ゼロバンゲート 〜Hong Kong nightー   作:茶坊主(ぽんぽん)

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1作目 ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜

https://syosetu.org/novel/400558/

2作目 ゼロバンゲート〜Re:スタートライン〜

https://syosetu.org/novel/404292/

の続編になります。
過去作のオリキャラ、関係性を引き継いでいますが、
初見の方を置き去りにしないように、後書きに解説を置いていきます。

シリーズ既読の方はもちろん、初見の方でも安心して読み進められる構成になっています。


第13話 処刑人の席

ゲートに入る。

当然のように──18番目。

最外周のスターライン。

ゼロにとっては、もう“定位置”だった。

誰も隣に立ちたがらない、孤独な枠。

影の世界の怪物が立つべき場所。

だが今夜は、その孤独に別の影が差した。

 

17番目のゲートに入ろうとしたウマ娘の肩を、

スカイラインが無造作に掴んだ。

 

スカイライン

「退け……。ここは私の席だ。」

 

その声は静かで、冷たく、絶対だった。

肩を掴まれたウマ娘は、抵抗することなく通路へ押し出される。

他の出走者たちも肩をすくめ、目を逸らした。

誰もが理解していた。

今日は勝負にならない。

勝つのはスカイラインかゼロ──そのどちらかだ。

 

スカイラインは17番ゲートに収まり、

ゼロの方へ視線を向ける。

 

スカイライン

「ここから捲ってやるから、普段通り走れ。

 気負うなよ。」

 

その言葉は、ゼロに対する“宣告”だった。

他の出走者に向けたものではない。

ゼロだけに向けられた、

影の世界の処刑人の言葉。

 

ゼロはゲートの中で息を整える。

心臓が静かに、しかし確かに熱を帯びていく。

スカイラインの言葉は挑発でも侮辱でもない。

ただの事実。

ただの宣告。

 

ゼロバンゲート

(……いい。そのつもりで来た。)

 

乾いた心が、

スカイラインの冷たい声に反応して疼く。

 

観客席は静まり返っていた。

ざわめきはあるが、熱狂ではない。

 

観客

「……今日は違うぞ。」

「ゼロとスカイライン……天井だ。」

「他の奴らは飾りだ。」

 

誰もが理解していた。

このレースは、影の世界の“頂点”を決める戦いだと。

 

ゼロは最外周。

スカイラインはその内側。

二人の影が、スタートラインに並ぶ。

その瞬間、影の世界の空気が変わった。

 

スカイライン

「壊れろ、耳付き。

その走りで──私を壊してみせろ。」

 

処刑人の席と、怪物の席。

二つの影が、同じ方向を向いた。

 

ーー

 

号砲が鳴った。

だが、その音はレースの開始を告げるものではなかった。

ゼロとスカイラインには、号砲など意味が無い。二つの影は、まるで合図より早く世界を蹴り飛ばしたかのように、

同時にゲートから飛び出した。

 

最外周18番ゲートから、ゼロが鋭く飛び出す。

砂が跳ね、風が裂ける。

だが──そのすぐ横に、

スカイラインが並んだ。

まるで散歩でもしているかのように、

軽く、静かに、ゼロの肩口へ吸い寄せられるように。

 

スカイライン

「さぁ、お前の心の拠り所──

スタートダッシュの3馬身は既にないぞ……」

 

ゼロの得意とするスタートダッシュ

“最初の3馬身”は、

影の世界で唯一の安定だった。

それを、スカイラインは当然のように奪ってきた。

 

その余裕は、ゼロの胸をざわつかせる。

 

スカイライン

「最初のコーナーが目の前だぞ。」

 

影のコース特有の、鋭くえぐれた第1コーナー。

ここでの選択が、レースの流れを決める。

 

スカイライン

「内に切り込むか?

それとも外ラチで耐えるか?

どっちを選ぶ?」

 

挑発。

揺さぶり。

処刑人の“選別”。

だが──ゼロは揺れなかった。

 

ゼロはスカイラインの挑発を受け流すように、

外ラチ沿いを走り続ける。

 

外ラチは距離が伸びる。

不利だ。

勝負師なら誰も選ばないライン。

 

だがゼロは、あえてそこを選んだ。

 

ゼロバンゲート

「……これでいい。」

抑揚の無い感情を捨てた声。

 

スカイラインの瞳が、わずかに細くなる。

 

スカイライン

「外を選ぶか……

その選択は”拘り”か、”バカの一つ覚え”か。」

 

その声は、挑発というより“査定”だった。

ゼロの走りを値踏みする、処刑人の声。

 

スカイラインが体をわずかに傾ける。

次の瞬間──ゼロの左脇腹に、スカイラインの肩がねじ込まれた。

痛みではない。

圧でもない。

ただ、

「お前の走りを見せろ」

という無言の強制。

 

スカイライン

「どちらにしろ……

お前の奇策が通用する相手かどうか、吟味するんだったな!」

その声は、冷たいのに熱を帯びていた。

 

スカイラインはゼロの前に出た。

だが、それは“抜去”ではない。

進路を塞ぐための前進。

 

処刑人が獲物の前に立つように、

ゼロの視界を奪い、走りの選択肢を奪う。

観客席がざわつく。

 

観客

「塞いだ……!」

「ゼロの外ラチを潰しに来た!」

「これがスカイラインの走りだ……!」

 

ゼロは歯を食いしばる。

外ラチを選んだ自分の判断が、

スカイラインによって試されている。

 

ゼロはスカイラインの背中を見つめる。

その走りは、静かで、滑らかで、冷たい。

だが──その冷たさの奥に、

わずかな熱が見えた。

 

スカイラインは振り返らない。

ゼロの存在を背中で感じながら、

ただ前へ進む。

 

スカイライン

「内側にはもう入れない。

 どうする、怪物?」

 

影の世界の天井戦は、

まだ序盤だというのに、

すでに“処刑”の匂いがしていた。

 

第2コーナーを回り、影のコース特有の長い直線へと入る。

砂が跳ね、風が裂け、二つの影が伸びる。

 

その瞬間──

スカイラインの上体が、ほんのわずかにブレた。ゼロの視界から、前を塞いでいた背中が離れていく。

 

ゼロバンゲート

(……隙だ。)

 

ゼロはその一瞬を見逃さなかった。

乾いた心が、熱を帯びて跳ねる。

 

ゼロは前だけを見て走る。

その走法に間違いはない。

影の世界で勝ち続けてきた、自分の唯一の“正しさ”。

 

ゼロバンゲート

「行ける……!

この勢いのまま抜き返す──!」

 

足の回転を上げる。

外ラチ沿いの不利なラインを、力でねじ伏せるように。

 

ゼロはスカイラインに並んだ。

肩が触れそうな距離。

風が二人の間で渦を巻く。

抜ける──

そう思った。

 

スカイライン

「甘い……」

 

その一言と同時に、スカイラインが速度を上げた。

まるでゼロの加速を待っていたかのように。

ゼロの前に、再びスカイラインの影が伸びる。

 

スカイライン

「ほら、前を開けてやったんだから──

抜いてみな?」

 

その声は挑発ではない。

試験。

査定。

処刑人が獲物の価値を見極めるための言葉。

 

観客

「抜かせる気なんてない……!」

「やっぱりスカイラインの相手は荷が重いか」

「耳付き、どうする……!」

 

影の世界の空気が震える。

直線はまだ長い。

だが、二人の影はすでに限界を超えた速度で並走していた。

  

スカイラインは速い。

だが、もっと速い相手はいた。

ゼロはそれを知っている。

 

なのに、今のスカイラインは──

異様に速く感じる。

広いターフを走っているはずなのに、

どこかとても狭いところを走らされているような錯覚。

 

ゼロの進路が、

スカイラインの影で“狭められている”。

 

──何かがおかしい

 

脚は回っている。

呼吸も乱れていない。

風も読めている。

それでも──

勝負することすら叶えてもらえていない。

 

スカイライン。

影の世界の取立て人。

勝ち過ぎた者を潰し、走りの“価値”を査定する冷徹な女。

 

ゼロはようやく理解した。

 

ゼロバンゲート

(誰を相手にしているのか……

やっと分かった……。)

 

スカイラインは速さで勝つのではない。

心を折り、未来を奪い、走りの意味を消す。

それが“処刑人”の走りだった。

 

ゼロバンゲート

「くっ……」

 

身体が冷えていく。

心が萎んでいく。

脚の回転は落ちていないのに、前へ進む感覚が薄れていく。

 

それは──

完璧にマークされている恐怖。

スカイラインの影が、ゼロの未来を塞いでいる。

 

ゼロバンゲート

 (コイツ…、卑怯だぞ…)

 

”卑怯”……?

 

その言葉が浮かんだ瞬間、

ゼロの頭を何かが過ぎった。

自分はどうしていたのか?

スタートダッシュで揺さぶりをかけて、

大逃げに徹して、

追いかけてくるウマ娘から、

ただひたすら逃げていた。

 

ゼロバンゲート

(……俺も……同じことを……?)

 

自分も“卑怯”だったのではないか。

自分も“揺さぶり”で勝っていたのではないか。

自分も“逃げることで勝っていた”のではないか。

その自覚が、胸を刺した。

 

スカイラインはゼロの横で、

まるで心を覗き込むように言った。

 

 スカイライン

「迷っているな……」

 

その声は、冷たいのにどこか哀れみを含んでいた。

 

スカイライン

「残念だよ。」

 

ゼロの胸がざわつく。

その“残念”は、勝負師としての価値を否定する言葉。

 

スカイライン

「もう、お前は負けている。」

 

その瞬間、ゼロの心は凍りついた。

 

ゼロは走りながら、

胸の奥で何かが崩れ落ちる音を聞いた。

 

勝負にならない。

いや──勝負する前から負けている。

 

スカイラインの言葉でも、速度でもない。

自分の中から湧き上がる“理解”が、ゼロを沈めていく。

 

影の世界のターフが、

急に底なしの闇へと変わる。

ゼロはその闇に沈んでいった。

 




ゼロの迷いの理由の一つに、スカイラインを倒してしまったら、その先にもう「超えるべき相手」がいなくなるという事実があります。

今のゼロにとって、スカイラインは明確な「天井」です。

だからこそ、もし彼女を倒してしまったら――

目先の超えるべき目標がなくなったとき、ゼロには何が残るのでしょうか?

これまでのゼロは、誰かを超えることで前へ進んできました。

けれど、その「誰か」がいなくなったとき、初めて彼自身が問われることになるのかもしれません。

「俺は、何のために走っているんだ?」

スカイラインとの勝負は、単純な頂上決戦ではありません。

ゼロにとっては、これまで自分を走らせてきたもの、そのものと向き合う戦いでもあるのです。
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