悪役の魂と共にMCU転生したので生き延びる 作:ゆかりちゃん@良識のある物書き
「……要するに、ビショップ・セキュリティの警備網と、我が社の『災害派遣部隊』の業務提携。そういう理解でよろしいですか」
重厚な革張りソファの上で、24歳になった義兄マイケルが、手元の書類から静かに目を上げた。
その隣には子供用のビジネススーツを着こなした私がチョコンと座っている。
このソファ、かなり質が良いぞ。欲しいな。どこの銘柄のものであるのかあとで聞いておくか。
「ええ、その通りよ、モービウス社長。我が社はNYの富裕層や政府要人のセキュリティを独占しているけれど、スターク社が軍需から撤退して以降、市場に出回ったハイテク兵器や強化アーマーを持った重犯罪者に、既存の警備員のピストルじゃ対応しきれないの。……で、そちらの噂に聞く『災害派遣部隊』のことだけど」
答えるのは、ビショップ・セキュリティの
大人の色香と気品を纏った圧倒的な美貌。
知的で隙のない眼差しが義兄に向けられている。クソ、羨ましいぜ。
「あの部隊のスペック、拝見させてもらったわ。数トンの瓦礫を人力で跳ね除けるパワーに、どんな有毒ガスも遮断する防護スーツ、広域の生体反応を一瞬で割り出すドローンの分析精度、そして現場で即座に心肺停止を蘇生させる野外医療能力……正直言って、ただの『災害レスキュー』にしては明らかに過剰戦力じゃないかしら? 特に、時速
ビジョップ氏は洗練された動きでコーヒーカップをソーサーに戻す。
そして、艶やかな唇に笑みを浮かべながら、身を乗り出してきた。
と、いう事は、当然……おっふ、眼福である。こういう時ばかりは、子供の身長で良かったと痛感するね。
「あれを我が社の要人警護ビジネスに回さない? 富裕層や政財界の重鎮に『最強のレスキュー隊があなたの個人警護につきます』と売り込めば、今の何倍──いや、数十倍の膨大な利益を生むわ。凄まじい金になるわよ?」
淡々と持ちかけられる、数億ドル単位の甘い誘惑。
だが、その提案を聞いた瞬間、義兄マイケルの瞳から穏やかな色が消え、冷徹なまでの厳しさが宿った。
義兄は手元の資料を机にカツンと置くと、静かだが揺るぎない声で突っ撥ねた。
「───お断りします、ビショップ社長。我が社の派遣隊は、災害や事故で困っている市井の人々を救済するためのチームです。金持ちの身辺を守って小銭を稼ぐための兵士ではありません」
「あら、随分と青臭い理想を語るのね。企業にとって利益こそが───」
「私は医師です。私が彼らに求めている役割は、オズコープ社の理念を体現すべく人命を救う事であって、富裕層の権力を誇示するためのボディガードではありません。……それにあなたが求めている『彼』の貸し出しも不可だ。提供できるのは、これまで通り、防護服を始めとする幾つかの装備品のみです」
「……ふふ、お堅いこと。でも、そのブレない理念こそが、今のオズコープのブランド価値を高めているのも事実ね」
ビショップ氏は肩をすくめつつも、マイケルの凛とした毅然さに一目置いたように笑みを深めた。
───そう、我が義兄がここまで力強く突っ撥ねる背景には、我が社が誇る『オズコープ災害派遣隊』の特殊性にあった。
名目は至ってクリーン。
企業の社会的責任に基づいた無償の民間レスキュー部隊だ。
が、その実態は───私が裏で構築した超人のみで構成された私設特殊部隊である。
そうだ、我らオズコープ・インダストリーズは成し遂げたのだ。
バナー博士の血液に対する研究から始まった超人血清の再現計画は、シールドからの依頼で回収したキャプテン・アメリカの血液データというラストピースが揃う事で達成したのである。
そして、インサイト計画の応用で世界中からあぶり出した善良な精神を持つ優秀な人物達を、我がオズコープの善良な資本力でスカウトし、複数回に分けて投与する事でスーパー・ソルジャー計画も終焉を迎えた。
ついでに、インサイト計画は最強のマッチングアプリに変化させて売り出している。
ゾラのアルゴリズムは運命の人すらをも科学的に見つけ出す。
マッチしないという事は…………すまない、兄弟。そういうことだ。察してくれ。
スカーレット・ウィザードがHydra側に立つなら若干厳しい気もするが、オズコープ社単体でHydraの一掃が出来てしまう程の戦力を有している。
しかし、善良なる超人チームを運用するのは、あくまでも、義兄マイケルだ。
真っ先に事故現場に駆けつけ、オズコープ製の生体スキャナーやドローンを駆使し、瓦礫の奥底から生命反応を特定する。
そして、重機が入らない狭小地では数トンの瓦礫を人力で撤去し、垂直の壁や崩落寸前の危険地帯を軽々と飛び越え、生存者を救い出す。
人工血液や急速細胞修復キットを惜しみなく使い、野外の劣悪な環境下においても、心肺停止寸前の人間を一命を取り留めさせる。
火災やテロといった極限の現場に一刻も早く駆けつけ、人命を救う。
この圧倒的な善行によって、人命救助に尽力する最高に人道的な企業というブランドイメージの向上と投資家からの絶大な信頼を獲得していた。
特に、テロ現場と云うのがキモである。
現在、オズコープ・インダストリーズは、バイオテクノロジーや医療分野で名声を誇ってはいるものの、軍需産業にもガッツリ参入している。
故に、世間体を意識しなければならなかった。
マイケルはちらりと隣の私を見る。
私が小さくと頷く姿を確認し、静かに紅茶を啜った。
選手交代の合図だ。
私は手提げ鞄から、クリアファイルを取り出すと、テーブルの上へとスッと滑らせた。
「───ビショップ社長。個人的な興味で少し拝見したのですが、資金繰りがお苦しいご様子ですね」
ビショップ氏は眉一つ動かさず、優雅な手つきでテーブルの上の紙を指先で手元へ引き寄せた。
そこに印字されているのは、
ビショップ氏は目線だけでその数字を一度なぞると、端正な顔立ちに一切の動揺も見せず、くすりと艶やかに微笑んだ。
「まあ、坊や。こんなイタズラはやめなさい」
「ええ、悪戯で済めば良かったのですが、全くです。我が社は健全で人道的なパートナーとしか手を組みません。ご留意ください」
原作ドラマなら、大学生になるまで娘に悟られることなく、キングピンの手を借りて再建するはずだ。
凄まじい精神力と経営手腕である。なにより娘に対する愛情が海よりも深い。
こんなにも素晴らしい母親に対するクリスマスプレゼントが監獄行き片道切符って、二代目ホークアイさんは鬼畜過ぎるだろ。
私は大人びた丁寧な笑みを深め、それ以上は追及せずに言葉を収めた。
「……デレクさんにも、よろしくお伝えください」
「ふふ、ええ。伝えておきますわ」
ビジョップ氏は何事もなかったかのように優雅にコーヒーカップへ口をつけた。
お互いに腹の底を隠したまま微笑み合う、息の詰まるような沈黙。
──極限まで緊張感の高まった大人のビジネス空間のドアが、ノックも適当にガチャリと開いた。
「ママー! パパが買ってきた高級乗馬クラブのカタログ見た!? 私、馬に乗りたい──あ」
入ってきたのは、私と同世代のフリル付きの服を着た身なりの良い少女 ───ケイト・ビショップだ。
原作では2002年生まれ。つまり、私の1つ下で、現在9歳の筈だ。
来年にはNY決戦でエイリアンと戦っているホークアイを見て、マーシャルアーツを習い始めると思う。
が、全く異なる人生を歩むかもしれない。
我がオズコープ社はNY決戦に対して、ゴリゴリに介入するつもりなので、この世界だとどう育つか楽しみだ。
が、今はただの世間知らずなお金持ちでじゃじゃ馬なお嬢様である。
「ケイト、今は大事な商談中よ。お行儀よくしなさい」
ビジョップ氏が眉をひそめるが、ケイトは部屋の中に居る私に目を留め、まったく空気を読まずに話しかけてきた。
原作通り、どんな場においても物怖じせず、おしゃべりな性格だ。本当に両親から愛されて真っ直ぐに育っているのだなと感じる。
「えっ、なになに? ママ、この子だれ? あたし、ケイト。ねぇ、何歳なの! 君も乗馬とかテニスやってる? 一緒に遊ぼうよ」
「───フロイライン・ビショップ。勿論ですとも」
大人たちが数億ドルと超人兵士の利権を巡って冷徹な腹の探り合いをしていた真ん中で、無邪気に話しかけてくる子どもの姿。
最早、商談の空気ではあるまい。
「……ケイト。仕事中と言っているでしょ。それにその子はただの同席者じゃないわ」
「だって、あたしと背丈、変わらないじゃない。ママはあたしを子供扱いして、それなのに、この子とはお仕事のお話をするなんてずるいわ」
ニヤニヤしながら私に距離を詰めてくるケイトに対し、義兄マイケルは嫌な顔一つせず、どこか微笑ましそうな眼差しを向けていた。
……それどころか、日頃から熱核反応物理学や経営管理論などと大人びた話ばかりしている義弟が、同年代の少女にあしらわれている図が相当面白いらしい。
さっきまでビジョップ氏の提案を突っ撥ねていた凛々しさはどこへやら。口元をわずかに緩め、露骨にこちらを揶揄うような、兄特有の生温かい視線を送ってきている。
結局、私は義兄の冷やかし視線を甘んじて受けつつ、ThinkPadをパタンと閉じ、ビジネススマイルをケイトに向けたのだった。
***
商談を終え、社内の地下訓練場へと移動した私は、防護プロテクターを装着しながら、目の前に立つ1人の男を見上げていた。
無精髭を生やし、どこか影のある眼差しをした男───ジェームズ・ブキャナン・バッキー・バーンズである。
「……アルバ、さっきのビショップ社との契約内容を聞いた。俺の貸し出しを断ってくれたそうだな」
バッキーが金属の義手を静かに開閉させながら、低い声で問いかけてくる。
「当たり前でしょう。貴方は我が社の最高機密であり、同時に、私のラボで経過観察を続けなくてはいけない患者です。警備会社の派遣要員として安売りするつもりはありませんよ」
「……感謝する。洗脳を解いてくれたことにもな。だからこそ、俺は一刻も早く役に立ちたい。この力で、お前たちに受けた恩を返したいんだ」
真摯な瞳で自分を役立てようとする彼に対し、私は首を横に振った。
ゾラ爺の不完全な実験の尻拭いがまだ終わっていないからだ。
「焦りは禁物です。未だリハビリが完全に終わったわけではありませんし、数十年分の洗脳による精神的トラウマのケアには時間が掛かります。必ず、貴方を必要とする時が来るので、それまでゆっくりとやっていきましょう。そもそも、現代の文明に慣れていない内は外に出せませんよ。先ずは、電子レンジの使い方から覚えていきましょう。先日、給湯室に不審者がいるって通報を受けたんですからね」
この調子だと、スマートフォンでドパガキバッキーと化すのに数年掛かりそうだ。
博物館にでも連れて行くべきだろうか。
「現代の学習か」
「えぇ、そうですね。それでもどうしても恩を返したいって言うなら───今日も戦闘訓練で指導してください」
そう言って構えをとると、バッキーはかすかに口元を緩め、静かに踏み込んできた。
『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』イベント消滅。
2012年にGameloftからリリースされたスマホアプリ版『The Amazing Spider-Man』を
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