悪役の魂と共にMCU転生したので生き延びる 作:ゆかりちゃん@良識のある物書き
「おっと、こちらはオズコープ社か。ご覧の通り爆ッ散!! ププッ、失礼、泥沼の迷走を極めているようだ。どうやら我が国にとって脅威ではなさ……別の動力源!?……そうですね」
連邦上院議会の軍事委員会。
その公聴会。
テレビの画面の中で、世紀の大天才トニー・スタークがニヤニヤしながらスクリーンを指差していた。
画面に映し出されているのは、我がオズコープ社の秘密ラボにて開発中の
『
数世代前のこの試作品は、白と青を基調とした巨体に、鮮やかな赤い胸部と黄色い角を生やしたデザインだ。
見栄えは良いものの、スクリーンの中では脚部外骨格が暴走し、股関節が明後日の方向へ回転し、私が絶叫しながら爆散するシュールなオチで終わっている。
議場からは大きな笑いが巻き起こった。
今笑った奴ら、絶対に許さんゾ!
『ガハハハハ! トニーの奴、まんまと引っかかっておるわい』
「そもそも、ウチはバイオがメイン事業なんよなぁ」
脳内でオバ爺が腹を抱えて大爆笑している。
ゾラ爺は他の国の失敗映像を見下しながら改善点を探しているようだった。
「まぁどの国もあと5年や10年はかかりそうだ。ハマーの会社なら20年」
テレビからスターク氏が煽り散らかしている声が聞こえる。
実際の所、ハマー・インダストリーズの技術力や企業としての経営能力はどのようなものなのだろうか。
オバ爺がゾラ爺相手に知識をひけらかしていたが、後で詳しく聞いておく必要がありそうだ。
その内容の多くが2年前の知識であるとはいえ、実際に現場に居たプロの目線なのだ。一流の分析である事は間違いないだろう。
さて、公聴会の場でハマー・インダストリーズの醜態と共に私の醜態映像が晒されたわけだが、私としては、先の一言に尽きる。
やはり、オズコープ社はバイオ。
参入した軍需産業によって、急成長を遂げているが、
その何れも、バイオテクノロジーが深く関わっている。
メカ技術がバカにされようが、あまり困るものでは無かった。
しかし、個人的な頭痛の種は別のところにあった。
「……トニー・スタークの血中パラジウム濃度、ついに危険水域を突破したか」
自室のThinkPadに表示された診断データを眺めながら、私は溜息をついた。
実はこの2年間、スターク氏の肉体は、オズコープ社への定期的な通院によってかろうじて維持されていたのだ。
彼が胸に埋め込んだアーク・リアクターによるパラジウム中毒。
原作では野放しになっていたが、この世界では天才生理学者こと義兄マイケルと善良なる医師こと義父ニコラスが付きっきりで介抱し、独自の解毒技術で症状を緩和させ続けている。
だが、彼がアイアンマンとしてスーツを使い続けた結果、マイケル義兄さんの技術をもってしても限界を迎えていた。
この2年で、彼の症状は原作『アイアンマン2』と同等か、それ以上に悪化してしまっていたのだ。
「マイケル義兄さん独自開発の二酸化リチウム配合クロロフィル内服薬を摂取させて時間を稼いではいるが……根本的な新元素の発見なしには、もう長くは持たないな」
と、なれば、そろそろ、歴史の歯車が動き出す頃か。
数日後、私の予想通り、我々はモナコで開催されるF1グランプリに招待された。
因みに、招待状を送ってきたのは、スターク・インダストリーズの新社長ポッツ氏である。コラ、オバ爺うるさいぞ。お前がポッツ新社長の事も嫌いなのは分かったから、そろそろ黙れって。
***
絢爛豪華なシャンデリアの下、タキシードとドレス姿のセレブたちがシャンパンを片手に談笑している。その人集りの中心にいたのは、渦中の男——トニー・スタークだった。
「ミスター・マスク、お元気ですか?」
最高経営責任者へ昇格したばかりのペッパー・ポッツが、ビジネス上の適切な距離感を保った丁寧な苗字呼びで挨拶を交わす。そのすぐ横から、グラスを持ったスターク氏がぬっと顔を出した。
「イーロン! 元気か。マーリンエンジンは最高だ」
「ありがとう。次は電気ジェット機だ」
「本当に!? 実現しよう」
ファーストネームで呼び合い、少年のような瞳で技術論を語り合う天才同士の圧倒的なシンパシー。やはり、前世に実際した天才はこの世界においても評価されるのか。カメオ出演、大万歳。
その濃密な輪に入り込もうとする1人の影。
「あ、やあイーロン! ハマー・インダストリーズのジャスティンだ! 実は我が社でも……」
必死に胡麻をすりながら割り込もうとするジャスティン・ハマーだったが、イーロンには苦笑いされ、完璧な噛ませ犬として撃沈していた。
ほんの少しだけ可哀想である。
私はぶどうジュースのグラスを傾けながら、ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフに見惚れていると、隣で静かに立ち尽くしていた義兄マイケルの視線が、スターク氏の首元に注がれていることに気づいた。
タキシードの襟元から覗くスターク氏の首筋には、既に隠しきれない蜘蛛の巣状の黒い血管───重度のパラジウム中毒による末期症状が浮き出ている。
この2年間、主治医として、二酸化リチウムやクロロフィルの研究を努めながら、様々な投薬や生活指導によって彼の命をギリギリのところで繋ぎ止めてきたのだ。
「……体調は最悪のはずだ」
マイケルが、痛々しいものを極力見ないように苦痛に満ちた表情で呟く。
最早、手遅れと匙を投げてしまっている部分があるのだろう。
義兄だけでなく、義父も決して認める事はないだろうが。
「それなのに強がって、死への恐怖を誤魔化すように酒をあおり、パーティーで狂喜乱舞している……。不眠不休で解毒処方を改良している僕たちの苦労も知らずに! なぜ天才というのは、自分の命をこうも粗末に扱うんだ」
義兄さんの声には、患者であり、友人になりつつあるスターク氏を救えない己の無力さへの苛立ちと、命を軽視してスーツを着用し続ける彼への悲痛な怒りが混ざり合っていた。
「まあまあ、義兄さん。近いうちに彼には『特大の処方箋』が届くはずだよ。亡きハワード・スタークの遺産という名のね」
私はThinkPadの画面で、S.H.I.E.L.D.のニック・フューリーがトニーへ接触するタイミングの計算ログを確認しながら、そっと呟いた。
……だが、この時の私は甘かったのだ。
このアイアンマン救済イベントこそが、義兄マイケルの心を最初に打ち砕く絶望の第1幕になるとは、まだ知る由もなかった。
***
アレから暫く時が経った。
その間にスターク・エキスポでの一連の事件は幕を閉じた。
私と同じ年齢であるピーター・パーカーがアイアンマンの仮面を被りながら、ハマー社の戦闘ロボの前に立ち塞がって掌を向ける、あの名シーンも無事に回収されたようだ。
周りの大人達は我先にと逃げ出す阿鼻叫喚の地獄絵図。
それなのに───まだ能力を手にしておらず、ただの少年に過ぎない彼は己の命を顧みずに立ち向かった。
やはり、未来の親愛なる隣人は精神の底からヒーローだ。
しかし、そんなエキスポの狂乱の裏で、私は義兄マイケルの鬼気迫る様子に酷く困惑していた。
心配する事に疲れてしまったと言ってもいい。
義兄は不眠不休で二酸化リチウムの研究に命を削っている。
自分自身の治療を後回しにし、病弱な身体を引き摺って、顕微鏡にしがみついている。キーボードの上に置かれた指が動く事は滅多に無い。
ココ最近はオズコープ社のラボに籠りっぱなしで太陽の光を浴びていないだろう。薬品の臭いが染み付いたその弱々しい背中に、私はなんて声を掛ければ良いのだろうか。
『——ニュースをお伝えします。スターク・インダストリーズCEOのトニー・スターク氏が、新元素の発見とアーク・リアクターの新型換装に成功。パラジウム中毒の脅威から完全に脱したと発表しました!』
ラボの壁に掛けられた大型モニター。
義兄に食事の差し入れをしがてら、少し眺めていたら、
こんなニュースが流れてきた。
(……嗚呼、この情報って世間に公開されるんだ)
そう思いながら、『GREEN GOBLIN』を飲んでいると、義兄の叫び声が聞こえた。ドサリと音を鳴らしながら、義兄は膝から崩れ落ちた。
金属音やガラスが割れる音も遅れて響いた。
「……新元素、だと……?」
私は最初から知っていたが、この2年間はスターク氏にとって、ただの時間稼ぎでしかなかった。
我々、オズコープ社がどれだけの熱意を抱いて現代医学と生理学の限界に挑んだとしても、治療不可能という解答は覆る事はなかった。
その不可能を、トニー・スタークという規格外の天才は、可能に変えたのだ。
S.H.I.E.L.D.から父親の遺品を受け取るやいなや、自宅のガレージで新元素を合成し、自らの手で己の命を完璧に救ってみせた。
「……僕たちの医学は……僕たちが必死で積み上げてきた時間は、彼にとって何の手助けにもならなかったんだな……」
しかし、その結果に対する受け止め方に、私と義兄の間で圧倒的な差があったという事を私は知らなかった。
正直、義兄はもっと素直に喜ぶのだと思っていた。
「嗚呼、もう残留しているパラジウムを取り除けば良いだけだ」と、晴れやかに笑ってみせるものだと思っていた。
どうしてこれ程までに哀愁を漂わせるのか。
何故、それ程までに無力感に打ちひしがれているのか。
───あまりにも傲慢過ぎるじゃないか。
「次のニュースです。昨日深夜、ニューメキシコ州のガソリンスタンドに二人組の強盗が入りました。通報を受け、警察が駆け付けたところ、既に強盗達は気を失っていたとの事です。店主は女性でしたが、普段から習っていた格闘技エクササイズのお陰で無事に制圧出来たと述べています。現場に居るレポーターさん、聞こえていますか?」
ゆっくりと立ち上がろうとした義兄の膝がガタガタと細かく震え、横に置かれた点滴スタンドに肩がぶつかる。
ガラガラと音を立ててスタンドが揺れ、吊るされた透明な輸液パックが重々しく揺れた。
義兄はただ呆然と、自分の両手を見つめている。
寝る間も惜しんで膨大な研究ノートに書き殴っていたインクまみれの痩せ細った己の手を。
その背中は小さく丸まり、まるで急激に体中の毒が回ったかのように、力なく垂れ下がっていた。
ラボの蛍光灯の下、彼の影だけが黒々と足元に落ちている。
「……義兄さん」
私が差し伸ばした左手は、空中で虚しく止まった。
彼の細い肩にかかるかすかな吐息の揺れに、私はただやるせなくなった。
右手に持っていた『GREEN GOBLIN』をモニターに投げ付け、永久的に電源を切った。
******
「……まだだ」
あの後、義兄の掠れた声がラボに響いていた事を私は覚えている。
「……まだ、終わっていない……っ」
そう言った義兄が、膝をガタつかせながらゆっくりと立ち上がる姿に恐怖を感じた事も記憶している。
足元はおぼつかず、転倒しそうになる。
荒い息を吐いて強引に弱った身体を引き摺る義兄は、最早、善良なる医師に見えなかった。まるでそう───
キーボードへしがみつくように両手を叩きつける。
そして、叫んでいる。
「スターク氏は……自分で自分を救った。僕たちの力なんて、最初から必要なかったのかもしれない……!」
モニターの光が、血走った義兄の瞳を怪しく照らし出す。
画面に次々と立ち上がっていくのは、かつてブルース・バナー博士から提供された、あの異常なガンマ因子の解析データだった。
「だが……バナー博士は違う! あの人は自力ではどうにもできない呪いを抱えて、暗闇の中で僕たちを頼ってくれたんだ! 血液サンプルまで託してくれたんだ……っ!」
義兄の指が、悲鳴のような打鍵音を奏で始める。
「救わなきゃ……僕の手で、絶対に……! あの人の異常な代謝を抑え込む『完璧な鎮静化薬剤』を……僕が完成させてみせる……!!」
取り憑かれたような横顔だった。
己の病魔も、身体の限界も、すべてを怒りと執念の炎で焼き尽くすかのように、義兄は再び顕微鏡へと顔をうずめた。
その壮絶な後ろ姿に、私はもう言葉を掛けることができなかった。
ただ、彼の命が燃え尽きてしまわないことだけを祈りながら、そっとラボを後にするしかなかったのだ。
───だが。運命の悪戯というものは、どこまでも冷酷だった。
数日後の、深夜。
私が自室でThinkPadを開いていたその時、地下ラボの方角から、ガラスが砕け散るような激しい破壊音が響き渡った。
「義兄さん……!?」
私は慌てて階段を駆け下り、ラボのドアを蹴開ける。
そこに広がっていたのは、異様な光景だった。
壁掛けの大型モニターには、紅蓮の炎に包まれる街並みが映し出されている。
『——緊急速報です! ニューヨーク州ハレーム地区にて大規模な暴走事故が発生! 謎の緑色の巨人と、軍の超人試作体が……』
狂ったように明滅するニュース映像の前で、マイケル義兄さんは狂乱していた。
「嘘だ……嘘だろバナー博士……っ! 答えてくれ、バナー博士!!」
義兄さんは青ざめた顔でキーボードを乱打し、サミュエル・スターンズ博士を経由して繋がっていたはずの暗号化ホットラインへ、必死に通信を試みている。
しかし、スピーカーから返ってきたのは、冷たい電子音だけだった。
『……ツーツーツー……お掛けになった回線は、現在使われておりません……』
「あああぁぁぁぁっっっ!!!」
次の瞬間、義兄さんは激高し、叫び声を上げながらコンクリートの壁へ拳を叩きつけた。
コツン と鈍い音が響き、白壁に赤黒い血がほんの少しだけ付着する。
正直、私の方がまだ威力のある拳を放てるだろう。
やつれた義兄は貧弱過ぎた。
皮が破れた拳を擦りながら、その場に崩れ落ちた義兄を見て、私はなんともいたたまれない気持ちになった。
「誰も……っ!! 僕は……誰も救えていない……!!」
薬品と血の匂いが混ざり合う暗がりの中で、絶望に身をよじる義兄の背中は、あまりにも小さく、壊れそうだった。
『アイアンマン2』・『インクレディブル・ハルク』『マーベル・ワンショット:ハンマー墜落現場へ向かう途中での出来事』終了。
初代ガンダムは43話らしいです。
2012年にGameloftからリリースされたスマホアプリ版『The Amazing Spider-Man』を
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