【祝日間総合2位】【PHASE1 完結】悪役の魂と共にMCU転生したので生き延びる 作:ゆかりちゃん@良識のある物書き
「カンパーイ!!」
オズコープ西塔最上階のラボに、高級シャンパンの弾ける音が響き渡った。
マヤ・ハンセン博士の研究である、エクストリミス。
コレが遂に完成したのだ。
義兄マイケルによる異種間遺伝子交配技術。
ブルース・バナー博士の生物有機化学的アプローチ。
───嗚呼、因みに、ハーレムでイケない夜を過ごした後に、無事に匿う事が出来ている。
ヘレン・チョ博士による生体遺伝子工学的アプローチ。
───私の推挙によって、オズコープの札束ビンタでスカウトしてきた。
ストローム博士の排熱機構。
そして、ゾラ爺の制御プロトコル。
全員が全力を尽くして完成させたのは、人類を病と怪我から解放する
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ。
歓声のピークで、冷や水を浴びせるような拍手の音が響いた。
この部屋には私達以外、存在しない筈、だ。
「……え?」
振り返った全員の視線の先。影の中から現れたのは、緑のフードを被った妖しく美しい女性──レディ・デスだった。
「ひっ……!? 誰だ貴様! 警備──」
ストローム博士が即座に警備呼び出しのボタンへ手を伸ばす。
が、その瞬間には、もう時すでに遅し。
全員の身体が氷付けにされたように微動だにしなかった。
催眠術だとか超スピードだとか、
そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
レディ・デスは優雅に歩み寄ると、歓喜に湧いていた画面のデータを愛おしそうに眺め、クスクスと微笑んだ。
「よく頑張ったわね、人間たち。本当に凄いわ。……でも、あなたたち自分が何を作り上げたのか、真の意味で理解しているかしら?」
彼女は固まっている天才達を巡りながら、優しく、けれど絶対に逃れられない声で問いかける。
あと、私ではなく、私の脳内に生息するゾラ爺を見据えている……ような気がする。
正直、彼女は私には興味が無いようだ。
「マヤ・ハンセン博士。あなたが考えたのは、ただの再生能力?傷が塞がる、腕が生える。そんなものはただの高度な再生能力よ。問題はそこじゃないわ。……マイケル・モービウス博士、あなたなら解るでしょう?老化の本質とは何?」
強制的に口だけを動かされたマイケルが、冷や汗を流しながら答える。
お労しや兄上。今、原作知識を思い起こしているが、この概念的存在の殺し方が分からないので対応出来ず、申し訳ない。
「……修復速度よりも……身体が壊れていく速度が……上回ること……」
「正解」
レディ・デスは満足そうに微笑み、指を鳴らした。
途端に、何も無いところにスクリーンのようなものが表示される。
科学的な映像ではなく、魔法によるイメージの投射だろう。
「人間の身体は生命活動を続けるだけでDNAが傷付き、テロメアが短くなり、老化した細胞が体内に溜まって炎症を起こす。老化とは、その小さな破壊の積み重ねよ。……で、あなたたちが完成させたエスクトリミスは、その関係性をどうしてしまったの?」
今度は指をさされたヘレン・チョ博士が、青ざめた唇を震わせて答える。
そういえば、思い出したぞ。
キスしたら良いんだった。
おい、デスちゃん。兄上を殺すなら私にキスしろ!
「……逆転、させました。テロメラーゼの活性を維持して細胞分裂の上限をなくし、DNA損傷を修復し、異常細胞をアポトーシスで排除しています」
「そう。あなたたちは単に怪我を治す薬を作ったんじゃない」
レディ・デスはマヤ博士の頬に冷たい指を滑らせた。
そっちじゃない、私にキスをしろ。
どうせ全知全能の概念的存在だから、私のこの思考も読めているんだろ?
早くキスしろ!
キッス!キッス!キッス!キッス!キッス!キッス!キッス! からの入籍!入籍!入籍!入籍!入籍!入籍!!!!!
「幹細胞の枯渇すら局所リプログラミングで回避し、老廃物を高代謝の熱で処理し、その日受けた微小な損傷を、その日のうちに100%消去して明日へ持ち越さないシステムを作り上げたのよ。このエクストリミスを投与した場合、脳が物理的に完全破壊されない限り、病気にもならず、老けもせず、永遠に完全であり続ける。ねえ、マヤ博士、これを世間ではなんて呼ぶと思う?」
「……ふ、不老不死」
キッすえええッッ!?
待て待て待て待て、我々は不老不死の薬を製作していただと……!?
ゾラ爺、本当なのか?
「そうよ」
レディ・デスの目が、私を捉えながら、すっと冷たく細められた。
どうやら全ての思考が読まれていたみたいだ。
ならば、ほら、キスして下さいよ。
「あなたたちは……人間ごときの手で、『不老不死』を完成させたの」
その瞬間、金縛りが少しだけ解け、全員が同時に理解した。
自分たちが無邪気にシャンパンを開けて祝っていたものが、どれほど恐ろしい禁忌だったのかを。
ストローム博士の顔から血の気が引き、マイケルは己の犯した罪の重さに震え、脳内のゾラ爺は歓喜の雄叫びを上げている。
オバ爺は不老不死ビジネスで得られる金額を皮算用して嬉しい悲鳴を上げていた。まぁ当然、私はキスをせがむとして、だな。
「……ふふ、自分達が犯した罪を理解したようね」
レディ・デスは微笑むと、パチンと指を鳴らした。
周囲の光景が変化する。
天井の蛍光灯が明滅し、白磁の壁や最先端の鋼鉄製デスク、モニターの青い光が、まるで熱で溶けたロウのようにずるりと足元へ流れ落ちていく。重力そのものが喪失し、浮遊感と眩暈が全員を襲った。
最初に見せられたのは、生命の循環であった。
視界を埋め尽くしたのは、漆黒の深淵と、そこに渦巻く無数の光の粒子。頭上では、まるでタイムラプスの映像を数億倍に早回ししたかのように、星々が生まれ、輝き、超新星爆発を起こしては静かに燃え尽きていく。
足元に目を遣れば、見渡す限りの黒い砂漠が広がっていた。数知れぬ生命が死に絶え、土へと還った生命の残骸。砂の中から芽が吹き出し、幼木となり、巨木へと育ち、やがて枯れて倒れて砂へと戻る。
「見なさい」
静寂の宇宙に、彼女の透き通った声が静かに響く。
「星も、細胞も、宇宙そのものすらも生まれ、そして死ぬ。芽吹き、衰え、土へと還ることで、次の新しい命へバトンを渡すの。それがこの世に満ちる最も美しく、不可侵の調和よ」
だが──息をのむ暇もなく、世界の色彩が狂いはじめた。
パチン。
再び指が鳴らされると、調和に満ちていた光の庭園は、一転して地獄絵図へと塗り替えられた。
空間が不気味に歪み、叩き落とされたのは数百年後の地球の姿だった。
そこは、草木ひとつ生えない鉛色の荒野。太陽は狂ったように灼熱の光を注ぎ続け、あらゆる資源は枯渇し尽くしている。
そして何より異常だったのは、地表を埋め尽くす沢山の人である。
老衰という死を奪われ、干からびた皮膚と骨ばかりの身体で蠢く無数の人々。病に侵され、臓器が腐敗し、餓死の苦痛に苛まれながらも、細胞だけが無限に修復を繰り返し続ける為、死ぬ事を許されない者たちの亡者狂乱。
「ひ……っ、あ、あ……」
マヤ博士が息を詰まらせ、両手で顔を覆った。
バナー博士は膝から崩れ落ち、己の手を見つめて激しく首を振る。
「これが、あなたたちが創り出そうとした世界の未来よ」
レディ・デスは、地獄の真ん中に立ちながら、憐れむように天才たちを見下ろした。
「救いではないわ。永遠の苦痛よ。死という最後の救済を人類から奪ったとき、人生は永遠の拷問へと成り果てる。……これでもまだ、自分たちが誇らしいかしら?」
そして、最後の審判が下る。
パチン。
三度目の音が響いた瞬間、荒涼とした未来の景色すらも漆黒の闇の中へと呑み込まれた。
足元の床は重厚な黒鉄の石畳へと姿を変え、周囲にはゆらゆらと揺らめく緑色の死の炎が立ち上る。天井からは幾重もの黒いモヤが渦を巻き、足元からは見えない死者の手が幾重にも這い上がってくる。
そして彼らの正面、遥かな高みに聳え立つのは、巨大な枯れ木の意匠をあしらった死の玉座。
そこに腰掛けるレディ・デスの背後には、天を突く程、積み重なった頭蓋骨が蠢いていた。
「死を奪うということは、この私を敵に回すということ。……解っているわね?」
立ち上がることすら許されない。
息をするのもやっとだ。
天才たちが積み上げてきた科学、論理、矜持、その全てが絶対的な死の権能によって木っ端微塵に打ち砕かれた瞬間だった。
「でも、純粋に命を救おうと頑張ったあなたたちの情熱に免じて、少しだけ取引をしてあげる」
彼女が義兄マイケルの胸元に手をかざすと、黒いモヤが引き抜かれ、マイケルの顔色が瞬時に劇的な健康体へと戻った。
「マイケル……あなたの病は、私が今ここで完全に消し去った」
驚愕するマイケルに向かって、彼女は人差し指を立てる。
「その代わり……約束よ。あなたたちが作ったエクストリミスは、絶対に世の中に出してはダメ。もし一人でも使ったり、公表すれば…………分かっているわね?」
全員が壊れた玩具のように、必死で首を縦に振る。
若返りや、効果が逓減するものならば提供しても良いのだろうか。
その辺りを詰めたい所ではあるが。
「ただし、傷ついた人を救いたいという健気な信念までは奪わないわ。そうね……切り落とされた腕がじわじわ生えてくるとか、傷がゆっくり塞がる程度の希釈したものなら、特別に許してあげましょう」
そう言いながら、彼女は全員の額に指を滑らせ、逃げようのない呪いを刻み込んだ。脳の奥底、魂の領域にまで灼熱の烙印が押し押されるような錯覚に、誰もが声なき悲鳴を上げる。
「約束を破ったら……分かっているわね?」
彼女が影の中に消えていくと同時に、全員が床に崩れ落ちた。
「……約束を破ったら。分かっているわね?」
レディ・デスが残したその一言は、脅迫などではなく、絶対に翻ることのない宇宙の確定事項だった。
彼女の姿がゆらりと影の中に溶け込み、消え去った瞬間、ドサリ、と音を立てて全員が床へ崩れ落ちた。
重力が戻ったのではない。圧死させられそうなほどの死の概念から解放された反動と、全身の筋肉が恐怖で痙攣を起こし、身体を支えることすらできなくなったのだ。
「ハァッ……! ハァッ……! ゲホッ、ゲホッ……!」
静まり返った最深部ラボに、狂ったように酸素を貪る荒い息遣いと咳き込みだけが響き渡る。
床に伏せた天才たちの額からは滝のような冷や汗が流れ、白衣を汚していた。世界最高峰の頭脳と謳われた者たちが、床で怯え、震えている。
不治の病から解放されたはずの義兄マイケルすらも、荒い息を吐きながら床に手をつき、青ざめた顔で己の額──先ほど指を突きつけられた場所──をさすっていた。
ゆっくりと顔を上げたマイケルが、途切れ途切れの声で口を開く。
「……アルバ。……聞いたな……?」
死の領域から生還した圧迫感に声を震わせながらも、マイケルは社長としての理性を必死に保ち、私に向けて問いかけた。
私は脳内の亡霊達を宥めつつ、深々と頷く。
「はい、兄上」
「では、本日を以て、完全不老不死仕様のエクストリミス計画は永遠に凍結とする」
マイケルはかすれた声で、だがオズコープのトップとしての絶対の決定を全員へ告げた。
「該当データは全て最高暗号化領域へ隔離。実験体および試作コードは即座に破棄とします」
「はい、異論はありません。直ぐに行います」
マヤ博士が何度も激しく頷きながら同意する。
彼女のプライドも、科学者としての知的好奇心も、跡形もなく砕け散っていた。
ヘレン・チョ博士はただ震えながら胸元で手を握りしめ、ストローム博士は壁に背をもたれかけさせたまま、虚ろな目で天井を仰いでいた。
脳内に潜むゾラすらも、データラインの恐怖に沈黙を保っている。
バナー博士は…………おいおい、マジで頼むからハルクにならないでくれよ。そのまま深呼吸をして。そう、ヒーヒーフーだ。
「世間に提示するのは、あの方に許可をいただいた範囲のみとします」
マイケルは途切れがちな息を整えながら、厳しい眼差しで言葉を続けた。
「細胞の急速自己修復に伴う創傷被覆ゲル、及び、重度欠損者向けの単発的な再生医療技術。それも、効果を徹底的に希釈し、単なる止血剤として申請します。アルバ、行政・審査機関への提出書類の手配を頼んだ」
「了解」
私は静かに頭を下げ、承諾した。
「……二度と、あのような存在を呼び寄せるわけにはいかない。我々が踏み込んではならない領域だったのだと……思い知らされた」
マイケルのその言葉に、誰一人として反論する者は居なかった。
人類の歴史を根底から覆し、神の領域へと至るはずだった完成品のエクストリミス。
しかし、それは、宇宙の理そのものである死の概念による説教と、魂に刻まれた逃げられぬ呪いによって──オズコープ最深部の暗闇の中へ、永遠に封印される事となってしまったのである。
キリアンは事故死しました。
ご冥福をお祈りします。
【追記】
>感想欄を見ると、何故、アルバがキスを求めているのか分からない方、
原作を知らない方が多いので補記。
今回の話の元ネタとなった原作は『アガサ・オール・アロング』。
この物語で登場するデス様の目的は、魔法を使って寿命を伸ばし、
自然の摂理である死から逃げている魔女達にワカラセをする事。
>つまり、永遠の生命を嫌っているが、自然の摂理に反しない程度なら許してくれる結構寛容で人の心とかあるタイプの最強の概念的存在だと、
筆者は解釈している。
Q.何故、アルバはキスをせがむのか?
A.性欲とか全く関係有りません。
原作において、デス様は魔女アガサの息子の生命を刈り取ろうとしました。
が、アガサは「息子は殺さないで」と、自らの死を受け入れる事を選択。
アガサが代わりに死ぬ事によって、息子の生命を奪う事を恩赦されたという物語展開になっています。
そして、その際、アガサがデス様にキスをする事によって、
身代わりになって死ぬという事が達成されています。
>本作において、主人公は、
義兄マイケルが殺されるのは世界の損失だと信じて疑わず、
寧ろ、MCU世界において混ざりものでしかない脳内Hydraの自分、
が死ぬ方がこの世界にとっても良いと考えている節が有ります。
なにより、義兄マイケルのことをかなり愛しています。
その為、マイケルがデス様に殺されるくらいであれば、
自分の事を殺せ!と、言っているのです。
ただ言い方が、変態チックで……キスをしろと迫っているという形です。
(( ゚д゚))
尚、恋敵は、サノスとデッドプールとアガサ・ハークネスです。
攻略難易度高め(ルナティック)
2012年にGameloftからリリースされたスマホアプリ版『The Amazing Spider-Man』を
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