先輩と出会ったのは、文芸部に無理矢理入れさせられた時のことでした。
私たち異能者に自由などなく、いつでも幻魔に対応できるよう、部活動など入りようがなかったのです。そのことに若干の不満を感じつつも愛想良く挨拶した時のことでした。
「本当は何処の部に入りたかったんだ?」
そんなことを先輩が問うてきたのです。
とはいえ運動部に興味はなく、強いて言うなら美術部で絵を描きたかったかもと話すと——。
「ないよ、うちに美術部」
と、笑われました。
けど先輩が都合してくれたのか、美術室を放課後好きに使っていいと言われました。
ありがたいことですね。もっとも美術室を使うような絵などほとんど描かないのですが……。
せいぜいノートに落書きが関の山です。
しかし、そんな心遣いが嬉しかったように記憶しています。
先輩を気に入ったのは、そんなことがあったからでしょうか。
それともいつも幻魔に向かっていって、私たちの代わりに爆散してしまうからでしょうか。
まぁなんともかっこいい先輩だと思っています。思っているのですが……。
「ずいぶんとまぁ厄介ごとを運んできたみたいですねぇ」
私を囲んでいる、虚な目の集団。
さっきからついてきたと思ったら今度は囲まれました。人通りの多い場所だと言うのにやる気のようです。まぁ、ここで大暴れしたって翌日には民衆の記憶から消えてることでしょうが……。
ともあれ、彼らの上部には糸のようなものが伸びています。
さながらマリオネットのように。あれで操っているのでしょうか。
その先端は途中で切れていて、どこに繋がっているかまるでわかりませんけど。
たしか先輩曰く、人形の方を攻撃すると被害が出かねないんでしたっけ。
なるべく、あの糸を攻撃しなければならない──と。
ふぅむ、面倒ですねぇ。
「しかし先輩の言ったことですからね」
囲んでいた人たちが一斉に私へと襲いかかってきました。
私は血液をポンプのように太ももへと流し、そのまま跳躍。
2m以上は飛んだでしょうか。そのまま近くのガードレールの上に飛び乗りました。
「人が多いですが……まぁ、統制局がなんとか処理してくれるでしょう」
指先に一瞬、血の針を作り出し、そこから出血。
そのままハルバードを生成します。けっこう長いんで量が多いように見えますが、中身はスカスカだったりします。まぁ、私は魔力で血を生成できるんですけども。
これが私の異能──
「さて、コレだけの数操っているのならば、近くにいるはずですが……」
地面に手を付けて、血液をうす~~く根のように駆け巡らせます。
私の索敵術。半径100m以内に入り込めば、すぐさまこの根が魔力を感知してくれます。
血は魔力に反応しやすいですからね。
「おおっと……デパートの中ですか」
しかも今しがた入ったところですね。
ふぅむ、別に追わなくてもここから逃げられればいいのですが……。
先輩が追っている幻魔ですよね? こいつは。
私が倒しちゃえば、褒められること間違いなしです。
「それじゃ、逃がしませんよ」
妨害しようとして近づいてきた人たちの頭上にある糸を切り裂きながら、デパートの中へと入っていきます。放課後、五時ぐらいですからそこそこに人がいますね。
その全員の頭上へと、どこからともなく糸が伸びてきて──。
あ、操られている……!!
「まぁ、苦戦しませんけど」
解除法が簡単な洗脳ほど無力なものはありません。
そしてこの距離なら目に魔力を凝らせば──。
おっと、奥から赤色の光が出ていますね。あれは魔力光。一種の霊的な発光現象ですね。
肉眼では視ることが出来ませんが、魔力を集中すれば視ることが可能です。
大体の人間からは微弱に出ていますが、一際大きな光ということは、あれが幻魔のはずです。
少し奥の食品売場。ハルバードで操られた人々の糸を切り裂きながら、進んでいきます。
するとうずくまった形のマントで覆われた人が。魔力光からして完全にコイツが操ってますね。
「変装のつもりですか? バレバレですよ」
「やれやれ、面倒だねぇ……」
うずくまった形からむくりと体制を起き上がらせると、2m以上はある巨大さ。
しかも腕が六本ほどあり、その全てにレイピアのようなものを持っています。
「おまえはあの男をおびき寄せるエサだからネェ……」
「ずいぶんなことを言ってくれますね。私のほうが強いと思いますけど」
「クク、相性ってものがあるよねぇ……」
そのまま六本の腕のレイピアで襲ってきました。
私はすぐさま全身の血液を操作し、身体能力を上昇。
ハルバードを上手く回していなしていきます。
そしてこちらはタダのハルバードではありません。血のハルバードです。
鞭のようにしならせて、相手にぶちかけていきます。
ぶっかけた血を硬化させて──関節を動かなくする!
私の常套戦法です。
関節がガチガチになった相手の人形はその場で動けなくなりました。
ふふん、危なげなく勝利です。
「相性が悪いのは私ともでしたね」
「クククッ、なめっるなっ……!!」
……と言ったかと思えば、追加で上から二体振ってきました。
まったく同じような形の幻魔。しかも、操られた人が集まってきました。
厄介ですねぇ……。
「お前たち、そのガキを抑えろ!!」
なるほど、操っている人たちもろとも私を突き刺すつもりですか。
ですが私はそこまで殊勝な人間ではありませんよ……!!
血を全方位に撃ち出して固めれば犠牲無く解決できるのですよ!!
…………!!
私にも糸が……まだ操られはしませんけど、腕が妙な方向に曲がりつつあります。
ちょ、ちょっと待った、その間に周りの人達が……!!
や、やばっ……!!
「
人々の頭上にあった糸が燃やされた後、人形の一匹が爆発しました。
この爆発は……!!
「先輩っ!!」
「おお、どうやら間に合ったみたい……だな……」
……と言って倒れる先輩。しまらないなぁ。
っていうかまだ一匹残ってるんですが……!!
しかしもう一匹もだんだん動きが鈍っていきます。
その足には天羽さんのクローが引っかかっていますね。となると。
「ふぅ、やっぱりこれ超便利だね」
あ、天羽さん。
人形を引きずり寄せて、頭部を蹴りで叩き潰しました。
意外とパワータイプなんですよね、この人。魔力が多いからでしょうけど……。
すぐさま倒れた先輩に近づいて、胸に手を当ててますね。
異能を使うためでしょうけど、ちょっと妬けますね……。
「助かったぜ、希沙良」
「別に。いつものことだしね」
「しかし……」
先輩が周りの様子を見ます。
壊れたデク人形たちが気になるみたいですね。
「なんでこいつら数体いるんだ!?」
「なんでって……そういう幻魔なんじゃないんですか?」
「いや原作だと一体だけだったはず……」
「原作?」
いったいなんの原作なんだか。
先輩はたまによくわからないことを口走るんですよね。
まぁ、いいやそれよりも。
「へへん、一匹生け捕りにしたんですよ。褒めてください」
「おお~~流石は紫原だな」
「それだけですか?」
「え?」
「撫でろ……と言ってるんです」
私がぐりぐりと頭を押し付けると、困ったように先輩は頭を撫でてくれました。
えへへへへ。天羽さんの視線が痛いですけど、気にしません。
「ともあれ、コイツの謎も捕らえた一匹を調べればわかるんじゃない?」
「ああ、そうだな……こいつは統制局に引き渡すとしよう」
心底不可思議な顔をしている先輩。敵が数体いたことが気になるようです。
確かに全く同じような幻魔が複数体いるのは珍しいですけれど……。
ふ~~~む……。
「先輩、この幻魔……親がいるんじゃないんですか?」
「親!? そんなはずは……」
「しかしそうとしか考えられません」
親が子を生み、そして増えているのだと思われます。
それならば姿形が似ていたっておかしくはありません。
「…………原作からレベルアップしてるってことか?」
だからその原作ってなんなんです?
なんか不可思議な予感……!!
評価、コメント、お気に入りよろしくお願いします!