ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー 作:茶坊主(ぽんぽん)
1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜
https://syosetu.org/novel/400558/
2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜
https://syosetu.org/novel/404292/
の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。
シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。
ラヴズオンリーユーとの邂逅以来──
タイニィは部屋に来なくなった。
ゼロの部屋は静かだった。
食事の匂いもしない。
誰かの気配もしない。
フェアレディからはレースの日時だけが届く。
指定された日の夜に走り、勝ち、金を受け取る。
それだけの毎日。
目新しい相手に出会える期待すら、もう無かった。
観客
「おい耳付き!お前、もう走るな。
勝ちすぎて、レースがつまらないんだよ!」
観客
「そうだ。誰もお前以外が勝つほうに賭けない。
たまにオッズがバラけても、どうせお前が勝っちまうんだからよ!」
ゼロはため息をついた。
これくらいの批判は日常茶飯事。
いつもなら気にも留めない。
だが──今は違った。
1人になってみると、心無い言葉が染みる。
タイニィの不在。
ラヴズオンリーユーの言葉。
フェアレディの沈黙。
全部が胸に重く沈んでいた。
観客
「おい!俺らの金で遊ぶのは楽しいかよ!
金返せコノヤロウ!」
金。
二言目には金。
もうウンザリだ。
ゼロは短気を起こして、
懐の封筒の金を、その場に放り投げた。
観客
「は?」
「え?」
「これ、くれるのか?」
一瞬の静寂。
次の瞬間──
観客
「おいおい!話が分かるじゃねぇか!
最高だな!あんた!」
観客
「なぁ、祝盃といこうぜ!
耳付き──いや、ゼロバンゲート様!」
歓声が上がる。
ゼロの足元に紙幣が散らばる。
群がった客が金を拾う為に這いつくばる。
その光景だけ見れば、
誰もがゼロに平伏しているように見えた。
ゼロの胸に湧いたのは、軽蔑でも怒りでもない。
──快楽だった。
観客
「ゼロバンゲート様!」
「飲もうぜ!飲もうぜ!」
「あんたがいれば、この街は最高だ!」
ゼロは酒を受け取る。
無理やりだが口をつける。
気が大きくなる。
肩を叩かれる。
笑顔を向けられる。
賞賛の声が降り注ぐ。
その全てが、胸の空虚を一瞬だけ埋めてくれる。
かつて影の世界を支配していた女王──ブルーバード。
彼女が歩んだ道は単純だった。
金を撒く。
人が集まる。
祭りが起こる。
その熱狂の中で支配する。
ゼロは気づけば、その道を辿っていた。
撒いた金をレースで取り戻し、また撒き散らす。
影の世界だからこそできる極上の快楽。
ゼロはそれを理解した。
その快楽は、想像以上に甘美だった。
――
数日後、次の対戦カードが示された。
スカイライン
「久しぶりだな、耳付き。
少しは腕を上げたようだが?」
スカイライン。
フェアレディの上役──プレジデントの子飼いのウマ娘。
無表情の裏に絶対の自信を隠している。
勝ち過ぎた勝負師を負かして金を回収する、冷酷な取立て人。
ゼロも一度、実力の差を見せつけられている。
だが、不思議と恐怖はない。
むしろ、今だからこそ挑んでみたいという興奮があった。
ゼロバンゲート
「いよいよアンタが相手か。」
この対戦カードが組まれたということは──
いよいよ天井だ。
影の世界の頂点に手を伸ばす瞬間が、
ゼロの目の前に迫っていた。
スカイラインは、無表情のままゼロを見下ろした。
その瞳には、影の世界の取立て人らしい冷たい光が宿っている。
スカイライン
「仕上げるまで猶予をくれてやってもいい。」
その言葉は、挑発でも侮辱でもない。
ただの事務的な確認。
“お前はまだ私の相手じゃないだろう?”
という無言の圧。
だが──ゼロは、胸の奥が熱くなるのを感じた。
ゼロバンゲート
「いや、今夜。
決着をつけよう。
もう、待ちきれないんだ。」
言った瞬間、自分でも驚いた。
こんな言葉を、
自分から相手に吐くようになったことに。
ゼロの心は、乾いていた。
親しかった人との距離。
観客の賞賛と嘲笑。
撒いた金で得た一瞬の快楽。
それらすべてが、
ゼロの胸の奥を空洞にしていた。
その空洞を埋めるものは──
もう、勝利でも金でもない。
ゼロバンゲート
「心躍る勝負がしたい……
それだけだ……」
影の世界で、
ゼロは初めて“勝負そのもの”を求めていた。
スカイラインは、ゼロの瞳をじっと見つめた。
その瞳の奥に、以前にはなかった熱が宿っている。
スカイライン
「……そうか。
なら、今夜だ。」
その声は淡々としているのに、
どこか楽しげだった。
スカイライン
「耳付き……いや、ゼロバンゲート。
お前、変わったな。」
ゼロは答えない。
ただ、胸の奥の渇きが、
スカイラインの言葉に反応して疼く。
ゼロバンゲート
「変わったんじゃない。
戻っただけだ。」
スカイラインの口角が、わずかに上がった。
スカイライン
「ほほぅ──
今夜は、面白くなりそうだ。」
ーー
パドックへ向かう薄暗い通路。
コンクリートの壁に、二人の足音だけが乾いた反響を返す。
その静寂を破ったのは──
スカイラインの、喉の奥で転がるような笑いだった。
スカイライン
「クックックッ……」
ゼロは眉をひそめる。
挑発の匂いが濃厚だった。
ゼロバンゲート
「何がおかしい……?」
スカイラインは歩みを止めず、
まるで懐かしい景色を思い出すように目を細めた。
スカイライン
「お前がこの街に来た時のことを思い出しただけだ。」
その声は、冷たいのにどこか愉しげだった。
スカイライン
「“ただ走れればいい”──
そんな純粋な目をしていた少年が、今ではこの有様だ。」
ゼロの胸がわずかに疼く。
その言葉は、過去の自分を突き刺す刃だった。
スカイライン
「乾き、疼きに耐え兼ねて壊れかけている。
そういう奴は何度も見てきたよ……。
お前も、かつての女王──ブルーバードのようになりたいか?」
ゼロは唇を噛んだ。
明らかな挑発。
揺さぶり。
だが──その揺さぶりに、心が反応してしまう。
ゼロバンゲート
「アンタこそ勝敗がつくのが怖いのか。」
その瞬間、スカイラインの瞳がわずかに揺れた。
驚き。
そして──すぐに細められた瞳。
スカイライン
「嫌いじゃない。」
その声は、氷のように冷たいのに、どこか熱を帯びていた。
スカイライン
「そういう言葉を返すようになったのは成長だ。
誇らしく思え。」
ゆっくりと距離を詰めてくる。
ゼロは無意識に後退し、壁際へ追い詰められる。
スカイラインの指が、ゼロの胸元を白く細い線でなぞった。
その指先は冷たいのに、触れた場所だけ熱を帯びる。
スカイライン
「せいぜい逃げて見るんだな」
その言葉は、処刑人の最後の通告だった。
スカイライン
「壊れた怪物は、美しい。
壊れかけの怪物は──もっと美しい。」
ゼロの瞳を覗き込むスカイラインの目は、
冷徹な取立て人のそれではなかった。
そこには、
“壊れる瞬間を見たい”という純粋な欲望
が宿っていた。
スカイライン
「だから──今夜、壊れろ。
私が壊してやる。」
その声は、静かで、残酷で、
そしてどこか甘美だった。
スカイラインについて解説
名前の由来言わずもがな──国産高級セダン「スカイライン」
国内外で人気が高く、維持費が異常にかかることから、
**「金を吸い取る取り立て屋」**というキャラクター性に転化しています。
その名が示すのは、
「高級」「冷徹」「維持する者を選ぶ」
──そんな存在の象徴。
彼女は、影の世界の秩序を保つための“取立て人”。
フェアレディの上役であり、プレジデント直属の執行者。
勝ち過ぎた者を潰し、金を回収し、熱狂を冷ます。
その冷静さと無表情は、まるで高級車のエンジン音のように静かで滑らか。
彼女の走りは「完璧」だが、「情熱」がない。
それがゼロバンゲートとの対比を生みだします。
もともとは第2章のオチ担当──
物語を締めるための“冷たい手”として設計していました。それ以外に出番は無かったんですが。。。
ゼロバンゲートの仕上がりが想定以上に深くなったことで、
スカイラインは**ベンチマーク(基準)**として再登場。
ゼロの成長を測る鏡として、再び舞台に立つことにしました。