悪役の魂と共にMCU転生したので生き延びる   作:ゆかりちゃん@良識のある物書き

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第二章開始です。
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フェーズ1 2008〜2012 アベンジャーズ結成まで
第十話


時は2008年。

養子縁組をして2年が経過した。

 

緊急保護当時、5歳だった私の年齢は、7歳となっていた。

前世の公務員としての経験と知識、そしてヴァイス博士が発行してくれた『要特別支援指定』という重苦しい診断書。

更には、義父であるニコラス医師が行政側に提出した学校免除制度(ホームスクーリング)の届出。

それらの完璧なコンビネーションにより、私は黄色いスクールバスに乗って同世代の子供たちと砂場で泥遊びをするという地獄を1秒たりとも味わうことなく、合法的な自宅引きこもり生活を満喫していた。

 

自室のデスクに鎮座する最新型ThinkPad───型番はW666だ───を叩き、Hydraの裏口座から洗浄した資金を定期的にオズコープ社へと流し込みながら、脳内のゾラ爺と自衛用外骨格の設計データを更新し続ける日々。

 

え?あぁ、そう。

いや、別段、曲名ではなくて、だな。

オズコープ社についての説明だよ。

端的に話すと、私が5歳の時に設立した会社というのが、オズコープ社だ。

正式な法人名は、Oscorp Industries Inc.(株式会社オズコープ・インダストリーズ)

 

───くっきりとした姿が見えているわけではないけど、おぼろげながら浮かんできたんです。オズコープという社名が。

 

前世でも全く聞いた事がない音の響きだったが、

なんとなく気に入ったので使っている。

どんな意味が含まれているのかすらも知らないがな。

 

社内構造は至ってシンプルだ。

私が自室で動かしている、IT・メディア事業部と、マイケル義兄さんが率いるバイオメディカル研究事業部という、同じ会社の中の2つの部署で構成されている。

 

IT事業部の企業活動といえば、ゾラ爺のアルゴリズムを駆使して作られた、質の悪いネット記事を大量生産するクソ粗悪な全自動まとめサイト事業と、株式の空売りで稼ぐ金融業の真似事ばかり。

とても社会的に褒められた事ではないが、正規の利益だけでもかなりのものだった。

 

正直、初めはマイケル義兄率いる事業は、我が祖国の制度である医療法人のように、NPO化すべきだと考えていた。

 

しかし、そもそも法的な部分でアメリカの方が日本よりガチガチに制度が厳しかった。

その上、アメリカでNPOの公認免税資格を取ろうとしたら、IRSこと内国歳入庁の苛烈な査察が入って資金ルートを根掘り葉掘り調べられる。

Hydraの裏金ルートが存在する以上、そんな藪蛇を突くような真似は元公務員として絶対に避けたかった。

 

故に、オズコープ社の一事業として、独立せず、

ただの株式会社の社会貢献事業部門として登記してある。

 

ぶっちゃけた話、世間から見れば、ノーベル賞を蹴るほどの世界的天才生化学者マイケル・モービウスがトップを務める、オズコープ社の先端バイオ研究所だ。

ロンドンの大富豪マイロからの巨額出資に加え、IT部門から莫大な研究費が流れていようが、誰も疑問を持たない。

 

金の流れを考慮すると、コレが最善であった。

ダメ、ゼッタイ。ダツゼイ、ダメ。

 

 

ということで、この2年間で構築した巨額の資本により、私の生活環境は恐ろしいほど快適に最適化されていた。ハイルヒドラーである。

 

 

「……そういえば、ニコラス義父さん。先日のスターク・インダストリーズの株の空売り、最終的な利益確定の手続きは全部完了したよ」

 

 

朝食のフレンチトーストを喉に流し込みながら、向かいに座るニコラス義父に何でもないことのように告げると、コーヒーを飲んでいた義父は、ンゴホァッゴファと盛大に咳き込んだ。……きたねぇ花火だ。

 

 

「あ、アルバ……また君はそんな危険な真似を……。というか、アフガニスタンでトニー・スタークが行方不明になって軍需産業の株が暴落するタイミングを、なぜあれほど完璧に予測できたんだい?」

 

 

実に良い質問だ。

心の中でそう言いながら、心の中でサングラスをかっこよく外す。

グラビア雑誌の表紙モデルを12人ものにしたという質問から導き出せるのだ。

その答えは、「3月号とは出来なかったが、12月号は双子だった」。

時期は自ずと絞られてくる。

 

更に、ラスベガスのシーザーズ・パレスで開催されたアポジー賞とやらの授賞式。空売りの開始時期はもう完璧だろ。

 

 

「株の世界には波があるからかな。それに、タイムライン……じゃなくて、市場の空気というものをアルゴリズムを用いて直感的に把握していただけだよ。浮いた利益は全額、マイケル義兄さんの研究資金に回すつもり」

 

 

にしても、出る利益が半端じゃない。

現時点で56.5ポイントもの下落。

くぅぅぅ、有難いねぇ。本当に。

原作知識サマサマである。

 

で、暫く経てば、グルミラの報道が流れるだろう。

その頃が引き際だな。

なにせ、コレから先はスーパーヒーローだからな。

 

 

「はぁ、アルバ。7歳児が動かす金額じゃないんだよ……」

 

頭を抱えるニコラス義父の姿に、私は心の中で小さく笑った。前世の公務員知識による満額納税による完全防衛策は、2008年になっても留まることを知らず絶好調である。

 

すると、壁の薄型テレビから流れていた朝のニュース番組のアナウンサーが、不満げな声でニュースの切り替えを告げた。

 

 

『───次のニュースです。今年度のノーベル生理学・医学賞の最終候補として確実視されていた、オズコープ・インダストリー社代表のマイケル・モービウス博士(21)が、同賞の受賞を辞退する意向を表明しました。医療界の歴史を塗り替える人工血液の開発という偉業を成し遂げながらの辞退に、世界中から驚きの声が上がっています。詳細はCMの後で!』

 

 

画面には、大勢の報道陣に囲まれながらも、冷ややかな表情でマイクを突っぱねる21歳の義兄───マイケル・モービウスの姿が映し出されていた。

人工血液の開発に成功し、更にはそれの安定供給も可能なレベルまで人類の医学技術水準を押し上げたらしい。ゾラ爺も絶賛していたので、人工血液といいながら、青色である事は目を瞑ってあげるつもりだ。

 

映像の中で義兄が着ている高級スーツの内側には、私とゾラ爺が開発した高分子人工筋肉と制御装置を組み込んだ『全身型動作補助装具』が仕込まれている。

レッドカーペットの上を滑らかな足取りで立ち去った。その後ろ姿に大量のフラッシュが炊かれている。お労しや、兄上。

 

普段は猫背気味な義兄だが、平均身長を少し上回る178センチという長身であるからか、胸を張っていると様になる。

これ程、堂々した姿を全世界に配信してしまったのだ。

かつて車椅子や点滴に頼り切りの病弱もやしっ子だったとは、誰も想像が付かないだろうなぁと、私はどうでもいいことを思う。

実際のところ、結構モテているらしいしな。理系女大生から人気らしい。

 

 

「……マイケル。テレビでまた大騒ぎになっているが、本当にいいのかい? ノーベル賞だぞ。科学者なら誰もが夢見る栄誉だ」

 

 

ニコラス義父が、隣の席で静かにパンをちぎっている義兄であるマイケルに対して、優しく、どこか探るように問いかけた。

21歳を迎えた我が家が誇る天才であり、良き理解者である義兄は、呆れたように細い肩をすくめた。

 

 

「当たり前だよ、ニコラス。僕の作っている人工血液はまだ途上だ。マイロや僕自身の体を根治できていない段階の論文でお飾りをもらったところで、何の意味もない」

 

 

病弱ゆえの線の細さは残るものの、その瞳には溢れんばかりの知性と、研究者としての妥協なき誇りが宿っていた。

 

ギリシャの療養施設で車椅子に揺られていたかつての少年は、ニコラス義父の心身共に手厚いサポートを受け、私……の脳内に居るゾラ爺という共同研究者───いや、同じ言語で会話が成り立つ程度の知能を持つお悩み相談サポートセンターによって、この世界でも類を見ない若き天才として生理学の学会に君臨している。

 

そして、富豪マイロからの潤沢な出資や、私が裏から叩き込んだ粗悪な記事の売上金とHydraのロンダリング資金によって、マンハッタンの一角に最新鋭の自社専用ラボを所有するまでに至っていた。

 

天才、金持ち、博愛主義者。

プレイボーイを抜いたらほぼトニースターク。

それが今のマイケル義兄さんの肩書きだ。

 

資金も、設備も、名声も揃った。

しかし、彼とマイロの難病を根本から治療するための奇跡の物質——すなわち、異常な代謝に耐えうる自己細胞再生力だけが未だに不足していた。

 

 

その時だった。

ピンポーン、と重厚な玄関のインターホンが鳴り響いた。

 

 

「ん? こんな朝早くに誰だろう。宅配便の予定は……」

「僕が出ます、ニコラス」

 

 

義兄がスッと立ち上がる。

遂にガールフレンドか、と揶揄る私たちを無視して歩き出すと、耳をすまさねば聞こえないほどの微小な音が鳴った。服の下から『カチッ……スー……』と、シルバーチタン合金製外骨格が精密に噛み合う音が微かに響いている。

病魔に侵された義兄の肉体は、私とゾラ爺の作った機械の筋肉が自然に補正しているおかげで、健常者と何ら変わりない足取りでスタスタと玄関へ向かう事が出来ている。

バッキーの義手を作ったのもゾラ爺らしいからな。

この手のものはお得意らしい。

なら、早く、キック力増強シューズを作ってクレメンス。

 

そして、ドアを開けた先に立っていたのは、くたびれたジャケットを羽織り、怯えたように周囲を警戒している中年男性─── 完全にマーク・ラファロ……いや、ブルース・バナー博士だった。

 

 

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