「……」
「……」
いざ二人きりになって数分、俺たちの間に会話らしい会話はまだ無かった。
向かい合って席に着いているのだが、俺もスーちゃんも相手の顔を直視出来ずに俯いてしまっている。
時折意を決して顔を上げるのだが、同じタイミングでスーちゃんも顔を上げるので、バッチリ目が合ってしまい気恥しさに逸らしてしまう。
「……お茶、用意してくるね」
「あ、うん。ありがと……」
沈黙に耐えかねたのか、スーちゃんは立ち上がりそそくさとキッチンへと消えていってしまった。
いけない。これではいけない。
こんな「女の子と二人きりになった途端にお喋り出来なくなる童貞」みたいな状況は大変によろしくない。
これではスーちゃんに幻滅されてしまうかもしれない。
一度大きく息を吸い込み、数秒止めてから一気に吐き出す。
よし、これで落ち着いた。
それから手の平に「人」と書いてそれを飲み込みながら待つこと数分、ようやくスーちゃんが戻ってきたので立ち上がって迎え入れる。
「お帰りハニー、待ちわびたよ。さぁ、お茶なんてそこに置いて僕の胸に飛び込んでおいで!」
「え、なにそれキモイ」
極寒の冷気がその場を支配した。
これこそ第十位階魔法《
とんでもないこの威力……さすが
「ふふ……思い切りスベってるじゃない。ださいわね」
「ひぐぅ……」
「あーあ、なんか色々考えてた私が馬鹿みたい。でも……ありがとう」
スーちゃんは優しく微笑みながらお茶を俺の前に置き、対面へと座り直す。
「さて、色々聞きたいこともあるんだけど……まずはどうしてこの世界に? もしかして、貴方も死んでしまったの?」
「うん」
「どうして? あの男に何かされたの?」
「どっちかと言えばその男にやらかして死んだ感じかな?」
「どういうこと?」
「どこから話そうか……まずはスーちゃんと別れた時かな?」
俺はスーちゃんから別れを告げられた日からあとの行動を説明した。
「ふーん……」
話を聞き終えたスーちゃんはおもむろにアイテムボックスからとある情報遮断系アイテムを取り出して起動、周囲に声が漏れないようにする。
なんだろうと思って見ていると、スーちゃんはテーブルを強く叩きながら立ち上がり、キッと俺を睨みつけてきた。
「この馬鹿! 大馬鹿者! どうしてそんなことをしたの!?」
「だって……」
「だってじゃない! 貴方には未来があったのよ! 私の事なんて忘れてあのままゲームを続けていればトップにだって立てたはずなのに!」
「忘れられるわけが無いだろッ!」
こちらも立ち上がり、前のめりになってスーちゃんと額を突き合わせ怒鳴りつける。
これがただのお説教であるのであれば俺は大人しく正座をしてごめんなさいをするだろう。土下座だってしたかもしれない。
しかし、スーちゃんのことを忘れてなんて言われて黙っていられるはずがない。
「なんでよ! 貴方の夢はトッププロゲーマーだったでしょ!? もうすぐ手が届くところまで来てたのに……どうしてよ!」
「そんなのどうだっていい! 俺はスーちゃんさえ隣に居てくれれば他に何もいらなかったんだ! トップゲーマーになりたかったのだって、俺がそうなればスーちゃんが笑ってくれると思ったから! お金も稼げてスーちゃんに美味しいものを沢山食べさせてあげられると思ったからなんだよ!」
「なんで……」
「俺はスーちゃんと一緒になれるのならプロゲーマーなんていつ引退しても良かったんだ。その辺のブラック企業で使い捨ての歯車として働いても良かった。ただ……俺は君と居たかっただけなんだよ!」
スーちゃんと別れてからの俺の生活は酷いものだった。
今までの貯金を切り崩しながら惰性で飯を食い、糞して寝るだけ。
ゲームにも一切手をつけず、心配したプロゲーマー仲間や俺の知名度を利用したい企業からの仕事のメールを見る気にもなれず、ただただ呆然としながら過ごした日々。
早く死にたいとすら思っていた。
その事を思い出しながら話しているうちに、気が付けば俺の瞳からは大粒の涙が溢れ出していた。
「じゃあ……私のしたことって……」
スーちゃんの目からもポロポロと涙が溢れている。
いつの間にか、俺たちは大泣きしながら怒鳴りあっていたらしい。
「私はまだ……ただ貴方を裏切っただけ……」
「そんなことは無いよ。スーちゃんは俺の事を考えてそうするしか無いって思ったんだろ? なら……俺はそのことを怒れないよ」
「でも私は! 私は……あの男に抱かれて……」
「それ以上言わなくていい!」
無詠唱化した転移魔法を使用してテーブルの向こう側へと移動、強くスーちゃんを抱き締める。
「昔のことなんて気にしなくていい。それこそ忘れてしまっても構わない。俺たちはもう『
「うん」
「だから改めてって言うと変な感じなんだけど……聞いて欲しいんだ」
「うん。聞かせて欲しい」
「ケラルト、俺は君が好きだ。心の底から愛してる。今度こそ……アレス・エモットとして君を絶対に幸せにすると誓う。だから……結婚してください」
「……はい」
自然と俺とケラルトの唇は重なり、長い長い口付けを交わしあった。
「ねぇ……」
唇を離し、ケラルトが俺の腕の中でモゾモゾと体を動かす。
なんだろう? 離して欲しいのかな?
今はちょっと無理です。
「何?」
「今夜は……その……離れたくない……です」
心臓が破裂するかと思った。
「ケラルト……それって……」
ケラルトは何も答えてくれない。
ただ、顔を真っ赤に染めて俺の胸に埋めるだけ。
こんなに可愛くオネダリされて辛抱できる男が居るだろうか? いや、居まい。
居てたまるか、居るなら俺の前に連れてこい。ぶった斬ってやる!
「アレス……?」
「あ、いや、うん」
おっといけない、あまりの可愛さに思考がどこかへ行ってしまっていたようだ。
「じゃあ……」
俺は再び《
そこで宿を取り、俺とケラルトは誰にも邪魔をされない一夜を過ごした。
~オマケ~
王都リ・エスティーゼのとある高級宿にて。
「アレスの……アレスの童貞が消えた……?」
「ちょっとガガーラン! 急に何を言い出すの!?」
「ガガーランその話もっと詳しく」
「ティナまで!?」
~オマケのオマケ~
「ねぇリグリット、僕は今日初めて本物の恐怖という感情を味わったのかもしれない」
「どうしたんじゃツアー」
「アレスが軽く剣を振っただけで数百人の亜人と大きな丘が真っ二つになったんだよ」
「なんと……」
「そしてその後なんの光も映さない瞳で恋人のいい所を語り始めるんだ……彼、狂ってるんじゃないかな?」
「ぷれいやーというのはそういう存在じゃろう?」
「いや、そうなんだけど……なんというかアレスは他のぷれいやーとは方向性が違うというか……」
「なるほどのぅ……」
「ああ……行くんじゃなかった……」
「ツアー……」
「情緒が……アレスの情緒が分からない……」
皆さんそれぞれ長い夜を過ごしたようです。
今回ちょっとした思い付きで大変にふざけたことをしてみました。
ここでその詳細を書くのは憚られるので詳しくは愛飢夫のマイページから愛飢夫の投稿作品を見てみてください。
あ、18歳未満のお客様はこのまま回れ右をしてお帰りください。お疲れ様でした。