悪役の魂と共にMCU転生したので生き延びる   作:ゆかりちゃん@良識のある物書き

12 / 15
第十一話

出会い(Love Story)は突然に。

この世界のハルクは、エドワード・ノートンでは無く、後任のマーク・ラファロの方だった。

 

私は目の前の光景に錯乱した。

大量の疑問が浮かび上がっている。

 

どうして、義兄とブルース・バナー博士が顔見知りなんだ。

いや、それはなんとなく分からなくもない。

同じジャンルの博士号持っているからな。

何かしらの接点があったのだろう。

 

しかし、どうして今、ハルクがNYに居るんだ?

ハーレムで暴れ散らかしたのは、アイアンマン2と同じ頃だったハズ。

つまり、アイアンマン1を絶賛上映中の現在より半年後。

コレが作中世界の正史な筈だ。

 

いや、よそう。

これ以上突っ込むと、Time Variance Authority(時間変異取締局)のエージェントに殺される恐れがある。私はMARVELの神では無いのだ。

 

 

「……と、思ったが」

 

 

最悪の可能性が脳裏をよぎってしまった。

そう、気が付いてしまったのだ。

このまま進めば、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の勝利ルートに乗ってない可能性が超絶高いのでは……!?、と。

 

 

「もしかして、1400万605分の1を引いたEarth616じゃないッッ!?」

 

 

血の気が引いた。

圧倒的な資本主義パワーと脳内のゾラ爺のお陰で、ぬくぬくと平穏な毎日を過ごせると思っていた。世界の平和は原作通り、アメリカのケツと愉快な仲間たちが何とかしてくれると確信していた。

 

───しかし現実ってのは意外と厳しい。

そうか、そうだな、そうかもな。

ハルヒ、あんたの言う事は間違いないぜ。

流石、私たちのBIBLE(聖典)だ。

原作知識を使ってサノス対策をマジでしないと、世界ごと巻き添えで死ぬぞ。神はハルクに負けるくらい弱いからな。神に縋ってないで自力で対策せねばならないだろう。

 

 

義兄ことマイケルがブルース・バナー博士と高度な会話を続けている最中、私は人生の方針転換を余儀無くされていた。

 

 

リビングに通されたバナー博士は、義父ニコラスが出した温かい紅茶を受け取ると、少しだけ安堵したように息をついた。

流石、善きサマリア人。

正直、5歳児のおもちゃとして軍用バッテリーを渡す事や、会社運営を容認する等、多少狂ってる所があれども、義父は根っこからの善人である。

他人の痛みを知り、共感し、可能な限り、寄り添おうとする。

立派な医師である前に、尊敬すべき人格者だ。

 

故に、バナー博士の緊張は時間と共に霧散していく。

そして、そんなニコラスの影響を幼少期から強く受け続けながら育っている義兄マイケルも、若干厨二病地味ているとはいえ、根は素直で優しい子だ。

ノーベル賞を拒絶した理由も、自身と同じ病気に苦しむ人々を救いたいという純粋過ぎる願望が歪んで現れただけに過ぎない。

 

バナー博士を、同じレベルで会話が成立する尊敬すべき研究者として、

だけではなく、自身に救いを求めている孤独な患者として見ている側面がある。

 

ニコラスとマイケル。

二人の瞳には、医師としての矜恃が宿っているのが目に見えて分かる。

 

 

「……信じられないな。オズコープ社が論文で発表した人工血液の『ヘモグロビン置換アルゴリズム』を使えば、生体の自律神経と心拍数を物理的に安定させる機能を持たせる事が出来るのか。それは僕のガンマ汚染された血液でも可能だろうか」

 

 

バナー博士が、手元の温かいカップを両手で包み込みながら、感嘆混じりの溜め息をつく。

しかし、義兄マイケルは静かに首を振った。

 

 

「現状では分かり兼ねるかと。僕の論文はまだ途上です。あなたの身体で起きている『ガンマ線による塩基配列の突発的転移と細胞の質量増殖』……あれは現代医学の範疇を超えている。僕たちの人工血液では既存の血液障害や循環器疾患───それもほんの一部の症状を改善させることしかできない。根本的な抑制には、ガンマ因子の代謝サイクルそのものを不活性化させる特殊な酵素触媒が必要でしょう」

 

 

「ああ、その通りだ。だから僕は……ブラジルのリオデジャネイロへ渡ろうと思っている」

 

 

バナーの口から出た言葉に、私はピクリと眉をひそめた。

ほう、ブラジルか。

となると、清涼飲料水工場で働くと見た。

原作通り、ポルデュゲス武術での呼吸法と、

現地の植物由来の酵素を探しに行くつもりだろう。

 

 

「南米ですか?」

 

「ああ。植物学者の知人が居てね。軍の監視が届かない土地で、心拍数を200以下に保つ呼吸法と、ガンマ線を中和し得る珍しい植物成分の研究を行うつもりだ。……ロス将軍の手で、僕の血が兵器として複製されることだけは絶対に避けたい」

 

 

重苦しい沈黙がリビングに落ちる。

ロス将軍。

スーパーソルジャー計画の亡霊に憑りつかれた軍のタカ派であり、私にとっても警戒すべき人物だ。

 

と、言うのも、あの時代の超人血清と似たようなものならば、私は作る事が出来るからだ。

 

正確に言うと、当時、バッキーに施した大量の薬物と改造手術の事を指す。

キャプテン・アメリカに打ったエイブラハム・アースキン博士製のものの再現は不可能だ。

 

と、脳内のゾラ爺が悔しそうに叫んでいる。

 

 

ここで、私はフレンチトーストのフォークを置き、会話の輪へと割って入った。

 

 

「バナー博士。初めまして。突然の申し出で申し訳無い。余計なお節介と思われるのであれば、聞き流されても構わないです。ただ、植物由来の酵素でガンマ線を中和する方向性ならば、先に『マヤ・ハンセン博士の論文』に目を通された方が良いかと」

 

 

リビングの空気が僅かに凍り付いた。

そんな気がした。

原作キャラに話し掛けるのだから、随分と緊張してしまうのは仕方が無いでは無いか。

私は続きの言葉を思い通りに出す事が出来ず、そのまま口を閉ざした。

 

 

「……マヤ・ハンセン?」

 

 

バナー博士が紅茶のカップを浮かせたまま、目を丸くして私を見た。

当然の反応だ。

大人の重厚な科学論議に、フレンチトーストを食べていた7歳児が突然、トニースタークと同年代の植物学者の名前を出してきたのだから。

 

 

「嗚呼、すみませんバナー博士。紹介が遅れましたね」

 

 

マイケルが私の肩に手を置いた。

そして、何故か誇らしげな声で私の事を紹介する。

多分、私がノーベル賞を取ったら我が事のように喜ぶんだろうな。

自分では蹴り飛ばしてるくせによぉ。

 

 

「僕の弟のアルバです。オズコープ社の創業者にして、IT部門と金融部門の最高責任者。そして僕の共同研究者を務めてくれています」

 

「……共同研究者? そんな子供がかい?」

 

 

困惑を隠せないバナーに対し、義父ニコラスも温かい笑みを浮かべながら頷いた。

 

 

「ええ。アルバの頭脳は……神様から授かった少し奇妙な贈り物でしてね。7歳にして我が家の財務とシステムのすべてを握っている、恐ろしいブレーンですよ」

 

 

バナー博士は一瞬息をのみ、目を丸くして私と二人を交互に見比べた。

7歳児が企業のITと金融を一人で仕切っているという常識外れな告白。

普通ならタチの悪い冗談だと疑うところだが、二人の誇らしげな眼差しと、私の落ち着き払った態度から、それが紛れもない事実なのだと悟ったらしい。

 

そして、驚愕はすぐに、科学者特有の純粋な敬意と感嘆へと変わっていった。

 

 

「……アルバくん、と言ったね。どうして急に、ハンセン博士の論文の名前を出したんだい?」

 

 

私に向けられたバナー博士の瞳には驚きと期待が潜んでいた。

大概、この人も疑うという概念が無い善人だと思いつつ、私は、

「思い付いただけ」という前置きをしつつ、返答をする。

因みに、脳内のゾラ爺も、

 

『何故じゃ?何故なんじゃぁー!』

 

と、疑問を投げ付けている。

いや、アイアンマン3に出てくるって事は、そのくらい重要且つ、天才的な理論だろうから、なんか相当役に立つんじゃね?くらいの軽い気持ちなんだわ。科学的根拠のある理由を並べる事は不可能だぞ。

 

 

「ええ、説明致します。ハンセン博士が行っている研究内容は、植物由来の遺伝子改変で細胞を修復しようとするもの。正直、再生医療の研究の中では異端じみている部分がある事は否めません。しかし、 彼女の論文を詳しく読み解くと、脳の未覚醒部分の活性化に伴う超高速再生に重きを置いています。この、超高速再生というのがミソでして、端的に言えば、摂氏3.000度強の高熱を放ちながら暴走する恐れがあるという事です」

 

 

いや、知らんけど。

とりあえず、映画の中で観た事だけを説明する。

だが、コレで良い。

天才は勝手に深読みして納得するからだ。

いけ、デミえもん。君に決めた!

 

 

「……ッ!?」

 

 

私の祈りが通じたのか、直ぐにバナーの息が止まった。

そして、瞳が徐々に開いていく。

7つの博士号を持つ天才科学者の脳内ではどんな化学反応が起きているのであろうか。

若干、興奮しながら口走られる内容について全くの理解が出来ないが、

兎も角、一瞬にして数式と生理学のロジックが組み上がった事だけは、

目に見えて分かった。

 

 

「過剰再生による……熱暴走……。まさか、植物の自己修復プログラミングとガンマ因子の結合が、相乗効果ではなく正方向の……つまりそれは」

 

 

「そういう事です」

 

 

ここぞというタイミングを見計らって押しが強めの相槌を打っておく。

私も、脳内のゾラ爺も、はたまた、世界最高峰の頭脳を有する義兄マイケルですら理解していないが、きっとそういう事なのだろう。

 

バナー博士は絶句し、それから参ったように苦笑いを浮かべた。

 

 

「……21歳の天才生化学者と、7歳の神童か。まいったな。君たちの言う通りかも知れない。しかし、それでも植物酵素によって完全に鎮静化させる事が出来るかもしれない。可能性が僅かでも残っている限り、僕はそれを試してみるよ。あまり君達を巻き込む訳にもいかないからね」

 

 

 

結局、翌朝になるとバナー博士の姿は消えていた。

とはいえ、食卓を囲みながら夕食を取っている際、ゾラ爺からの質問リストを適切に対処し、ほんの僅かであるが、第二次世界大戦時に開発された超人血清に関する意見交換も出来たので私は満足であった。

2012年にGameloftからリリースされたスマホアプリ版『The Amazing Spider-Man』を

  • プレイした事がある
  • プレイした事がない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。