……主人公がこの世界にいなかったらどうなる?
おそらく間近の人形事件では、人形が破壊されることで多くの犠牲が出るだろう。
なにせ原作では人形の原材料が人間であることを突き止めたのは主人公なのだから。
パペットマスターは人間を蝋人形に変える能力を持つ。
戻すことも可能だが、破壊されてしまえば……当然元には戻らない。
この情報を抱えているわけには行かない。
とはいえ、パペットマスターの大襲撃は六月十日だったはずだ。
それまでは被害が出ないと思いたい……!
主人公が来るのが遅れてしまうということは、その分調べる時間も減るということだ。
犠牲を少なくする最善は──情報を知っている俺がパペットマスターを倒すことだ。
もちろん、この情報をさっさと他のやつに伝えるという手もある。
「まず統制局に電話してみるか……」
統制局──まぁ、なんというか異能者である俺達を管理して、幻魔と戦わせている政府組織だ。
正直後ろ暗いところも多く、信用しきれるかと言われると難しいところなのだが……。
今は使えるものは使わなければ。
公衆電話って昨今どこにあるのかねぇ。
俺の電話から連絡したら、俺が情報を知ってるって気づかれそうだし……。
そうしたら最悪の場合、どこで知ったのか聴かれ──。
最悪の場合、転生者だと知られた俺は実験台にされる。
否、統制局はそうする。
俺達異能者をこんな街に閉じ込めている奴らだ。
人権に対する配慮など微塵もないのである。
なので伝えるにしても、俺が伝えたとなるべくバレないようにしたい。
さっそく放課後、町中で公衆電話を探してみることにした。
「病院とか公共施設にはあんのか……」
数時間における調査の末、そんなことをぼやく。
しかし必ずと言っていいほどそういうところには監視カメラがある。
素性がバレない格好でいけば、施設の人に怪しまれるに決まってるし……。
メールでも送ってみるか?
でもああいうのって案外すぐバレちゃうんだよな。
最近のネットはなんでも匿名というわけじゃない。
第一、統制局には優秀なハッカーがいるし。
う~~~ん、統制局に情報を伝えるという案はダメそうだ。
「となると、さっさとパペットマスターを倒してしまうしかないか……」
幸い、あいつは五月のうちはこっそりと人を攫うことしかしない。
統制局もその動きを感知しつつも、表立って大きく動くこともない。
俺らのような末端の異能者に依頼することもないのだ。
つまり人形にされた人が殺される……という可能性は極めて少ないわけだが。
それでもなるべく早く倒してしまいたい。
……などと町中で考えていると、ピロン♪ という電子音が。
モバイル端末を見てみると、紫原が悲しそうな顔文字を送ってきていた。
『先輩、部活動サボりですか?(T△T) 言ってくれればご一緒したのに……』
ああ、そういえば紫原には今回の件を伝えても良いかもな。
天羽には……多分止められると思うので、黙っておこう。
『実はとある幻魔を追っていてな。最近行方不明事件が起きてるだろ?』
モバイル端末にそう文字を入力して、送信する。
すると紫原から素早く返信が帰ってきた。
『へぇ?』
『できれば協力してほしいんだが』
『今からですか?』
今から……もうすぐ七時なんだよな。
夜は幻魔が活発になる時間帯とはいえ、明日も学校はある。
引率もいないのに、女の子をこの時間帯から振り回すのは非常識か……。
『いや、もう日も暮れたから良いよ。なにかあれば連絡する』
『了解です! これって天羽さんには言ったんですか?』
『いや、言ってないよ。止められるからさ』
『なるほどなるほど』
何が言いたいんだろうか。言っておけってことかな。
しかし止められては元も子もない。悪いが、多くの人間の命が掛かっているのだ。
などと考えていると、ピロンッ♪ と追加の連絡があった。
『ではやはり私も行きます。今どこですか? 合流しましょう』
『おまえがどこだよ。来るなら迎えに行くよ』
『もうすぐ駅につきまーす』
合流したいらしい。仕方ない。駅までは近いし、迎えに行ってやるとしよう。
実際、戦力が増えるとありがたいからな、俺も……。
……などと考えていると、路地裏に連れ込まれていく一人の少女がいた。
周りにいる数人の男はいかにもチャラチャラした感じで、不良っぽい。
一方、金髪ショートの女の子は目が虚ろだ。
ふぅむ? 気になるな……。
ちょっとついていって、ヤバくなったら助けに入ろう。
『わりぃ! なんか路地裏に女の子が連れ込まれている! 先にそっち追うわ』
『はぁ!? 節操なしのワンちゃんですか、先輩は!!』
……などとよくわからん罵倒を書き込まれたが、追うことにする。
もし女の子に万が一のことがあってはかなわないからな。
グループはドンドン路地裏の奥まったところへと入っていく。
最終的に寂れた廃墟へと入ったかと思うと……。
「うわぁ!?」
「な、なんだおまえ!? なんなんだ!?」
「ひぃいいいいいい!? 助けてくれぇええええ!!」
……という叫び声がして、不良が廃墟から飛び出してきた。
かと思えば一瞬で糸に絡められ、再び廃墟へと引きずり込まれる。
おっ、これはもしかするとビンゴかもしれないぞ。
俺が急いで中へと突入すると──内部には無数の糸で作られた繭があった。
その中心にはちょっと宙に浮いた女の子と……。
外套で全身を覆った百二十センチ程度の存在がいた。
「おまえ……パペットマスターか……!!」
「おや、まだいたんだ材料が」
存在がカラカラとした男子のような声でそう言う。
次の瞬間、多方面から無数の糸が伸びてきた。
俺は自分の両手を打ち付けて、少々の火を両手に灯す。
そのまま裏拳をブルンッ、と振るうと周りの糸が燃え出した。
慌てたのか、糸の着いた部分を切り離すパペットマスター。
へっへっへっ、俺だって無策な訳では無い。
いつもの一発撃ったら終わりな
この世界はゲームじゃないんだから。
そう判断した俺は低出力ではあるが、こうした炎をまとった戦闘法を編み出したのである。
名付けて──
……まぁ正直あんまり強いとは言い難いけど、無いよりはマシだ。
それに今回はアイツの糸に効果抜群みたいだしな!
「よくも……ぼくの体を……!!」
すぐさま周りの繭に取り込ませていた不良達を引きずり出すパペットマスター。
人形化はしていなくても、操ること自体は問題なく出来ているようだ。
けれど、そいつらの弱点はわかってんだよ!!
再び両手を打ち付け、手刀を不良たちのやや上方めがけて放つ。
不良達を操っていた糸が切れ、次々と倒れ伏していく。
うむ、やはり原理はわかっていないけれど上方の糸が弱点だ!!
「俺とおまえはどうやら相性最悪みたいだな!!」
「くっ……!!」
次の瞬間、パペットマスターが廃墟の上方に飛び上がる。
外套から六本の腕が飛び出て、内部の存在が2m近くあるデク人形だとわかった。
「おまえ……いつか八つ裂きにしてやる……!」
「逃がすかよ!!」
廃墟の窓から飛び出すパペットマスター。
俺は
どうやらパペットマスターはビルの屋上を伝いながら、逃げているようだ。
ちょっとばかし追いかけるのが面倒だな……!!
だが逃がす手はない!!
足に
パペットマスターは糸による立体的な移動をしているが、俺を撒くほどには速くない。
次第に距離が近づいていき──。
「くらえっ!!」
手に
そのままパペットマスターに打ち込む!!
すぐには爆発せず、屋上をコロコロと転がっていくが……。
次の瞬間──奴の全身に黄色い亀裂が迸る。
完全に
「ギッ、ギャアアアアアアアアア!?」
ドオオオオオオオオオオオオオン、と巨大な爆発をして消滅した。
残ったのは地面の黒ずみと煙だけ。そして俺は全ての魔力を使い果たしたため──。
────その場に崩れ落ちた。
「
と言っても、八割方とか九割方とか微細な調整ってすごく難しいんだよな。
ともあれ、俺はポケットからモバイル端末を取り出し、現状を紫原に相談することにした。
「もしもし紫原? 今斃れてるんだけど」
「はぁ!? 今どこです!!」
「位置情報を送るから回収しに来てくれない?」
「まったく……天羽さんにめちゃくちゃ叱れられた方が良いですよっ!!」
ともあれ、これにてパペットマスターは倒したわけだ。
とりあえず今日の情報は……統制局に渡せばいいか。
実際にあったことなんだから、疑われるも何もないはずだ、うん。
…………しかしやけにあっけなかったような。
統制局 ……この街の管理委員会みたいなもの。今はそれだけで十分。
幻魔 ……七つのスポットから出現する邪悪なる存在。
パペットマスター ……幻魔。一章の味方を操ってくるやつ。
はてさてどうなることやら……。
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