ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー   作:茶坊主(ぽんぽん)

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1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜

https://syosetu.org/novel/400558/

2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜

https://syosetu.org/novel/404292/

の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。

シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。


第12話 影の天井

ラヴズオンリーユーとの邂逅以来──

タイニィは部屋に来なくなった。

ゼロの部屋は静かだった。

食事の匂いもしない。

誰かの気配もしない。

 

フェアレディからはレースの日時だけが届く。

指定された日の夜に走り、勝ち、金を受け取る。

それだけの毎日。

目新しい相手に出会える期待すら、もう無かった。

 

観客

「おい耳付き!お前、もう走るな。

勝ちすぎて、レースがつまらないんだよ!」

 

観客

「そうだ。誰もお前以外が勝つほうに賭けない。

たまにオッズがバラけても、どうせお前が勝っちまうんだからよ!」

 

ゼロはため息をついた。

これくらいの批判は日常茶飯事。

いつもなら気にも留めない。

だが──今は違った。

1人になってみると、心無い言葉が染みる。

 

タイニィの不在。

ラヴズオンリーユーの言葉。

フェアレディの沈黙。

全部が胸に重く沈んでいた。

 

観客

「おい!俺らの金で遊ぶのは楽しいかよ!

金返せコノヤロウ!」

 

金。

二言目には金。

もうウンザリだ。

 

ゼロは短気を起こして、

懐の封筒の金を、その場に放り投げた。

 

観客

「は?」

「え?」

「これ、くれるのか?」

 

一瞬の静寂。

次の瞬間──

観客

「おいおい!話が分かるじゃねぇか!

最高だな!あんた!」

 

観客

「なぁ、祝盃といこうぜ!

耳付き──いや、ゼロバンゲート様!」

 

歓声が上がる。

ゼロの足元に紙幣が散らばる。

群がった客が金を拾う為に這いつくばる。

その光景だけ見れば、

誰もがゼロに平伏しているように見えた。

 

ゼロの胸に湧いたのは、軽蔑でも怒りでもない。

──快楽だった。

 

観客

「ゼロバンゲート様!」

「飲もうぜ!飲もうぜ!」

「あんたがいれば、この街は最高だ!」

 

ゼロは酒を受け取る。

無理やりだが口をつける。

気が大きくなる。

 

肩を叩かれる。

笑顔を向けられる。

賞賛の声が降り注ぐ。

 

その全てが、胸の空虚を一瞬だけ埋めてくれる。

 

かつて影の世界を支配していた女王──ブルーバード。

彼女が歩んだ道は単純だった。

金を撒く。

人が集まる。

祭りが起こる。

その熱狂の中で支配する。

 

ゼロは気づけば、その道を辿っていた。

撒いた金をレースで取り戻し、また撒き散らす。

影の世界だからこそできる極上の快楽。

 

ゼロはそれを理解した。

その快楽は、想像以上に甘美だった。

 

――

数日後、次の対戦カードが示された。

 

スカイライン

「久しぶりだな、耳付き。

少しは腕を上げたようだが?」

 

スカイライン。

フェアレディの上役──プレジデントの子飼いのウマ娘。

無表情の裏に絶対の自信を隠している。

勝ち過ぎた勝負師を負かして金を回収する、冷酷な取立て人。

ゼロも一度、実力の差を見せつけられている。

だが、不思議と恐怖はない。

 

むしろ、今だからこそ挑んでみたいという興奮があった。

 

ゼロバンゲート

「いよいよアンタが相手か。」

 

この対戦カードが組まれたということは──

いよいよ天井だ。

影の世界の頂点に手を伸ばす瞬間が、

ゼロの目の前に迫っていた。

 

スカイラインは、無表情のままゼロを見下ろした。

その瞳には、影の世界の取立て人らしい冷たい光が宿っている。

 

スカイライン

「仕上げるまで猶予をくれてやってもいい。」

 

その言葉は、挑発でも侮辱でもない。

ただの事務的な確認。

“お前はまだ私の相手じゃないだろう?”

という無言の圧。

だが──ゼロは、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 

ゼロバンゲート

「いや、今夜。

決着をつけよう。

もう、待ちきれないんだ。」

 

言った瞬間、自分でも驚いた。

こんな言葉を、

自分から相手に吐くようになったことに。

 

ゼロの心は、乾いていた。

親しかった人との距離。

観客の賞賛と嘲笑。

撒いた金で得た一瞬の快楽。

 

それらすべてが、

ゼロの胸の奥を空洞にしていた。

 

その空洞を埋めるものは──

もう、勝利でも金でもない。

 

ゼロバンゲート

「心躍る勝負がしたい……

それだけだ……」

 

影の世界で、

ゼロは初めて“勝負そのもの”を求めていた。

 

スカイラインは、ゼロの瞳をじっと見つめた。

その瞳の奥に、以前にはなかった熱が宿っている。

 

スカイライン

「……そうか。

なら、今夜だ。」

 

その声は淡々としているのに、

どこか楽しげだった。

 

スカイライン

「耳付き……いや、ゼロバンゲート。

お前、変わったな。」

 

ゼロは答えない。

ただ、胸の奥の渇きが、

スカイラインの言葉に反応して疼く。

 

ゼロバンゲート

「変わったんじゃない。

戻っただけだ。」

 

スカイラインの口角が、わずかに上がった。

 

スカイライン

「ほほぅ──

今夜は、面白くなりそうだ。」

 

ーー

 

パドックへ向かう薄暗い通路。

コンクリートの壁に、二人の足音だけが乾いた反響を返す。

その静寂を破ったのは──

スカイラインの、喉の奥で転がるような笑いだった。

 

スカイライン

「クックックッ……」

 

ゼロは眉をひそめる。

挑発の匂いが濃厚だった。

 

ゼロバンゲート

「何がおかしい……?」

 

スカイラインは歩みを止めず、

まるで懐かしい景色を思い出すように目を細めた。

 

スカイライン

「お前がこの街に来た時のことを思い出しただけだ。」

 

その声は、冷たいのにどこか愉しげだった。

 

スカイライン

「“ただ走れればいい”──

そんな純粋な目をしていた少年が、今ではこの有様だ。」

 

ゼロの胸がわずかに疼く。

その言葉は、過去の自分を突き刺す刃だった。

 

スカイライン

「乾き、疼きに耐え兼ねて壊れかけている。

そういう奴は何度も見てきたよ……。

お前も、かつての女王──ブルーバードのようになりたいか?」

 

ゼロは唇を噛んだ。

明らかな挑発。

揺さぶり。

だが──その揺さぶりに、心が反応してしまう。

 

ゼロバンゲート

「アンタこそ勝敗がつくのが怖いのか。」

 

その瞬間、スカイラインの瞳がわずかに揺れた。

驚き。

そして──すぐに細められた瞳。

 

スカイライン

「嫌いじゃない。」

 

その声は、氷のように冷たいのに、どこか熱を帯びていた。

 

スカイライン

「そういう言葉を返すようになったのは成長だ。

誇らしく思え。」

 

ゆっくりと距離を詰めてくる。

ゼロは無意識に後退し、壁際へ追い詰められる。

 

スカイラインの指が、ゼロの胸元を白く細い線でなぞった。

その指先は冷たいのに、触れた場所だけ熱を帯びる。

 

スカイライン

「せいぜい逃げて見るんだな」

 

その言葉は、処刑人の最後の通告だった。

 

スカイライン

「壊れた怪物は、美しい。

壊れかけの怪物は──もっと美しい。」

 

ゼロの瞳を覗き込むスカイラインの目は、

冷徹な取立て人のそれではなかった。

 

そこには、

“壊れる瞬間を見たい”という純粋な欲望

が宿っていた。

 

スカイライン

「だから──今夜、壊れろ。

私が壊してやる。」

 

その声は、静かで、残酷で、

そしてどこか甘美だった。




スカイラインについて解説

名前の由来言わずもがな──国産高級セダン「スカイライン」

国内外で人気が高く、維持費が異常にかかることから、
**「金を吸い取る取り立て屋」**というキャラクター性に転化しています。
その名が示すのは、
「高級」「冷徹」「維持する者を選ぶ」
──そんな存在の象徴。

彼女は、影の世界の秩序を保つための“取立て人”。
フェアレディの上役であり、プレジデント直属の執行者。

勝ち過ぎた者を潰し、金を回収し、熱狂を冷ます。
その冷静さと無表情は、まるで高級車のエンジン音のように静かで滑らか。
彼女の走りは「完璧」だが、「情熱」がない。
それがゼロバンゲートとの対比を生みだします。

もともとは第2章のオチ担当──
物語を締めるための“冷たい手”として設計していました。それ以外に出番は無かったんですが。。。
ゼロバンゲートの仕上がりが想定以上に深くなったことで、
スカイラインは**ベンチマーク(基準)**として再登場。
ゼロの成長を測る鏡として、再び舞台に立つことにしました。
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