ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー 作:茶坊主(ぽんぽん)
1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜
https://syosetu.org/novel/400558/
2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜
https://syosetu.org/novel/404292/
の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。
ラヴズオンリーユーは、
地下レース場の重たい扉を押し開けて外へ出た。夜風が頬を撫でる。
影の世界の空気よりずっと軽いはずなのに──
胸の奥の重さは、まったく消えていなかった。
ゼロバンゲートの怒鳴り声が、まだ耳に残っている。
ゼロバンゲート
「アンタに何が分かるって言うんだ!!」
その声は、怒りというより、
痛みを押し殺した叫びだった。
彼女は歩きながら、
自分のしっぽが力なく揺れていることに気づいた。
街灯の光が、影の世界とは違う柔らかさで足元を照らす。
それでも、足取りは重かった。
ラヴズオンリーユー
「……どこで間違えたんだろ……」
自分はただ、知りたかっただけ。
ゼロの走りの意味を。
あの“本物”の理由を。
でも──
踏み込んだ場所が深すぎた。
触れた傷が鋭すぎた。
ラヴズオンリーユー
「私……何も知らなかったんだ……」
光の世界で育った自分には、
影の世界の痛みも、孤独も、恐怖も分からなかった。
ゼロの叫びは、その事実を突きつける刃だった。
夜空に浮かぶ満月に、ゆっくりと雲がかかっていく。
さっきまで明るく輝いていた月は、
暗い雲に覆い隠されてしまった。
ラヴズオンリーユーは立ち止まり、
その光景を見上げた。
ラヴズオンリーユー
「私の愛は……あの月と同じ……」
輝いて見えていても、届かない場所がある。
ゼロバンゲートに向けた言葉が届かなかった瞬間、彼女はそれを痛いほど思い知らされた。
胸に刺さった棘の正体は、それだった。
ラヴズは歯を食いしばり、
スマホを取り出して電話をかける。
ラヴズオンリーユー
「もしもし……トレーナーくん?
わがまま聞いてくれないかな……」
声が震えている。
でも、その震えは恐怖ではなく、決意だった。
ラヴズオンリーユー
「どうしても勝ちたい相手がいるの。
徹底的に自分を追い詰めて、
極限の勝負の末に負かしたい相手ができて……
トレーニングメニュー……作ってくれない?」
受話器の向こうで、トレーナーは沈黙した。
ラヴズオンリーユーは、
名実ともに同世代のトップ。
誰もが認めるウマ娘。
勝つことが当たり前で、
負けることが想像できない存在。
そんな彼女が──
「勝ちたい相手がいる」と言った。
「一体その相手は誰なんだ」
トレーナーの声は訝しんでいた。
当然だ。
彼女はすでに“完成された存在”なのだから。
だが──
ラヴズの胸の奥には、
影の世界で見た“本物”が刺さっていた。
ゼロバンゲートの走り。
壊れながら走る姿。
誰のためでもなく、自分のためだけに走る姿。
それが、光の女王の心を揺らした。
「ラヴズ。
君は今日、何を見たんだ?
何が君をそこまで追い詰めてる?」
問い詰める声ではない。
ただ、真剣に知ろうとしている声。
彼女は唇を噛む。
影の世界の空気が、まだ胸にまとわりついている。
ラヴズオンリーユー
「ゼロバンゲートに会ったの……」
トレーナーは息を呑む。
ラヴズの声は震えているのに、真っ直ぐだった。
「本当に会ったのはゼロバンゲートだったのか?」
ラヴズオンリーユー
「間違いない……」
あの耳の動き
しっぽの振れ方
何よりあの走り方
誰かが真似しようとして出来るものとは到底思えない
トレーナーはしばらく黙っていたが、少し厳しい口調で話し出す
「君はアスリートだ。
いくら興味が引かれたからといって、危険な領域に足を踏み入れるのは感心しない。
もし、君が危険な目にあったらどうする?
そんなリスクを背負ってまで勝負する価値のある相手なのかい?」
ラヴズオンリーユーは、
胸の奥に刺さった棘を抱えたまま、
勇気を振り絞って言葉を続けた。
ラヴズオンリーユー
「トレーナーくんの言う通りだって思うよ。
でも……でもね……」
声が震えている。
それでも、逃げなかった。
ラヴズオンリーユー
「もし、私が配信をやめてしまったら……?
私に残るのは……なに?」
夜風が頬を撫でる。
月は雲に隠れ、光を失っていた。
ラヴズオンリーユー
「記録……。
ラヴズオンリーユーって名前とともに数字が並ぶだけ……」
その言葉は、光の世界の女王が初めて見せた“影の弱さ”だった。
ラヴズオンリーユー
「私……欲しくなっちゃったの。
わがままだって思う。
身勝手だって知ってる……」
胸の奥の渇きが、言葉を押し出す。
ラヴズオンリーユー
「でも、皇帝杯ダービーのような、伝説のレース。
その中心に自分がいるって記憶が……欲しいの。」
その瞬間──
彼女は“光の女王”ではなく、
ただの一人の勝負師になった。
電話の向こうで、トレーナーは沈黙した。
ラヴズの言葉は、あまりにも重く、あまりにも本気だった。
「……ラヴズ。
君は今まで、誰かのために走ってきた。
愛を届けるために走ってきた。
それが君の強さだった。」
唇を噛む。
影の世界で見たゼロの走りが、胸の奥で燃えている。
「でも今の君は……
自分のために走ろうとしているんだね。」
ラヴズオンリーユー
「……うん。」
その返事は小さかった。
「ゼロバンゲートに勝ちたい理由は……
それだけじゃないんだろ?」
ラヴズオンリーユー
「……ゼロさんの走りを見て……
私、自分の走りが……“誰かのため”に偏りすぎてたって気づいたの。
それは悪いことじゃないけど……
でも……それだけじゃ足りないって思った。」
夜空の雲が、少しだけ流れ、月の光が漏れた。
ラヴズオンリーユー
「ゼロさんみたいに……
自分のために走ってみたい。
その走りで誰かを魅了したい。
その走りで……勝ちたい。」
トレーナーは深く息を吸い、
覚悟を決めた声で言った。
「……分かった。
君がそこまで言うなら、メニューを作る。
ただし──覚悟しておけ。
今までの同じように走るのは難しくなるかもしれない。」
彼女は静かに微笑んだ。
その笑みは、影の世界に触れた者の笑みだった。
ラヴズオンリーユー
「それでもいい。
必ず勝つ。
そして、私の言葉を受け取って貰うんだから!」
あとがき
あくまで筆者の私見ですが、
私は、魅力的な人ほど「貪欲」だと思っています。
貪欲な人は、
自分が何を欲しいのかを知っている。
そして、それを手に入れるために動ける。
恥じず、ためらわず、
まっすぐに自分の欲望を向けられる。
私の物語のラヴズオンリーユーは、
一見すると、少し独善的に見えるかもしれません。
それでも私は、彼女の行動を
「生き方に嘘がない」ことの表れとして描いています。
ゼロの走りを見て、
自分の走りには何が足りないのかを問い直す。
そして、自分が欲しいものに気づいたら、
それを言葉にして、トレーナーにぶつける。
「こんな自分でいいのだろうか」と悩み続けるのではなく、
「私はこれが欲しい」と決めて、前へ進む。
その行動力こそが、
彼女を“ただの光の女王”ではなく、
この物語の中心に立つヒロインにしているのだと思っています。
光の世界で愛されてきた彼女が、
影の世界で見つけたもの。
それは、ゼロそのものだけではありません。
「自分は、本当は何が欲しいのか」
その答えだったのかもしれません。