「疲れた……」
なんとかアパートに帰宅できたのは二日後の夕刻であった。
ひとまず斃れていた不良や女の子を助けるために、紫原が救急車を呼んだのだが……。
やっぱりというか案の定、統制局が俺の証言を聞きに来たのである。
眼鏡のおっさん(こいつも重要人物だったっけな)にあることないこと根掘り葉掘り聞かれ──。
体力も回復したところでようやく解放された。
しかしおかげでパペットマスターについて、詳しく調べてくれそうだ。
俺が持っている情報も仮説としてある程度話せたしな。
「しっかしなんか妙なんだよなぁ」
原作で見たパペットマスターより、やや小さかった気がする。
もっともくの字にしゃがんでいたから、というのもあるが。
それにしたって、原作だともう一回り大きかったような気が……。
…………まぁ、後のことは統制局がなんとかしてくれるだろう。
俺は疲れに疲れて、一刻も早くアパートのベッドで眠りたかった。
なんとかたどり着き、シャワーを浴びてベッドに倒れ込んだところで。
ピンポーン、とチャイムが鳴った。
「誰だよ、こんな時に……」
渋々、玄関に向かい覗き穴から訪問者を確認する。
そこそこ大きい乳、それを覆う縦セーター、いつもどおりの黒髪白インナー。
…………天羽であった。
「帰ってきてるよね? 開けて」
扉越しに感じる圧。そりゃそうだ。
二日間も拘束されていれば、どこにいるかバレるに決まってる。
ただでさえ文芸部の顧問は統制局とつながりがあるってのに。
渋々、扉を開けるとジィ……と天羽はこちらを睨んできた。
「なんかウチに黙って、変な事件追ってたらしいじゃん」
「いや、あれは、おまえが倒れてるから……」
「誰のせいだと思ってんの、誰の」
ずいっ、と部屋の中に押し込まれる。
その手にはコンビニのビニール袋、どうやら弁当を買ってきてくれたようだ。
「無茶すんな、とは言わないけど相談ぐらいしなさいよ」
「…………悪い」
「ま、相談して、止めとけって言われてもどうせアンタはやるんだろうけど」
と言って、天羽がズケズケと部屋の中に入ってきた。
ひとまず遊んでいくつもりなのか? まぁまだ夕方だからいいけど。
どうするのかと気になって、視線で追う。
テレビの前にどしっと構えて、チャンネルで電源を点けた。
ビニール袋から、コーラやつまみをとりだしている。あれは深夜コースの構えだ。
「紫原も怒ってたわよ。無茶しすぎって」
「まぁ紫原を待ってるわけにもいかなかったしな」
「てか、なんでアイツに言って、ウチには黙ってんの? 意味わかんない」
べしべし、とカーペットが敷かれた床を叩いて催促してくる。
隣に座れってことだろうか。
仕方なく、俺は天羽の隣に座らせてもらうことにした。
「まぁ紫原は俺に甘いからな」
「ふぅん、で? ウチは甘くないんだ」
「…………天羽は絶対反対するだろ」
「アンタがしんどい思いしたら、請け負うのウチだしね」
げし、げし、と強めに肩パンされている。
テレビにはこの時間にやっている夕方アニメが流れている。
この時間に流れているようなのはだいたい子供向けなのだが、最近は結構面白いのだ。
「ま、まぁ後は統制局がなんとかしてくれるだろうし?」
「………………だと良いけど」
「なんだよ」
天羽が眉をしかめてポテチの袋を開いた。
そのままバリバリと食べる。アニメではアンデッドの血飛沫が飛んでいた。
「ウチの勘だけど。なんかこのままじゃ終わんない気がするんだよね」
「へぇ?」
「まぁ、ただの勘だけど」
天羽の勘はけっこう当たるのだ。
しかしそれならば、今後もちょっと調べてみたほうがいい、のか……?
せっかく統制局のおにいさんから連絡先も貰ったし。
「まぁ、それなら今後もちょっと調査してみるか」
「なんか勘違いしてんじゃない?」
「は?」
「アンタ、コテンパンに相手をのしたんでしょ? 無事だったならやることは?」
「…………報復?」
思わず天羽の頭上を見てみる。もちろん糸とかそういうのはない。
ここまでの会話からしたって、操られているとは思えないし……。
少なくとも天羽は無事か。まぁ、パペットマスターが知ってるわけないしな。
もし、操られるとしたら────。
「…………紫原が危ないんじゃないか!?」
ぶっ倒した後、紫原に助けを求めたからな。
現場にも来ていたし、生きていて現場を見ていたとしたら、紫原を狙いそうだ。
俺とは相性悪いのわかってるんだし……。
「まぁそうなるよね。今日学校で会った時は無事みたいだったけど」
「連絡してみるか」
すかさずモバイル端末を取り出して、紫原に電話する。
『はい、もしもし!! 貴方の紫原! 紫原美舞でーす!』
数コールで出た。そしてこのテンションは間違いなく操れていない。
ていうか天羽がベッタリくっついて電話聞いてるんだから、変なこと言わないでほしい。
「無事だったか、紫原」
『もちろん無事ですよ? なんかヤバいんですか私』
真剣な声色に変わる。いつもどおり話の早い女で助かるな。
「ああ、ヤバいかもしれない。俺が先日倒した幻魔がいただろ?」
『ええ、それがどうしたんですか?』
「そいつが生きてるかもしれない。そうしたら襲われるのは紫原かも……」
『ふぅむ……』
しばしの沈黙。どうやら覚えがあるようだ。
『実は今、帰宅しているところなんですがさっきから何人かついてきてるんですよね』
……うん、間違いなく狙われている。
天羽の勘、やはり信じてみるもんだ。
「あ~~~それはやばい。今どこだ?」
『今、なるべく人通りの多いところを通っています。西町のデパートに逃げますね』
「ああ、そこに迎えに行く。統制局にも一応電話しておくわ」
『お願いしまーす。というかこのまま通話続けてもいいですか?』
その方が良いか。紫原の無事も確認できるしな。
俺は通話をスピーカーに変えつつ、メモに電話番号を書いて天羽に渡した。
「これ、統制局に繋がる電話番号」
「先生に連絡したほうが早くない?」
「まぁ、どっちにも連絡しといてくれ」
天羽がモバイル端末を取り出し、多方面に連絡をし始める。
しかしこうしている間に西町に向かったほうが良いのか……?
俺のそんな考えを看破して、天羽が俺を睨んでくる。
「なんか変なこと考えてる? 先生が迎えに来てくれるらしいから待ったほうが良いよ」
「…………おう、そうだな」
そりゃあ俺が走るより車のほうが早いけれど……!!
などと話していると、スピーカーから紫原が走るような音が聞こえる。
『ちょっとちょっと、あいつら追いかけてきたんですけど~~』
「紫原、奴らの頭上にある糸を切るんだ!! 本体は操られてるだけだ!!」
『肝に銘じておきま~す!! …………しかし戦闘になりそうってうわ、来たっ』
スピーカーからこすれるような音。ポケットに入れて戦っているようだ。
紫原はそこそこに強いから簡単にはやられないと思うけれども……。
くそっ、速く行かなきゃ……!!
「先生、下に着いたらしいよ。降りよ」
「よし、今行くぞ!! 紫原!!」
すぐさま部屋を出てアパート前の駐車場に向かう。
いつも通り黒髪ロングの爆乳先生が迎えに来てくれていた。
相変わらず武器の入ったワゴンカー。まぁ、俺は武器なんて使わないんだが……。
どのみち異能じゃないと幻魔は倒せないし。
「乗れ。紫原が危ないんだろ?」
「統制局の連中は!?」
「現場に何人か向かわせているらしいが……私らの方が早いだろうな」
くそっ、肝心な時に役に立たない連中だ!!
ひとまずワゴンカーに乗り込んで、後部座席に天羽と座る。
その間に天羽は背後のトランクからいつもの武器を取り出した。
鎖とクローが一緒になっている特殊な武器。
俺がクローボウガンって呼んでるやつだ。
右腕に装着する形になっていて、天羽の異能を攻撃に転用できるのだ。
つまり、自分の疲れを直接相手に流し込める……!!
「ウチも戦うことになりそうだからね」
「あんまり無茶すんなよ、おまえ弱いんだから」
「いつも倒れてるやつに言われたくないな……」
そう言われましてもねぇ。
ともあれ、待ってろよ、紫原……!!
紫原は果たして無事なのか!!
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