている。俺にはそれが耐えられない。
「本当に? 信じていいの?」
「もちろん。スーちゃんと……この剣に誓うよ」
アイテムボックスから神裂を取り出してスーちゃんに見せる。
この剣の銘は
スーちゃんなら俺がこの剣を作るためにどれだけ苦労して、完成してからどれだけ大切にしているのか知っているため、これに誓うのが一番だと思ったのだ。
それに……俺って剣の神様らしいからね。
「アレス……分かった。信じる」
「ありがとう」
「アレス! もし貴様が浮気をしたらその首私が刎ねてやるからな!」
覚悟しておけ、と残してレメディオスは自室へと戻っていった。
ようやくスーちゃんと二人きりだ!